俺と勇者と英雄 作:英雄譚に魅入られた者
天気と気分と調子となんか色々と良ければ、バイクに乗って時々ドライブしますけど……
基本、雨なんですよね、なんでですかね?
雪まで降ったんですけど?????
選抜レースから一夜明け、土曜日。
午前に授業はなくともトレーニングがある曜日なのだが、いま俺が着ているのはジャージではなく私服。
白のTシャツに太もも裏まで届く深緑のロングコート、黒いレザーパンツ。
髪はいつも通りに、後ろでゴムで止めているだけ。
デジタルに言われるようにライダーのような装いだが、バイク乗るわけじゃないからな。まだ免許取れんし。
「あれ、今日はお出かけ?」
「おう。適当に散歩にでも行こうかって思ってな」
ブーツを取り出して履いていると、同室のフルールドシュマンに声をかけられたため振り返る。
濃いめのグレーの髪をサイドテールにまとめており、ツリ眉とぱっちりとした目が特徴のちょっと幼い印象を受ける顔立ちのウマ娘。
ゲームにもモブウマ娘として存在していて、前世ではモブウマ娘の中では好きな子だったため、同室になった時にちょっと感動したもんだ。
ちなみに一個上の世代であり、短距離マイル路線を走っている。
去年末には朝日杯FS、先週には桜花賞を走っており、勝利こそしていないもののG1に出走出来るだけあって実力は確か。
モブウマ娘とは一体…?
アプリ基準でいうモブの扱いがおかしいんだよな、本来ならG1出れるだけでもエリート中のエリートだろうし。
「なんか必要なもんとかあったら買ってくるけど、ある?」
「んー…思い浮かばないから、いいわ。
いってらっしゃい、”いろいろと”気をつけなさいよ」
「りょーかい。行ってきます」
ーーー
「……。なるほど?」
寮の敷地から出てからというもの、視線を感じる。
というか普通に、反対道路でカメラを携えた男がチラチラとこっちを見ながら並行している。
フルールがいう、いろいろとはどうやらコレのことらしい。
学園周りに取材陣のレポーターや記者がいることはさほど珍しくはない。
それもあって昨日の選抜レースで走ったことの取材だろうかと思ったのだが、どうにも声を掛けるために先回りしたり、車が通っていないのにも関わらず横断歩道を渡る事もしない。
しかもどうやらあの男には連れがいるのか、時々喋っているように見えた。
合流するまでは声掛けるのを待って、集まってから人数差で圧力を掛けて取材しようとしているのだろうか?それとも単純にストーカー?
まぁ、取材だったらならプライベートだから断るし、ストーカーならもしもしポリスメン案件だ。
元成人男性とはいえ、今は中等部の女子だぞ。175あるけど。
しかし現状では声かけられてないし、たまたま同じ方向に歩いてるだけと言い逃がれられる可能性もあるよな。
走って逃げてもいいのだが、別の子が狙われる可能性があるから困る。
特にデジタルとか。昨日走ってる上に、今日グッズを買いにいくとか言ってたし。知らない人とかグイグイくる人は怖いっていってたし。
背も小さい上に服装もロリだから、ストーカーどころか誘拐されかねん。
と言うことで、デジタルにTEL。ノータイムででおった!?
「…よぉ、おはよう。今どこにいる?」
『おはようございます。え、今ですか?部屋ですけど…?』
「たしか出掛けるって言ってたよな?」
『はい、駅前のグッズ売り場に行こうかと思ってますけど、あ!興味ありましたか!?行きます?』
「あー…それもいいかもなぁ。
ちょっと外に出ちゃってるし、寮に戻るから待っててくれる?」
『私がそっちに行きますよ…?』
「いや、言ってもないのに場所わかるの怖いんだけど?
いいよ、準備を急かしたくないし。んじゃ、またあとでな」
これで良しと。
俺が電話し始めたら、周りを確認してたしコレ記者じゃないな?
カメラ持ってるストーカーの方だったか。あ、1人増えた。
とりあえず、言い訳などさせないように先手必勝。
どちらにせよ、鬱陶しいからね。
という事で横断歩道を走って渡り、その勢いのまま学園沿いの壁で三角跳びして男達の前に降り立つ。
わざと着地の際に脚に力を込めて大きな音を鳴らすのも忘れない。
「……!?」
「さっきからチラチラと鬱陶しい。
…話があるなら聞くが?無いのなら黙って立ち去れ、コレは警告だ」
「うっ……あっ……」
身長的に俺が見下ろす形になっており、威圧をかけてみる。
男たちは少し後退りしたものの、それ以上は下がらなかった。
うーん、皇帝の無礼るなよレベルまで至ってないかぁ。まぁ、当たり前だが。
アレ食らったら流石にもっと後退るか逃げるだろう。
なお、警告は本当。
ストーカーだと判明したら1発は蹴るつもりだから。
ウマ娘パワーで蹴り穿てぬものなどあんまりない!コンクリだって粉砕だ。
「ぁ…あの!ごめんなさいッ!プライベートだから声かけていいのかわからなくて…。
自分、君のお母様のファンだったんです!
それで昨日、君の走りを見て、お母様の走りを彷彿とさせられて…。
悪いとは思ってるんですけど……その、さ、サインとか貰えたりしませんか…?」
「アッ……スウッ……。ど、どうも?」
あっ(察し)。
ただのファンだコレ!?
デジタルがよく言う、推しには干渉してはいけないというアレだったのか…。
それを俺から声掛けちゃったわけで、なんかゴメン。
「えっと……とりあえず何も書くものとかないし、ソレで良いか?」
「え、あっ……いいんですか!?」
「フラッシュさえやめてもらえれば、大丈夫。
連れの方、頼めるか?」
「え、あ、はい。
中等部の子とツーショット…字面が犯罪…大丈夫だよな…?」
「ちょっ、おま!?」
「ははっ、ストーカーかと思ってたし今更感。
じゃ、お願いしまーす」
男の横に立ち、普通にピース。
カシャっと音だけなって無事に撮れたらしく、連れからグーサイン。
取材もストーカーもお断りだが、まぁファンというなら多少はね。
普通に勘違いしたから申し訳ないというのもあるけど。
「うん、映ってるな。
学園周りで紛らわしい事してると、下手すりゃ捕まるから素直に声かけるか諦めたほうが身の為だぞ。
俺もあなた方がストーカーだったら、足の骨蹴り砕いてから通報してただろうし。嫌だろ?」
「ぇ、ああ。忠告ありがとう、写真も大事にするよ!
レースも応援させてもらうね!」
「おう。んじゃ、またいつか機会が有れば」
そうして男たちと別れ、俺は寮へと向かった。
ーーーーー
「駅前のグッズ屋って、なんというかあんまり大したものを置いてないイメージあったんだけど」
「場所によっては店舗自体が小さいので、大きい物がそもそも置けなかったりしますよね。
パカプチとかはゲームセンターの方が良く置いてありますし」
「まぁ……それでも結構あったもんな。
で、なんでアレ頼んだの?俺もそんなに食わんって知ってるよな?イケんの?」
「いえ、その…つい。
やっぱり推し活もしたいですし、お腹も空いてますし良いかなぁって」
時刻は昼を過ぎた頃。
デジタルと無事合流して駅前でのグッズ屋に行った帰り道にて、時間もいいし飯を食べようという話になって来たのがラーメン屋。
芦毛の怪物や日本総大将が好んで良く来ると評判もある、ここのオススメは王者ラーメン。
食べ切ったものこそ王者と言うだけあって、常軌を逸した量なのだ。
それこそウマ娘基準で大食いファイターレベルの分量。
鍋のように底が深い皿に、これでもかというほど山盛りのトッピング類。
俺はウマ娘基準で言えば少食だし、デジタルもあんまり大食いできるイメージはない。大丈夫?食えんの?コレ?
ちなみに俺はヒトサイズの味噌ラーメンの大盛りを注文していた。
あまりに残してしまうのも良くないし、最悪は手伝って食べるつもりだが。
「へい、王者ラーメン一丁と味噌大盛り一丁!」
「ッス…いただきます!」
「いただきます」
軽く見積もっても3倍ほど差がある気がするラーメンを前に、デジタルは覚悟を決めたようで食らい付いていく。
お、味噌ラーメンは野菜多めの濃いめで麺太め。
キャベツ、にんじん、もやし、フライドオニオンに厚切りのフライドポテト。
食感が強い野菜が乗っており、くどさを感じる事はなく楽しく美味い。
「うまい!うまい!うまいっ!コレが王者ラーメンの味ッ!」
デジタルの方も結構なペースで箸が進んでいるようだ。
このペースが続けばいいのだが…
ーーー
「さ、さすが制したものこそ、王者と……言うだけあ……うっ…」
「無理はするなよ?」
「いえっ!推し活ですので、残すなんてもってのほか!まだまだこれからで、かふっ」
「ったく、少し貰うぜ。
大食いウマ娘の真似なんか出来るわけないんだから、流石に推し活とはいえ自重しろよな」
「め、面目ない…」
まぁ、ダメだよね、知ってた。
という事でデジタルの皿から少しづつ取ることにする。
ん、王者ラーメン、意外にもあっさり醤油ベースのスープに細麺か。
結構ガッツリ目のとんこつとかニンニクとか予想してたから意外だ。
フライドオニオンの代わりにネギが、ポテトの代わりにチャーシューか。
量こそ問題だが、普通に美味い。
「……?どうした?」
「ぃ、いえ…。ナンデモナイデス」
「そうか?うん、美味いなコレ」
そうして手伝い、なんとか完食することに成功。
なんかデジタルの顔が赤いけど、熱いもん食ったらそうなるよな。
ーーー
「………」
場所は変わって、喫茶店。
デジタルとはラーメン屋で別れ、俺は本屋に寄ってから行きつけになってる喫茶店に来ていた。
前世では紙の本を買い集めて読んでいたのだが、寮生活になると置き場が無いため電子版を買うことにしている。
それでも本屋に行くのは、目新しい本との出合いがあるかも知れないという楽しみがあるからだ。
ちなみに読んでいるのは三国志。
ただ内容は前世のものとはあまりに違い、ウマ娘『セキト』が三国をまたに掛け、『私より強いやつに会いに行く』というレースバトル物になっている。
向こうだと1日千里走ると言う言い伝えがあるためか、アホみたいに強い。
孔明とか関羽とかもいるにはいるが、トレーナーだとは思うまいよ。
なんだか2次創作に2次創作を混ぜ合わせたかのような不思議な内容だが、これはこれで面白くて好きなのだ。
喫茶店は街中の住宅街の中に溶け込むように、ポツンとある。
中に入るとすぐは焼き菓子やケーキと言った洋菓子を売っており、カウンター横から少し奥に進むとそこから喫茶店という変わった作りだ。
ショーケースの中のケーキと紅茶のセットがオススメであり、俺はいつもソレを頼んでカウンター席の1番奥に座る。
席数はカウンターが4席にテーブルが3席。
土曜日のお昼過ぎということもあり、ゆったりと紅茶を嗜む御老人や万年筆を原稿用紙に走らせる女性等お客さんもまちまちいる。
BGMにクラシック音楽が流れているが、それよりもカウンターの少し斜め後ろにあるテレビの音声に負けていた。
相撲だったり将棋だったりが流れており、時々ウマ娘のレースも流れている。
「…お待たせ、紅茶のセットね」
「どーも」
カチャンと音がして目の前に置かれたのは、生クリームが少し乗ったガトーショコラと空のティーカップにティーポットに入った紅茶。
ここでは自分で紅茶を注ぎ、ミルク、砂糖、レモンは自分の好みを入れる仕組みになっている。
ポット的に3回分ぐらいあり、大体いつも順番にミルク、砂糖、レモンの順で楽しませてもらっている。
本屋で見つけて電子購入した本を一旦閉じ、ガトーショコラにフォークを落とす。
濃厚なチョコの層は切り分けてもポロポロと崩れる事はなく、口に入れればビターなチョコレートが雪解けのようにじんわりと広がっていく。
それに対して、ピッチャーひとつ分のミルクを入れた紅茶はほのかに甘く、口内を優しく流れていった。あぁ、落ち着く。
ーーー
喫茶店でひと息ついたので、帰ることにする。
時刻は17時前であり、夕焼けが河川に反射して眩しい。
桜は既に散っており、葉桜と化しているが夏はまだまだ先だろう。
ゆったりと散歩する俺の横を車やウマ娘、風が抜けていく。
あぁ、なんでもない休みの日。
こういう日も悪くはないだろう。
ということで、ちょっと息抜きでした。
夜中に書いて自滅したのは反省。
体調を馬鹿みたいに崩してるんで、皆様もご自愛ください。