「あの、さぁ。ぼくもう、帰らないと……」
ぼくの性別は女である。
それなら、わたしというのが普通なのだろうが、過去に同性に恋をしたとき、露骨に態度に出てしまっていたのか、ビアンちゃんなどと呼ばれてからかわれるようなことが度々あった。
それで反骨心が強く刺激されてしまい、自分の心は男なんだと開き直る意味で、ぼくというようになった経緯がある。同性愛者でなにが悪い、と子供ながらに訴えていたのだ。
「いいじゃん、べつに。泊まっていっちゃえば。アマネも帰るの面倒でしょ」
ペットか縫いぐるみにでもなったような気分だ。
一軒家の二階にある学校帰りに遊びに来た幼馴染のミカコちゃんの自室で、ぼくはベッドに寝転んでテレビを眺めていた。
背中にミカコちゃんのぬくもりと甘い息遣いを感じてなんだか落ち着かない。最初はベッドの淵に腰かけてテレビを見ていたはずが、ミカコちゃんに背後から抱き着かれて転がされてしまったのだ。
ぼくたちは来年中学生になる。でも発育の仕方はぜんぜん違った。
クラスで背の順で並ぶと常に先頭。140センチ未満のぼくよりも、ミカコちゃんの身長は10センチは高い。ついでにおっぱいの大きさにも差がある。ぺったんこなぼくのおっぱいはどうでもいいが、プリンをほうふつとさせるミカコちゃんのそれは気になって仕方がない。
今日、わたしの家に来ない? と誘ってきたのはミカコちゃんの方だった。
昔はよく遊んだ仲だったが、ぼくが同性を恋愛対象として見ていることを自覚して以降、だんだんと疎遠になっていった。
だから、たまに誘われてもなんだかんだ理由をつけて断っていたのに、ぼくが好きな刑事もののテレビドラマのDVDシリーズをひととおり買い揃えたとの話を聞いて、条件反射的に行くと答えていた。
DVD再生可能なゲーム機の電源ランプがテレビの下で光っている。
ピンク色のカーテンであったり、部屋の内装は全体に女の子っぽかったが、流れているハードボイルドなドラマの映像だけがその印象を裏切っていた。
せっかくの好きなドラマだが、背中に押し付けられているおっぱいが気になって内容が頭に入ってこない。
ミカコちゃんは女だ、と当たり前のことを思う。
風邪といった病気の症状が原因ではなく、体が熱っぽくてたまらなかった。
ぼくが男だったら、きっと間違いを犯してしまっていた。そうなったら、ミカコちゃんを傷つけることになる。男として生まれてこれなかったことを一度も悲しまなかったといえば嘘になるが、今だけは感謝すべきだった。
「でも、夜ご飯の時間だし」
声が、うわずる。