初日早々、(鼻にはつくが)優秀なアーリア人の同胞と邂逅し、ひとまず安堵する元親衛隊全国指導者、ハインリヒ・ヒムラー閣下。
全国指導者閣下はこの実力主義の学校においても、アーリア人の理想郷を地上に顕現させるという崇高なる目標を掲げていらっしゃる。
だが、聡明なる全国指導者閣下は今は強行を避けるべき時であることもお分かりである。
全国指導者閣下は同胞の高円寺六助閣下とともに、いずれ待ち受けるラグナロクに備え、着々と準備をお進めになるのであった。
私と高円寺は自分の席を確認したのち、Dクラスの教室へと入り・・・・・・
そして私は絶句した。
なんだこの部屋は。ろくな人種の奴がいないではないか!
どいつもこいつも、揃いも揃って劣等人種の面をぶら下げていやがる。私の席の前後左右も、2席先も、3席先も、薄汚れた大和民族しかいないではないか!
これは由々しき事態だ。少なくとも学年ごとのクラス替えがあるまで、私は劣等人種の吐いた空気を吸って生きてゆかねばならないとでもいうのか?!
こんなことが許されていいはずはない。許されてはならないのだ。本来ロドモで死ぬまで興奮剤漬けで働かせなければならないような奴らと、私や高円寺六助のような優秀で高貴なアーリア人が一緒の教室で、一緒の空気を吸うなどという事態をかつての私の国で犯したならば最後、責任者は一族郎党もろとも、骨一つ残らず抹消され、アーリア性への背信行為に永遠の贖罪をしたことだろう!
やはり私はこのような劣等人種による侮辱から崇高なる民族を守らなければならない。私はこの頽廃した世界に何としても
しかしながら、我々は所詮2人に過ぎず、様々なことを為すには実行力に欠けることは、残念ながら否定しがたい事実であった。アーリア人がこの学校に何人もいるか定かでない以上、大和民族の中から、特に我々に協力しそうな人物を選定し、実行部隊として組織する必要があるだろう。かつて私は自らをアーリア人と勘違いした、ワロンとシャルルマーニュの愉快な劣等人種共を武装SSとして組織し、アーリア人の手足として働かせたこともある。同じことを、奴らにも仕掛けてやるだけだ。
一般に自らをアーリア人と勘違いしやすい、滑稽な劣等人種にはいくつか特徴がある。
まず、周囲の劣等人種から孤立していること。
これは特徴というより前提条件だろう。周囲の劣等人種と良好な関係を維持しているものは、我々がいくら啓蒙した所で無意味である。自分と近しい存在が劣等人種になることが耐えられない、といった一種のしがらみに囚われるのである。優柔不断で感情的な劣等人種にお似合いなことだ。
つまり、逆を言えば、周囲にあまり親密な関係の劣等人種がいない者は、そうしたタガが無いため、我々の啓蒙に応じやすいのだ。
「宜しく?悪いけど私は宜しくするつもりはないわ。友達作りには興味がないの。」
そう、左隣の黒髪を長くぶら下げた劣等人種のような奴のことだ。彼女のようなことを言う奴は当然建設的な交友関係を築くことはできない。貧弱な交友関係こそ我々の啓蒙を可能にする最低条件だ。
次に、周囲を見下し、内心蔑んでいること。
アーリア人に比べれば、当然他のどの人種も極めて劣った存在である。これは全ての人種が、自他共に認めるべき歴然たる事実だ。
だからこそ、劣等人種が自分はアーリア人であると思い込むには、周囲の他の劣等人種が程度の低い存在であるという認知の歪みが必要となるのだ。
「私は下らない人間とつるんでいる暇はないの。」
そう、さっき隣の劣等人種が語ったような考え方だ。自分以外の人間は下らない存在であると思い込むからこそ、「君は彼らとは違う、アーリア人なのだ」と言う吹き込みに容易に影響されるのだ。
そして、自意識過剰気味で自らの優秀さを根拠もなく信じていることだ。
先程はアーリア人が相対的に優れていることについて論じたが、知っての通りアーリア人はそもそも本質的・絶対的に優れた存在である。
ここに先程の論理を当てはめれば、劣等人種がアーリア人と思い込むためには、自らが質的に優秀な存在であると思い込む必要があるのだ。当然、真に優秀なのはアーリア人だけなので、そうした思い込みは妄想も甚だしいが・・・
「私は間違いなく優秀な人間のはずよ。あんな奴等と一緒のクラスだなんて、信じられないわ。」
そう、さっき隣の劣等人種が嘯くように、だ。自分は絶対的に優秀な存在であると思い込むからこそ、「君は優秀なアーリア人なのだ」などと言う甘言にいとも容易く絆されるのだ。
そして、これに当てはまりそうな人間を、早くも私は見つけてしまうこととなる・・・・・・
さて、HR前の喧騒の中に、やはり大和民族の女教師が現れた。胸元が空いた卑猥な格好で堂々と教卓の前に立つその言動は、まさに大和民族が貞操観念に欠け、薄汚れた血をネズミやゴキブリのように殖やすことしか能のない淫売共の巣窟であることを嫌でも思い起こさせる。
この先我々がより多くのアーリア人を組織したならば、大和民族の淫売女どもには特に注意をさせねばなるまい。でなければ、節操なしのディルレヴァンガーのような奴は平気で奴らとまぐわって民族的純血性を穢すようなことになるからな。
さて、その淫売婦の女教師は恥じらいもなく自己紹介を始めた。
「私はこれから君たちの担任をすることになる茶柱佐枝だ。普段は日本史を担当している。ああ、この学校は3年間クラス替えはない。よって、これから3年間、私が君たちの面倒を見ることになるな。よろしく頼む。」
・・・・・・おい、今、この淫売女は何と言った・・・?
「失礼、茶柱女史。君は・・・」
「質問は最後に受け付ける。人の話が終わるまで待ちたまえ。」
「・・・・・・承知した。」
質問は後だと?こんな重大ごとを後回しにできる民族的身分かね君は。
3年間同じクラスだと?私や高円寺に3年間劣等人種の息を吸って生活しろと?冗談じゃない!劣等人種は我々の崇高なる血と文化を穢すに飽き足らず、頽廃から逃れる僅かな機会さえも奪おうというのか!
やはりバスの中で見た劣等人種の傲慢さは度し難いな!バスの席といい、クラス替えの機会といい、アーリア人の希望を強欲に摘み取るその遺伝的特性は決して許されるものではない!!
内心義憤に駆られる私をよそに、淫売女は粛々と説明を続けた。
「・・・では説明を再開する。尤も、殆ど配布した資料にも書いてあることだがな。
入学前から知っているかもしれないが、この学校は全寮制で卒業までの3年間学園外との交流は断絶される。お前らの中には退屈に思うものもいるかもしれないが、心配は要らん。学園内には食堂やスーパーは勿論、レストランから娯楽まで、何から何まですべてが揃っている。そして、学園内にあるものは、全てお前らに配布された学生用端末や学生証を用いて支払いをすることで利用することが出来る。学生用端末を見て見ろ。」
そこに書かれているのは、「100000プライベートポイント」という謎の数と文字列である。こうしてみると、改めて大和語の下品さが思い起こされるな。彼らは自分たちが唯一持っていたアーリア性である仮名文字のルーンを、下品なフォントと外来語の大量輸入によって自ら穢してしまったのだ。なんと愚かなことだろうか。
さて、そんなことはつゆも気に留めることなく、女教師は更に説明を続ける。
「プライベートポイントは、校内でのあらゆる決済に使用できる、通貨のようなものだ。1プライベートポイントは1円と同じだ。つまり、お前らの手元には今、10万円相当のポイントがあることになるな。」
途端にざわつき始める、劣等人種共。金の奴隷の大和民族らしい反応なことだ。なんと下品な奴らだ。
それに比べて見てみよ、高円寺六助のあの堂々たる姿を!十万円程度が渡されたぐらいで、彼は一切動じることなく、アーリア的な態度を一貫させているではないか!たかが十万円如きに猿のように歓声を上げる小物共とはわけが違うのだ。
「驚いたか?だがこの学校ではお前らの価値はプライベートポイントで表される。つまり、この学校に入学することのできたお前らにはそれだけの価値があるとこちらも踏んでいるということだ。」
十万円?私や高円寺六助の価値が、この劣等人種共と同じ、十万円だと?
このような不正な数字を提示するなど、アーリア人への侮辱以外の何物であろうか?!
ポールの不忠で不正な「報告書」すら金科玉条に思えるな!いや、ポールの方が自身の正当性を示すための巧妙な仕掛けがあり、手が込んでいる分まだ感心できる。だが、この女の提示する不正な侮辱と来たら、最早隠蔽すらされていないではないか!我々アーリア人も随分と馬鹿にされたものだな!
「説明は以上だ。さて、お待ちかねの質疑応答の時間だ。言いたいことがあるなら言え。」
もはやはらわたが煮えくり返りそうになっている私の方を見ながら、女教師はそう言った。
だが、今何かを言えば、私の義憤は最早抑えが利かないだろう。ふとした拍子に、あらぬことを口走って悪目立ちしてはこれまでの忍耐も元も子もない。
まだ我々は目立つわけにはいかないのだ・・・
「・・・時間を設けて頂き感謝する。正直申し上げたいことなど山ほどあったのだが・・・私としたことが、多すぎて全て忘れてしまった。質問は後ほど個人的にさせて頂く。お時間を取らせて申し訳ない。」
「そうか、なら異議なしだな。1時間後に体育館で入学式がある。それまでに体育館に集合するように。では解散。」
それにしても・・・・・
なんと、なんと堕落しているのだ、ここは。
やはり劣等人種にものの運営を任せると、ろくなことにならないな!外界から隔絶されていると聞いて、かつての騎士団領を想起した私が馬鹿だった!劣等人種には劣等人種なりの民族的価値観があり、外界の資本主義の腐敗から青少年を隔絶し、彼らにとっての「優秀な大和民族」を育成するものとばかり思っていたが・・・・・・
結局消費文化をこの狭い校内にこれでもかと詰め込み、資本主義的堕落の洪水の中で青少年を洗脳し、堕落させるための機関に過ぎなかったわけだ!金の亡者の大和民族が考えそうなことだ!
我々はこのような頽廃に屈してはならない。奴らの薄汚れた消費文化を断固として拒否し、アーリア的清貧の中に日々を過ごさなければならない!
さて、淫乱女教師が教室を出た直後、大和民族特有の悪趣味な染色頭の男が立ち上がり、こう呼び掛けた。
「みんな、僕達はまだお互いのことを知らなさすぎる。これから3年間一緒に過ごすんだし、一人づつ自己紹介をしないか?」
まあ、年度始めに初対面の者同士挨拶を交わすのは当然の習慣であろう。尤も、アーリア人の同胞同志は例え初対面でも以心伝心ではあるのだが。
兎も角、この自己紹介の習慣は好む好まざるはあるにせよ、アーリア人に於いても尚ごく妥当なものであり、それを拒む大した理由も存在しない。
そう、拒む理由など無いのだ。
だが。ある赤髪の猿のような大和民族の男は徐に立ち上がって言った。
「自己紹介なんて下らねぇことに付き合ってられっかよ!やりたいならどうぞお前らだけで勝手にやってろ。」
だが、大和民族特有の意志薄弱たる表情を浮かべた染色頭はそれに答えて言った。
「そうだね。確かに、君の言う通り、自己紹介をしたくない人もいるかも知れないね。じゃあ、したくない人はここで解散しても良いよ。」
「ああそうだな!あばよ!」
赤髪の猿が教室から立ち去ると、それを皮切りに数人の生徒が同じく席を立ち、教室を去っていく。
何と・・・何と言う僥倖だ!主神オーディンは我々を祝福しているに違いない!やはり、やはり私はアーリア民族を救うという、崇高なる使命をゲルマンの神々より賜り、生まれ変わったハインリヒ1世だったのだ!そして今まさに、偉大なる霊魂はアーリア民族を復古するための神聖なる機会を与えて下さったのだ!
今教室から立ち去った者は、自らをアーリア人と勘違いする傾向のある憐れな愚か者である蓋然性が非常に高いのだ!自らの優秀さを驕り、他の劣等人種を見下し、自身と切り離して考えるからこそ、彼らはこのようにして自ら周囲と孤立するし、その孤立は他の劣等人種達の程度が低いからだ、と自己弁護に走るのである!尤も、真に優秀で神聖なるアーリア人からすれば、どんぐりの背比べも究極の対決に見えるほど下らない比較ではあるがな。
だが、重要なのは彼らに適度にアーリア人種哲学を吹き込むことによって、彼らをアーリア人の手足として再構築できる、ということである。彼らの他の劣等人種へのルサンチマンを掻き立て、虐げられている現状を変えようと促すことによって、彼らは自らをアーリア人と誤認し、アーリア人の忠実なる僕として熱心に働いてくれるのである!
我々は遂に、この劣等人種により圧倒される現状から抜け出す為の手足を手に入れるチャンスを、この手に掴んだのである!
この機会は正に主神オーディンの与えし
「君?ええと・・・ヒムラー君?ヒムラー君!?」
「・・・!し、失礼。考え事をしていた。申し訳ない。ええと・・・私の番ということで宜しいかね?」
私としたことが、アーリア哲学の深淵に耽る余り自己紹介の最中であったことを失念してしまった。わざわざ私の席の前まで来て呼び掛けに来た、おかっぱ頭に下品な体をした劣等人種に「近寄るな
「うん、君の番だよ。宜しくね。」
「ありがとう、承知した。ええと、私はハインリヒ・ヒムラーと言うものだ。出身はドイツで、趣味は園芸とボランティアだ。名前の方は長いから、気軽に『ヒムラー』と呼んで頂けると幸いだ。不束者ではあるが、どうか宜しく頼むよ。」
「うん、宜しくね、ヒムラー君。」
そしてぱらぱらと可もなく不可もない拍手が鳴り響く。
私は湧き上がる義憤と屈辱感を何とかひた隠し、恙なく自己紹介を終えることが出来たのであった。
だが、この屈辱もじきに終わりを告げるだろう。ゲルマンの神々とハインリヒ1世の御霊のお導きによって、我々はもう直ぐ手足を手にすることが出来るのだから!
ゲームが始まるぞ!
第二話:影の中に佇む