俺と勇者と英雄 作:英雄譚に魅入られた者
10月。
クラシック三冠最終戦たる菊花賞、ティアラ路線の最終戦たる秋華賞、秋シニアの始まりの天皇賞・秋とG1が多い時期である。
菊花賞はナリタトップロードが、秋華賞はブゼンキャンドルという子が、天皇賞・秋はスペシャルウィークが制覇した。
そういえばスペちゃん、ジャパンカップも勝ってたけど秋シニア三冠馬じゃないよな…?
ということは有馬を勝ってないのか…あっ、グラスワンダーに僅差で負けたんだっけ…?
アプリでもメインシナリオで特殊演出ないと負けるし、きっとそうだよなぁ。
「レイさーん、聞いてますかー?」
「あーダメですコレ、聞いてませんよ」
「…んあ?すまん、なんか言ってた?」
雑踏に紛れながらそんなことを考えていれば、手を引かれて意識を戻す。
G 1戦線が盛り上がりを見せる今日この頃、トレセン学園では秋のファン大感謝祭なる聖蹄祭という名の学園祭が行われている。
クラス単位やチーム単位で様々な催し物が行われており、催し物は文化系に特化していてカフェや出店などのほかファン参加型イベントが多く行われているようだ。
そのほかにも個人的に出店しているウマ娘もいるようで、代表的なのは中庭のラーメン屋台や焼きそば屋台であり長蛇の列が出来ている。
ウチのオーサーもウララが握手&サイン会をやっていて、地元の商店街の人たちの後援会がこぞって参加してるらしい。
俺らも何か手伝うつもりではあったのだが、トレーナーから
『君たちは来年から出店側になるだろうし、今のうちに遊んで思い出作っておいで。
ロブロイも2人と一緒に行っておいで』
と言われている為、3人で出店を回っている。
まぁ、デジタルが手伝いすべきか客として参加すべきかと悩みに悩んでいたのをトレーナーに見つかってこう諭されたのだが。
なお、ウララの握手&サイン会にも行こうとしてそれはファンの方に譲ろうぜと説得した。
ウマ娘ちゃんオタクはチームメイトだろうが容赦無く推すのである。
「いえ、その。そろそろ食べ物系はやめませんか…?」
「ファイン殿下のラーメンにゴールドシップさんの焼きそば、ライスさんのわたあめにユキノさんのりんご飴、タマモさんのたこやきとそろそろ私たちもお腹いっぱいですし…」
「…言われてみれば確かに。
アホみたいに食べ物しかいってないけど……え、どうする?タキオンさんとカフェさんの喫茶に行ってみる?」
確かに食べてばかりだったしと休めるところをとパンフレットに目を落とし、パッと目に入ったのは理科室をつかって開かれている2人の喫茶。
タキオンはどう考えても薬品入りだし、マンハッタンカフェがブレンドしてるコーヒー一択なんだよなぁ。
幸いタキオンはデジタルの同室相手だし、何気に付き合いはあるから紅茶はその時に覚悟を決めて飲もうと思う。
紅茶飲むのに覚悟がいる不思議。
ターフ上で飲めるぐらい気楽に飲みたいものだ。
「タキオンさんって…その…大丈夫なんですか?」
「えっと…色々とその薬品関係で騒ぎを起こす方ですけど、身体的に不具合を起こすような薬品は作っていないと言わせてもらいます。
自身の想いのため、日々努力されてる姿を私は見させてもらってますので」
「その、カッコいいこと言ってるけどさ。
タキオンさんのトレーナーが七色に発光してる事は不具合に入らなかったりする?」
「いや、アレは…く、暗い部屋でも仕事がしやすいようにとタキオンさんなりに気を使った結果ですね!おそらく、きっと!」
「わーやさしー。
ダメだろ、人体が七色に発光したら」
ゲーミングモルモット君は実在する。
暗くなった部屋の一室にレインボーカラーに発光してる生命体がいるのはホラーなんよな。
初めて見た時は感動が勝ったけど。
普通に考えればなかなか衝撃の出会いだったなぁ。
「まぁでも確かに俺も時々覚悟決めて飲むけど、そう言った副作用のあるもんは未だ当たってないな?」
「ああいった劇物はタキオンさんのトレーナーにしか渡してないそうですよ。
タキオンさんのトレーナーさん、なんでも薬物耐性があるそうで」
「あの人間ですよね?トレーナーさん?」
「ロブロイ、トレセン学園に所属するトレーナーはどこかおかしな特技を持ってるもんなんだ。
タキオンさんのトレーナーがたまたま薬物耐性持ってたってだけだぞ」
「あっはい…?そうですね…??」
よし、洗脳完了。
中央トレセン所属のトレーナーは超人というのは常識、イイネ?
「ちなみに普通のヒトがその薬品を飲むと桁が一つ増えるそうです。
ライスさんの500色セットの色鉛筆より色彩が増えますね」
いやそんな笑顔で言われても、意味わからんが。
なに、検証したの?誰か飲まされたの?スーパーゲーミング発光生命体とかUMAだよ。
「とりあえず行ってみるか?」
「そうですね。
ロブロイさん、タキオンさんが薬品を入れる事はないとは思いますが、万が一その可能性があると分かった時にはお伝えしますのでご安心を」
「はい、ありがとうございます」
ーーーーー
「やぁ、よく来たねぇ!さぁさぁかけたまえ」
「…注文が決まったら呼んでくださいね」
理科室に着くと人気はまばらにあり、そこそこ席が埋まっていた。
喫茶店という雰囲気を出す為か、実験等を行う机の上にテーブルクロスを履いてコーヒーミルだったりティーポットだったりが置かれておりなかなか様になっていて驚いた。
そんな中出迎えてくれたのはアグネスタキオンであり、俺らは関係者だからと調理場になっている準備室の方へ通されている。
はぇ…なんか理科準備室だけあってタキオンの薬品とか実験器具が普通に置いてあっても違和感ないなぁ。
むしろマンハッタンカフェのスピリチュアルな置き物の方が浮いているまだある。
というか、だ。
(…いるなぁ?視えるんだけど?)
コーヒーをトレイに乗せて配膳していくマンハッタンカフェの近く、輪郭がボヤけているウマ娘の幽霊みたいなナニカが居る。
というか、アレ、マンハッタンカフェが言ってる『オトモダチ』だと思うんだけど。
デジタルもロブロイも見えてないっぽいし、幽霊的なものではありそうだ。
「注文、決まったか?」
「はい!ロブロイさんは?」
「大丈夫です。では呼びましょう…?」
ロブロイがそういうと同時ぐらいに、戻ってきたマンハッタンカフェがこちらに気付いて歩いてくる。
その直前にオトモダチがこっちを見て伝えてたんだよな。
「…そろそろお決まりかと思いまして。
…ご注文を、どうぞ」
「あ、では私はタキオンさんの不思議な紅茶で」
「私はブレンドコーヒーでお願いします」
「俺はカフェオーレで」
「…かしこまりました。
…少々お待ちくださいね」
マンハッタンカフェの勝負服を思わせる漆黒のロングコートに身を包み、顔立ちもマンハッタンカフェに瓜二つ。
強いて違いをあげるなら眼光の強さだろうか、少々高圧的に見える。
というか、あれ原案のマンハッタンカフェじゃなかろうか?猟犬(笑)の。
『オトモダチ』は馬の方で親だったサンデーサイレンスとも言われてるけど、これはどうなんだろうね?見てる感じ親ではなく姉妹的なポジションだと思う。
「…あの、レイさん?」
「ん?どったのロブロイ」
「その…気のせいかもしれませんけど、カフェさんの近くに何か居ます?」
「え、アレ見えてる?」
「えっと……全く。
ですけど…なんというか、カフェさんと目が合う前から視線を感じたので、もしかしてと思ったんです」
「まぁ…そうだな。
浮遊霊とかじゃなさそうだし、きっと守護霊の類だと思うぜ?
ま、多分それはカフェさんに聞けば答えてくれるんじゃないかな」
「…いえ、遠慮しておきます。
お化けの類は…ちょっと…」
「はははっ、そうだったな。
ま、そういった類はこの部屋にはアレ除いて他にいないぜ」
一応左右を確認してみるが、他に霊体の姿はない。
まぁ、そうそう居て良いものじゃないんだけど。
そういえば、自在に幽体離脱できるようになったデジタルはどっちにカウントすべきだろうか?
ロブロイがデジタルに恐怖心がある訳じゃないしセーフかな。
「レイさん、霊感が強いってレベルじゃないですよね」
「まぁ、視えるものは視えるしなぁ。
幽体離脱したお前も視えるのはある意味バグだよ」
「霊体のウマ娘ちゃんも推したいのですが、まだ見たことないんですよね。
修行が足りないんでしょうか?」
「普通にお前が怖くて逃げてるだけなんだよなぁ。
お陰で霊障が起きてるところに俺らを呼んだら解決できるなんて言われてて結構悩んでるんだからな」
未練を抱えて去ったウマ娘の明らかに敵対的な生き霊なら躊躇なく消し去るが、夜中とかに怪我等で夢半ばで走れなくなったウマ娘の霊とかに会うと成仏させてあげるのに苦労するんだよな。
もう一度だけ走りたいとか言われても彼女たちに足がなかったりするから。
確かあの時は…幽霊を背負ってコースを走ったっけなぁ。
「…お待たせしました。
…ブレンドコーヒーにカフェオーレ、不思議な紅茶になります」
「ありがとうございます」
「…ごゆっくりどうぞ」
懐かしい記憶に想いを馳せていたら、目の前に置かれたのは黒猫の絵が描かれたマグカップ。
マンハッタンカフェの持ってるマグカップもこんなんじゃなかったっけ?と思いつつ、ロブロイのマグカップを見てみればこれまた黒猫の絵。
ふぅ、あぶない。
マンハッタンカフェが使ってるマグカップで出されたものだと勘違いするところだった。
「デジタルのは青い紅茶…?」
「そうですね…えっと…時間経過で色が変わるのとレモンをいれても変わるみたいですね」
「もしかして『マロウブルー』でしょうか。
実物を見たことはないのでおそらくですけど」
なんか聞いた事あるような。
確か紫色になったりピンク色になったりする不思議な紅茶じゃなかったっけな。
そう思いつつカフェオーレを一口。
コーヒーの苦味がちょっとミルクで和らいでいても気になるな。
砂糖を入れて飲むとしよう。
「…あの」
「…ん?はい、どうしました?」
「…少し苦味が強かったでしょうか?」
「えっと…少しだけですかね?そのままでも美味しく飲めましたけど、飲むのにちょっと気になるかなーと思ったんで」
砂糖を入れて混ぜていたら、自前のコーヒーカップを片手にマンハッタンカフェが。
自作ブレンドしている手前気になるのだろうか。
ところで貴女の後ろでオトモダチが豆菓子一気食いしているんですけど、これって一体他の人にはどう見えてるんですかね?
「そう…でしたか。
あの…ところで…アナタ、視えていますか?」
「えっと……後ろの存在ですかね?」
「はい…。私の『オトモダチ』です…。
…先ほどからオトモダチが見られていると囁いていて。
…今まで誰にも見えなかったので、本当に見えているのか気になって」
「まぁ、霊感は人並み以上にあるので。
にしてもカフェさんそっくりですね、オトモダチ。
輪郭がぼやけて見えなければ双子かなぁなんて思ったぐらいです」
まぁ、原案カフェだからね。
何処のとなく気性が荒そうでクールというか近寄り難い雰囲気あるけど。
あっ、豆菓子がなくなってることに気が付いたタキオンが首を傾げてる。
やっぱり消えてるんだなぁ。
「ふふっ…ありがとうございます。
…よければまた、コーヒーを飲みにいらしてください」
「その時は是非。
あ、でも苦いのは少し苦手なのでまたカフェオーレでお願いします」
優しげな笑みを浮かべて帰っていくマンハッタンカフェ。
いやー、やっぱりいいな。
物静かでどこか不思議な雰囲気を纏ったクールな美少女が微笑むのは。
「おぉ!!鮮やかなピンクになりましたよ!」
「わぁ、綺麗ですね!ウララさんの髪と同じぐらい鮮やかです」
「おっ?おー、ホントだ」
嬉々としたデジタルの声に目を向ければ、いつの間にか色の変わった紅茶を見つめる我が幼馴染たち。
キラキラとした目で純粋に楽しんでいるのも子供ながらの特権、可愛さか。
いやまぁ単純に美少女ではあるけどね、2人とも。
「では、いただきます!」
「ロブロイも冷めないうちに、な」
「あ、そうですね、いただきます」
今日は良いものが見れた。
一般客「豆が虚空に消えてる!?」
一般手伝いカフェトレ「よくある事なんですよ、アレ」
一般客「そうなんですね〜」
多分こういう世界線。