俺と勇者と英雄   作:英雄譚に魅入られた者

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6話(7話)にしてやっと主人公の名前が出るらしい。


6 いざ、選抜レース

選抜レース。

まだチームに所属していないウマ娘のみがエントリーできるレースであり、年に4回開催される。

ウマ娘はこのレースで実力を示し、レースの成績によって今後の運命が決まると言っても過言ではない重大なイベントである。

期待度の高いウマ娘は選抜レースから数多くのファンが見届けに駆けつけることもあるらしいが……

 

「いや、多くない?どう考えてもファンじゃなくて敵情視察です、本当にありがとうございました」

 

今年3回目の選抜レースであり、過去2回は見学側で見ていたがこんなに観客は居なかった。

一応外からの客層は多少なり増えているようだが、それ以上に増えているのは在校生およびトレーナー陣営。

誰かお目当ての子が出るんですかねぇ?デジタル人気だな、オイ。

あ、俺もですかそうですか。

まぁ、芝とダート両方に出走登録した奴が2人もいるんだから、そりゃ見たくもなるか。

やっぱり、前例がなかったらしいし。

 

ーー全員のゲート入りが完了し……今、レースが始まりました!

 

「お、始まった。……うん、まぁ差しだよな」

 

アナウンス兼実況の声と同時に、ゲートが開かれた。

デジタルは差しのため中団に位置取っており、他の差しウマ娘の後ろにピッタリとくっついている。

143センチと体躯が小さいため、前のウマ娘の後ろにつくことで風除けになったり影に潜む事で圧をかけたりと色々と恩恵はある。

その反面で、ダートで後ろにつくと砂が飛んできて目に入ったりして掛かったりするが…

 

「まぁ、顔つきだけはまともだけど……

どうせ、『きらりと汗が光るウマ娘ちゃんが近くに!尊く、美しい…ッ!』とか思ってて気にしてないだろうなぁ、あれ。

……ある意味、常に掛かってるから無敵か」

 

下手したら砂を浴びて、ありがとうございます!とか思ってるのかもしれない。流石に引くが。

そしてレースの終盤、第4コースに入るとデジタルが上がっていく。

風除けに使われた上にピッタリとくっつかれて圧を受け続けたウマ娘が垂れてくると、ソレを避けるために加速しだしてその勢いに乗る。

 

ーーここで7番アグネスデジタルが上がってきた!残り200メートル!アグネスデジタル、すごい脚だ!何という末脚ーっ!差しきってゴォォール!!

 

ワァァァァァ‼︎

 

そのまま見事に逃げウマ娘を差しきって、ゴール板を駆け抜けた。

だいたい3馬身差ぐらいの勝利だろうか?

未だにどのくらいとかわからないんだけど、実況の人一瞬で判別できるのヤバいよな。

物の大きさとか目測で大体わかるタイプ?

というか今更ながら、今のレースの脚質が逃げ1、差し5、追込3だった件。

王道の先行策とは。まぁ、こう言うことも稀にあるか。

 

ーーお知らせします。選抜レース芝2000メートルに登録してるウマ娘はお集まりください。繰り返します。選抜レース…

 

「…さて、行くか。負けてられねぇよなぁ?」

 

アナウンスが流れ、観客席からコースへ降りる。

受付と守衛を兼ねている教官に名を伝え、ゼッケンを貰い装着。

シューズ及び足に違和感なく、ストレッチを行なって軽く跳んでみる。

サクッ、サクッと芝が倒れる音、盛り上がっている観客の声援、音もなく通り抜ける風、暖かな日の光。

本日は快晴なり、うん楽しみだ。

 

ーぇー!

 

「…ん?お、ロブロイ達だ。

もうデジタルが居るってことは、ダッシュであそこまで行ったって事かね?

まったく、走ったばっかりなのに元気なことで…」

 

聞き覚えのある声が歓声に混ざって聞こえたため、その方向を見る。

今日も笑顔のウララに、期待感が表情に溢れてるロブロイ、ペンライトを両手に構えるデジタル、何故か自分もペンライトを渡され困惑しているトレーナー。

応援は嬉しいがペンライトは辞めようぜデジタル。

そこだけすごく浮いてんぞ。

俺もお前がもう一回走る時にピンク色のライトで振り返すがいいのか?

とりあえず今は手だけ振っておくけど、覚えとけよお前。

込み上げてくる笑みをそのままに、沸る心のまま案内されたゲートに入る。

 

「ならばご覧あれ、この俺『レギンレイヴ』の走りをなぁ!」

 

今、ゲートが開いた。

 

ーーー

 

「始まりましたっ!」

 

ゲートが開き、9人のウマ娘が飛び出していく。

見る限り、逃げ2、先行3、差し2、追込2のようで、レイさんはシンガリをいきます。

ただ自分から下がったわけではなく、”そうなった”ようですね。

おそらくレイさんの威圧に恐れて掛かってしまった追込の子がペースを上げているため、全体的に上がってしまっているのでしょう。

身長175センチと恵まれた体躯を持った上、母親譲りの踏み込みの強さで足音が結構聞こえるので後ろにいると結構怖いのですよね。

掛かってペースが上がっていても、レイさんはそのペースに合わせてついて来るので気が付かないんです。

しかも本人はソレを無自覚でやるからタチが悪い。

それでいてレイさん本人は脚をためていると言うから、恐ろしいですよね。

 

「いやー相変わらず、ですね…」

 

「レギンレイヴさんは牽制をやってるのかい?そうは見えないんだけど…」

 

「えぇ、無自覚にですけど。

本人はただマイペースに走ってるだけですよ、アレ」

 

「レイさんの本領はここからなんですよ!

牽制はあってないようなもので…あ、そろそろ来ますよ!!」

 

ーー残り1000メートル。おおっと!!ここでシンガリ、レギンレイヴが上がっていく!

 

ロブロイさんの言うように、レイさんの本領はレース中盤からで。

実況のアナウンサーがいうように、残り1000メートルになりレイさんはロングスパートをかけ始めました。

どことなくゴールドシップさんの”アレ”に近い走りなのですが、ゴールドシップさんが一切速度を落とさず走るのに対して、レイさんは常に加速していくんです。

サイレンススズカさんのような大逃げしつつも脚を溜めて最後に差すというように、意味がわかっても対策の仕様がしづらい走りになっており、勝ち方は単純に追い込んでくるレイさんより早くゴールに駆け込む事。

ですが、既にハイペースになっていてスタミナも余計に使っているウマ娘ちゃん達に今からタイムアタックをしろと言われても無理なわけでして。

1人、また1人と次々に追い抜かれていきます。

 

「んんっ…?あれ、なんか大きく膨らんでないかい?」

 

「あ、レイさん、そこまで見せてくれるんですね!」

 

「後ろのウマ娘ちゃんの心が折れないといいんですけど……」

 

残り400メートル。

第四コーナーと呼ばれる最後のコーナーで、レイさんはコーナーに沿うように走るところを曲がりきらず外ラチに向かっていきます。

人によっては加速によって曲がりきれなかっただけだと思うかもしれませんが、コレこそが先生から受け継いだ最終加速の準備姿勢。

並の才能では絶対に敵わないと思ってしまう程の絶望の末脚。

 

「……うそだろう?」

 

「うわぁっ!すっっっごい!!」

 

ゴールまで一直線に見据えたら、右脚を地面に突き刺すように降ろしつつ体勢も低くし、力を込めてほぼ直角に跳ぶように踏み込む。

普通のウマ娘がやろうもんなら足首から砕け散るステップですが、先生から受け継いだ丈夫さがソレを可能にしているのでしょう。

踏み込んだ場所は芝が地面ごと抉れあがり、閃光と名高いエイシンフラッシュさんといい勝負が出来そうな速度で駆け抜けていきました。

 

ーーゴォォル!一着はレギンレイヴ!大差での勝利です!!

 

ワァァァァ!!

 

「最後、ばびゅーんって凄かったね!」

 

「はい!久しぶりに見ましたが、やはりすごいです!」

 

終わってみれば駆け引き等もない、ただひとり旅のタイムアタック。

コレが今の実力だと言わんばかりに見せつけてくれましたが…。

それは余りにも酷な事実、コレからまだ伸びると言うことで。

何人の同期のウマ娘ちゃんが気付き、心が折れてしまったでしょうか。

レイさんもソレに気づいているのでしょう。

2着以降に着いたウマ娘ちゃんを一瞥した後振り向く事をせず、勝鬨のかわりにただ腕を上げて人差しを天に向けました。

 

「あはは……。やっぱり、レイさんは強いなぁ…」

 

走りでも、覚悟でも。

目指していた背中は未だ遠いようです。

 

ーーー

 

「おつかれ〜デジタル。

ダートも芝も一位とは流石だな、おめでとう」

 

「ありがとうございます。レイさんの方は…その…残念でした?」

 

「なんか俺は負けたかのように聞こえる不思議。

まぁオールラウンダー目指してないから、別にだな」

 

芝の選抜レースも駆け抜けて観客席に戻ってきたデジタルに声を掛ける。

俺も本来ならこの後ダートの短距離に出るつもりだったのだが、芝での結果が想像以上にビビられたらしく、ダート出走予定の子が俺が出るなら辞退すると言っていたため俺の方が辞退する事にしたのだ。

年に4回しかない選抜レースという売り込みの場で、スカウトも決まっている奴が実力確認の為に使うのは良くないとも思うし。

ビビられ方が素直に傷ついたのもある。というかそっちの方が大きい。

面識のない可愛い子に怯えられるのはなんというか、良心にくる。

ただでさえゴールした後に振り返って、あんな顔してる子達を見てる分なおさらね。

やっちまったかなぁと思ったが、勝負の世界だからと割り切ってみたけど。

…悪りぃ、やっぱつれぇわ。

 

そんなメンタルの中、ピンクのペンライトふりながらウマ娘を応援してるウマ娘がいたらしい。

実は、メンタル強いのでは?俺は訝しんだ。

そんな事はないです。現実逃避してただけですし、ハイ。

これからもああいう顔されるのを見なきゃならんと思うと、少し気が重い。

 

「デジタルさん、ひとまずはお疲れ様。一着おめでとう」

 

「あ、ありがとうございます。

トレーナーさんも応援ありがとうございました」

 

俺とトレーナーは労いながらデジタルにペンライトを返す。

そういや、どっから持ってきたのコレ?バックとか見当たらないんだけど?

え、いまどこにしまった?気になることするのやめてもらえますぅ!?

 

「さて、と。

レギンレイヴにアグネスデジタル。

これからのトゥインクルシリーズを駆ける君達の手伝いをさせて欲しい。

未だウララに重賞を勝たせてあげれていない新人の僕だけど、選んでもらえるのなら全身全霊をかけさせてもらう覚悟だ」

 

いや、まて、今そんなかっこいい誘い文句を言われても。

デジタルのせいでそれどころじゃないんですけど。

え、気にならないの?デジタルの手からペンライト無くなってるんだぞ?それも4本一気に。

背後にチャックでもついてんの?実はデジタル着ぐるみなの??

 

「私は…その、誰かといると変な空気になることが多いんですけど、トレーナーさんとは気軽にお話ししたり相談できたりとすっごいいい感じの距離でいられますし…。

そして何より、ここまで私の考えを尊重してくれるトレーナーさんは他にはいないと思うんですよね。

なので……よろしくお願いします!」

 

ウッソだろオイ。

お前もお前でなに真面目に返してるの?俺だけなんか雰囲気違うじゃん。

えー……今から真面目モードになるの?出来るかな…?

 

「そうだな……失礼な言い方になるが、走りの技術は母上や父さんから学んだほうが身になるだろう。

そうじゃなくても普通なら若手の新人トレーナーより、大手チームの熟練トレーナーに見てもらった方が良いだろうな。

けど、俺がトレーナーに求めてるのはソレじゃないし。

貴方はデジタルの考えを尊重してくれた上に背中を押してくれたんだろう?

なら、俺は貴方を信頼をしたい。だから、よろしく頼む」

 

踵を合わせ、右手を胸の前に添え一礼する。

あぶねぇ、なんとかなった……。

温度差が激しくて風邪引きそうだが、明日は休みだしいいだろう。

 

「僕を選んでくれて、ありがとう。

…レギンレイヴさんの言うように、教えれる技術はちょっとまだ先輩達には及ばないかもしれないけど。

それでも、後悔はさせないよう頑張せてもらうよ」

 

「おう、期待してるぜ。

あと長いと思うし、レイで良いぞ?」

 

「ならこれから、そう呼ばせてもらうよ。

それじゃあ、これからチーム結成の申請書類とか貰ってくるから、今日はこの辺で。

来週までには申請できるようにしておくから、今週末はゆっくりと休んでね」

 

「はい!お疲れ様でした!」

 

「お疲れ様、また来週に。

…俺は寮に帰るけど、デジタルは?」

 

「そりゃぁ……応援していきますけど?」

 

「……マジでどっから出してるんだよ、ソレ?」

 

一足先に学園内に歩いていくトレーナーを見送りつつ、再び虚空からペンライトを召喚したデジタルに軽く呆れる。

さも当然のようにやりやがるし、多分ここでは虚空からペンライトを出し入れ出来るんだろう。理論は知らん。

エアシャカールもロジカルじゃねぇってサジ投げそうだし、薬物タキオンもアグネスだし。ん?

オカルトなのかな?マンハッタンカフェに相談する?初対面でこれ相談するの?マジ?次回から会ってくれなくなりそう。よって否決、残当。

 

「ま、程々にな。んじゃ、また」

 

手を上げつつ、俺もコースを後にする。

久しぶりに全力でレースを走った後であったが、脚は軽かった。




相変わらず、視点別での落差がひどい。

ほんとにデジたんどっからペンライト出してるんでしょうね、あれ。
レース走った後だろうけど、背後からぬるっと出てきてるし。私気になります!
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