12話で終わらないよぉ!!
低脳の
最も単純な『第一の魔術』とは神頼みよ。
とは言っても、大したモノではないわ。魔術だなんて大仰に表していても、所詮は
ただ、その相手が
ただし、『第一の魔術』は成功率が低いわ。
当然ね。お賽銭としてワンコイン投げ入れて神社で祈るのと同じで、願ったからといって必ずしも叶うとは限らない。
神が力を貸すかどうか、貸したとしてその力はどれ程か。それらは全て
だからこそ、
簡単に言えば、
紀元前から存在する様々な儀式──雨乞いの際に神を楽しませる舞いを奉納したり、橋の建設前に無事を祈って生贄を水中に沈める人身御供などがこれに当たるわ。
もっと分かりやすく言い換えるなら、それは
この時代は善かったわ。
さて。
愚痴はこれくらいにして。
『第二の魔術』、人の身でありながら魔術の修練によって神の領域へと至る方法論。
カバラにおける
神の力に頼る事なく自力で超常現象を引き起こす技法。もちろん、自分の意思で起こすのだから成功率は100%に決まっているわよね。
ほんっと最悪。
特に、近代西洋魔術結社とか虫唾が走るわ。『黄金』の連中に目をかけた
ただ、『第二の魔術』にも限界はあるわ。
単純に効果が小さい。当たり前よ。
結局、
でも、だけど。
1999年に産み出された『第三の魔術』。
◆あら、
嵐の夜。
暴風で馬鹿みたいにおっぱいが揺れる。
世界の終わりのような光景を背後に、オレは最強の魔術師と向かい合う。
「待てよッ‼︎ なんで『白』のトップであるテメェがヴィルゴの命を狙う⁉︎ 『白』を裏切ったっつっても人命を優先しただけじゃねぇか‼︎」
「問答に意味はないと言わなかったであるか?」
目蓋を開けることなくフォッサマグナは言う。
隙だらけのようにも見えるが、オレは既にヤツの放つ魔術の威力を知っている。何よりも、フォッサマグナから放たれる威圧が誤魔化しようのない実力差を伝える。
戦闘すれば敗北は確実だ。なんとか会話を続けなければいけない。
「テメェもヴィルゴを殺すのは嫌々なんじゃねぇのか⁉︎ でもなけりゃッ、わざわざオレ達の前に姿を現す必要はねぇだろッ⁉︎」
「聞き分けがないであるな、少年。だが、吾輩の威圧を前に盾つけた度胸は認めよう。褒美として質問に答えるのである。…………そこの
「わっ、
フォッサマグナは皺が深く刻まれた顔をヴィルゴの方へ向ける。
その顔に皺はあれど傷は一切存在しない。
目の前の老人が歴戦でありながら常勝なのだと顔が語っている。
「汝に罪はない。汝は悪ではない。
「…………ッ⁉︎」
「……遺言はそれでいいのか? ジジイッ‼︎」
「ふむ、少年を巻き込む気はないのであるが……世界を維持するためには仕方ないのである。害虫と心中するがよい」
交渉は決裂した。
老人に目的を妥協する気配は見えなかった。
ならば、仕方がない。
オレ達は殺し合うしかない。
ヴィルゴが
ゴッ‼︎ と。
スク水型
(どれだけ強力な魔術を使えたとしても、その反射神経は老人のものだ……‼︎ だったら、魔術を使われる前に一撃で仕留める‼︎)
目算で5トンと言ったところか。
鉄筋コンクリートの瓦礫がフォッサマグナを上からのし掛かり──
「
──バキィッ‼︎ と。
フォッサマグナに衝突した瞬間、粉砕された。
「彼にあらゆる攻撃は効きませんわ……‼︎ フォッサマグナ様こそは現代魔術を生み出した賢者の一人‼︎
◆規則の三。決闘空間内では、決闘する両者は対戦相手以外からの外的要因での干渉を無効化する。
「〈
「決闘空間を構築する度に
「──
答えながら、フォッサマグナはオナホをオレに向ける。
そして一閃。じゅわっ、と濁ることなき白光が空間ごとオレを溶かす。
「
「……
「くたばれジジイッ‼︎」
至近距離からオレの声が響く。
反射的に、フォッサマグナはオナホをオレの声がする方へと向けた。
音源は指向性スピーカーによるフェイク。
二重のフェイクを重ねて真横に飛び出す。
全てはこの一撃のため。
「ぶちかましなさいッ、セージ……‼︎」
「『
オレの持つ特殊体質。
〈
アドゥルテル、テスティス、クローンソーセージなどを打ち破ってきた拳がフォッサマグナの顔を穿つ。
同時、
「────なッ⁉︎」
「
それでも。
フォッサマグナは無傷でそこに立っていた。
避けられた訳じゃない。魔術で反応された訳でもない。
初めての感触。だけど、オレは咄嗟に叫んだ。
「
『
干渉を無効化された。
「あり得ませんわ……‼︎ セージの『
「ふむ、逆であろう。これまでが例外だったのである。〈
『
だとすれば、今までの例外は何だったんだ……⁉︎
それとこれとで何の違いがある⁉︎
場違いな疑問に思考が占拠される。
オレはフォッサマグナを目の前にして絶望的な隙を晒してしまった。
「次は吾輩の番であるな」
メキメキメキィッ‼︎ と。
オナホから放たれた衝撃波が横腹を抉る。
幻覚対策だろうか。その衝撃は上下左右360度全方向に向けて放たれた。至近距離にいたオレが避けられる訳がない。
その一撃に踏ん張れる筈もなく、高層ビルの壁にめり込むようにオレは吹き飛ばされた。
「ごがっ、ぐ……ッ⁉︎」
骨が何本か持っていかれた。
内臓が潰れたような感触もある。
だけど、オレは痛みに呻きながら疑問に思った。
(……
確かに痛いし、重傷だろう。
だが、五体満足であり
フォッサマグナが天災を招いた閃光の一撃に比べれば、こんなの屁のようなモノだ。
そこで気づく。
オレの背後にはAIランドがあった。
「そう、か。テメェは『白』のトップで正義の味方……つまり、
「それがどうしたであるか? 吾輩と少年の圧倒的な実力差は、その程度の
フォッサマグナが手を振るう。
掠っただけで消滅してしまうような一撃必殺の魔術だが、それを振るう老人の手は年相応に遅い。
しかし手の動きに合わせて避けようとして、ギリギリで
(
「真後ろですわ‼︎」
声が聞こえても体は動かない。
代わりに、ヴィルゴの魔術が発動した。
フォッサマグナの魔術に干渉することはできない。故に、その魔術はオレを遥か上空へ放り投げた。
それこそが唯一の生存ルートだった。
上空から俯瞰することで、やっと見つける。
「
「
オナホールが一人で飛び回り、白い閃光を放つ。
もしもあと数センチでも下にオレの身体があれば、容赦なく光に飲み込まれて消え去っていただろう。
(いや、光……
シンプルイズベストを代表するような魔術。
単純が故にハーレム15000の魔力が十全に働き、単純が故に対策できることも少ない。
「
「大した理由ではない。アーサー王伝説において聖剣よりも魔法の鞘が重視されるように、吾輩もまた
それに、と。
フォッサマグナは続けて告げる。
「
フォッサマグナは下半身を露出する。
そこにあったのは老いぼれて不能になったジジイのチンコではない。
「見るがよい。余りにも巨
直後の事だった。
闇のチンコが世界ごとヴィルゴに喰らいつく。
「ヴィルゴ……⁉︎」
「ぁッ、……ぶじッ、ですわ……‼︎ ええ、無事ですとも‼︎ かすり傷は負いましたが‼︎」
「何処がかすり傷だ……⁉︎ もろ致命傷だろうがッ‼︎」
ヴィルゴは魔除けの術式を発動していた。
魔を跳ね除ける術式ではなく、
「これは自切ですわ‼︎ あと一秒でも切り離すのが遅れていれば、身体全部が暗闇の中に飲み込まれていましたわ……‼︎」
「ブラックホールかよ⁉︎」
ブラックホール。
言いながら、それだと思った。
脳が覚める、頭が冴え渡る。
オレの直感が閃きとなって降りてくる。
だが、オレのシナプスよりも速くフォッサマグナは策を巡らせる。
「ちょこまかと面倒であるな。
いつの間にか、闇のチンコが地面に広がっている。だから、厳密には重力ではなくチンコへの引力なのだろう。
ヴィルゴの話では肉体全部が引き寄せられるほどの引力だったらしいが、今感じるのはせいぜい立ち上がれない程度だ。効果範囲を広げたことで、引力自体は弱まったのかもしれない。
しかし、それにしても……
「──っ、これ程の引力ッ、そのナリで星と同じクラスの質量か⁉︎ テッ、メェ……‼︎ チンコが
「これで終わりと思ったであるか?」
「…………ッ‼︎ セージッ、上ですわ‼︎」
「……なん、だ?」
初め、それは星に見えた。
空に輝く無数の流星群。
だけど、その真実は残酷だ。
地を這い蹲るオレ達の元へと堕ちてくる大地を滅ぼす凶星。
その総重力は
「〈
タイムラグなく、〈
宇宙エレベータ建設時に搭載されたスペースデブリ迎撃システムが作動する。本来は宇宙エレベータとスペースデブリの衝突を避ける為の物だが、仕方ない。
最新鋭の宇宙兵器が地球へ落下する10万トンの99.99%を撃滅する。それでも、100トンの流星雨は降り注ぐ。
「────ッ‼︎」
そんな鋼鉄の雨の中、ヴィルゴは疾走していた。
(いくら無限に〈
駆け出したのはオレの叫びと同時。
ヴィルゴはもはや声を出す余裕すらない。
シンデレラドレスの人体改造術式によって超人となったヴィルゴにとっても、その超重力はあらゆる力を振り絞らなければ抗えないものだった。
あらゆる干渉を無効化するフォッサマグナに対して、どんな策があるのかは分からない。
だけど、せめてオレは自分が分かったことだけでも伝える。
「
「────フ」
オレの声が聞こえたのか、ヴィルゴは口の端に笑みを浮かべる。
バイク、看板、ビル。嵐によって地面はガタガタで、暴風によって様々な障害物が飛んでくる。足場は濁流に飲み込まれ、空からはスペースデブリが降り注ぐ。
何より、ドローンオナホが放つ閃光は当たれば一発ゲームオーバーのクソ仕様だ。
そんな
雨ニモ負ケズどころの話ではない。今日の天気は嵐のち津波、時々スペースデブリの中を駆け抜ける。
(──流石ですわね、セージ。術式の構造を解明する手掛かりになりますわ。……しかし、ブラックホールと
地面を凹ませる強い踏み込み。
超音速で縦横無尽に跳び回り、やがてヴィルゴはフォッサマグナまであと一歩という射程に到達する。
(これでッ‼︎)
「──な、ん」
「押さえつけるのが駄目ならば、放り出すだけのことである」
視界の端にブラックホールチンコが映る。
地面にあったはずのそれは、気づけば上空へと移動していた。
深海でもがいているようだった。
息はできる。苦しくはない。だけど、どれだけ手足を動かそうが動くことはできない。
ヴィルゴは宙で磔にされている気分だった。無重力になる直前に地面を蹴っていたからこそ、なす術なく空を漂っている。
言い換えれば、
「赦せとは言わん。だが、受け入れろ。
直後、視界が白く染まる。
ヴィルゴの
「よお、オレを無視すんじゃねぇぞ」
「……『科学』であるか。星の理すら覆すとは厄介であるな」
オレはヴィルゴを脇で抱えてこむ。
フォッサマグナの攻撃が当たる寸前の所で、
「それ、は……?」
「
電子ロックがかかっていたが、そちらは普通にハッキングで解除した。
「フォッサマグナに突っ込めばいいか⁉︎ 大した速度は出ないから攻撃を避けられてもあと一回か二回だぞ⁉︎」
「いいえッ、空を飛べるなら都合がいいですわ! あっちへ‼︎」
我武者羅に、後先考えずエンジンを吹かす。
まったく、ヴィルゴはどうやってあんな所へ行こうとしていたのか。フォッサマグナを踏み台にして跳び上がろうとでもしていたのかもしれない。
「貴方の魔術、たとえハーレム15000なのだとしても強すぎますわ。ですから、何かの神の力を引き出しているのは間違いありませんわね。貴方の服装も、その為でしょう?」
フォッサマグナが身に纏う
左手が掴む
四属性の調和は、この『場』を神の力が現れるに足る神殿へと調整する。神働術師であるフォッサマグナとしては当然の所作だ。
「では、貴方が引き出した神とは一体何でしょうか。ヒントはブラックホールとホワイトホール。そして、
こうでもしなけりゃ、フォッサマグナの猛撃を躱わす事ができない。
オレの膝の上で、ヴィルゴは高らかに謳う。
それは挑発か、勝利宣言か。或いは口撃の一種かもしれない。
どちらにせよ、彼女の口上はもう終わる。
「ナニをするつもりであるか……⁉︎」
「ヤっちまえ、ヴィルゴッ‼︎」
「
男神ハディート、セレマ宇宙論において無限小に収縮を続ける球体と表現される神。
女神ヌイト、セレマ宇宙論において万物の究極の源と表現される神。
「それが分かったから何であるか? 汝には吾輩を傷つけることなど出来まい‼︎」
じゅわっ、と。
オナホから放たれた閃光がヴィルゴの指を溶かす。
呆気なく、味気なく。
「………………あ?」
ぽた、と。
フォッサマグナの鼻から血が垂れる。
オナホの呪いがフォッサマグナのチンコに到達した。
「──破られ、た? 規則の三がであるか⁉︎」
「いいえ。外的要因は貴方には効きませんわ。
ハディートとヌイトの結合によって、あらゆる事象は生まれるとされる。
逆に言えば、事象が存在する限りハディートとヌイトは結合している。それはブラックホールとホワイトホールはワームホールを通じて繋がっているとも言い換えられる。
つまり、
外からの干渉が効かないのであれば、
「吾輩の視界がッ⁉︎」
「理論がめちゃくちゃな上に初めてやった方式なので、大した呪いは乗せていませんわよ。
そして、
「ここからが本番。始めますわよ、〈
タイミングよく、決闘空間が再構築される。
オルゴールが自動で宣誓を奏でる。
『聞け、我が目を受けし汝、魔法名
初めてフォッサマグナと同じ舞台に立つ。
手の届かない絶望なんかじゃない。相手は今、殴れば傷つく場所にいる。
オレ達はヤツに一矢報いたのだ。
「────ぁ」
「認めよう、汝等こそ吾輩を最も追い詰めた難敵だと。その上で尋ねよう」
じゅわッ‼︎ と。
閃光が真横を通り過ぎた。
余波で吹き飛ばされたオレは頭から地面に衝突した。
脳が揺れる、血が噴き出る。そんな頭のまま焦げ臭い
意味が分からなかった。訳が分からないまま、気持ち悪くなってゲロを吐いた。
「〈
視界をジャックして、対戦相手にヴィルゴを指定させた。
なるほど、確かに大金星だ。干渉すらできないフォッサマグナが、殴れるようになった。
天上にいる魔術師と同じ舞台に立つことができた。
正面から戦えるようになったからなんだ?
相手は魔術において格上である〈最強〉。
正面から戦えば負けるに決まっている。
勝率が0%だった現在から、小数点の彼方に1が付け足されただけなのだ。近似値で言えば、どちらも0で変わりない。
にも関わらず、一瞬気を抜いた。
その
「………………ヴィル、ゴ…………」
返答はない。
それもそのはず。
腰から下が消滅したが助かったことはある。
だけど、これはそんなものじゃない。
心臓も、脳味噌も、何かもが消え去った。
血の匂いはしなかった。
自分のゲロの匂いで鼻がツーンとする。
海が干上がったように、彼女の血もまた全てなくなったのだろう。むしろ、下半身が残っていることが奇跡なのかもしれない。
涙は出なかった。
怒りも湧き上がらなかった。
心にあるのは使命感だけ。
「害虫を殺した今、汝に用はないのであるが……」
「オレはテメェに用がある」
「…………で、あろうな。ならば仕方ないのである」
震える足でオレは立ち上がった。
目の前には〈最強〉フォッサマグナがいる。
「じゃあ、始めようぜ」
「では、始めるのである」
男とTS。
老人と若者。
魔術師と科学者。
〈最強〉と〈最弱〉。
何もかも真逆なオレ達は、声を揃えて告げた。
「「〈
◆規則の六。
◆逆説、魔杖及び代替魔杖が破壊されない限り決闘中は死ぬことも敗北することもない。
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