前日譚
ここは璃月港。このテイワットの中で1番賑わっている国。契約の国でもある。
俺はいつも利用している茶屋の1席で原稿と向き合っていた。俺は文字書き、所詮冒険小説というものを執筆している。
この小説は俺の中で面白かったなと思うものを少し脚色しながら書いてる。長く生きていればそれくらい沢山あるしネタも尽きないので天職とも言えるだろう。
「相席、いいかな?」
「どうぞ。」
突如上から声がしたので原稿から目を話して声の主の顔を見る。その声の主は酷く顔の整った男性だった。俺のほうが勿論若く見えるだろうが俺は見た目以上の年齢である。
二つ返事で男に返事をした後、再び原稿に目を向けた。だが机の上には原稿が散らばっている。
ここは茶屋。流石に迷惑になるだろうと思って原稿を1枚1枚集めて封書の中にしまいこんだ。
「君は何の職業をしているんだい?」
男は俺に問いかけた。ただの興味だろう。無視をしてもいいのだが印象が悪くなるのは困る。俺は偽善者でなくてはならないから。
「今はしがない文字書きさ。」
「今は?」
俺はまだ書いている途中の原稿に続きを綴る。男はまだ続きか気になるらしい。
「前はなにかしていたの?」
「前…旅をしていたよ。すべての国を巡った。それは長い月日を。だがそれも飽きてしまったからこうして文字書きをしているんだ。」
「そうか…旅人ならその腕についているものなら安全に旅できるからね。」
男は俺の腕に縛られている紫色のものを指さしながら言った。
”神の目”
神から与えられた7元素のうち1つを宿している道具。それがあれば元素を使うことができる。
俺の神の目は雷の力を使うことができる。
「俺にとては不要なものだね。見ているだけで忌々しく思う。」
「君は神の目が嫌いなの?」
「…嫌い、か…。そんな感情さえも忘れかけていたよ。でも嫌いとは違うね。そんなのどうでもいい話だ。」
最後の行に読点を書いた後男の顔を見た。
明るめの茶髪に深い海の色。璃月の海とは違った色、光を宿していない。
光を宿してないのは俺も一緒か。
「自己紹介がまだだったね。俺は『公子』タルタリヤ、ファデュイの執行官第十一位だ。」
「タルタリヤ君か…。」
「あれ?驚かないの?」
「いや、ファデュイだろうがなんだろうが一人の人間だ。いずれ記憶から消えるだろう。」
「酷いなぁ。ね、君の名前を教えてくれないかな?」
「今の名は終、そう名乗ってる。」
「終、でいいかな?」
「……いいだろう。俺はこの後用事があるのでこれで…。」
タルタリヤ君にそっけなく返答をした後、最後の原稿をしまって店から出た。
店を出て璃月港に戻ってきたときにふと頭に浮かんだ。
「タルタリヤ君…どこかで会った…?。」
ただ一人、誰にも聞かれずに人混みの声にかき消された。
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気分転換のために高い山の頂上にやってきた。
高いところでこうして下界の様子を見るのは気分がいい気がする。
「暇、だな…。」
だけど俺の中の好奇心という欲を満たしてくれるわけではなかった。
なにかが足りない。今の俺の周りでは面白いことが一切起きない。だから暇でしか無いのだ。
「確かもうすぐ七星迎仙儀式だったな…。」
璃月の民にとっては1年に1度、岩王帝君である岩神モラクスから今年1年の璃月の経営方針を決めるための祭り。
ずっと前からある伝統的なもの。
「……久々に見に行ってみようかな…。」
立ち上がって山から飛び降りる。風の翼を広げてそのまま下界に降りた。
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いつ来ても賑わっている璃月港は迎仙儀式のために少しだけ忙しなかった。
それを通り越して茶屋へ向かう。
茶屋でいつもどおりお茶を頼んでその様子を遠くから眺めた。
何千年経ってもこの景色だけは変わらないな。
「久々だね終。」
「……タルタリヤ君か。」
3週間ぶりくらいに挨拶を交わした顔見知りのタルタリヤ君がやってきた。狙ってここに来ている気がして少し嫌悪感がする。
探られてるのは気分が悪い。
「前も思ったけど反応薄くない!?」
「まあ…最近面白いことなくてスイッチが入らない。」
「スイッチ?」
「元気になれない…記憶力が壊滅的に悪くなる。」
なんとなく説明してみたけどこれで良かったのか?
なんかタルタリヤ君悲しそうに見てるけど…。
「じゃあ俺と昔会ったことも覚えてなかったりする?」
「昔…?」
「4年前にスネージナヤで斬りかかっで返り討ちにされたんだけど覚えてない?」
「4年前…スネージナヤ…。」
俺は思い出そうと頭を捻らせた。だけど思い出せない…。今までにファデュイから斬りかかられたことなんて何度も会った気がするし。
4年前もこんな感じだったから覚えてないだろうな。
仕方ないのであれを起動させることにした。
「棺。」
俺が呼びかけると横から黒い棺が現れた。
それを俺はいくつもの小さなキューブに分割して4年前の記憶を探した。
「これか…。」
それっぽい記憶が封印されているキューブを触ると一気に記憶が流れ込んできた。
1面雪景色で俺は下で歩いているファデュイの奴らを眺めている。
ただ眺めているだけで何もしていていない。多分通り過ぎるのを待っていたんだろうな。
すると他よりも少しだけ身長の低いやつと目があった。そいつは俺めがけて一気に走ってきて水の刃を向けた。
俺はすぐに槍でそいつの刃をそらして攻撃を仕掛けた。すぐに他のファデュイも駆けつけてたけどキューブを通して超電導を起こして気絶させた。
俺は静かに槍を向けて男の子は興奮して、鼻血を出しながら俺と刃を交えた。
未熟ではあったけど地形の使い方や戦い方は武人、そのものだった。長く生きていると人だったり人外とも戦うことは多かった。
その中でもかなりの強さを持っている。しかもどこかで戦ったことある太刀筋だった。
でも俺の中の好奇心は動かなかった。
結果としては俺が勝って雪に男の子を押し倒していた。
それで少し話したんだっけ…。
「強い!俺と同い年くらいなのに!」
「童、この世界には見た目より年齢を重ねているやつもいる。俺もそのうちに入る。」
「ふーん、じゃあどれくらい生きてるの?」
「話す必要性がないだろう?早く仲間を起こさないと凍え死ぬぞ。」
「じゃあ俺の名前覚えてよ!もし次に会えたときは再戦してね!
俺の名前は______。」
名前は
「アヤックス…?」
思い出した。
将来強くなるんだろうなとは思ってたけど執行官まで上がるとは思わなかったな。
「君、アヤックスか…。」
「!思い出した!?」
「思い出したというかなんというか…。まあそうだね。」
「俺あれから1度も負けてないんだよ!ずっと終と戦いたくてここで再開したのも運命かと思ったんだよ!」
タルタリヤ君はあのときと同じように興奮しながら話してくる。そんなに俺と戦いたかったのか?
「また戦おうよ!あの日からずっとこの熱だけは抑えきれないんだ!」
「……スイッチが入ったらいつか…。」
「今じゃ駄目かい?」
「面倒だ。…それよりなにか飲む?奢るけど。」
「え、いいの!?」
タルタリヤは店員を呼ぶとすぐに注文した。
やっぱまだ若いな…。
俺からしたらほんの少ししか生きていない人間だから当たり前か。
「ねえタルタリヤ君。神とか仙人とかって長生きだよね?」
「?そうだね。」
「何千年も生きてて暇になると思わないか?」
少しだけ気になったことをタルタリヤ君に聞いてみた。少し悩んだ後俺の方を向いてこう答えた。
「俺だったら色々なやつと戦えるから暇にならないと思うけど。」
どうやら根っからの戦闘大好きな人間みたいだ。自分から戦いに身を投じる、危ない人間だな。俺はお茶を飲んでまた少しだけ話す。
「俺は暇だよ。毎日1年も10年も変わらない日しか過ごしてない。俺は神に嫌われてるから。」
「急にどうしたんだ?」
「最後に本当にスイッチが入ったのはいつだったろうか…。封印される前だったか。そうなるとかなりの年数を無駄に生きてるみたいだ。」
口から勝手に漏れる言葉に俺の心臓は痛み始める。
少しだけ暴走し始めたのかも知れないな。くそ、痛い…苦しい…。
「俺は、僕はなり損ないだから…何も、あの方も守れなかった・・・。」
「終!大丈夫!?」
「すまん…。今日は帰るとするよ。」
袖からモラの入った袋をタルタリヤに手渡して俺は棺を起動した。
すると棺は分裂して小さなキューブが並びそこから黒い裂け目が生まれた。俺は迷わずにその中に飛び込んだ。
裂け目の飛び込んだ先はモンド、そして西風騎士団の屋上。
俺はすぐに屋上から降りてある人物のいるであろう部屋の窓を叩いた。
かなり強く叩いたのですぐに窓が開いて目的の人物が目の前にいた。
「アルベド…。」
「どうしたのって言っても来たってことはそういうことだよね。」
アルベドは俺の手を引いて椅子に座らせてくれた。
痛い、痛い…。心臓の部分が握りつぶされてる感じがして苦しい。意識も混濁する。
「終兄さん。」
「アルベド…心臓部が痛い。なんで?もう人間なんてとっくにやめてるのに…。苦しい、痛い。」
「終兄さん、落ち着いて。今はゆっくりしよ。」
「ごめん、ごめん…。」
俺はアルベドに体重を預けてそのまま目を閉じて少しだけ寝ることにした。
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「あー!しゅうお兄ちゃん起きたー!」
「………クレー…?」
「そうだよ!クレーだよ!」
「終兄さん起きた?」
「アルベド、迷惑かけてごめん。」
重い体を持ち上げて数刻前まで弱い部分を見せてしまった俺の弟的な存在に謝罪をした。ベッドの横で俺の様子を見ていてくれたエルフの少女、クレーにも心配かけてごめんと言いながら頭を撫でてあげた。
「しゅうお兄ちゃん体大丈夫なの〜?」
「大丈夫だよ…。今はまだ…。」
「クレー、しゅうお兄ちゃんいなくなっちゃいやだ…。」
「クレーは可愛いな。俺はまだいなくならないよ。そうだクレー、一緒に璃月のお祭り行かない?」
「お祭り?」
クレーはまだ小さい。今のうちに楽しいことをたくさんしてくれとあの魔女にも言われたし俺もクレーとはたくさん思い出を作っておきたい。
勿論アルベドとも。
「うん、七星迎仙儀式ってやつなんだ。璃月の岩神がみんなのまえに出てきてお話する日なんだ。」
「クレーも行っていいの?」
「安心して、俺からジンちゃんに話し通すから。アルベドも一緒にどう?」
「僕はいい。まだ研究が残っているから。」
「分かった。少しジンちゃんのところに向かってみるよ。」
ベッドの上から起き上がってクレーを抱えて俺は1階に降りた。騎士団の人間は驚いたように俺の姿を見たけど早足で団長室の扉をノックして中に入った。
俺が中にはいるとジンちゃんは俺を見るなりガタリと音を立てて立ち上がった。
「終さん!?いつの間に…お久しぶりですね。」
「久々だね。発作が起きて急遽アルベドのところに来たんだけど勝手に入ってすまない。」
「いいですよ、久々に来てくださって嬉しいです。それにクレーを抱えてどうしたんですか?」
「実はクレーと思い出づくりをしたくてクレーの長期外出の許可が欲しいんだ。」
「長期外出ですか…?」
「もうすぐ璃月で七星迎仙儀式があるのは知っているか?」
俺はジンちゃんに説明と注意事項などクレーに対しての身の安全保障などの約束を取り付けた。その間にクレーはつまらなすぎて寝てしまったみたいだ。
「では期間は1ヶ月。その間のクレーのことを任せます。くれぐれも怪我させたり山を燃やさせないようにしてくださいね。」
「分かってるよ。俺もよく見張っておくよ。」
俺は棺をを起動する。そこから裂け目が生まれ、その中に向かって歩いた。
「今度は君等も一緒に璃月に招待しよう。じゃあね。」
俺は振り返ってニコリと笑う。そして裂け目を閉じた。
「あ、服もらうの忘れた。……璃月で買うか…。」
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所持金の入っていた麻袋を茶屋に置いてきてしまったことに気づいたのは1日経ってからの話だ。
今の所残りの7割は北国銀行に預けてあるしどうせなら可愛くしたい。クレーを。
「すいません、引き出しをお願いしたい。」
「分かりました、こちらに必要事項を記入してください。」
俺はクレーを抱えたまま筆に手を取り紙に名前を書いて引き出す額を全額と書いて受付に出した。
しばらく時間がかかるのでクレーの話に耳を傾けていると後ろから聞いたことのある声がした。
「終!!」
「タルタリヤ君。」
そこには一昨日突然置いていってしまったタルタリヤ君の姿があった。
「すまなかった。いつもの発作が起きてしまって動転したまま何も言わずに行ってしまって。」
「しゅうお兄ちゃん、このひとだれ〜?」
「子供?」
「俺の妹の一人だよ。血は繋がっていないけどな。クレー、この人はタルタリヤ。」
「クレーはね、クレーって言うの!西風騎士団火花騎士なんだ!よろしくねタルタリヤお兄ちゃん!」
「こちらこそよろしくねクレーちゃん。」
なんか、タルタリヤ君の視線がおかしい気がする。もしかして…。
「ロリコン??」
「違うからね?」
お金を全て引き出した後、キューブに全て吸い込ませて北国銀行を後にした。
なぜかタルタリヤ君というおまけ付きで。
「なんで君が着いてくるの?」
「着いてきちゃ駄目だった?」
「クレーの可愛い姿を独占できなくなる。」
「実は終ってめっちゃシスブラコン?」
「いや……双子の弟をこの手で…。」
「は…?」
幸いにもクレーは珍しいものに気を取られていたから聞こえなかったみたいだけどタルタリヤ君ははっきり聞いたし記憶しているようだ。
「さてクレー、どんなお洋服がいい?」
「んーとね、クレーしゅうお兄ちゃんみたいな格好がいい!」
「となると…上はただの着物だし家にもあるから下の服だけ買いに行くか。」
目的が決まったので俺は適当に屋根の上に飛び乗って最短ルートで向かった。クレーもきゃっきゃと笑っている。うん、可愛いね。
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「クレー、めっっっっっちゃ可愛いよ〜。こっちに向いて〜。」
「ん?こうかな?」
「んぐっ!クレーは天使だ。お嫁に行かせたくない…。」
「じゃあしゅうお兄ちゃんのおよめさんになる!」
なんでこんな天使なんだよ!
こんなにもこっちの服が似合うならこのまま定住してほしいけどあの魔女に怒られるだけは無理だな。
「クレーが俺のお嫁さんになってくれるなら幸せにしなくちゃだね。」
「クレーもしゅうお兄ちゃんのこと幸せにするから!だからいなくならないでね?」
「!……うん、努力はするね…。」
「あのー2人だけの世界に入らないでもらっていいかな?」
「タルタリヤ君うるさいよ。」
クレーを再び抱えて俺は再び走り始めた。
後ろからタルタリヤ君が着いてくるけど。しつこい男は嫌われるよ?知っていながらやっているんだったら嫌いにならないといけないんだが。
着いたところは帰璃原。クレーに宝盗団を任せて俺は耕運機をキューブで少し遊んだだけで簡単に壊れた。
「はー…終早すぎ…。」
「まだ着いてくるの?」
「いやぁ、面白そうな気配を感じてね!」
「…君さ、残念イケメンって言われる部類でしょ?」
俺はため息を付いて宝盗団をどっかーんしているクレーを眺めた。
「タルタリヤ君、面白いことは好きかい?」
「面白いこと?好きだと思うけど…。」
「俺はそれが好きだよ。面白さがなければ生きてる意味がないくらいにはね。」
俺が笑顔で戦ってるクレーを眺めながら腰にあるポーチに手を伸ばした。
『ここにおりましたか。』
「はぁ…最悪。」
俺は突然現れたやつに舌打ちをして振り向いた。取り敢えずタルタリヤ君のことも止めて。
「終…。なんでアビスの魔術師たちが君に膝をついてる?」
『なぜそのような下賤な名前を…。』
「ねえ、俺もう関わるつもりもないんだよね。だから消えてくれない?」
『使徒様から言伝を預かりましたのでお伝えに参りました。』
はぁ…まだ懲りてないのか。関わりたくないと言っているのに。
「そうなんだ。聞くくらいはしてあげるよ。」
『そろそろこちら側に戻ってくださいと。我らの悲願を達成するときが近づいてきました。なので1度姫様ともお話し願いたいということです。』
「姫様?そんな子いたっけ?」
『貴方様も知ってるはずです。名を「蛍」と言いますがご存知でしょう?』
蛍、蛍…嗚呼、思い出した。あの白のワンピースがよく似合っていた金髪の子か…。懐かしい。
「随分懐かしい名前だ。面白そうな『それでこちらにもd』。」
俺は話しかけてきた炎のアビスの魔術師を細かく刻んだ。俺の手には槍が、そして血が付着している。
「俺がまだ話してる途中なんだけど?」
『も、申し訳ありません!』
「あー…どうしよっか。蛍ちゃんがいるなら少しは考えてもいいかな?」
「終…どういうこと?」
「タルタリヤ君、少し黙れ。俺は真剣に話してるんだよ。」
別にアビス教団に戻ってもいいかも知れないけどまだ文字書きとしての仕事が残っている。それに堂々と町中を歩けないしクレーやアルベドとも会えなくなる。
「じゃあ使徒共に伝えといてよ。”既に捨てられたのにいつまでも俺に頼らないでよ。まあ面白いことするんだったらまた誘って”って。分かったらさっさと消えて。」
『『必ずや伝えましょう。我らの闇神ば』』
「あーこれじゃあ伝えられないね。」
俺は灰になったアビスの魔術師を少しだけ眺めてからタルタリヤ君の方を向いた。水の槍を向けた彼に。
「君は、何者なんだ?」
「……何者か…。何者なんだろうね?色々やったし色々な呼び方をされていたから本名すら覚えてないよ。今はしがない文字書きだ。これ以上でも以下でもない。」
「敵になるんだったらここで始末しなくちゃいけない。」
「ふふ…したらいいよ。俺も全力で抵抗する。けど今はやめておこうか。」
「しゅうお兄ちゃん!終わったよ〜!」
今は幼い子を残して死ぬわけにはいかない。
「クレー、そろそろ帰ろうか。ちょっとお兄ちゃん仕事があるから明日はお出かけできないんだ。」
「じゃあクレーひとりで探検したい!」
「一人で探検か〜それはお兄ちゃん嫌だから女中と出かけるんだったら探検してもいいよ。」
「うん!」
「絶対離れないでね?クレーがいなくなったら悲しいし、ジンちゃんとアリス…ママに怒られるのは嫌だからね?」
取り敢えず明日はクレーのこと女中に任せることにしよう。
俺はクレーと手を繋いでタルタリヤ君の横を通り過ぎるときに小声で言った。
「明日、俺の屋敷に来てよ。そしたら今日のこと少しだけ話してあげよう。」
俺はそれだけ伝えてクレーとともに帰璃原から出た。
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「終!」
「よく分かったね。流石ファデュイの情報網は侮れない。」
「本当にここまで来るの大変だったんだけど!通った道にいつの間にか戻ってるし入り組んでるしこんな崖っぷちにあるし!」
「俺は賑やかなのは好きだけど住むとなると静かなところが良くてね。今お茶入れるから座りなよ。」
俺は立ち上がって女中が用意しておいてくれたお茶をグラスに入れてそれを出した。
「まあここまでこれた褒美として少しだけ多めに話してあげようじゃないか。」
「来れないと思ってたの?」
「8割ほどは…。残りの2割を引いたので少し面白かったよ?」
タルタリヤ君は少しふてくされたような顔をしている。成人男性のふてくされ顔を見てもなんも感じない。クレーの方が可愛い。
「さて、何から話せばいいのやら。」
「なら質問形式でいい?」
「答えられる範囲で。普通10個だとして…褒美として12個、質問に答えよう。」
前に話したときとはかけ離れた目をした彼を見た。
「1つ目、終は人間じゃないなら何者なんだ?」
「そうだね…元人間で今は人造人間に近しいものだけどそれとはまた違う感じだ。今は分類としてはよくわからない。人の形をしたナニカ、が正しい。」
これは本当だ。初めは人間として生まれたけどそこから色々なことがあって今に至る。昔と姿形は同じだけど機能としては人間からかけ離れた存在になってしまった。
「2つ目、終は岩王帝君のことを知っている?」
「もし知っていたら千岩軍に捕まってしまう。…なーんて、知ってるよ。俺は7国の神全員知っているし面識もある。最後に会ったのは雷神バアルだったか…。ついでに岩王帝君にはかなり怒られるかもしれないから俺の名前は出さないほうがいい。俺がこの国にいる事自体知られたら面倒なんだ。」
「3つ目、アビス教団とは親しい?」
「昔はそこそこ…今は連れ戻されそうなだけでどうでもいいんだよね。」
「ふーん…。」
タルタリヤ君はお茶を飲んで一息ついた後、また質問を初めた。
「4つ目、アビス教団はなんで終を連れ戻したかったの?」
「それは俺が……その話はノーコメントで。君が知る必要はない。」
「じゃあ5つ目、闇神って終のことを指しているの?」
「……その話も4つ目と繋がってくるけど答えよう。確かにその闇神は俺を指す言葉ではあるけど違うんだ。」
「違う?」
「もうそう言われる筋合いはないってことだ。じゃあ6つ目。」
「うーん…前に話していた双子の弟をこの手でってどういうこと?」
「あー…。」
俺が人間だった頃…。多分7歳くらいの頃だった気がする。
「俺がまだ人間の頃の話だ。どうでもいいだろう。」
「………7つ目神に嫌われているってどういうことしたんだ?」
「俺は直接に何もしてない。周りに巻き込まれたせいで闇神と呼ばれていた俺が恨まれただけ。正直にいうと俺は何も手出ししてないまま色々なものを失っただけだ。」
「8つ目、神の中で誰と仲がいい?」
「仲がいいと言われても…風神バルバトスは俺のことを無視せずに仲良くはしてくれたよ、500年前まではね。それに初代の氷神にも世話になった。」
「初代と…?」
「君と最初に会ったときも氷神と話がしたくて寄っただけなんだ。結果は話せなかったけど。」
まあ俺は少し聞きたいことがあった気がするけどもうそれも忘れてしまったから意味がない。本当に何を話そうとしたんだっけ?
「雷神バアルゼブルには1番世話になったよ…。他の神とはクソほど仲が悪かった!あ、草神ブエルとも仲がよかった。」
「俺の中でめっちゃ終の偏りを感じた。」
「?」
ナニイッテンダ?
「折角質問数を増やしてもらったけどもう知りたい情報はないからここで失礼するよ。」
「ならいいよ。そうだ、もし女皇に会うときがあったら一言伝えてほしいんだ。”星と深淵がぶつかった後、破滅はやってくる”ってね。」
「?まあいいけど。」
頼んだよ。
俺は立ち去っていくタルタリヤ君の背を眺めながら薄っすらと笑みを浮かべた。
前日譚はここまでです。次からは本編、迎仙儀式から始まります。