俺と勇者と英雄 作:英雄譚に魅入られた者
という事で、学園での1日を。
週が明け、月曜日。
先日には天皇賞・春が行われ、スペシャルウィークが前年の覇者たるメジロブライトに1/2バ身差で勝利した。
前年度は日本ダービー以降G 1勝利しておらず、菊花賞、ジャパンカップ共々1番人気だった事もあって今回の勝利はファンにとっては嬉しい知らせとなっただろう。
いやぁ、テレビで見てたけどなかなかに学ぶことが多いレースだったわ。
トリックを得意とするセイウンスカイに釣られて掛かっていた子に、スペシャルウィークが並び掛けて焦らせて前に行かせた事で、一息入れようとしていたセイウンスカイのペースを崩すことに成功。
それもあって最終直線残り200メートルでスペシャルウィークがセイウンスカイを抜き去って、残り150メートルでメジロブライトが仕掛けるも惜しくも届かず。
セイウンスカイはペースを崩され落ちたものの、追い上げてきた子にハナ差で先着を果たしていた。
なんか俺の脳内では、スペちゃんは素直でちょっぴりアホな子イメージがあるから、掛かった子を使うというテクニックを使った事に驚きが隠せなかった。
最終直線で、こんじょー!!とか言って全身全霊の末脚でぶち抜いていくイメージの方が強かったり。つまりは脳筋だね。
まぁ、そういう事もあって月曜日にも関わらず、早朝からトレセン周りに仕事熱心な記者が多少沸いている。
だが、真っ当な記者ならインタビューを申し込んでいるはずだし、そもそも他の生徒が通る道で待ち構えたりはしない。
なのでここら辺に彷徨いている記者というのは、なんら問題があってインタビューの許可が降りなかった記者が多いわけで。
そのため時々ではあるが、ちょっとばかし問題を起こす阿呆もいるわけで。
「ぁ、あの……め、迷惑です…っ」
「良いじゃん、良いじゃん。
ちょっとぐらい話聞かせてよ?頼むよ、ね?」
朝から学園に向かう子に対して、しつこく声を掛けてる輩がいた。
声掛けられてるあの子は…うん、知らん子だ。
黒髪ショートボブで頭頂部からはアホ毛が生えており右耳に紫のシュシュ、ぱっちりとした目は灰色でちょっぴり涙で潤んでる。
背も低いし顔立ちも幼いし、年下だろうか……?
いや、これだけはわからんのよな。
ウマ娘は全員見た目麗しい上に童顔な子が多いし。
身長だって俺の周りを上げれば、一つ上のウララが140センチ、同い年のデジタルが143センチ、一つ下のロブロイ140センチと当てにならないし。
てか小さいのしかいないな、オイ?
というのは置いておいて、絡まれてる子は控えめな性格なのかあんまり声が出せないようで、言葉にはしているものの声量が小さい。
そのため輩は押し切れると調子に乗ったのか、その子の肩に手を置いて引き留めようとしている。はい、ギルティ。
手を乗せられてビクッと震えてるし、顔色も恐怖で白くなってるじゃねぇか。
デジタルじゃないから誰かわからんけど、困ってたら助けるよなぁ!?
というか嫌がる女子学生に声をかけ続けたうえ、触るのは普通に事案だろうよ。という事で成敗。
「よう、失礼するぜっ!」
「あっ!?がふっ…!?」
駆け寄って輩の手を引き剥がし、間に割り込んで輩の鳩尾に軽く蹴りを叩き込んで無理やり距離を取らせる。
なんか感触が硬いし、衝撃吸収チョッキ的なもん着てやがるなこれ。
蹴られる事も想定しているってタチが悪い。
「…大丈夫か?すぐに追払ってやるから待ってろ」
「ぁ……。ぅ、ぁ…」
座り込んで過呼吸気味になってる子を一瞥し、男との間に入って脚を引くように構える。
ウマ娘がヒトを蹴ったら大変な事になるから蹴らないようにとは習うものの、身に危険が迫ってる時にはそんなこと言ってる場合じゃないだろうよ。
それにその相手が蹴られても大丈夫なように備えている場合は、なんか悪意を抱いてるだろうし蹴っても良いだろ。
それで打ちどころが悪くて守られてないところに当たるのは、事故だから仕方ないよね。コイジャナイヨー、ホントダヨー。
という事で、バランスを崩して起きあがろうとしていた所に容赦なく蹴り込んだ。
狙いは肩のチョッキが薄くなってる部分。
暫くは片腕が使いにくくなってもらおう。
両腕じゃないのは優しさだゾ。感謝せい。
パァンッと空気が破裂したかのような鋭い音と輩の絶叫が響く。
「朝から不愉快なもん見せんなや、疾く失せろ」
「がァァっ…!いてぇ!!いてぇ……っ!!」
痛みに転がる輩を尻目に、ウマホを取り出し数少ない連絡帳の中からTEL。
な、なんだよ……友達…いねぇんだよ…。
呼び出すのはもちろんあの人、緑の人。
「ふん……。
あっ、たづなさん?おはようございます。
ちょっとうちの生徒に手を出してた輩が外にいたので、回収お願いしても良いですかね?
あ、そうです栗東寮側の方で、え、あ、もう、あ」
「レギンレイヴさん、おはようございます。
校門前にも音が聞こえてきましたよ?」
ワンコールで電話に出たと思ったら、通話中にその姿を見せた。
あの……校門前から走ったとして、曲がり角曲がるまでだいぶ距離あると思うんですけど……。
全力疾走したウマ娘並みに速度出してませんかね?たづなさん。
「嫌がるこの子の肩に手を置いてたんで1発蹴りました。
あいや、2発でしたわ、軽いのを鳩尾に普通のを肩に。
おそらくですけど、蹴った感じ的に衝撃吸収ベスト的なものを身につけてると思うんで、そっち方面でも調べてもらえればなぁと。
…怖かったな、もう大丈夫だぞ」
「ひぐっ……うぅっ…うわぁぁん!」
「…すいませんが、あとはお任せしますね。
さてと…とりあえず近いし寮へ連れてくから、暴れないでくれよお姫様」
安心したのか泣き出してしまった子を抱きしめた後、片手を脚裏に伸ばしもう片方は腰を支えて持ち上げる。いわゆるお姫様だっこである。
いや、ちゃうねん。
この子が俺の胸元に埋まるように泣いてるから、手が首周りにあってだな。
お姫様抱っこぐらいしか方法がなかったんだ。だから俺は悪くねぇ。
え?お姫様呼び?…んなもん、ノリだノリ。
「あらあら、うふふ」
たづなさんの視線がなんか気になるが、振り返らず寮の方へ戻ることにする。
通学してくるウマ娘たちの視線が……視線が……ッ!
ーーー
「なんか、朝からもの凄い噂を聞いたんですけど…?」
「へぇ?どんなの?」
あの後所かしこからの視線に晒されつつも寮にたどり着き、フジキセキ寮長に一連の説明をして預けさせてもらった。
まぁ俺は授業があるし普通に登校して教室へ来ている。
それでもってデジタルは同じクラスであり、ホームルーム前にこうして話をする事が日課であったり。
大体俺がデジタルの推しだったり妄想だったりを聞くのだが、今日は噂話か。
「いえ、その……レイさんが朝から堂々と他のクラスの子をお持ち帰りした、とか…。
何かに感づいたたづなさんがウマ娘以上の速さで駆け抜けていったとか。
やっぱりレイさんは男の娘なのでは?とか」
「んんっ!?」
「いや、確かにいつも早く教室に居るレイさんが、今日は来るのが遅かったですし何かあったのは確実なのでしょうが、そうなんですか!?
なにやら聞けばお姫様だっこしていたらしいですし、抱き抱えられていた子は泣いていたらしいじゃないですか。
泣かせたのですか!うまたらし案件ですか!?」
「ばかやろう!うまたらしって何だよ!?
というか、最後のはお前の私見じゃねぇか。
まぁ、そうだな…不審者に絡まれてた子を助けて寮へ連れてっただけだぞ。
あ、名前聞いてねぇや。
けどあの子すごい怯えてて立てなくなってたし、軽い気持ちで聞いてやるなよ?」
デジタルと話しているが、聞き耳を立ててる娘が多かったためわざとらしく注意しとく。
噂好きな年頃の子達だし、純粋な興味で話を聞こうとする子もいるだろうが、俺としてはそっとしておいてやるのが良いと思うんだ。
というか、うまたらしって。
俺はそんな風に誰かを誑かしたりしてねぇぞ。
「あ、デジタルよ、お前さんの事だし俺が運んだ子の事わかるんじゃ?」
「えっと、特徴とか聞いても?」
という事で、外見の情報を伝えてみる。
え、それだけじゃちょっと絞りきれない?匂いとか?
えと…花、ラベンダーの匂いがしたような?
デジタルはその情報をもとに悩むこと1秒、口を開く。
え、コレで絞り切るの?しかも悩む時間短くない??
「えっと……おそらくですけど特徴的に、隣のクラスのアイボリーシュシュさんではないかと思われます」
「ほーん…?特定を頼んだ俺が言うのもなんだけど、流石にわかるのは怖いぞ?しかも匂いでって…」
「スゥッ…いえソレはだって併走したことがあるからでして!深い理由がある訳じゃないんですよ、ハイ!」
「そうだよな…?信じて良いよな??」
ーキーンコーンカーンコーン
「あ、予鈴ですね、ではまた!」
なんか逃げるように席に戻っていくデジタル。
まぁ、本気で引いてる訳じゃないからいいけど。
え、本当に何もやましい事やってないよね?大丈夫だよね?
ーーー
午前の授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。
午前の授業は所謂一般教養の五科目と音楽、家庭科が履修科目であり、中等部レベルのため俺はそんなに苦労していなかったりする。
コマ数の関係で広く浅く習う事もあって、余程のことがない限りコケる事は無いだろう。
まぁ、多少なり前世とは違うから普通に授業は聞くんだけども。
「さて、飯だ。デジタルー」
「あっ、はい!行きましょう!」
トレセン学園で昼飯を食べるとなると、選択肢は意外にも多い。
まぁ、全校生徒2000人を越えているため一点集中になるとパンクするし、当たり前なのだが。
ビュッフェ形式で大食いのウマ娘達の憩の場となっているカフェテリア。
様々な種類が存在するメニューを注文して作ってもらう学園内の食堂。
決まったメニューを配給される形式の寮の食堂。
あとは自作の弁当だったり、購買だったり、何故か時々中庭に出店してる屋台だったり。
なお屋台の内訳はラーメンと焼きそばである。
破天荒に肩を並べるロイヤルとか意味わかんねぇよな。美味かったけど。
俺たちは基本的に学園内の食堂を選んでおり、今日もここである。
メニューは肉、魚、麺類と幅広い上、デザート関係も種類豊富である。
俺は基本的に麺類を選んでおり、中でも蕎麦をよく選ぶ。
具材はわかめとかまぼことネギ、そこにご機嫌な海老天が一本。
いやぁ、暖かい出汁の蕎麦が好きなんだよね。うまうま。
「ん?……そっか」
「…?何かありました?」
「朝の件が解決しましたよーと、たづなさんから。
警察に突き出したら、記者じゃなくて不審者だったんだと。
誘拐目的で近づいてくるヒトもいるから、デジタルも気をつけろよぉ」
ウマホが震えたため確認してみればたづなさんからであり、朝の一件の報告であった。
結論からして、やっぱり記者じゃなくて不審者だったらしい。
まぁ、いきすぎた記者だろうが蹴られる事は普通想定してないし、衝撃吸収ベストなんて着てるわけがないよね。
中央に来るウマ娘は実家が裕福だったりする事が多いから、確かに身代金目当てで誘拐という考えはわからんでもないが……リスクしかないだろ。
下手したら国際問題、名家出身の子に手を出せば存在自体が闇に葬られる可能性もなきにしもあらず。多分。
それに今回は俺が介入してお縄となったが、本来なら近くにある警備会社から警備員が出動してきて防いでくれていたであろうし。
それかたづなさんが瞬間移動してきて、背中に赤字の滅を背負うだろう。
もしくは『時』か?どちらにせよストリートファイターだ。相手はKOされるだろう。
そのため今日の件は割と珍しい事件である。
いや普段からこんなことがあったら治安が悪すぎるが。
「いや、気をつけるのはレイさんもですけど…」
「まぁ、俺は容赦なく蹴れるから。デジタルは無理だろ?」
「無理ですねぇ…。
逃げの適正はありませんが、その時ばかりは流石に逃げを取りますよ」
「適正というか、ただレース中のウマ娘の横顔を見れないからだろソレ。
ま、それがいい。無理に戦いに行く方が危険だしな」
「レイさん時々武道の達人みたいな事いいますよね。
武道系、なにもやってませんでしたよね?」
「なに、追込み脚質のウマ娘は基本的に戦えるもんなんだよ。
ゴルシ先輩とかレース場でトレーナーにドロップキック決めてたろ」
「あれはあれでトレーナーさんとのじゃれあいな気もしますケド…?」
ほら、ゴルシだけじゃなくてナリタタイシンもよくトレーナー蹴っ飛ばしてるし。
エアシャカールは見た目とか性格とか攻撃的だし。
ヒシアマ姉さんはタイマン張ってるし。
イナリワンは火事と喧嘩は江戸の華というし。
タマモクロスのうちとやろやぁ!はパワーだし。
アヤベさんは星となって落下攻撃できるだろうし。
スイープは多分魔法(ホウキ)でなんとかするだろうし。
メジロブライトはなんも効かん無敵系だろうし、メジロだし。
だから多分、追込み脚質のウマ娘は戦えるゾ。
うん、色々と風評被害だわ。
「あのトレーナー、いつ見ても不思議だよなぁ…?
ゴルシ先輩が加減してるとは言え顔にドロップだぜ…?しかも律儀に何回も食らってるとか意味わからんのだけど」
「じゃれ愛……ですかねぇ」
「考えを放棄してはいけないゾ。愛でも物理を超えてはいけない」
「我々、物理学ガン無視して走ってるウマ娘とかいう存在なんですけど?」
「そうだった」
そんな他愛の無い会話をしながら今日も蕎麦を啜る。
あぁ、うめぇなぁ…。
こいつ2話連続でストリートファイターしてんな。
1部()追込脚質のウマ娘に風評被害。
でも追込ウマ娘って強そうじゃない?