【完結】どうやら悪の組織に怪人改造されたらしいが、そんなことより俺には〆切がある。   作:家葉 テイク

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第一話「進捗、駄目です」

 その日、非現実は現実となった。

 そして同時に、人類は非現実が既に現実だったことを知った。

 

 Unidentified Aggressor Nation。

 その言葉を聞けば人々は縮み上がるような時代が、今の俺達の生きる『現代』だ。

 UAN、ユーアン、『未確認侵略性国家』。呼び方は色々あるが、それは異次元だのワームホールだのの向こう側から突如地球に侵略してきた敵性国家、いわゆる『悪の組織』で──数か月前に突如地球に侵略してきたこの組織を前にして、地球人類は漏れなく連帯を迫られた。

 彼らを脅威たらしめていたのは、その科学技術。地球のそれを数十世紀は凌駕している彼らのそれは、当初『魔法の存在証明』だなんて呼ばれた程だった。ややあって複数の物理学者たちが彼らの扱う技術の一部を科学的に証明しなければ、きっと今頃『ファンタジーは実在する』という結論で落ち着いていたはずだ。──まぁ、この点については現状も大して結論に変わりはないのだが。

 

 ともかく、人類は強大な『外敵』の存在を前に、史上稀なほどの結束を見せていた。敵国も同盟国もない。本当の本当に、真っ当な結束を。

 ただ、それも無理からぬ話だった。

 何せ。

 彼らの『地球への侵略』とは単なる破壊行為だけではなく。人類の拉致と、それから────()()という、あまりにも深刻すぎる内容も含んでいたのだから。

 

 


 

 

 

「進捗はどうなんですか」

 

 

 駅前にあるファーストフード店、そのテーブル席にて。少女の不機嫌な声が、俺に投げかけられた。

 高校生だと言われても大多数が信じられないような、幼い顔立ちの少女だった。ペンギンをモチーフにしたファンシーなフードの奥からこちらを睨みつけてくる視線から、俺は逃げるように視線を逸らす。

 それからテーブルの隅っこに転がったサイドメニューの期間限定パイの空き箱を一瞥して、

 

 

「……いや、そんな状況かよ」

 

 

 進捗。

 今月末に迫った()()の〆切に俺が現在進行形で追われているのは、確かに間違いない。間違いないが──今この状況でその言葉が出てくるのは間違っている気がする。

 どこがと言うと、主に人間的に。

 

 

「おれ、今こんなになっちゃってるんだぜぇ!? 進捗とかよりも先に気にすることがあるよなぁ!?」

 

 

 両手を広げて、俺は弁解する。

 

 ──説明が遅れたが、俺は柏原スグル。高校二年生、受験の足音に怯えながら日々を過ごす平凡な男子高校生だ。

 今年の身体測定じゃ、身長は一七一センチ、体重は五八キロだった。髪型は黒のショートヘアで、中肉中背。成績は、文系はいいが理系は振るわず。英文法は得意だが英会話はてんでダメ。所属する部活動は文芸部で副部長。部長からは、次期部長としてよろしく頼むわね~と頻りに言われている──特記事項も含め、没個性ではないが平凡。それが、俺という人間のプロフィールだった。

 その、はずだった。

 

 現在の話をしよう。

 

 両手を力いっぱいに広げ、必死に自己弁護をしている自分の姿を客観的に説明するならば──

 

 

 金髪赤目の美少女、だ。

 

 

 さらりとしたストレートの金髪は、自分史上類を見ないほどのクオリティのキューティクルであることに疑いなく。

 窓ガラスに映るぱっちりくりりとした赤い瞳も、日本人離れした──それでいて人形のように可愛らしい顔立ちも、作り物のような真っ白な肌も、ほっそりとした白魚のように儚げな指先も。

 そのどれもが、平均的日本人男子高校生・柏原スグルのパーソナリティとは乖離していた。

 だぼだぼの白いワイシャツと黒のスラックスだって、これが俺が元々着ていた服だったと言われて納得してくれる人はきっとどこにはいないはずだ。

 

 

「改造されたんだって! おれぇ!! UANの連中に! 今家にも帰れてねぇんだってぇ! 部誌どころの話じゃないだろぉ!?」

 

「じゃあ家に帰ってくださいよ。それでちゃんと日常に戻って〆切に間に合わせてください。じゃないと部誌の原稿落としますよ」

 

「だからぁ! できるわけないだろぉ!? 今の俺のこの姿を見て、柏原スグルだと納得してもらえるか!? 家族に!! そういうのほら……あるじゃん! 怖いとかさ、不安とかさ……そういう、葛藤! お前も文芸部ならそのへんの機微をだなぁ……!」

 

「知りませんよそんなの。大体、先輩だってボクに相談したのはそのへん割り切れるタイプだって知ってるからでしょ? 多少無神経なのは我慢してください」

 

「うぐぅ……!」

 

 

 図星であった。

 

 あれは、一週間前のこと。

 学校の帰り道にUANの戦闘員に拉致された俺は、奴らの前線基地で怪人改造手術を受けた。

 怪人改造手術? と思うかもしれないが、俺だって詳しいことは良く分からない。変な機械に繋がれて、眠らされたり起こされたり。

 三回目に目覚めた時には既に俺の身体は女の子のそれに変えられていて、五回目に目覚めた時に『洗脳』という言葉が聞こえたので死ぬ気で逃げ出して──それが昨日の夜中の話。

 脱出できたのは、多分幸運だっただけだと思う。なんか向こうが想定していたよりも肉体の強度が高かったとかで、麻酔が効いてなかったのだ。そのことに気付いた俺は、とにかく大慌てで元着ていた服とか没収されていた私物とかを見つけ出して奪い取り、そして前線基地を飛び出して、妙な近未来的ゲートに突撃して──そして、自分が拉致された現場に戻ってきたのだった。

 

 ただ、困ったのはその後だ。

 先ほども言った通り、俺の姿は金髪美少女。元の黒髪男子高校生とは似ても似つかないわけで──俺は思った。多分失踪してから何日も経っている現状で、息子と似ても似つかない女が『私は貴方達の息子です!』と言ったとして──しかも『UAN』という侵略国家の存在が明確な状況で──果たしてすんなり受け入れられるだろうか?

 

 

「でもさぁ、家族に『お前UANが作った偽物だろ!』とか言われたら、普通におれも心が折れるっていうかさぁ……。っていうか、多分、洗脳されてないだけでおれってUANの生物兵器だと思うしぃ……」

 

 

 つまるところ、俺は怖いのだ。今は保留されている『日常の崩壊』が、家族からの拒絶という形で確定されてしまうのが。

 でも、誰か『元々の日常』と繋がっていないと自分自身がこの世界から遊離してしまうような気がして、それで比較的安心できるこの後輩──坂城ユズハを呼びつけて精神を安定させている。

 現状の自分を客観的に分析するなら──そんなところだろうか。

 

 もっとも、その場で原稿の進捗を聞かれてるんだけども。

 

 

「今、一〇月ですよ。ドロシー先輩が卒業する前の最後の部誌です。……絶対に良いものにしたい。ボク、ずっと言ってましたよね?」

 

「それはまぁ、うん」

 

「だったら拉致監禁TS改造くらいがなんですか! なんとかしてPC環境整えて原稿書いてください! 穴空けたら許しませんよ!」

 

「っていうか、おれが拉致されたことで部誌どころじゃないとかになってないの?」

 

「なりかけましたけど、ボクが気合で何とかしました。スグル先輩は絶対に帰ってくるから信じて続けようって」

 

「それだけ聞くと感動的なんだけどなぁ……」

 

 

 この後輩──ユズハは、今度卒業する俺の先輩で、文芸部部長のドロシー=クラッターバック先輩のことを大変尊敬している。だから彼女の最後の花道である今回の部誌に関しては、本当に全力を費やしているのだ。

 どのくらい全力かというと、夏休みに呼びつけられては複数のプロットを見せられてどれが良いかというコンペに延々付き合わされたくらい。もちろん既に原稿は完成しているという完璧っぷりである。

 

 ただまぁ……クラッターバック先輩については俺もかなり個人的に恩義があるというか、彼女の高校最後の花道をなんとか良いモノにしたいというコイツの気持ちは分かるわけで。

 なので、その話になっていくと必然的に語気も弱くなってしまう。

 

 

「というか、先輩ってほんとに怪人改造ちゃんと成功してるんですか? なんか普通の女の子にしか見えないんですけど、普通の女の子に先輩の記憶が移植されただけだったりしません? だとしても、ボクはその先輩を先輩と認める派ですけど……」

 

「ああ、そこはちゃんと改造されてるから大丈夫」

 

 

 そう言って、俺は左手の人差し指を右手で握ってみる。そして、引き抜くようにして一気に引っ張った。

 ずるり、と。

 人差し指がシルエットそのままに引っこ抜ける姿は、傍から見たらさぞ奇妙に映ったことだろう。

 何せ、滅多なことでは驚きという表情を顔に出さないユズハが、この時ばかりは年相応の驚愕で目を丸くしていたのだし。

 

 

「……心配要らん。そんなに痛くはないしな」

 

 

 俺は、()()()()()()()()()()()()()立てながら笑う。

 人差し指を引っこ抜いた──という表現は、実のところ適切ではない。俺は握りしめた右手から『人差し指の抜け殻』を転がして、

 

 

「一応言っておくけど、触るなよ。まだ熱いから。連中が言うには四〇〇〇度くらいあるらしいけど」

 

 

 言いながら、俺は飲みさしのコーラから紙ストローを取ると、まだ赤熱したままの人差し指に押し付ける。ジュオッという音を立てて、紙ストローは分かりやすく発火した。

 俺は手早く発火したストローを咥えて消火して、

 

 

「こんな感じで、見た目は美少女だけど、皮を剥くと高熱の『素体』が出てくるっぽいんだ。しばらくするとまた皮が生えてきて元に戻るんだけどさぁ」

 

「なんで一旦美少女を挟んだんです……?」

 

「それはおれも良く分からん」

 

 

 たぶん、美少女の姿の方が相手を油断させられるからとかじゃなかろうか。

 

 

「なんか……トカゲみたいな指ですね」

 

「ああ、そうっぽい。というか、多分ドラゴンだと思う。前に右手と顔の皮剥けたことあるけど、その時は顔もドラゴンっぽくなってた。形変わってた」

 

「ひえ……。ボクの前で顔剥くのはやめてくださいね。グロそうなんで」

 

「やるかよ。おれだってグロくてヒいたもん」

 

 

 そう言う頃には、ちょうど指の熱も落ち着いてきた。

 体の赤熱は、だいたい皮が剥けてから一〇秒くらいで落ち着くのが通例だった。擦ったり力を籠めれば多少温度は上昇するが、赤熱するほどの熱はまた皮が再生してから剥き直さないと出ない。

 

 

「話を戻しますけど、結局、ボクには先輩のことなんてどうしようもないですよ。何日かおうちに泊めてあげるくらいならできますけど、それってその場しのぎじゃないですか」

 

「うぐ……」

 

「その後のヴィジョンがないと。じゃないと原稿落としますよ」

 

「あくまで主眼は原稿なんだなぁ」

 

 

 もう慣れたのでそれはいいんだが。

 

 

「戦闘が大丈夫なら、特撮ヒーローよろしく『UAN』が出たら退治してヴィジランテみたいな立ち位置を作ってから公的機関に働きかけてみるとか。それが無理そうなら『UAN』のことを調べて元に戻る方法を探したり、同じ境遇の怪人がどこかにいないか確認してみたり。先輩のやりたいことによって、色々動き方は変わってくると思いますけど」

 

「おぉ……凄いまともな意見だ。参考になります」

 

「まぁ他人事だと見えてくることってありますよね。岡目八目的な」

 

 

 確かに……。確かにそうだ。

 俺は、元の日常を取り戻したい。その為には元の姿に戻るなり、今の姿が社会に受け入れられるなりする必要がある。方針はいくらでもとまでは言わずとも、幾らかあるんだ。その中で俺がどうなりたいかを選ぶのが肝心。……今のままじゃ、まだそのヴィジョンが明確になってない。

 

 

「……すまんな。色々相談に乗ってもらって。とりあえず、今おれがどうなりたいかをひとまず考えてみるよ」

 

「水臭いですよ。ドロシー先輩ほどじゃないにしても、スグル先輩にはボクだってお世話になってるんですし、これくらいは」

 

 

 頭を下げて礼を言うと、ユズハは照れくさそうにそっぽを向いてそう言った。こういうところは、可愛い後輩なんだよなぁ。コイツ。

 そう考えていると、俺の邪念を読み取ったのか、ユズハはムッとしながら最後にこう問いかけたのだった。

 

 

「で、ちなみに進捗の方は実際どうだったんですか?」

 

「あっまだゼロです」

 

「良いからとっとと環境整えて原稿書けぇ!!!!」

 

 

 


 

 

 

 ユズハに蹴り出されるようにしてファストフード店を後にしてから。

 俺は、夕方の街並みをのんびりと歩いていた。向かうのは、ここ数日ねぐらにしている山である。

 ひとまず自分の今後について思考を巡らせる必要はあるが、それはそれとして現状、この身なりで夜の街並みをぶらつくのは危険だ。下手に悪漢に襲われて怪我されたら、逆にこっちの方がお尋ね者になりかねない身の上だし。

 

 

「しかし……どうなりたいか、か」

 

 

 奇しくも、その問いは俺が改造される前にも投げかけられていたものだった。

 高校二年生。受験。将来。元々、その問いは身近にあったはずのものだった。まぁ、俺はプレッシャーだけ感じていて、それについて本気には考えていなかったクチだが。

 そう考えると、『自分がこれからどうなっていきたいか』というのは俺が思っていたよりも相当深刻な問題だったのかもしれない。

 何せ、本当に──本当に、自分の選択が今後の人生にダイレクトに関わってくるのだ。選択の一つが、俺の将来を決定づけていく。人生やり直しがきくなんて楽観論も今は聞くけど、それにしたって限度はある。やり直すためのコストを考えたら、やっぱり自分の人生に不可逆の変化が起きるのは間違いないんだから。

 

 

「戦闘……戦闘ねー」

 

 

 ユズハは真っ先に挙げてたけど、改造の影響なのか元々の気性だったのか分からんが、意外と戦闘には忌避感がないんだよな。むしろ相手は自分の日常を破壊してくれたにっくき怨敵なわけだし、遠慮する必要もない。

 俺と同じように拉致洗脳された被害者なら多少同情するが──まぁ、その時は殺さない程度に留めればいいだけだし、むしろ『助ける』という意識が生まれるだけ、そっちの方が気が楽かもしれない。

 

 

「うん。意外と悪くないかもな。ちょっとヒーローっぽいし」

 

「あ、見つけた見つけた~。ほんと、厄介ね~その擬態……」

 

 

 と。

 そこで急に、頭上から声がかけられた。

 見るとそこには、空飛ぶ箒に腰かけるような形で座っている黒衣の女性がいた。

 

 

「…………へ?」

 

 

 ──『UAN』の技術力は、ハッキリ言って地球のそれとは桁違いだった。

 おそらくクローン人間か何かを使って生み出された連中の戦闘員一人にしたって、警察の機動隊とかを使わないと倒せないくらい。

 怪人なんて出て来ようものなら、もう自衛隊の戦車が出動だ。街一つを戦場にして、人々の日常を犠牲にして、ようやく怪人を仕留められるかどうか。

 しかもその怪人にしたって、向こうからしたら数ある手札の一つでしかない。その上俺の様にこっちの現地人を捕虜にして改造してくるんだから、もうどうしようもないだろう。

 

 では、どうして人類が『UAN』に降伏しないで済んでいるかというと──この世界に、最初から向こうに対抗する為の戦力が備わっていたから、である。

 

 ──『ナーサリーテイル』。

 この世界に古くから受け継がれてきた伝承や民話、その正体。非現実だと思われてきた、隠された現実たち。

 たとえば、狼男。たとえば、鬼。たとえば、妖精。たとえば、魔女。

 

 彼らは人類が『UAN』の力に屈しそうになったタイミングで颯爽と現れ、そして瞬く間に対『UAN』戦のリーダーになっていった。

 俺のような例外があるにせよ、ユズハやクラッターバック先輩のような一般人が今も日常を享受できているのは、ひとえに彼らの尽力のお陰である。

 

 そして────

 現状、俺が最も警戒している勢力でもあった。

 

 

「ちょっ、待っ」

 

 

 口調からして、俺が怪人改造されていることがバレているのは明白。そして『ナーサリーテイル』からすれば、『UAN』の怪人なんてもれなく討伐対象。対話の余地なんてゼロ。

 だからまずは、対話が可能な存在であることをアピールする為に制止しようとして、宙に浮かぶ女性に左手をかざしたところで、

 

 

 ボッ!! と顔面に強い衝撃を感じた。

 頭がぐいんと後ろにフッ飛ばされ、それに引っ張られて首や身体も後ろに吹っ飛んでいく。鈍化した時間の中で、『ああ、そういえば左手の人差し指は皮剥いてたんだ。そりゃ勘違いされるわな』──なんて反省が他人事みたいに流れていった。

 

 

「驚いた。頭を吹っ飛ばすつもりで撃ったんだけど~」

 

 

 夕日を背にした黒衣の女は、そう言いながら地面に降りる。

 風貌は、魔女そのものだった。

 頭よりも大きなトンガリ帽子に、ケープ、ふとももあたりまでスリットの入ったワンピース。そして、高貴そうな印象のドレスグローブとロングブーツ。いずれも闇に溶け込むような黒一色であるのに加え、顔の上半分を覆うような黒仮面をしているので人相は分からないが──帽子から伸びる金色の髪の煌めきからして、身なりには気を遣う性質らしい。

 総じて普通の西洋魔女といった趣だが、トンガリ帽子の脇から飛び出たネコミミのような突起が妙に印象的だった。

 

 

「……敵性コードネーム《Dragon009》確認。一応名乗っておくわね~。わたしは、【黒猫の魔女】。アナタが街に被害を及ぼす前に、始末しに来たわ~」

 

『…………ッテェ。ソリャあおれモ悪カッタが、少しハ話を聞イテくれてもいいんジャネぇか?』

 

 

 頭を押さえて起き上がると、なんだか声が妙な感じになっていた。

 顔を触れてみると──どうもゴツゴツしている。少なくとも、美少女のやわらかフェイスという感じではなかった。どうやら、今の攻撃で顔面の皮が半分ほど剥げてしまったらしい。うわぁ、傍目から見たらグロいだろうなぁ。

 

 

「……戦わないの? アナタ。もう正体はバレてるから、擬態は無意味だと思うんだけど~」

 

 

 【黒猫の魔女】とやらは、そう言って箒を手に持ったままこちらの方を見る。あ、よかった! この人意外と問答無用って感じじゃない! いやそりゃそうか。多分先手を打ったのは俺が紛らわしい行動をしたからだろうし。

 

 

『戦闘ノ意思はナイ。洗脳手術をサレル前に逃ゲテ来たカラナ。コンナなりダガ中身はチャント人間ダヨ。元の名前モ言エル』

 

 

 そう返すと、【黒猫の魔女】はさらに興味を示してくれた。

 それでも一応一〇メートルくらい間合いはとられているあたり、信頼はされてないんだろうが──それでも、話が通じるのは俺にとっては福音だった。よかったー! 問答無用でお尋ね者ルートとかじゃなくてよかったー!!

 

 

「……どう思う~? ……うん、うん。…………そうね~」

 

 

 【黒猫の魔女】は耳元に指をあてると、そんなことを言いながら頷いていた。多分、どこかにいる味方と通信して判断を仰いでいたのだと思う。やがて魔女はこちらの方に顔を向けて、

 

 

「じゃあ、お名前を聞かせてもらえるかしら~? 幾つか質問して内容が照会できれば、保護してあげることも可能なんだけど~」

 

『エッまじデスカ!? 柏原スグルッテ言うんスケド』

 

「ええっスグル君!?!?!?!?」

 

 

 俺も相当な剣幕で声を上げた──はずなのだが、今度は魔女さんの方がそれよりもデカイ声で応答してしまった。

 ……っていうか、声色が違うから気付かなかったけど、この人の声、どっかで聞いたことがあるような……。

 あっ、そうだ。

 

 

『モシカしテ、クラッターバック先輩カ?』

 

「……………………………………」

 

 

 魔女は、沈黙するばかり。

 数秒ほどそうしていただろうか。やがて意を決したかのようにして、魔女はその黒仮面を外す。そこにいたのは──金髪蒼眼、怜悧な文学美女、そして我らが文芸部部長、ドロシー=クラッターバック先輩その人だった。

 

 ええと。

 なんと言えばいいのか分からないが……。

 

 

『先輩、魔女ダッたンダ』

 

「ごめんね~、怒涛の展開に怒涛の展開を重ねちゃって~」

 

 

 


 

 

 

第一話「進捗、駄目です」

あるいは、まるで御伽噺のような

 

 

 

 

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