ミカコちゃんの家では猫を飼っているのだろうか。
ぺちゃぺちゃと顔の周りを嘗め回されるような感覚があって、ぼくは寝返りを打った。
人間が犬派と猫派に別れるとしたら、ぼくは猫派に属する。
懐いてきた猫に対しては愛情を返してやりたいが、深夜なのだろう、眠たくてならない。
「明日、遊んであげるから……」
つぶやくように言って、意識を遠のかせる……
「猫ちゃん?」
次に目が覚めると、周囲は明るくなっていた。
同じベッドで寝ていたミカコちゃんの姿はない。
気になって部屋の隅やベッドの下などを捜索してみたが、猫の存在はどこにもなかった。
夢だったのだろうか。
ぼくが考え込んでいると、がちゃ、とドアが開いてミカコちゃんがやってきた。昨晩のパジャマ姿ではなく、ゆったりしたトレーナーと膝丈にカットされたジーンズに着替えている。
「おはよう。ママが朝御飯つくってくれてるよ」
ミカコちゃんのママは料理が上手だ。お待たせしては申し訳ない。ミカコちゃんの後に続いて、いそいそと階段を降りると、廊下で見知らぬ人物に出くわした。
ぽっちゃりした体型の大人の男性だ。無精ひげを生やしており、柔らかい雰囲気だった。
「わたしのパパだよ、アマネ」
帰宅が遅れたのか、昨晩の夕食時には顔を合わせなかったが、ミカコちゃんのパパだった。昔はもっとスマートな体型だった気がするので、数年で贅肉を蓄えたらしい。
ぺこり、とぼくは無言でおじぎをした。
ぼくの身長に合わせて、ミカコちゃんのパパは屈んで話しかけてくる。
「ああ、アマネちゃんかい? おじさんのこと憶えてるかな。娘がお世話になって……履いてないの、きみ?」
「い、いえ、履いてます」
「パパ! アマネも!」
意外と、ミカコちゃんは気性が荒い。尋ねられたのでつい、パジャマの裾をつまんだが、決してぼくはそのまま裾をめくってショーツを見せようとしたのではないのだ。
だから、怒らないでほしい。
ミカコちゃんのパパと並んで小さくなる。
「パパはあっち行ってて!」
仲間意識を感じていたのだが、ミカコちゃんのパパは朝食の席に追いやられてしまった。
ぼくがびくびくしていると、ミカコちゃんに正面から両肩を掴まれた。
「もう……気をつけて。アマネは女の子なんだからさぁ。不安だよ、わたしは」
「ご、ごめん」
とりあえず謝っておく。アマネちゃんはぼくのもうひとりのママか、お姉ちゃんにでもなったつもりなのだろうか、という疑問はあったが。
「よし、よし」
頭を撫でられた上に手を引かれて歩き出す。それでもぼくは不満を表に出せなかったが、代わりに気がかりに思っていたことを口にした。
「あ、あのさ、ミカコちゃんの家って猫を飼ってるよね?」
半分寝ぼけながらではあったが、遊んであげると約束したのである。そうでなくても、猫がいるなら触れ合いたい。
しかし、返ってきた言葉は想像とは異なっていた。
「なんでそう思ったの? うちにはペットはいないけど」
とすると、あれは夢。
廊下に通じる扉は閉まっていたはずなので、奇妙に思ってはいたが。
世の中にはドアノブに飛びついて開けてしまうお利口な猫がいるそうなので、ミカコちゃんに飼われている猫なら可能性はあると期待していたのだ。