【完結】あさおん☆魔術決闘ペニスフェンシング   作:大根ハツカ

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前話の黒塗りの部分、実はちゃんと読めます。




9/12 賢者タイム突入

 

 

 

「……お前はナニを、言っているんだ……?」

 

 

 『神を殺したかった』。

 バキュームの告げた言葉に理解が及ばない。

 だって、()なんて言葉は科学者の口には全くと言っていいほど似合わない。

 

「カミサマだって? バキュームはそんなもの信じてんのか?」

「あら、それは魔女として聞き捨てなりませんわよ。()()()()()()()()‼︎」

「………………………………へぇー」

「全然信じていないですわねその顔⁉︎」

 

 一体オレはどんな顔をしていたのやら。

 カルト宗教に洗脳されてインターホン越しに布教してくる信者を見るような表情でもしていたのかもしれない。

 

 生憎とオレは神を観測したことはなく、そもそも目にしたからと言ってその存在が証明される訳でもない。

 オレが考えるに……『神』とは信じるモノで、『科学』とは疑うものだ。

 だからこそ、オレは神を受け入れられない。神託機械(ハイパーコンピュータ)の公表を避けたのと同じように。

 

「神という概念が受け入れ難いのなら、上位存在でも秘密の首領(シークレット・チーフ)でも何でも構いませんわ。蟻にとってヒトが天災の如き超越存在であるように、ヒトにとっての()()()なのですわ」

「…………つまり、神話的なカミサマなんかじゃなくて、圧倒的な力を持った宇宙人みたいなモンを神格化して崇めてるだけってことか?」

「厳密には違うのですが…………ま、まぁ? その理解でもいいと思いますわ。しかし、神の殺害を目的として『科学』を使うとは……合理的ですわね」

「それはどういう……?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 魔術が神の力を使っているだって……⁉︎

 それはおかしい。オレが聞いていた話と食い違う。

 魔術は『感染』と『類感』の原理によって成立する技術のはずだ。

 

「オレは魔術を使ってて全く神とやらを実感した記憶はねぇけど……」

「それは貴方が原始的な呪術──『感染』と『類感』の原理のみに則った極めて簡単な()()()()しか使っていないからですわね。第一の魔術にも到達していませんわ。未開人ですか?」

「……意味は分からねぇけど、馬鹿にされてることだけは分かった」

 

 『感染』と『類感』は基礎中の基礎で、魔術にとっては1+1みたいなものなのかもしれない。

 

「そもそも、どうして魔術が『魔』の『術』と表記されるのか、魔女が一神教から迫害されたのか知っていまして?」

「…………いや」

「答えは単純、魔女や魔術とは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それこそが全ての捩れの始まり。

 古代において、魔術──当時はまだそう呼ばれていなかった神の力を利用する術──は数ある技術の一つに過ぎなかった。工術や算術と同じように、専門の者が専門の技術を待っているだけのことだ。

 

 そもそもの話、『魔術』と『科学』に明確な境界線はない。

 錬金術が化学の始まりであったように、魔術もまた科学と地続きの技術であった。()()()()()()()

 

 だが、一神教は他の神々を認めなかった。

 故に神は悪魔となり、神秘の御業は邪悪な魔術となった。

 

「だっ、だけど、それは魔術師の理屈だろ? やっぱりバキュームがカミサマなんて信じてるのはおかしい‼︎ バキュームは科学者なんだぞ⁉︎」

「いやぁ? ヴィルゴちゃんの説明は正しいよぉ?」

 

 その時、オレの頭にある考えが過ぎった。

 荒唐無稽な考えだが、オレは何となく自信があった。

 だからこそ、こう尋ねた。

 

 

「──お前、初めっから魔術師だったのか?」

()()()()()()鹿()()()

 

 

 全然違った。

 まさか組み伏せているバキュームにすら罵られるとは……。

 

「ソーセージちゃんは知ってるよねぇ? 学術都市にはそれぞれ専門としている分野がある」

「あっ、ああ」

 

 突然の話題転換に戸惑い、一瞬吃る。

 指を一本ずつ折っていき、七大学術都市の専門分野を思い出す。

 

 ノアズアークは自然科学。

 ララ・ラピュータは応用科学。

 蒐郷地(しゅうごうち)は社会科学。

 SSSS-114514は形式科学。

 オーシャン=セントラルは人文科学。

 AIランドは唯一例外で、特定の分野に特化する事なく複数の分野を跨る学際的な都市だ。

 

 

()()()()()()S()E()C()R()E()T()()?」

 

 

 秘匿機関SECRETは専門分野すら秘匿されている。

 だが、今度こそ直感が囁いた。今の話の流れからして、専門分野なんて一つに決まっている。

 

「ま、さか……⁉︎」

「秘匿機関SECRET、その研究分野は──」

 

 一息溜めて。

 バキューム・フェラチオンヌはこう告げた。

 

 

「──魔術(オカルト)だよ」

 

 

 


 

 

Tips

 

◆原始魔術とは、『感染』と『類感』の原理()()に基づいて行われる魔術。呪術や第0の魔術とも呼ばれる。

◆通常の魔術とは異なり、神の力を利用することがない。よって、効果が小さい上に成功率も低い。

◆既に秘匿機関SECRETによって、科学的に再現されている。

 

 

 


 

 

 

「別に驚く事じゃないよねぇ〜? 遥か昔は雷だって神話の領域だった。ヒトの手が届かない圧倒的な神秘だった。だけど、その権能(チカラ)も今となってはヒトの技術(モノ)に堕ちた。それと一緒さ☆」

 

 当然のように。

 常識のように。

 なんて事ないようにバキュームは言う。

 

「オカルトなんて気取っているが、それは結局()()()()()()()()()()()()()()()だよぉ? 科学で解明できないないモノなんて存在しない。もちろん世界の全てが科学で説明できるワケじゃあないけどさ。でも、必ず、いつか科学は未知なんてモノを征服する。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()☆」

 

 科学万能主義。

 それこそは現代を席巻する覇権(スタンダード)

 もはや狂信とさえ言える『科学信仰』は、『科学』を名乗りながらも疑うことなく『科学』を信じている。

 

「そんなのッ、あり得るのか⁉︎ あんな摩訶不思議な現象が現代の科学で説明出来るとでもッ⁉︎」

「…………魔術を科学で解明するという試みは有史以来何度も行われましたが、そんなものが成功したことなどたったの一度もありませんわ。科学なんかじゃ原始魔術すら──」

「いつの話をしてるの〜? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「……()()()()()()()()⁉︎」

 

 21世紀なんて何十年前だと思っている⁉︎

 オレはまだ産まれちゃいないし、前半ともなれば100年くらい前だ。

 

「例えば『感染』の原理は量子もつれから、『類感』の原理はユングのシンクロニシティから説明できるねぇ〜♪」

「ヴィルゴの使う魔術は⁉︎ 魔力とかいう意味不明なエネルギーはどうなるッ⁉︎」

「魔女の膏薬も薬学の延長線上にあるものだし、魔力だって不確定性原理におけるゆらぎが大きくて観測者によって状態が変わりやすい特殊なエネルギーと考えればソーセージちゃんも納得がいくんじゃないかなぁ〜?」

「…………っ⁉︎」

 

 何か言い返したかった。

 だけど、口から出るのは意味のない吐息だけ。

 天才であるオレ自身がバキュームの理論に納得していた。説明は足りないが、きっと彼女の理論に瑕疵はない。

 

 納得できるはずだ。

 間違いなんて存在しない。

 それなのに、オレはまだ言葉を紡ぐ。

 

「…………だったら、『射精魔術』は……?」

 

 苦し紛れの反論。

 だけど、その返答は意外なものだった。

 

 

()()()()

「…………は?」

 

 

 思わず、言葉が途切れる。

 オレの考えなしの発言は、バキュームの核心を射抜いていた。

 

 

「『射精魔術』──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 第三の魔術。

 神に祈るだけの魔術を第一、神に成ろうとする魔術を第二とした時、三番目に当たる最新の魔術様式。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そもそも『神』ってヤツが『科学』で定義できないんだぁ。それは本当に気まぐれで、なのに現実に与える影響が大きい。()()が関わるだけで、観測結果はめちゃくちゃなのさ」

「…………まさか」

「第一の魔術はまだマシだった。神へ祈願するだけの魔術は成功率が低い。第二の魔術は大したことはなかった。神へ至ろうとする魔術も結局はヒトの力から逸脱していなかった。でも、だけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけはダメだったんだよねぇ」

「まさかテメェ……⁉︎」

所長(チーフ)は人知が及ばないからこその神なんて嘯いていたけれど、そんなモノ許せるはずがないよねぇ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッ⁉︎」

 

 隙間の神とは、現時点での科学知識で説明できない隙間に神が存在するという思想だ。

 言い換えれば、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 バキュームの目的はその究極だ。

 即ち、世界全てを『科学』で解明し尽くすことで神の居場所を消し去る計画。さしづめ『虚空の神』とでも言ったところか。

 

「神を直接観測することはできない。神を明確に定義することはできない。だったら、外堀から埋めていくしかないよねぇ? つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()☆」

「観測できない場所にこそブラックホールが存在するようなもんか……」

「そして、それには多くのデータと高性能な演算装置が必要なのさ☆ ()()()A()I()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 つまり、それがバキュームの動機。

 オレはバキュームにとって釣り餌に過ぎなかった。

 『黒』の勢力に神託機械(ハイパーコンピュータ)の情報を流し、『黒』の動きを『白』の勢力に伝え、このAIランドを舞台に魔術戦を繰り広げさせる。そのデータを集め、神託機械(ハイパーコンピュータ)によって解明する。

 なるほど、科学者の目的としては納得ができる。バキュームの目論みは途中まで上手くいっていたのだろう。

 

 唯一の予想外と言えば、オレの生存か。

 実際に『黒』がオレを手に入れることはバキュームの本意ではないだろうし、逆にオレ自身が神託機械(ハイパーコンピュータ)を占有することもまた避けたい。

 故に、オレの命を狙ったのか。ヴィルゴとの直接戦闘を避けるために、遠回りな方法で。

 

「お前の知識欲……探究心か? それには共感できるな……」

「……セージはこの方の所業を肯定するという事ですの?」

「いや、そういう訳じゃないけどさ。世界のことを考えろ、なんて……〈MAI:SoN(マイサン)〉を創ったオレが言えることではないしな」

「でしょでしょ〜? 命を狙われた事で怒るのは当然だけどさぁ、ここは見逃してくれないかなぁ〜?」

「だけだ、一つ疑問に思うことがあってな。お前の目的は神の解明なんだろう?」

「? そうだけどぉ〜?」

 

 単純な疑問。

 ハッキリとオレは尋ねた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()()()()()()()?」

 

 

 神は観測も定義もできないから外堀から埋める?

 寝ぼけてんのか? ()()()()()()()()()()()()()()

 

神託機械(ハイパーコンピュータ)を何だと思ってやがる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。観測とか定義とか、そんな言い訳ばっか重ねやがって……‼︎」

「…………ッッッ‼︎‼︎‼︎」

 

 ピキッ、と。

 バキュームの表情筋が固まる。

 表情を機体(からだ)に出力するほどの余裕が失われる。

 

「結局さ、それは探究心なんかじゃなくてただの嫉妬だよ。テメェが人生をかけて研究していた題材(テーマ)で、オレがあっさりと答えを出せそうで焦ったんだろ?」

「ちッ、ちがっ……⁉︎」

「何が『科学』だ。何が『神』を殺したいだ……‼︎ 全部テメェの見栄を守りたいがための戯言じゃねぇかッ‼︎ オレに魔術を打ち明けてッ、研究の為に神託機械(ハイパーコンピュータ)の使用をお願いしてッ‼︎ それだけで全部解決した問題なんじゃねぇのかッ⁉︎」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ⁉︎ 黙れぇッ‼︎」

 

 バチバチッ‼︎ と。

 機体(からだ)をハッキングしているオレの腕まで、バキュームの電流(かんじょう)が逆流する。

 感情出力機能がバグるほどの怒りが彼女から発せられたのだ。

 

「ソーセージちゃんに長々と自分語りをしたのは何の為だと思ってる⁉︎ 自爆シークエンスの時間稼ぎをするためさッ‼︎」

「へー」

「この機体(からだ)は脳以外を全部機械化した全身義体改造人間(オーバーホール・サイボーグ)さ‼︎ だけどッ、脳みそがここに収まってるとは一言も言っていないよねぇッ? 機体(からだ)は幾つだってあるッ、あたしは何度だってやり直せるッ‼︎」

「ほーん」

「余裕ぶっていられるのも今のうちさッ‼︎ この研究室ごと全部吹き飛ばしてぇ…………────ッ⁉︎」

()()()()()()()()?」

 

 バキュームの言葉が途切れる。

 それも当然だ。自爆シークエンスが作動しているのにも関わらず、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「研究室を吹き飛ばすほどの自爆? そんなもん、とっくに対処済みに決まってんだろ」

「なっ、なんでぇ……ッ⁉︎」

「脳みそがここに無いなんて、んなこともとっくに分かってんだよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? ()()()()()()()()()()()()()()()()

「────ッッッ⁉︎」

 

 複数の端末を経由して煙に巻いているが、そんなもんでは〈MAI:SoN(マイサン)〉の目は誤魔化されねぇ。

 バキュームの居場所は南極にある氷山の内部だ‼︎ きっと、そこには秘匿機関SECRETの本拠地が存在している。

 

「どうやってぇ……⁉︎ あたしは位置座標は単純な演算力じゃ割り出せない‼︎ ハッキングの腕だけじゃ説明できないッ、幾重にも魔術防壁を重ねていたはずなのに……ッ‼︎」

「今更ナニを言ってんだ? 魔術を科学的に解明したのはテメェだろ」

「……………………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッ? さわりの部分を教えただけでぇッ、この一瞬で秘匿機関SECRETが100年かけて積み上げてきた叡智を⁉︎」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 オレは魔術を理解できていない。

 だけど、その解き方だけは分かる。神託機械によって答えをカンニングすればいい。

 

 それがどんな複雑な魔術であれ、『神』を解明できていない秘匿機関SECRETの使用する魔術は人知が及ぶ範囲にあるのだから。

 

「どっ、どうするつもりかなぁ? あたしの位置が分かっても、AIランドからじゃ14000kmは離れている。ソーセージちゃんの科学でも、ヴィルゴちゃんの魔術でも、ここまで手は届かないでしょ?」

「何の問題もねぇよ。この機体(からだ)を通してテメェの脳みそとは繋がってる。だったら──」

「──完成しましたわ‼︎」

 

 ヴィルゴがぴょんぴょん飛び跳ねる。

 頼んでいたものが完成したようだ。

 

「準備はできたか?」

「ええ、ぴーでぃーえふと言うのですか? ちゃんと変換しましたわ!」

「なにを──」

「貴方の言う通り、(わたくし)の魔術は届きませんわ。ですから、貴方に貴方自身を呪いって貰おうと思いまして……」

 

 つまり、と。

 魔女は何処か嬉しそうにこう告げた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 見たら死ぬ絵というものがある。

 視神経を通って脳にまで至る呪いだ。

 だが、これはそれとは似て非なる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ニヤニヤ、と。

 オレもヴィルゴと同じように笑みを浮かべた。

 

「科学者のよしみで情けをかけてやったんだ。感謝しろよ? 何たって、これ以上手を出すつもりがないのなら何も起きないんだから。それとも、まだ何かするつもりだったか?」

「───────」

「あっ、そうか。用意周到なテメェの事だ、()()()()()()()()()()()。お気の毒に」

 

 直後。

 機体(からだ)越しにバキュームの断末魔が響いた。

 

 なんて事はない。

 ありふれた一人の天才(バカ)の終幕だった。

 

 

 


 

 

Tips

 

◆第一の魔術とは、神に祈りを捧げて力を借りる魔術。雨乞いなどが代表的だが、成功率は低い。

◆第二の魔術とは、神へと至ることで力を獲得する魔術。カバラなどが代表的だが、実際に神と同格の力を得た例はほとんど無い。

◆第三の魔術とは、神を屈服させて力を奪い取る魔術。射精魔術、魔術決闘(ペニスフェンシング)媚薬香水(チャームフェロモン)の三つからなる現代魔術。

 

 

 


 

 

 

 こうして、黒幕(はんにん)は倒され。

 今回の事件は終わりを迎えた。

 

 

「お見送り感謝しますわ」

「別にいいよ。感謝してんのはこっちの方だからさ」

 

 

 AIランド外縁部。

 外と都市を繋ぐ港にオレ達はいた。

 目の前には、ヴィルゴが所有しているオレンジ色の小さな船がある。

 

 事件が終わったという事は、ヴィルゴの護衛も終わったという事だ。

 故に、彼女はこのAIランドを去る。

 

「バキュームの端末から誤情報を流したため、もう貴方を狙う刺客はいませんわ。加えて、『黒』の主犯格が『白』のトップに倒されたという情報もあります。安心してくださいませ」

「ありがとう。…………寂しくなるな」

「そんな顔してはいけませんわ。3月26日に万博(エキスポ)の開会式があるのでしょう? 間に合って良かったではありませんか」

「ああ…………そう、だな……」

 

 オレがTSしてから3日。

 たった3日間だけだったけど、体感では9週間くらい一緒にいた気分だ。

 

 オレの味方はずっと彼女だけだった。

 彼女だけが信頼できる人間だった。

 だから、寂しいというより心細いという表現が近いのかもしれない。

 

「……そういや、ヴィルゴは『白』から一時的に離反してたよな? 戻って大丈夫なのか?」

「問題ありませんわ。もちろんガヤガヤと喧しい連中はいるでしょうが、『白』のトップはそこまで狭量ではありま──」

「────()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 声が聞こえた。

 しわがれ声だった。

 それは枯れ木のような体から出ていた。

 だけど、その枯れ木は世界樹(ユグドラシル)のように巨大な圧力を放っていた。

 

「フォッサマグナ様……‼︎」

「……誰だコイツ?」

「コイツ……⁉︎ 何て口を叩いてますの⁉︎ この方こそは(わたくし)が所属する『白』の首領(トップ)でありッ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っ⁉︎」

 

 白髪の老人はコツコツと杖をついて歩く。

 その腰には短剣が、胸元には円盤が、顔には仮面のように(さかずき)が携えられている。

 

「それで? 今頃トップ様がノコノコと何の用だ?」

「セージ⁉︎ 口を慎みなさい‼︎」

()い。少年の疑問を当然である。しかし、この場で目的など一つしかあるまい」

 

 フォッサマグナはローブはためかせ。

 そして、懐から()()()を──オイ待て、オナホ???

 何でこのジジイオナホを待ってんの?????

 

 意味が分からない光景に、脳がバグる。

 だけど、現実は待ってくれない。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ()()()()‼︎‼︎‼︎ ()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「────は?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 船舶を蒸発させてもなお減衰することのない閃光は、海面にまで届き()()()()()()()()

 

 もしも、海面を測っている学者がいれば驚いた事だろう。

 ()()()()()()()()()()()()()。この瞬間に蒸発した水量はそれほどだった。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおッッッ⁉︎」

「きゃああああああああああああああッッッ⁉︎」

 

 AIランド全体が揺れた。

 何の対策もなければ海面に浮かんでいたAIランドは文字通り()()()()()()()()()()()()()()

 現在、AIランドは反重力装置によって空中に浮いている。使われている技術は反重力二輪(ホバーバイク)と同じものだ。それが無ければ、今頃都市は落下の衝撃に耐えきれず粉砕し、宇宙エレベータは折れていた。

 警報(アラーム)が鳴り響く。この一瞬で、たった一度の攻撃で、都市崩壊の危機が訪れたのだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

「…………なんだよ、アレ」

()()……ですわね。5()0()0()0()()()()()()()()()()()()

 

 5000メートル級の津波。

 問答無用で世界最大級に違いない。

 恐竜が絶滅した際の隕石による津波が300メートル級だったことも考えると、人類絶滅クラスと言っても過言ではない。

 

 とは言っても、本来の津波の測り方とは違う。

 海が干上がった反動として生じた津波だ。その高さもまた、()()()()5()0()0()0()()()()()

 反重力装置によって空中に浮いている現在から考えて、海面からの高さは100メートル程度だろう。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「これが……ヒトの魔術だと言うのですか⁉︎」

「…………この世の終わりみてぇだな」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 竜巻が渦巻く。雷雲がうねる。

 急激に蒸発された大量の水蒸気が超巨大積乱雲(スーパーセル)を形成し、()()()()()1()0()0()0()k()m()()()()()()()()()()()()()()()

 その台風に秘められたエネルギーはマグニチュード9.0の地震すらも容易く飛び越える。鋼鉄すら無理矢理に引き千切る暴風(テンペスト)が吹き荒れ、都市を呑み込もうとAIランドに向かって前進する。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「吾輩の実力を理解したであるか?」

 

 

 コツン、と。

 静かに、轟音を立てて蠢く災害によって掻き消えそうなほど大人しく杖の音が響く。

 だけど、忘れるな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「問答は無用である、矮小なる虫よ。汝との会話、それら全てに意味はない。ただ吾輩は汝を滅するのみ」

 

 その者を称する異名は無数に存在する。

 白の賢者、『白』の頂点、濁る事なき純白、沈まぬ太陽、生きる伝説、大神働術師(マスター・テウルギア)白夜の騎士(ホワイトナイト)、〈媚薬香水(チャームフェロモン)〉の生みの親、新時代の覇権(ネクスト・スタンダード)、神殺し、魔術の到達点、天蓋(ソラ)(アナ)、魔術世界における三割の魔力を占有する者。

 しかし、数多の異名あれど真にその者を表すのに足る言葉は一言で済む。

 即ち──

 

 

「さぁ、()くのである。杖を取れ、害虫」

 

 

 ──()()

 ()()()()1()5()0()0()0()()()()()()()()()()()()()

 

 

 


 

 

Tips

 

◆三賢者とは、現代魔術の基礎を創り出した三人の魔術師のこと。三人で神を術式に取り込んだとされる。

◆黒の賢者とは、射精魔術という魔術系統の開祖。錬金術の使い手で、享年は1999年。

◆灰の賢者とは、魔術決闘(ペニスフェンシング)という術式の開発者。占星術の使い手で、2000年に失踪してから行方不明。

◆白の賢者とは、媚薬香水(チャームフェロモン)というレシピの提供者。神働術の使い手で、今なお生きる最強の魔術師。

 

 

 






9/12:19339字

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