二階のミカコちゃんの部屋にあるベッドの上で、ドライヤーの熱風を浴びる。
テーブルの上には風呂上りのお茶が用意されていて、いたれりつくせりだった。
「子供扱いじゃないからね」
ん? と思いながら、ミカコちゃんの言い分に耳を傾ける。
「お姫様扱いしてるの。アマネがちっちゃくてかわいいからさぁ」
そのような誉め言葉は、両親や付き合いのある親戚たちから言われ慣れていた。こっちは背が小さいことを気にしているのに、と心がささくれ立つときもあったが、ミカコちゃんに言われると自然と受け入れられるのが不思議だった。
「ミ、ミカコちゃんの方がかわいいと思う。読者モデル、してるんだよね」
「あー、それね。単なる噂って言いたいところだけど本当なんだなぁ。ちょっと見てみる?」
濡れたぼくの髪の毛を乾かし終えると、ミカコちゃんは勉強机の引き出しを開けて、一冊の雑誌を取り出して見せてくれた。
「やめちゃったけどね。お給料も出ないし、東京まで行くのもきついからさ。話の種になるかと思って、この一冊だけは取ってあるんだ」
モデルの仕事にも関わらずお給料が出ない、というのは初耳だった。やめたと聞いてびっくりしたが、無理もないと納得する。
それっぽい感じの英語がつづられた大人のお姉さんが表紙の雑誌だった。後半に読者モデルのコーナーがあって、1ページの3分の1くらいがミカコちゃんのスペースだった。明るい並木道を背景に、涼し気な普段着のミカコちゃんがピースサインを決めて笑顔で立っている。
ぼくにはこの雑誌の中の誰よりもミカコちゃんが輝いて見えたが、恥ずかしくて言葉にはできなかった。
「あはは……なんか照れるね。それよりドラマの続き見ようか」
ゲーム機の電源が入って、ストーリーの続きが始まる。
ミカコちゃんはぼくを抱き枕にはしなかった。隣り合ってベッドに座って、ときおりお茶で喉を湿らせながら映像を眺める。
画面に見入っていると、急に手を握られてどきっとした。
「アマネはさ。こういうドラマのどこが好きなの?」
なんとなく、ちょっと意外な聞かれ方だった。
「ミカコちゃんも好き、なんだよね。刑事もの。だから、DVDを集めたんだろうし」
「いや、まぁ、そうなんだけど……アマネはどうなのかな、って思って。ほら、こういうのが好きな女子って、うちのクラスにはあんまりいないからさぁ」
たしかにそうだ。うちのママもぼくが刑事もののドラマを見ていると、明るいバラエティ系の番組にチャンネルを変えようとしてくることがある。
ひょっとしたらミカコちゃんは、共通の趣味を話せる友達がほしくて、ぼくに声をかけたのだろうか。