【完結】どうやら悪の組織に怪人改造されたらしいが、そんなことより俺には〆切がある。   作:家葉 テイク

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第九話「貴女を書きたい」

「わーん!! これ解いてー!!」

 

 

 『ナーサリーテイル』極東支部の一角、廃ビルのような区画に、一匹のミノムシがいた。

 もちろんそれは本当にミノムシではなく、正体はロープでぐるぐる巻きにされたメリーさんである。蛍光灯なんかを設置する箇所に引っ掛けたロープで吊るされたメリーさんは、目をバッテンにしながら必死に助けを求めていた。

 

 あの後。

 元の場所に戻ったメリーさんは、当然というべきか突然瞬間移動して何やら内緒の話をしたことで怒れるクラッターバック先輩に捕縛されてしまい。その後、あれよあれよと言う間に天井から逆さ吊りにされる憂き目に遭っていた。あのヒキでこんなコメディに振り切れた展開になることある?

 目をバッテンにして泣き叫ぶメリーさんの悲鳴に対し、クラッターバック先輩は青筋をビキビキにした微笑みに片手を添えながら無慈悲に言う。

 

 

「駄目よ~。勝手にスグル君を連れて何か吹き込んだでしょ~? そういうオイタをする子は反省するまで降ろしませ~ん」

 

「そういう秘密主義っぽい態度が細かい不信を積み重ねて最終的に別離の運命を辿るのよ~!!」

 

「誰のせいだと思ってるの~? それじゃあ回転も追加~」

 

「吐くー!! 怪異なのに吐いちゃうー!!」

 

 

 な、なんかもう……見るに堪えねえ……。

 

 

「ま、まぁまぁ先輩、そのへんにしてあげたら……」

 

「何を言われたの?」

 

 

 ちょっと絵面の悲惨さにヒきながら仲裁に入ると、クラッターバック先輩はすっと真面目な表情になって問いかけて来た。

 いつものように目を細めている訳ではない。蒼色の瞳は、不安なその内面を隠すことなく俺のことを見据えていた。

 

 

「……『ナーサリーテイル』の本来の目的について。クラッターバック先輩は、そういうメインストリームとは離れたところにいるってこともまぁ聞きました」

 

「…………そう。ならいいわ」

 

 

 クラッターバック先輩が矛を収めたと同時に、ロープが切れてべちゃりとメリーさんが落下する。……首からイった気がするが……まぁ怪異だし大丈夫だろう。

 

 

「言っておくけど、わたしは『ナーサリーテイル』の侵略には関わっていないわ~。この組織も一枚岩じゃないというか……そもそも、元々が互助組織で、最初は侵略派も組織の中でも一部の過激派だけだったのよ~」

 

「あーまぁ、そんな感じは確かに聞いてて分かりました」

 

 

 まぁ、人の認識の影響を受けて何かの『正体』に変えられてしまったりだとか、『UAN』という外敵が好き勝手やらかしてくれたことで、タガが外れて侵略派が多数派になっちゃったんだと思うけど。

 でもまぁ、自分たちの本来の『正体』を取り戻したいっていうメリーさん達の気持ちも分からなくはないからね。なんかこう、積極的に『コイツら悪者!!』って言いたくはならないよな。

 

 

「あとは?」

 

「……あと?」

 

 

 そのまま続きを促すようなクラッターバック先輩に、俺は首を傾げる。

 あと……と言っても、あとは『変わること』に対する受け止め方の問答とかで、クラッターバック先輩に話すことでもないしなぁ……。

 それに、『ドロシーさんはそれじゃ多分納得してくれない』っていう言葉については……クラッターバック先輩には話さない方がいいだろう。クラッターバック先輩が何で納得してくれなさそうなのかも分からないんだし。

 

 

「メリーちゃんに、他に何か言われなかった~?」

 

「あとは特になんもですね」

 

 

 なので、俺はしれっとシラを切ることにした。

 ……しかし、他に何か言われてたかも……って思うくらいには、クラッターバック先輩には探られたら痛い腹でもあるんだろうか。そのへんはなんかメリーさんが知ってそうな雰囲気はあるが……あの感じだと多分教えてくれるわけではなさそうだしなぁ。

 

 

「……メリーちゃん、わざわざ『ナーサリーテイル』の実態を話すためだけにわたしからスグル君を遠ざけたの~?」

 

「だって、フェアじゃないでしょ」

 

 

 呆れの色を滲ませながらクラッターバック先輩が振り返ると、そこにはよろよろと立ち上がるメリーさんの姿が。

 その足元には、ぐずぐずに腐り落ちたロープの束が転がっている。……あれ、呪いってそういうダメージエフェクトなの? 怖すぎない?

 

 

「スグルは『ナーサリーテイル』が単なる『UAN』への対抗組織としか思ってないのよ。後から実は悪の組織でしたってバレるより、最初から期間限定の協力関係だって分かってた方が良いじゃない。お互いに」

 

「それは……」

 

「ドロシーさん、後輩に嫌われたくないからって『ナーサリーテイル』の実情隠してたでしょ。ワタシが切り出そうとしたら絶対良いように誘導してたと思うから、ちゃんとスグルに説明する為にはああするしかなかったのよ」

 

「…………、」

 

 

 クラッターバック先輩は言い返したかったようだが、言葉が続かないようだった。

 ……まぁ、クラッターバック先輩は純粋に互助組織として『ナーサリーテイル』を利用していたらしかったし、まず自分と『ナーサリーテイル』を切り離した上でそのへんの話を進めたかったんだろうな。

 

 ……ん?

 

 

「後輩に嫌われたくない?」

 

「……あっやべ」

 

「メリーちゃん~!!」

 

 

 俺がメリーさんの言葉に気付いて呟いた瞬間、がばっ!! とクラッターバック先輩がメリーさんに掴みかかる。やっぱり失言だったのね。

 観念したのか、クラッターバック先輩は恥ずかしそうにしながら、

 

 

「……わたし、これでもスグル君やユズハちゃん、文芸部のみんな……ううん。わたしが学生として得たもののこと、かなり大切に思ってるのよ~? なのに『ナーサリーテイル』の一部として見られて『世界を侵略しようとしている悪者』なんて思われたら……多分、わたし立ち直れないから~……」

 

 

 それは、いつも飄々としている先輩が見せる、珍しい弱々しさだった。……意外だ。先輩なら俺がそういう反発を見せたとしても、上手く丸め込んで関係を維持できるし~みたいな感じでタカをくくってるもんだとばかり思ってた。

 でも、そうだな。考えてみればクラッターバック先輩が色々濁すのは、自分が怪異サイドだと俺に思われそうな話の流れの時だったような気がする。っつか、ただでさえ俺が基地から脱走したときの出会い方も最悪だったし、クラッターバック先輩にしてみたらもう戦々恐々って感じだったわけだなぁ。

 

 

「先輩、心配しすぎですよ。おれ、流石にそこまで割り切りが良くないというか……。たとえ先輩が敵に回ったとしても、『ああそうなんだ』でバッサリ切り捨てられるほど非情じゃないですから」

 

「でも怪人はけっこう迷いなく殺すじゃない」

 

 

 話を混ぜっ返すなよメス西洋人形ガキがよ……!

 

 

「最初から敵なヤツと、高校生活で世話になりまくった先輩とでは全然事情が違うだろ。流石におれだって先輩が敵に回ったら苦悩するわ」

 

「嬉しい~。たとえお世辞でもそう言ってくれるだけで~……。わたし、良い後輩を持ったわね~」

 

「そこを話半分に受け取られるのは逆におれが傷つくのですが!?」

 

 

 なんなの!? 俺ってそんな冷血人間みたいなイメージなの!? 皮を剥いた内側はこんなにホットなのに!

 

 

「……それに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 大幅に話を戻したメリーさんの言葉に、若干の恨みがましさが混じったのを俺は見逃さなかった。

 そして、その恨みがましさの意味についても、今まで見聞きしてきた情報から何となく察しがつく。

 

 どういうことかと言えば──クラッターバック先輩は、()()()()()()()()()()()ということだ。

 

 『ナーサリーテイル』に所属している多くの怪異の『正体』達は、自分の過去の姿が後付けの逸話によって好き勝手に歪められてしまっている。だから歪められた過去を正しい形に戻す為に色々と活動しているわけだが……クラッターバック先輩の【異能】は、まさにその過去を自分の好きな形に変えてしまうことだ。

 だからこそ、クラッターバック先輩は過去に執着しない。『ナーサリーテイル』の侵略に基本的に関わっていないというのは、そういうことなんじゃないだろうか。

 

 

「ドロシーさんはワタシ達と違って、未来にしか興味がない。どうせ過去は自分の好きに作り直せるから、自分が未来を作る為にとる行動、環境のことばかり考えている。そんな怪異(ひと)から見た『ナーサリーテイル』の姿を伝えられる前に、ワタシの口から『ナーサリーテイル』の真実を伝えたかったのよ」

 

「メリーちゃん……」

 

 

 なるほどな……。

 先輩が怪異なのに大学受験とかの為に塾にまで通っているのは、単純に趣味かと思ってたけど……そういう事情もあったんだなぁ。

 そしてこの言いっぷりだと思っていた以上にメリーさんはクラッターバック先輩のそのへんのスタンスに思うところがありそうだぞ。……まぁそうか。自分が必死になって目指している『正体』のことをどうでもよさそうに見ているどころか、未来っていう自分とは真逆の方向を見てるんだもんな。

 俺の態度にもちょっとチクチクしてたメリーさんからしてみたら、クラッターバック先輩のそういうスタンスは見てていい思いはしないだろうし。

 

 しかしなんというか……。

 

 

「でもまぁ、正直おれは今更『ナーサリーテイル』が組織的に何かしようとしてたとしても、別に邪魔する気はないし、だからといって嫌いになったりもしないよ」

 

 

 なんか、この一番重要な部分が二人に伝わっていない気がしたので、俺は言葉にして言うことにした。

 

 

「『ナーサリーテイル』が自分達の本来の『正体』を取り戻す為におれ達の世界の『物語』の形を変えようとしていたとして……たとえば桃太郎みたいな有名な物語がその為に捻じ曲げられたとしても、ぶっちゃけそれって当たり前のことだしな。桃太郎は原典では桃から生まれた訳じゃなくて桃を食べて若返った老夫婦の子どもだし。そういう意味じゃ、物語は放っておいても自然と変遷していく。それが『ナーサリーテイル』の手で引き起こされたとしても、何も知らない人類からしたら、たぶん侵略されたことにすら気付けないんじゃないか?」

 

 

 だから俺も、『ナーサリーテイル』の侵略よりも、そのことによって引き起こされる変化のことを恐れていないメリーさんの態度のことを気にしてたわけだしな。

 まぁ、メリーさん的にはバッチリ侵略だしそれを人類側である俺が許すわけない──という思い込みがあったから、そこのところですれ違いがあったっぽいけども。

 

 

「…………え、そうなの?」

 

「うん」

 

 

 何の気なしに頷くと、メリーさんはあからさまに脱力したようだった。メリーさん、なんかずっと俺のこと警戒してるみたいだったもんなぁ。

 アレは俺のスタンスに対する悪感情もあっただろうけど、それ以上に俺がいつ敵に回るか分からないみたいなニュアンスもあったんだろうな。……だったら何で自分から事実を言ったんだって話だけど……そんなにクラッターバック先輩の口から、クラッターバック先輩に都合の良い形で『ナーサリーテイル』の目的が語られるのが許せなかったんだろうか?

 なんというか……メリーさん、可愛いなぁ。

 

 

「……なんかワタシのことバカにしてない?」

 

「いやいや、そんなことないぞ」

 

 

 やっぱりバカにしてるー!! と腕をぐるぐる回して殴ってくるメリーさんに対し、腕をつっかえ棒にして防御しつつ、俺はメリーさんの怒りが冷めるのを待つのだった。

 ちなみに、二分で冷めた。カップラーメンよりお手軽である。

 

 

 


 

 

 

「しかし……クラッターバック先輩も、意外と色々苦労してるんすね」

 

 

 オペレーターの仕事があるというメリーさんと別れ、『ナーサリーテイル』の基地をクラッターバック先輩と二人で歩きながら。

 俺はクラッターバック先輩にそんなことを話していた。

 だってそうだろ? 怪異なのに【異能】の関係で普通の怪異みたいな欲求は持てず、色々小細工してまで人間として生活して、そして今もこうやって人間として得た大切な人間関係の為に腐心しているわけなんだから。

 なんかもう、俺としてはそういう事実だけで、クラッターバック先輩のことを応援したくなっちゃうよ。

 

 同情した俺に、クラッターバック先輩は目を輝かせる。

 

 

「分かってくれる~? そうなのよ、苦労してるのよ~」

 

 

 クラッターバック先輩は大きくため息を吐きながら、

 

 

「『ナーサリーテイル』として『UAN』の怪人は倒さないといけないし、それでいて学生としての生活も疎かにはできないもの~。大学受験も忙しいし、夜は塾だし~。……そこまでやっても、離れ離れになっちゃう繋がりはあるしね~」

 

 

 その姿は、年相応の──高校三年生の少女そのもののように見える。

 先輩も、やっぱりそこらへんは人並に受験への不安とかあるんだな……。

 

 

「仲のいい友達と志望校が違うとかあるんですか?」

 

「ん~? まぁわたしは東京の大学に進学するつもりだから、それもあるけど~。……それ以上に、文芸部の仲間とは、わたしが卒業しちゃったらお別れじゃない~?」

 

 

 ……あー。

 

 

「文芸部。わたしが作った部活動。……でも、卒業しちゃったら皆離れ離れなのよ~。東京に行ったらそう簡単には帰って来れないだろうし~……。そうでなくても離れ離れになれば関係性は変わっていく。……寂しいわよ~」

 

「まぁ今はネット通話とか色々充実してますから、話そうと思えばいくらでも話せますよ」

 

「そういう気休めは今は辛いだけなの~!」

 

 

 クラッターバック先輩はも~! と可愛らしく憤慨して、

 

 

「……スグル君はどうするとか考えてる~? 大学。東京行くとか~」

 

「うーんなんも考えてないっす」

 

 

 大学かぁ……。流石に俺ももうそろそろ真剣に考えないといけない時期だよなと思いつつ、具体的な志望校とかはなんも考えてないんだよな……。

 クラッターバック先輩が東京の大学に行くなら、俺も東京の大学を目指すのはアリかもしれないが……。……いやまぁ、そもそもそこに行けるだけの学力があるかってところもなぁ。一人暮らしもしないとだし。

 

 

「…………、そうよね~。あ~、ずっとこのままならいいのにな~……」

 

 

 クラッターバック先輩はそう言って、物憂げに溜息を吐く。

 ……あれ、ちょっと意外かも。メリーさんの話だと、クラッターバック先輩って未来にしか興味がないってことだったし、てっきり未来に対してめちゃくちゃノリノリみたいな感じなのかと思ってたけど。

 興味っていうのは負の興味──不安とか憂鬱とかも含まれてるのかね、ニュアンス的に。

 

 

「あっ、ごめんね~。ついつい愚痴っちゃった~。それで、創作のネタの方はどうかしら~? 何か参考になることはあった~?」

 

「あ、それはハイ。メリーさんと話したりしてるうちに、何となく自分の書きたいテーマに対してキャラをどう設定すればいいか……みたいなイメージはできてきて」

 

 

 その後もクラッターバック先輩の話を聞いたりしてるうちに、なんとなくやりたいことも固まってきたしな。

 そういう意味では、メリーさんの話は俺にとってはかなり助かった。クラッターバック先輩からしたらヒヤヒヤものではあっただろうけども。

 

 そんなことを考えながら、気付けば俺はこんなことをクラッターバック先輩に言っていた。

 

 

「あの、良ければなんですけど、クラッターバック先輩のことヒロインのモチーフにしてもいいですか?」

 

「えっ」

 

 

 …………えっ。

 

 

 


 

 

 

第九話「貴女を書きたい」

おそらく、その横顔が寂し気だったから

 

 

 

 

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