【完結】どうやら悪の組織に怪人改造されたらしいが、そんなことより俺には〆切がある。   作:家葉 テイク

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第一一話「ある魔女のお話」

 彼女が自分の存在を自覚したのは、一九五〇年ごろであった。

 自分の存在を自覚した──というのはいかにも奇妙な表現ではあるが、そうとしか表現できなかったのは事実だ。物心がついたというわけでもなく、彼女は()()()()()()自分という存在を明確に認識し、そして納得していた。

 それが──怪異の誕生というものである。

 

 不思議なことに、彼女は一九五〇年ごろに生まれたにも拘らず、数百年前からの記憶が存在していた。魔女狩りの存在していた中世の時代から生き延び、そして一九三〇年代にジェラルド=ガードナーに現代魔女宗(ウイッカ)の基礎となる知識を授けた魔女としての記憶が。

 そして彼女には──【捏造】という異能が生まれつき備わっていた。

 

 それは、ジェラルド=ガードナーがドロシー=クラッターバックという女性からイニシエーションを受けたという事実を捏造したことからくる異能だろう。

 歴史の真実では、ドロシー=クラッターバックという人物は存在していなかった。少なくとも、ジェラルド=ガードナーが定義するような人物は。しかし彼の生み出した物語はそれまで存在していた【誰か】を歪め、そしてその『正体』として、ドロシー=クラッターバックは変質したのだ。

 

 そして──ドロシーは【捏造】という異能を持っているからこそ、そうした己の過去に執着する性格ではなかった。

 

 

『確かにわたしには、わたしも知らない「過去」があるのかもしれないけど~……所詮どんな過去でも、自分の好きに【捏造】できちゃうものね~……』

 

 

 その代わりに、ドロシーの興味は常に『未来』に向いていた。

 

 

『それよりも……わたしは「この先の自分」が気になるわ~。これからどんな者達と出会い、どう変わっていくのか……それはこのわたしの【捏造】でも制御できない事柄だし、だからこそ興味があるもの~』

 

 

 その考えは、失われた自分の過去を知りたいと願う者達が多く集う『ナーサリーテイル』においても異端であった。だから、ドロシーは早くから怪異の中にあって『過去』を探求することに見切りをつけていた。

 代わりに、組織や自分の力を使って人間の中で生活し、そしてその中で人間達と共に『未来』というものの可能性を追い求めていたのだ。

 

 ──柏原スグルに出会ったのは、そうした試みの最中。日本の女子高生としての人生を送り始めた矢先のことだった──。

 

 

 


 

 

 

 それから。

 俺はクラッターバック先輩から浴びせられた大量の空気弾の雨から何とか逃げながら、人気の少ない山の方へと移動していた。

 会話の余裕はなかった。速度はそこまでないとはいえ、相手は不可視の弾だ。その場にとどまって相手をしては直撃は避けられないし、クラッターバック先輩の攻撃なのだからどんな追加効果があるか分かったものじゃない。受けるよりも、逃げる方が得策だと判断した形だった。

 そして、山の斜面に生えた木々の陰に飛び込むことに成功した俺は、そこでようやく会話の余裕を取り戻した。

 

 

「先輩! クラッターバック先輩!! どうしていきなり……!」

 

 

 木の陰に隠れて、おれは空中に浮かぶクラッターバック先輩に呼びかける。

 実際、どういうわけか皆目見当もつかなかった。

 『UAN』の前線基地への侵攻準備が整ったというこの状況。おそらく侵攻の切り札になりうる俺を攻撃する理由はクラッターバック先輩には存在しないし、仮に俺の襲撃を止めたくてももっと別のやり方があったはずだ。

 たとえば……クラッターバック先輩の【異能】ならば、俺が改造手術を受けたという事実自体をなかったことにすることだってできるだろう。そうすれば俺の戦力は簡単に失われる。

 少なくとも、こうやって俺の話を一切聞かずに襲い掛かる合理的な理由が存在しない。

 

 となると、残るのは『合理的ではない理由』になる。

 ……いや、言い直そう。多分、俺は最初からクラッターバック先輩の凶行の理由がその『合理的ではない理由』──即ち彼女の感情の問題であることを悟っていた。

 だが、その感情が分からない。

 俺がクラッターバック先輩の逆鱗に触れてしまったのか? それとも、クラッターバック先輩が抱えていた何らかの我慢が限界を迎えてしまったのか? 全く予想ができない。そして、そんなクラッターバック先輩の心を理解できないと()()()()()()

 確かにクラッターバック先輩は怪異側の存在で、何を考えているか分からない秘密主義的なところがあるけれど……でもその一方で、俺達と二年間部活で過ごした先輩で、人並みに受験に不安を持っている一人の少女でもあるんだから。

 

 だから、

 

 

「聞いてください!! 攻撃しながらでもいい! なんでこんなことを!? どう思い詰めてこんなことをしたんですか!?」

 

 

 あえて木の陰から身体を出して、俺はクラッターバック先輩の方を見据える。

 満月に照らされたクラッターバック先輩の姿が、月夜の中に浮かび上がる。──クラッターバック先輩は特に搦め手を使うでもなく、素直に空を飛んでいるようだった。

 

 

「おれに原因があるなら、話してください。おれにできることならなるべくやります。おれにできないことでも……納得したいから話してください!」

 

「──流石《Dragon009》ね~。【魔女の軟膏】程度じゃもうあっさり防がれちゃう、か~」

 

 

 クラッターバック先輩は、答えない。

 言葉を交わしてすらいない。あれは、ただの独り言だ。

 

 ……考えるしかない。自分で。

 クラッターバック先輩が、何故俺のことを突然襲ったのか。このタイミングで、前線基地の侵攻があると教えた直後に。……何故。

 

 

「……盾が足りない!」

 

 

 【魔女の軟膏】を防ぐ為に、俺はあえて右手で左腕を縦に引き裂く。

 ──《Dragon009》の《性質》は《怪人化》。《怪人》は負傷した部分から皮一枚のところでドロドロのマグマが溢れ出るようにして行われるが──この『ドロドロのマグマ』という部分について、考えたことがある。

 怪人はもともと《侵略型》と《適応型》というのがあるらしい。当初は《侵略型》が多かったが、戦果に比べてコストが高すぎたことから今は殆ど《適応型》の怪人が主流になっている、とも。

 そして俺は最強の怪人というくらいなのだから、最新型──《適応型》であるのはたぶん間違いないだろう。……ドラゴンが《適応型》? というと不思議ではあるが──そういう疑問を抜きにして、『壊れたところからドロドロの中身が出てきて硬質な外殻に覆われた姿になる』という性質だけを考えると、何となくイメージは狭まってくる。甲殻類や、昆虫類。俺の《性質》は、そのへんに近いのだ。

 そこで、俺は考えた。もしも甲殻類や昆虫類が俺の《性質》のルーツなのならば、サナギを指で押したら中身が変形してしまうように、外圧を加えることで形も調整できるのではないか、と。

 

 たとえば──骨延長手術のように一旦破壊した上で再生を促せば、()()()()()左手を巨大化させることだってできるのだ。

 

 

「なかなかの応用でしょう。おれなりにけっこう考えたんスよ。怪人になった自分と向き合うことで」

 

「…………う~ん、このままだと埒が明かない、かもな~」

 

 

 クラッターバック先輩は、やはりあくまでも俺と会話をするつもりはないようだった。向かい合って言葉を話してはいるが、それはいずれも俺に向けられた言葉ではない。

 軽く旅行用のトランク三つ分はある左手で【魔女の軟膏】を防ぎながら、俺は思い返す。

 クラッターバック先輩……ドロシー=クラッターバックという、俺より少しだけ年上の少女との思い出を。

 

 

 クラッターバック先輩と出会ったのは、俺が高校に入学してからしばらく後の頃だった。

 高校に入学した頃の俺は、今よりもかなり捻くれていて……昼休みになったらすぐに図書室に駆け込んで蔵書を読み漁り、部活にも入らず放課後は許される限り読書に勤しむ、そんな少年だった。

 自分でも思う。かなりヤバかったと。でも、あの頃の俺は別にそれでいいと思っていたし、そうすることで自分の青春がどうなっても特に後悔はないと思っていた。読書だけに学校生活の青春を費やすことは、それはそれで俺にとっては充実した時間だったしな。

 

 そんな時に出会ったのが、クラッターバック先輩だった。

 

 クラッターバック先輩は毎週水曜日と金曜日に本の貸し出しを担当していた図書委員で、それ以外の日にもたまに自分で本を借りに来るような、華やかな見た目とは裏腹の文学少女だった。当然、毎日図書室に入り浸る俺とはすぐに顔見知りになり、些細なことから会話をするような間柄になった。

 別に俺も人嫌いというわけではなかったから、クラッターバック先輩とは話が合うこともあって──先輩として彼女を慕うようになるまで、そう時間はかからなかった。

 

 そんなある日のことだった。先輩から『部活動を設立したい』という相談を持ち掛けられたのは。

 昼休みや放課後に話したりする機会はいつしか俺とクラッターバック先輩だけに留まらず、散発的に色々な生徒も交えたものになりつつあった。ろくに利用者がいないとはいえ図書室を占有するのも問題になるだろうと考えた先輩は、それならと文芸部の設立を提案したわけだ。

 当然、俺は賛成した。実際に部活動というものがあった方が体裁もいいだろうし、という実利的な判断だったと当時は自覚していたが、今にして思えば──先輩や他の誰かとの不確かな繋がりを明確な形にして安心したかった、という部分が大きいのかもしれない。

 

 図書委員の仕事もあって動けない先輩に変わって、俺がメインになって図書室でよくダベる面子に声をかけて勧誘し、メンバーを集めた。

 その時の活動のお陰でそれなりに学年にも友達が増え、夏の足音が近づく頃には俺は図書室の番人街道まっしぐらだったのが嘘みたいに教室で楽しく談笑できるような人間関係を築くことができていた。

 顧問の先生は、どうしようと頭を悩ませていたらクラッターバック先輩がしれっと連れてきてくれたんだけどな。

 もちろん、それでもやっぱり文芸部の活動を優先するし、現に今も放課後は殆ど文芸部の部室に足を運んでいるが──それでも、俺が楽しい学校生活を送れているのはクラッターバック先輩のお陰といっても過言じゃない。

 

 文芸部の設立を学校に認めてもらう為に部誌を作ろうってなったときにも、小説執筆のド素人集団である俺達を導いてくれたのはクラッターバック先輩だった。

 今にして思えば、このへんは現代魔女宗(ウイッカ)の祖であるジェラルド=ガードナーに対して色々と教えていたっていう怪異の『正体』だから、『物を書いたり教えたりする経験』が元々あったってことなんだろうな。

 

 ……思い返してみるだけで、俺にはクラッターバック先輩への恩が数えきれないほどある。何も返せていないことに、負い目を感じる程度には。

 

 

「先輩……どうして何も言ってくれないんですか!? 水臭いじゃないですか! 今はおれだってこうして力もある……。先輩が何かに悩んでるんだったら、力にだってなれますよ!」

 

「………………、」

 

 

 でも……きっと何かは返せていたはずだ。

 クラッターバック先輩の立場に立ってみれば分かる。与えるだけで何も返してこない、そんな関係性じゃあんなにいつも楽しそうにはしない。きっと俺達でも自覚していない『何か』をクラッターバック先輩も受け取っていて……そうやって俺達の青春は成り立っていたと思う。俺達の青春は、クラッターバック先輩にとっても価値のあるものだったはずだ。

 

 

「なのに、なんで……」

 

「それじゃあ、次はこれならどうかしら~?」

 

 

 クラッターバック先輩がそう言うと、【魔女の軟膏】で破壊された木々が一斉にふわりと浮かび上がる。……そうか、【魔女の軟膏】はそもそも空中を浮遊させる効能を持ってる。空間そのものに作用させなくったって、木を浮かして攻撃することもできるんだ!

 

 

「チッ、らァァああああッ!!」

 

 

 左腕を拡大させておいたのは正解だった。巨大化した左腕で以て、俺は浮遊しかけた木々たちを全部まとめて地面に叩き落とす。灼熱の腕は、触れるだけで木々を焼き尽くした。

 

 

「先輩……!」

 

 

 先輩は、徹底して俺と会話しようとしない。

 しかも、【魔女の軟膏】の力で俺の攻撃射程外にいるからこのままだとじり貧に──

 

 ──いや、待て。

 何か……何かおかしい。今の一連の俺の思考、どこかに違和感があった。

 何かを見逃している? なんだそれは? ……話に応じてくれないクラッターバック先輩、【魔女の軟膏】、襲い掛かった理由、クラッターバック先輩との思い出……。

 

 …………そうだ。

 

 【()()()使()()()()()()()()

 

 クラッターバック先輩の目的が俺の無力化や、俺への危害なら、改造手術をなかったことにしてしまえばいい。先程も考えたが、そうすれば《Dragon009》という《性質》は跡形もなく消滅してくれるし、クラッターバック先輩だってやりやすくなるはずだ。

 だがそうなっていないのは……クラッターバック先輩が、先ほどから俺と一切会話をしていないから。

 俺が必死に呼びかけても、クラッターバック先輩はそれに応じていない。だから発動条件を満たせなくて【捏造】が使えないんだ。……何故、わざわざ自分が不利になるのに会話に応じないのか。

 此処に合理的な理由を考える意味は、多分薄い。だってそれは、とても合理的な理由では説明できない心情によるもののはずだから。

 

 少なくとも行動から分かるクラッターバック先輩の目的は、幾つかある。

 一つ目は、このまま俺を『UAN』の前線基地に向かわせたくないということ。それが俺の身を案じているのか『UAN』の侵攻を終わらせたくないのかは不明だが。

 二つ目は、クラッターバック先輩は俺を人間に戻したくはないということ。改造手術をなかったことにして人間に戻せば一つ目の目的は達成できるのに、それをしないのは『そうしたくない』と思っているからだろう。

 三つ目は、クラッターバック先輩はおそらく俺の《怪人化》を進行させたいと思っているということ。いくらでも搦め手が可能な立場なのに直接俺に攻撃をしかけるということは、俺に傷を負わせることで《怪人化》を進行させたい理由があるのだろうと推測できる。

 

 そして四つ目は……クラッターバック先輩の望みは、多分【捏造】によって簡単に達成できるということ。そして、それを分かっていながらクラッターバック先輩はその手段を選ばないように必死に自制しているということ。

 だって、そうじゃないと頑なに俺との会話を拒む理由が見つからない。情報格差的には圧倒的に俺が不利なのだ。自分の目的の通りに状況を進めたいなら、舌戦でもして俺に揺さぶりをかけるのが絶対に最適解だし、クラッターバック先輩はそういう腹芸ができる人だ。

 でも、やらない。

 それは……多分、心のどこかでは【捏造】で全部簡単に解決したくて、でもそうしちゃいけないと思っているから、あえて自分で発動条件を満たさないように立ち回って選択肢を封じているんじゃないか。

 

 

 ……以上の材料から、俺はクラッターバック先輩が今何を望んでいるのかを考える。

 クラッターバック先輩の立場で考えて。

 怪異として生まれながら、人間の少女としての生活を送って、そしてきっと俺達のことを大切に思ってくれている彼女の心を慮ってみる。

 

 

 ………………………………。

 

 

「……先輩には悪いですけど、おれはやっぱり、人間に戻りますよ」

 

 

 そうして出て来た答えは、そんな言葉だった。

 

 直後、先輩の攻撃がぴたりと止んだ。

 

 

「…………なんで?」

 

 

 帰ってきたのは、泣きそうな少女の声だった。

 

 

 一つ一つの過去を並べてみれば、推測は容易だ。

 クラッターバック先輩は、変わっていく日常に寂しさを覚えていた。でも……それは多分、今に生まれた思いじゃなかったはずだ。

 だって、クラッターバック先輩は怪異で、人間とは違う時間の流れを生きているから。

 今はいいかもしれない。高校の後は大学がある。でも、その次は? いずれドロシー=クラッターバックという人間の人生と怪異・ドロシー=クラッターバックが重なっていられる限界が来る。そうしたら、クラッターバック先輩がその人生で得たものは手放さざるを得なくなるだろう。

 今までは、それでも我慢出来ていたのだと思う。

 だって、それはしょうがないことだから。人と怪異では時の流れが違うのは当たり前だ。いくら【捏造】したとしても、根本から違う存在といつまでも一緒に居続けることはできない。

 

 でも……俺は違った。

 

 改造手術を受けた今の俺は、人間の寿命を超越している。怪異であるクラッターバック先輩と、同じ時の流れを生きることができる──おそらく、彼女の人生で唯一『持ち越せる』ようになった人間関係。

 でも、俺の改造手術はあくまで期間限定だ。

 『UAN』の侵略を防ぐことができれば俺が怪人としての戦力を有する理由はなくなるし、ドロシー先輩はその改造手術そのものを無効化する手段を持っている。

 だから『UAN』との戦いが終われば、クラッターバック先輩は俺のことを元の人間に戻さなければいけない。……『持ち越せる』はずだった人間関係を、自らの手で手放さなければいけないんだ。

 

 そう考えれば、今のクラッターバック先輩の動きも理解できる。

 クラッターバック先輩は──この戦闘で、俺の《怪人化》を一気に推し進めようとしているんだ。

 

 

「……ねぇ、もういいでしょう? こっち側に来ましょうよ~? こっち側に来れば、将来の心配はいらないわ。『ナーサリーテイル』のエージェントとしての立場が確約されるし……何より〆切に追われる心配もないもの~。魔女とドラゴン。きっとわたし達、良いコンビになれると思うけど~」

 

「…………」

 

「ねぇ、お願いよ……。もうわたし、この先にアナタ以上の人と出会えると思えないの。このまま『UAN』の前線基地に行って全てが終わってしまえば、アナタは日常に帰ってしまう。きっと〆切は守られて、部誌は恙なく発行されて……わたしは東京の大学に進学する」

 

 

 怪異と日常が折り重なった吐露を聞きながら、俺は首を垂れるクラッターバック先輩のことを見上げていた。

 

 

「わたしの人生から、スグル君はいなくなってしまう。もしかしたら東京の大学まで来てくれるかもしれないけど……その後もずっと付き合いが続いたとしても、一〇〇年もしないうちにスグル君はわたしの人生から消えるのよ」

 

 

 将来の不安。

 思えば、クラッターバック先輩の最近の不穏な態度は、ここから来ていたのかもしれない。俺が《怪人》として、あまりにも非日常に親しみすぎたから……だから、クラッターバック先輩は『こいつならずっと一緒にいられるかもしれない』と思ってくれたのかもしれない。

 でも、俺の答えはもう口にした通りだ。

 

 

「それでもやっぱり、おれは人間に戻ります。怪異には……なりません」

 

「どうしてよ!? 別に家族を捨てろなんて言ってるわけじゃないわ! 高校も大学も好きに行っていい。ユズハちゃんともお別れってわけじゃない。ただ、『その後の時間』を怪異として過ごしたっていいでしょう!?」

 

「そっち側じゃ、クラッターバック先輩のことを物語に書けないじゃないですか」

 

 

 クラッターバック先輩は、俺の言葉を聞いて面食らったようだった。少し押し黙った先輩に対して念押しするように、俺は続ける。

 

 

「別に怪異に小説は書けないなんて言うつもりはないですよ。実際にクラッターバック先輩だって書いてるわけだし。……でも、おれが書きたいのは『最強の怪人から見た魔女の物語』じゃなくて、『男子高校生から見た憧れの先輩の物語』なんです。飄々としていて、面倒見がよくて、でもどこか寂しがりな……そんな先輩の、悩みや苦しみに寄り添いたいと思ったから……だから貴女のことを書きたいっておれは言ったんだ」

 

 

 その為には、俺自身の軸足が『普通の男子高校生』に置かれてなきゃいけない。

 『怪異』に軸足を置いてたら、俺が書きたいクラッターバック先輩は書けない。だから、俺はそっち側には行けない。

 

 

「……でも、それじゃあわたしは……」

 

「いずれ独りぼっちになっちゃう、ですよね。……分かってますよ。そうやって人と怪異で違う時間を生きるのを肯定するってオチになるのは、そりゃあ物語なら美しいけど、それで納得しろなんて人間の傲慢だ。人間だって大切な人と死に別れるのは寂しいし悲しい。それを美化するのは、無責任ですよね。…………だから、()()()()()()()()んです」

 

 

 元々は、どこかに救いが生まれたらいいなとか……そんなつもりで考えていたことではあるんだけど。

 でも、クラッターバック先輩の悩みや苦しみを知っていくにつれて、俺の中でもアイデアが固まってきた。

 

 だから俺はクラッターバック先輩に告げる。

 

 

「                 」

 

 

 クラッターバック先輩を()()()()()()()ってヤツを。

 

 

「…………あはは」

 

 

 クラッターバック先輩は、泣きながら笑っていた。

 ゆっくりと箒は高度を落として──月夜を背にする【黒猫の魔女】は、地上に降りて一人の少女・ドロシー=クラッターバックになって話しかけてくれた。

 

 

「それ、本当にやるつもり~?」

 

「当然。絶対にやり遂げてみせますよ」

 

「……は~、そうか~。……それじゃあ、結局スグル君の人生をもらっちゃうみたいなものね~」

 

「かもですね」

 

 

 でも、クラッターバック先輩がやろうとしていたこととでは()()()()()()()()と思う。

 クラッターバック先輩の望みはきっと満たされるだろうけど……向かっていく未来の形は、まるで逆だしな。

 

 

「んじゃ」

 

 

 そうして同じ目線になったクラッターバック先輩に向かって、俺は呼びかける。

 簡単なお遣いを済ませる、その前の挨拶みたいに。

 

 

「『UAN』の前線基地、潰しに行きますか」

 

 

 宣戦布告の、サインを。

 

 

 


 

 

 

第一一話「ある魔女のお話」

もしも、貴女がそれを望むなら

 

 

 

 




次回、最終回です! 3/26(Sun) 23:00更新予定!
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