俺と勇者と英雄 作:英雄譚に魅入られた者
でも学生だったな。
ならセーフか。
7月である。
本格的に梅雨が明け気温が上がってくる今日この頃。
ジャパンダートダービーが行われているが見損ねた。
というのもジャパンダートダービーが地方レースの様で、テレビで中継していなかったのと暑さでダウンしていたからと言う。
地方のレースとなると途端に中継は少なくなるし、記事も少ないしで調べなければわからないレベルである。
暑さの方に関しては、ウマ娘は基礎代謝が良いから暑さに弱いのに加えて俺が元々暑さに弱いのもあって軽く日射病になっていた。
ヒトの時から暑さには弱かったし、夏はどうも活動したくなくなる。
「うへぇ〜…あちぃ…」
とは言っても7月といえば、合宿である。
年頃の幼気な少女たちが砂浜できゃっきゃうふふするような事はなく、肉体的に追い込んで成長する事が見込まれる時期である。
アプリ的に言えば練習レベルが5になっていて最もステータスを伸ばせる時期である。
その為、俺も例に漏れず体操服の代わりにスク水を着て灼熱の砂浜に来ているのだがまぁ暑い。
ふぁっ○んほっと。
足裏が焼けるどころか全身が焼けるわ。
日傘の影にシートを敷いて寝そべって、日焼け止め塗ってくれとデジタルに頼んだのに代わりに鼻血を浴びたのマジで許さないからな。
とは言うものの正直軽率だった。
すまないデジタル、頼む相手を間違えた。
お前の死は無駄にしない。
でもとりあえず死んだならここ砂浜だし他意はないけど埋めておくな。
そこ、死体遺棄とか言わない。
「ん、あれは…」
スイカを持って歩くウララに木製のバットを持って歩くライスシャワー、シュノーケルに浮き輪に足ヒレをつけたミホノブルボン。
ブルボンだけなんか泳ぎに対して重装備すぎん?というか、残りの2人の持ち物見るにスイカ割りじゃないの??
まぁ、ミホノブルボンはゴルシとかのようなフリーダムではなく天然なだけだから逆に面白いんだけど。
あんなナイスバディで見る人を困らせる勝負服しておいて中身は幼女だからな。
うさぎちゃん人形に部屋のお留守番を頼んでるって可愛いかよ。
同室の天才飛び級少女たるニシノフラワーがママに目覚めるのも致し方ない犠牲だったんじゃないか?
「よぉーし!ここでやろう!」
「うん!飛び散らないようにブルーシートを敷いてからね…きゃっ!?っととわっ」
「…大丈夫ですか、ライス?」
「だ、大丈夫だよ、ごめんねブルボンさん」
「お気になさらず。
海では突風もありますし2人でひろげましょうか」
「うん。ありがとう、ブルボンさん」
シートを広げた瞬間に突風に吹かれて、シートが膨らんでライスシャワーが煽られブルボンにぶつかった。
ライスシャワー、やはり運がついてない。
しかしサイボーグブルボン、顔面にブルーシートを受けるも一切動じることなくブルーシートの一面を手に取って優しくフォローするではないか。
うーん、イケメン。中身幼女だけど。
というかよく見れば尻尾振ってるし楽しみにしてるんだな、スイカ割り。
装備がなんか違うけど。それら全部使わん装備だけど。
「よぉし、それじゃスイカ割りだ!最初はじゃんけんで決めよう!」
「うん、いいよ」
「はい、かまいません。それでは」
『最初はグー、じゃんけん』
おっ、ブルボンの一人勝ち。
と言うことはブルボンが最初にスイカ割りするのかね。
ライスが何やら目隠しのような……うーん、変顔になる目隠しなんだけど、宇宙を見た猫みたいになってるな。
それを装備したブルボンはバットを受け取り、地面につけたバットの柄に額をつけて10周回った。
その間にライスとウララは先程のスイカの横の位置からは左右別々に離れていた。
まぁ、その場だったら声のする方に行って振り下ろせば良いもんな。
「ブルボンちゃん!まっすぐ行ってー!」
「ちょっと左だよ、ブルボンさん」
「ふむ……こっちですね?」
「ううん!もうちょっと右だよ!」
「いやいや、もっと左だよブルボンさん」
「意見が割れていますね…?どうしたものでしょうか。
困りましたので、此処でとっておきをお見せしましょう。
ミホノブルボンスーパーセンサー作動……そこですっ!」
ブルボンの耳とアホ毛がぴーんと立ったかと思えば、こっちに向いたではないか。
なんだそれ、90度ズレとるぞそのセンサー。
というか、そのアホ毛やっぱりセンサーなの?そういう認識していいのね?
そしてブルボンは右手に構えたバットを引きながら一直線に向かってきた。
なんでや!?はっ?!まさか、地面に埋まってるデジタルをスイカ判定したのか!?
鼻血垂らしてるし、水分は他のウマ娘より多いもんな。
言ってる場合かバッキャろう。
このままじゃデジタルの頭がパーンッとスイカよろしくフレッシュトマトになっちまう。
やらせはせんぞ、ガンダムッ!
「うおぉぉぉぉ!!」
「なっ!?この一撃を、止めた、ですって…!?」
デジタルに向かって振り下ろされるバットをスポドリ入りのペットボトルで弾いてみせた。
危なかったなデジタル…既に死んでるけど。
まぁ、死体蹴りならぬ死体叩きは良くない。
「ブルボン先輩。普通にすいかじゃなくて埋まってるウマ娘にセンサー反応して叩こうとしてたんで止めましたよ」
「ウマってるウマ娘……」
「駄洒落じゃないです、埋まってる(ガチ)です」
「…ほんとですね。スイカは……向こうでしたか。ごめんなさい」
目隠しをあげ、デジタルを確認して次いでスイカを確認して頭を下げて戻っていく。
いやぁ、スイカ割りのつもりが脳天かち割りとかトラウマ必至だもんな、止めれて良かった。
次はライスか、なんか不幸なことが起こるだろうけどまぁなんとかなるだろ。
「はっ…見知らぬ天じょ……パラソルですね」
「おっ、復活した。
日焼け止めの代わりに己の血を撒き散らして浴びせた罪によって埋葬の刑に処した訳だが。
体調的な問題はないか?水分不足とか」
「大丈夫ですよ。で、レイさんは今何を?」
「あん?んなもん、埋まってるウマ娘の監視だわ。
トレーニングって言ったって砂浜走るだけらしいからな」
砂浜特訓メニューで渡されたのは波打ち際のダッシュとクイズ大会ときどき水泳のため、割と余裕があったり。
メイクデビュー戦を走り切ったばかりということもあって、7月は疲労抜きの時期でもありトレーニングの量は軽くなっている。
そのため灼熱の砂浜に無理に出る必要ないのである。嫌でーす。
「お前も走ったばっかりだから疲労が抜けるまではトレーニングは軽くやるぞって言われてるんだろ?」
「まぁ、そうですね。
合宿だけど体つくりじゃなくて思い出作りの方を優先して欲しいって言われて、流石の私も首を傾げましたねぇ」
「ま、俺らはレースも暫くないからな、思い出作りで全然良いんだけど」
「デビュー戦の次にいきなり年末のG1狙うあたり、流石に傲慢って言われてますけど、そこのところどう思ってます?」
「んー…割と何も考えてないな。デジタルは?」
「出れるレース全てに出れるなら全部出てまだお会いしたことないウマ娘ちゃんたちを特等席から見たかった…!ですかね」
俺もデジタルもデビュー戦は無事勝利を収めているため、はれてジュニア級になった訳なのだがどのレースにでるかというミーティングにて俺が年末のG1、ホープフルステークス一本しかあげなかった事でまたも色々と言われる身になってしまっていた。
いうてデジタルも阪神ジュベナイルフィリーズを選んでるあたり、やっぱ感じたことは同じなのかもしれない。
まぁ、俺は別にレースでの勝利という栄光はどうでも良かったりするし。
ただ走るのが楽しいから走るのであって、他の子から勝利を奪うのは正直言って気が乗らない。
だからこそG1という1番上のレースだけを選んで走ろうと決めたのだ。
傲慢と言われようがそれは勝利して見せれば言われなくなるだろうし。
「うちの母上みたいに月2回レースにでてみる?」
「流石に足が壊れますので遠慮します。
先生のあのローテは今でも意味不明ローテで草もダートになりますよ」
「わかる。
まぁ脚よりも先に精神が病みそうだわな、俺ら」
「……?ら、です?」
「お?なんだ?俺が負かした相手に何にも思ってないとでも思ってたのかこのオタク娘は??」
「い、嫌ですね?そんなこと思ってたわけががが」
「エラー起こしてる時点でお察しだバカヤロウ。
なにやっぱり思っちまう訳よ、期待されてる強さに寂しさを感じるってな。
別にタイムアタックしにきてる訳じゃないんだしさ、もっとこう……ネイチャ先輩が言ってたようにキラキラしたもんが見たいんだよな」
「ほへぇ…」
「おまえっ……割と聞き流しやがったな」
「いや、だって。
思ったより身近にいつだって貴女に挑まんとするウマ娘はいますし、遅れてやってくるであろう天才児もいますし、今だけの感情だろうなぁって思って」
そう言ったデジタルの目は真剣で。
あらやだ、情熱的な視線。
燃えちまうな、闘争心が。
「とはいっても私はマイル路線を走りますし、その役割はきっと未来の英雄さんでしょうけど。
それまではその英雄さんの憧れであり続けてみせるのが、姉貴分ってものじゃないですかね?」
「言ってくれるねぇ。
早くても2年後、俺たちがシニア級になってからだろうしそれまでにキラキラした子が出てきてくれると嬉しいねぇ」
「いなかったら最悪、私が親の神話に威を借るワルキューレに剣を突き立てに行きますよ」
「ははっ、そんときは返り討ちにしてやるよ万能の勇者サマ」
「「あはははっ!」」
ピリッとした闘争心は消えて、代わりに互いに笑い合う。
デビュー戦を終えて早くも俺らには二つ名が付けられており、こうして軽口の代わりに使われている。
似合わない呼び名で笑うしかない。
戦いに乗り気で無い戦乙女とか何の冗談だよな。
「あははがばっ!前が!?目がぁ!!?」
「ぐっ!?なんっ……すいかだァ」
「わぁぁ!?ごめんなさぁぁい!」
笑い合う2人の顔面に不意に飛来した赤い果実。
どうやらスイカにバットは振り下ろせたものの予想以上に力が入っていたのか、粉砕されたものが飛んできた模様。
俺は小さい破片とタネが顔横に飛んできて小さな石粒を投げられたかと思った程度だが、デジタルは顔いっぱいにスイカがくっついているではないか。
体が埋まってるから取ろうにも取れないうえに、汁が目に入ったのかガタガタ暴れているのは見てて面白い。
俺も鮮血に塗れたからな、デジタルは赤い果汁に塗れておあいこだな。
「大丈夫かデジタル、いま取ってやるからな」
「あ、ありがとうございます。
それと、そろそろ掘り返してくれても良いんじゃないですかね?」
「あ?それは…パワートレーニングだ。
がんばれがんばれできるってどうしてそこで諦めるんだ!諦めなければ必ずできる!never give up!!」
この後めちゃくちゃ掘り起こした。
なお、砕け散ったスイカは美味しくいただきました。
スイカ割りってやったことないんですけど、ウマ娘がやったら絶対破片が飛んで大変なことになると思うんだ。