蛇足オブ蛇足です。
番外編か何かだと思って頂ければ。
──トレセン学園生徒会室。
そこには部屋の主たるシンボリルドルフと、生徒会の一員でもないのに今日も今日とて連日入り浸るトウカイテイオーの姿があった。
「カイチョー、トレセン学園七不思議って知ってるー?」
来客用のソファに腰をかけるシンボリルドルフと、その膝の上に図々しくも腹を乗せ、猫のように体を伸ばすトウカイテイオー。
後にも先にもかの皇帝に対してこのような態度を取ることが出来るのはこのトウカイテイオーぐらいなものだろう。
シンボリルドルフ本人としては、さすがにテイオー程の距離感は求めないものの、他の生徒にも正直もっとぐいぐい来て欲しい。
「その分ボクがカイチョーを独占しちゃうもんね」とはテイオーの言だが、まぁそれならそれで悪くはない。
とても言葉にはしづらい感覚ではあるのだが、シンボリルドルフというウマ娘は昔から不思議なくらいこの娘にだけは本当に弱いのだ。
右腕であり副会長のエアグルーヴにはあまりいい顔はされないのは分かっていても、この関係をルドルフから変えるつもりは一切ない。後の小言は覚悟してこの状況に甘んじるのであった。
「もー、カイチョー、聞いてるー?」
「ああ、もちろん聞いている。七不思議、もちろん知っているさ」
──さて、問題の七不思議。
生徒会長という立場上、噂や与太の類であっても耳にする情報は多くその中に七不思議の情報もあったし、なんなら自身の手で調べたことすらある。
解明出来たものもあるが解明出来なかったものの方が圧倒的に多い。結局のところ、ウマ娘もウマ娘が通うこの学園も不思議と神秘に満ちたものであるということを再認識させられるという結果で終わった。
「それで、何か気になる七不思議でもあったのか?」
「そうそう! それなんだけど、これを見てよ!」
と、体を起こし、突きつけられる開いた本、タイトルを『トレセン学園七不思議 100選』。そのページに書かれてあるのはこんなこと。
『005 丑三つ時に現れる謎のウマ娘。』
新月の夜、深夜誰もいないはずのコースに謎のウマ娘が現れ、夜明けと共にその姿を消す。
闇夜のベールに隠されたその素顔を知るものは誰もいない。
彼女よりも早く走り、追い越すことの出来たものだけがそれを知ることが出来るだろう。
その正体は恐らく、この世に未練を残したまま命を散らしたウマ娘の亡霊。
なぜなら、そのウマ娘には本来存在するべき足音が一切存在しない。
そして、生きているものであればとっくのとうに体力が尽きるはずの長い時間を走り続けていることもその証であろう。
そんな彼女は一体何を思って走り続けているのだろうか。
きっと彼女はずっと待っているのだ、己をレースにて打ち負かす存在を。
そのために一人ずっと相手のいないレースを走り続けているのだ。
しかし未だ彼女が走り続けているということは、つまり彼女を打ち負かすことの出来たウマ娘は現れていないということなのだろう。
ああ、彼女が満足してこの世を去れる日は、いつか来るのだろうか──。
「……ああ、それか。」
最近というには遠く、懐かしむというには近い記憶。何の因果か調べたことのある七不思議、その一つがまさにこれであった。
「あれ? やっぱり何か知ってるんだ!? 他にもね──、」
曰く、三女神には本来存在しない四人目が存在する。
曰く、トレセン学園には正体を隠した最強のウマ娘がいる。
曰く、緑の悪魔からは逃げられない。
曰く、曰く、曰く……etc。
ページをめくり、次々と見せられる七不思議に共通することはなんだかよくわからないけどめちゃくちゃ強いもしくはやばい謎のウマ娘がいるということである。
「カイチョーなら何か知らない!?」
「ふむ。知っているには知っているが……。」
過去に調べたというのは先の通り。なんなら先ほど挙げられたものに限れば、その仔細全てを把握していると言ってもいい。
それをただ伝えることは容易いがしかし……、
「躬行実践。そういったものは人から聞いたところで興醒めだろう。」
「えー! 知ってるなら教えてよー!」
「それはテイオーの頼みでも聞けないな。」
「そんなー! ボクのお願いでも!?」
「そうだな、テイオーのお願いでもだ。」
「えええええええええ」
これがただのちょっとした秘密程度であれば教えることも吝かではないのだが、この七不思議は少々他と異なる立ち位置にある。
学園の機密──という程大げさなものではないのだが、少々込み入った事情があるのだ。
「ちぇー」
そんなやり取りを何度か繰り返してしばらく。トウカイテイオーにはなんやかんや弱いと定評のある(?)シンボリルドルフといえど、この件に関しては口を開くつもりはないと悟ったようだった。
「あ、じゃぁさ」と前置いて、テイオーが次に切り出したのは別の話題。
「七不思議とは話が変わるんだけど、たづなさんも同じくらい不思議な人だよねー」
「話変わってないんだが」
「え?」
「ん?」
と、顔を合わせていたそんな折。
──コンコン。
生徒会室の扉が控えめにノックされた。
「ああ、入ってきてくれ」
「失礼しますね」
噂をすれば
ゆっくりと開いたその扉の隙間から、ひょっこりと顔を出したのは今まさに噂をしていたその人、駿川たづな。笑顔が素敵なトレセン学園理事長秘書さんである。
「あらあら、今日も仲がいいですね」
まるで親子のように仲良くソファに腰掛ける様子にたづなさんもニッコリ。
「いやなに、そんなことはないさ」
「そんなことあるでしょー!」
あらあら~。
フフフ。
えへへへへ。
──と、そんなやり取りを少し挟んで。
素敵と評される笑顔を絶やさず、その手の内に挟まる複数の書類の中から一枚の封筒を取り出すと、そのままルドルフの方に差し出した。
「はい、どうぞ。写真が焼き上がりましたよ」
受取り、半分だけ封筒から取り出して数秒眺め、「ふむ」と一言。再び丁寧な手つきで封筒の中に戻す。
「確かに、受け取りました。」
「なになに? 集合写真って何?」
気になるワードとやり取りに大人しくはしていられなかったトウカイテイオー。
とはいえこうも目の前でやり取りをされれば、好奇心いっぱいの彼女のようなウマ娘でなくとも気にせずはいられないのは当然というもの。
傷つけるなよと前置きし、いかにも気になりますとばかりに目を輝かせるテイオーに手の中の封筒を渡す。
「ああ、この前生徒会の活動記録の一環としてメンバーで集合写真を撮ったんだ」
「えー! ボクもカイチョーといっしょに映りたかったのにー!」
写真を確かめ、隣に自身が映っていないことを大げさに嘆く様子にシンボリルドルフも笑いを禁じ得ない。
「まぁ、こればっかりは、な。テイオーも生徒会に入ってみるか?」
生徒会の写真であるのだから生徒会に入るのがもっとも確実で早い手段。むしろそれ以外に方法はない。
「んぐぐぐぐ」
返された写真を棚から取り出したアルバムの中へ丁寧に収めながら横目に見やると「んー、でもぉ……」と頭を悩ませている様子。
冗談めかして口にした言葉だが、半ば本気の言葉である。
ムードメイカーの彼女であれば、その持ち前の元気さと明るさで、“皇帝”とは違うやり方で生徒たちを導いてくれるだろう。
しかしそれでも。トウカイテイオーというウマ娘は立場に囚われない気ままなあり方の方がよく似合う。
思ったよりも真剣な反応を示すことを意外に思いつつも、本当に生徒会入りするのなら歓迎はすれども無理強いをするつもりはなかった。
「うーん、会長とは一緒にいたいけど……って、そうだった」
悩み事というのは悩み自体は一人のものであっても、一人で解決しなければならないという理由はない。
この場に於いてはシンボリルドルフの他にもこの手の相談をするにはピッタリの人間がこの場にいる。
「たづなさんは七不思議の一つ、新月の夜にコースに現れる謎のウマ娘って知らない?」
「そっちか」
そっちだった。
なるほどこれがテイオーステップ。話題の切り替えも実に軽快。
この場にもしタマモクロスがいればもっとキレのいいツッコミを出来ただろうかと妙なところが気になるシンボリルドルフだった。
「そうですねぇ、私も学園に勤めて長いですけど……」
ちらっ。
フルフルフルフル。
「生憎ですけど、
「ちぇー、たづなさんも知らないのかー。勝負してしてみたかったんだけどなー」
「なんだ、勝負してみたかったのか?」
「そうそう、そんな強いウマ娘がいるなら勝負してみたいでしょ?」
「なるほどな」
ただ興味を引いたのだとばかり考えていたが、目的はその先にあったらしい。
挑戦者としての意思か、あるいは己なら勝てるという絶対的な自負か。
となると話は別で。そして今この状況も実におあつらえ向き。
チラッ。
こくこく。
「明後日は新月ですから、コースに現れる謎のウマ娘、もしかすると会えるかもしれませんね」
「明後日!? もうすぐじゃん!」
ぐっ。
グッ。
「って、あれ? なにか今してなかった?」
「そんなことはないぞ」
「はい♪」
「ええー……?」
なにか納得いかない思いを抱きつつ、明後日のことを考えて疑問を飲み込むテイオーだった。
──コンコン。
と、話の終わりを見計らったかのような、そんなタイミングで再び来訪者。
「会長、転入生が先程──、と。……テイオー、またおまえは生徒会のメンバーでもないというのに」
入室して早々、テイオーに苦言を呈するのは生徒会副会長エアグルーヴ。
テイオーとはどちらがカイチョーないし会長の隣に相応しいか争う仲である。
「またってなんだよー!」
「落ち着けテイオー。用事が出来た。少しの間だけ留守を頼めるか」
「カイチョーの頼みとあらば!」
「……はぁ、仕方ない。大人しくしているんだぞ」
争う仲とはいえ、……嫌い、という程でもない。
むしろ争う仲であるからこそ、エアグルーヴとしても留守を任せても問題ないと判断する程度には信頼をしていた。
「では、わたくしも失礼しますね♪」
「カイチョー、その間にさっきのアルバム見てていい?」
「ああ、いいぞ。だが大切に扱うんだぞ」
「はーい」
なんて大人しく三人が扉の外に姿を消した後。
「これがカイチョーの見る景色かー。」
生徒会長の椅子に座ってみたりなんかして。
早速とばかりにアルバムをペラリ。
「カイチョーはいつ見てもカッコイイなぁー」
動いている本物のカイチョーが一番とはいえ、さすがは皇帝シンボリルドルフ。写真映りも皇帝級だ(?)。
「カイチョー、たづなさん、カイチョー、たづなさん……」
「たづなさん」
「たづなさん」
「たづなさん」
「たづなさん……?」
めくる度に同じ背景を背に季節が変わり、メンバーが変わり、その一角にいるたづなさんだけが変わらない。
「……たづなさんって一体?」
もう一度ページをめくり、緑の帽子が再び見え────る直前にパタン。
トウカイテイオー。無敵の三冠を夢見る超一流のウマ娘。危機回避だって超一流のウマ娘である。
──後日。
覆面のウマ娘3人。
「あ~らあらあらあら♪ 謎のウマ娘1号です♪」
「はっはっはっはっ! 謎のウマ娘2号!」
「さ、3号……。(……なぜ私がこんなこと)」
一緒に連れてこられたスピカの面々。
テ「思ってたのと違う! というか増えてる!」
ス「一体何者なんでしょう!? 全然わかりません!」
サ「え? 何者っていうか、生徒会長さんとたづなさn……」
ウ「くぅ、全然わからないぜ!」
ダ「わからないわね!」
翌日。その夜の出来事とはこれっぽっちも小指の先ほども関係ないが、エアグルーヴのやる気が下がった。
おまけ.
『トレセン学園七不思議 100選』(初版 195*/**/**)
「25 たづなさんの帽子の中身」
「65 たづなさん何者」
「87 たづなさんまじで何者」
「125 ちょ、たづなさんめっちゃ速い。」
「131 七色に光るたづなさん。」
「145 三女神と会話するたづなさん。」
七不思議が頻繁に増えたり減ったりするし本もワープする。
『たづなさん』
フレンズであるからしてウマ娘と同等かそれ以上に走る欲求が強く入学当初は中々抑えきれなかった。
学園から許可を得て夜に走ってたら知らないウマ娘がいると噂になった。それを何故か追い越そうとするウマ娘まで現れて余計に噂になった。
別に新月じゃなくても走ってたし今もたまに走ってる。
シンボリルドルフとはそれなりに仲が良い。七不思議に殿堂入りしている。
131⇒サンドスター。
145⇒女神像の近くは掲示板の電波の入りが良い。
・・・一体何者なんだ。
『シンボリルドルフ』
お会いしたことはないというごまかし方。機会があれば使おうと思った。
たづなさんとはそれなりに付き合いが長い。最近七不思議入りした。
『トウカイテイオー』
カイチョー大好き。勘が良い。
『エアグルーヴ』
よくやる気が下がる。
何がやばいってアプリやってないから一番たづなさんの口調が分からないっていう。
続きません。