俺と勇者と英雄   作:英雄譚に魅入られた者

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1 デジタルとテラス席から

「と言うことで、今年度から選抜レースおよびデビュー戦等のレースに登録できるようになります。

とは言ってもレースによっては条件等がありますので、詳しいことは事務員及び担当トレーナー等に相談してくださいね」

 

と、クラスにて通達があったのが今日の朝。

中等部から入学した場合、一年間はトレセン学園に所属している教官もしくは中央トレセンのトレーナーライセンスを持ってるトレーナーの元でトレーニングを受けることと、レースに出る上での基本的な知識を学ぶことを義務付けられている。

例外として、トレーニングとしての模擬レースだったり、トレセン感謝祭の催しで全校生徒が参加できるレースはあるが。

 

まぁ実際のところ。

これは一年を通して、トレーニングを積んで本当に中央で走っていけるのかと言う振るいだったりするのだが。

良くも悪くもトレセン学園は、実力を結果として見なければならない。

トレーニングにすらついてこれない子に関しては、教官及びトレーナーと面談した後、サポート科への異動だったり地方トレセンへの転校を打診される。

これで中央から去る子も少なくはない。

生徒会長たるシンボリルドルフがしょんぼりしながら校門の先を見ていたら、そう言うことらしい。

なので、今日この日まで残ってる子というのはしっかりと中央でも走っていけると認められた子なのである。

 

そのため、トレーナーのスカウトはこの時期から始まる事が多い。

さっき通ってきた校舎からトレーニングコースに向かう道ですら、今日を待ってたと言わんばかりにトレーナーの姿が多く見えた。

まぁここで声をかけてきても、スカウトではない事がおおいが。

かと言って、中等部のうら若き少女に声をかける事案でも無いが。

大体はどこかのチーム名の宣伝だったり、君の脚に興味があるから名前を教えてくれない?だったりする。あれ、やっぱり事案か?

本格的なスカウトは大体、選抜レースの後。

トレーナーとしても、強い子をスカウトしたいのは当然だし仕方ないのだが。

選ぶ側と選ばれる側のような関係になってるのを見ると、少し居心地が悪く感じる。

 

「いやぁ。わかっていましたが、やっぱりレイさんは引き手あまたですねぇ」

 

「そういうデジタルもだろうに。今頃、ロブロイも何処かのチームにスカウトされてるのかね」

 

「おそらくは。“先生”の指導を受けているのは知られていると思いますし」

 

「母上はやっぱり凄いんだなぁって感じさせられるね。

流石は生きる伝説、“灰の神”」

 

そんな気持ちを抑えてやってきたのは、トレーニングコースを一望できるテラス。

席として目立たない柱の影の席をデジタルがおさえてくれていたのだが、スカウトに気が立ってる一部トレーナー達には見つかってしまい、結構な数が声をかけてきた。

選抜レースの後に本格的なスカウトなのでは?と思うかもしれないが、これにはデジタルが先生と呼ぶ、我が母上が大きく関係している。

 

母上は、生きる伝説と言われているウマ娘である。

芝もダートも走れる上、短距離から長距離まで幅広い適正を持つ。

脚質は大逃げか追い込みといった極端なものになっているが、これは普通に走ると早すぎて逃げになり、加減をすると追い込みになるからだと言う。

現役の4年間は月2回レースに出ており、負けなしかつ故障なし。バケモンか?

レースに出るたびレコードとタイムアウトとなる娘を出すため、レースが成り立たなくなることもしばしば。

そのため畏怖と敬意を込めて、灰の神と言う二つ名がついた。

そのウマ娘の名は”スレイプニル”。

 

なんでこの母上、ブラックな因子周回のクライマックスしてるんだろうね?

母上のウマソウルは、北欧神話の主神の愛馬なんですか。そうですか。

灰色の瞳に灰の髪だから灰の神ですか。は?

どう見ても母上の方がチートオリ主だろ!いい加減にしろ!

 

とうとう言いたい事は沢山あるが、そんな偉大なウマ娘が母親な訳で。

幼い頃から走り方を見てもらっていた俺とデジタルとロブロイは、どうしても偉大な母上という色眼鏡を通して見られている。

実際、中央トレセンに俺らはスカウトで入学してるし、その辺の情報もトレーナー達には知られているのだろう。

その為、選抜レースに出ていなくともスカウトされているのだ。

 

まぁ、俺もデジタルも断ってるけどね。

単純に求められてる期待値が高すぎるし。

いやだよ、ブラックなローテーションで走るとか。

 

そもそもとして、俺たちと同年代の子たちに差があるかと言われると、そんなになかったりする。

母上に見てもらっていたのは事実で、なんなら指導もされていたのだが、これはアプリで言う赤因子に当たるところと、才能開花で伸びる初期値を伸ばしてもらっていたに過ぎない。つまりは基礎の部分だ。

本格的なトレーニングは、体が出来てからじゃないと怪我しやすい上に治りにくくなるからと元トレーナーの父からダメと言われたので行われていない。

現状を例えるなら、俺らが星5の状態で因子継承済みかつ芝と得意な距離と脚質がSになっているのに対し、同年代の子は星1〜3で因子継承がされてない状態だろうか。

 

アレ?思ったより差があるような気がする……?

 

しかしコレぐらいなら、トレーニング次第ではひっくり返される事もあるだろう。

せっかくの良い因子を継承しても、練習が下振れたら…。

愛嬌と切れ物と練習上手を引くしかねぇ!本と手鏡と博識帽子をください。

 

「で?今日はどんな推しに出逢ったの?」

 

「よくぞ聞いてくれました!本日はですね!!新入生のお二人、ダイワスカーレットさんとウオッカさんでございます!お2人は同室で、既にライバル関係にあるそうでして。真面目で優等生なダイワスカーレットさんに対し、カッコいいを求めるヤンチャな男の子を思わせるウオッカさん。ちょっと互いに思うことがあるとすぐに口に出てしまうようで、すぐに張り合いをしはじめてしまうのですが、内容はものすごく平和な物でして、いわゆるケンカップルを思わせる物でした。いやぁ、それで仲良く喧嘩しながら行動していたら、校内で迷子になったとか。あの尊すぎる空間に入る事は躊躇われて、つい読唇術で内容を聞いてしまいましたが、尊い。あまりの尊さに倒れてしまって介抱されてしまったのはデジたん一生の不覚ですが、あのダイワスカーレットさんの包容力に包まれた時のぬく……ゴフッ」

 

「……思い出して、逝ったか。今回もまたダメだったよ」

 

エア吐血したのちテーブルに沈んだデジタルに手を合わせて、外を見る。

雲一つない青空に、デジタルがコメクイテー顔が浮いている気がした。

 

いい顔して、逝きやがって。

 

という冗談はさておき、外のトレーニングコースには新入生たちがレクリエーションを行うため集まってきていた。

デジタルが言ったように、新入生としてダイワスカーレットとウオッカの姿も見えたが、我らが幼なじみの一角ゼンノロブロイの姿もそこにある。

体操服に着替えてストレッチしているところを見ると、やはりレクリエーションで走る事になったか。

 

新入生がトレーニングコースを使う関係で、トレーナーの居ないウマ娘たちは今日のトレーニングは休みであり、俺とデジタルももれなく休みであるが、寮に帰ったり自主練していないのには、このレクリエーションで走るであろうロブロイを見にきたという理由があるためである。

あとは単純にその他にどんな子がいるのかなぁ、と言う興味から見に来ている。

俺らの同年代には、アプリに実装されてるウマ娘がいなかったから。

 

「はっ!?空からだと御尊顔が拝めません!?」

 

「おっ、おかえり、早かったね。

見てたならわかると思うけど、もうすぐだよ」

 

「えぇ、ロブロイさんもどうやらこっちに気がついている様で、随分とやる気になっているようですよ」

 

「えっ?気づいて……?幽体離脱中のデジタルに?

まじ??」

 

「いえ、実体の私たちにです。

実体の私とか、現実で言うことあるんですね」

 

「普通はねぇよ?よかったな、普通じゃないって証明できたじゃん」

 

などと軽口を言い合っていると、教官の注意等が終わった様で新入生たちのレクリエーションが始まった。

どうやらゲートから始まって一周の2000mのようだ。

しかしながら模擬レースではなく、流しのようだったが。

ゲートが開いてから飛び出すまでは早いが、その後はゆっくりと走っていく。

まぁ、一部はゲートから飛び出して速度を上げて走っていき、途中でへばっているようだが。

 

「お、ロブロイの番か」

 

「ウオッカさんも入られましたね。ダイワスカーレットさんは……まだのようですね」

 

そうして見ているうちに、ロブロイもゲートに入っていく。

デジタルが言うようにやる気に満ち溢れているようで、尻尾が揺らめいているかのようであった。

 

……ん?こっちを見た?

 

ゲートからここまでだいぶ距離がある上に、居場所を伝えていないはずなのに何故か目があったような気がした。

え、マジで幽体のデジタルに気付いてた??ロブロイ、幽霊苦手じゃなかった???

 

「あっ……」

 

「……あれは……マジ、ですねぇ……」

 

ゲートが開いた瞬間、真っ先に飛び出ていくロブロイ。

本来ならすぐに減速してランニングに移るところだろうが、加速していく。

ランニング中のウマ娘の横を通り抜け、追い越していく。

他の子がへばっていった距離すら超えてなお、ロブロイは加速する。

どう見ても2000mを全力で走り切るつもりであった。

 

ーー他の子がランニングしてる中で1人爆走しているんですけど……?

ーーどうせすぐ落ち……落ちないな?

ーーなんだあの子、速度が落ちないどころか上がってるぞ。

ーーありゃ、神の子の1人じゃねぇか。やっぱりレベルが違うなぁ。

ーーなかなか綺麗な走り方ね。無駄が少ないわ。

ーー後ろの子も付いてきてたみたいだけど、やっぱりバテるよなぁ。

ーーけど結構いい根性してそうだな。あっちも良さそうだ。

ーー将来が楽しみな子だな、要チェック、と。

ーーデッカ。

 

そんなロブロイを見てトレーナー達がざわめきだす。

まぁ普通の新入生なら、まだ2000メートルを全力で走りきれるほどのスタミナはないはずだし、仕方ない。

あと見ていなかったが、途中までウオッカが付いてきていたらしい。

 

というか、おい最後のやつどこ見てんだ。

ん、誰もいない……?空耳か…??

 

「ゴール!いやぁ、まさかほんとに走り切るとは」

 

「長距離がメインなステイヤーだったら走れると思うけど、全力は無理だろうなぁ」

 

「ですねぇ。私たちが先にトレセンにきてトレーニングを積んでいる間に、ロブロイさんは先生から指導を受けていたみたいですし。

それを私たちに見て欲しかったんだと思います」

 

「可愛い妹分め。差し入れでも持っていってやるか?」

 

「なら、はちみーでも買っていきましょう!最近新作フレーバーも出たとテイオーさんのウマスタにあったので!」

 

「あの激甘というか、ほぼ蜂蜜のアレだよなぁ……?一応スポドリも買ってくからな、アレは飲めない可能性もあるから」

 

ざわざわと騒がしくなってきたテラスから、静かに席を立ち、抜け出して行くのであった。

 

 

 

なお余談だが、ロブロイもはちみーはキツいようだった。

2人でなんとか一本飲んだが、もうしばらくはちみーはいいかな…。

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