「ごめん、アマネ。背中、洗ってくれる?」
「えっ? えっ?」
ちらっ、ちらっ、と魅力的な裸を横目で見ていると、プラスチックの椅子に座ったミカコちゃんがとんでもないことを言い出した。こんなのは友達付き合いの範疇に過ぎず、慌てているのはぼくだけなのかもしれないが。
「い、いいの、かな……」
思考が空回りしている。
口ではそう言いながらも吸い寄せられるように、両手に泡をつけてミカコちゃんのすべすべのお肌に触れていた。
いつまでもこうしていたくなるほど触り心地がいい。
「ありがとー」
背中と指定されたのを拡大解釈して、肩や首筋、お尻近くまで洗ってあげようとしていたところで我に返った。
「べっ、別にいい……」
手のひらに残った泡を洗い流してからバスタブの中に戻る。
体が熱い。
興奮と罪悪感が入り混じった気持ちを静めるのに精いっぱいで、ミカコちゃんの裸を盗み見るどころではなかった。
「さっぱりしたぁ」
正面の空いたバスタブのスペースにミカコちゃんが入ってくる。思わずぼくは彼女に対して背中を向けるという不審な動きをしてしまった。
「んー? 分かってるねぇ、アマネ……おいでおいで」
意味がわからないでいると、軽く背中をつんつんされた。肩越しに振り向くと、ミカコちゃんが両腕を広げて待ち構えている。意図は理解したが、ぼくの方から縫いぐるみ扱いをされにいくのはハードルが高かった。
「ぼくは、子供じゃない……!」
意地を見せつつ、ミカコちゃんの両足の間にすっぽりと収まる。
「かわいいんだから」
ミカコちゃんは隙間がないくらい密着してきて、頬ずりまでされた。
ぼくはぎゅっと目を瞑って、変な気分に耐える。
「あっ、あの……」
ミカコちゃんの家に誘われてから、ずっと気になっていた。
ぼくの性的嗜好の噂は学校中に広まっている。
当然、ミカコちゃんの耳にもそれは入っていて、なのにこんな……
「ぼく……熱くなってきちゃった。のぼせそうだから、先に上がるね」
勘違いかもしれない。
自分の気持ちをぶつけるのが怖くなって、逃げるように脱衣所に飛び込む。
「アマネ」
しばらく立ち尽くして呼吸を整えていると、透明なすりガラス越しに声がかかった。
「着替え、そこにあるから。適当に着て」
「あ、ありがとう、ミカコちゃん」
棚のところに二組の色違いのパジャマがある。ぼくは全身をタオルで拭いた後、ブルーを選び袖を通してみたが、やっぱりサイズが合っていなかった。
「せっかくのパジャマ、だけど。上だけでもいい? 下も履くと裾を引きずっちゃいそうで」
浴室に通じる扉が開いて、ぼくが目を逸らす間もなく、仁王立ちのミカコちゃんが裸で出てきた。
「ぜんぜんいいよ。ごめんね、大きくて。ショーツは大丈夫だった?」
「う、うん。そっちは、へいき」
下着は封を切っていない新品が用意されていた。やや大きめでゴムの締め付けが弱かったが、履けないほどではなかった。
パジャマですっぽりと膝あたりまで隠れてしまっていて、まるで下着を履いていないみたいに見える。不安になってパジャマの上の服の裾をめくって確認してみた。ぼくはノーパンの痴女ではない。安心した。
「こらこら」
タオルで全身を拭いている途中だったミカコちゃんが近づいて来て、軽く注意を受けた。
「はしたないよー。そういうのはひとりのときにしなさい。まぁ、気を許してくれてるってことなら、わたしは嬉しいんだけどね」
自分でもやったのだが、不十分と判断されたのか、改めてタオルを頭から被せられて髪の毛の水気を拭きとられる。身長差から、間近におっぱいがあったので凝視してしまったが、悟られてはいないと思いたい。
「後でドライヤーで乾かしてあげるね」
こくん、とうなずく。
子供扱いされていても、今は文句を言う気にはなれなかった。