「塔矢アキラです。これからよろしくね」
そう挨拶した兄は超絶可愛かった。姉の間違いでは?
肩の上で切り揃えられたサラサラで艶々の髪、まん丸の輝く瞳を囲う長いまつ毛、おっとりとした印象の少し太めの眉。この厳つい見た目の先生からこんな子が?漫画の世界ってスゲー!!!!!!!!!
しかしこれだけ顔が綺麗なのだ、メインキャラに違いない。つまり死ぬ可能性が高い。
アキラアキラアキラ……
……アキくん?
なんだかそんな名前のキャラがいた気がする。酷い死に方をする奴として。死ぬのか?こんなある日突然現れた弟に笑顔で挨拶してくれるいい子が?
そんな未来、なんとしてでも阻止しなければ!!決めたぞ、オレは先生に弟子入りして最強になる!!!
決意と共に差し伸べられた手を強く握る。アキくんは一瞬驚いた顔をしたがすぐに握り返してくれた。
安心してくれアキくん。君のことはオレが必ず守る!!!!!!
——その知らせが入ったのは名人位を無事防衛し、取材を受けている最中だった。
「塔矢名人!すぐにお耳に入れたいことが……」
「ご親戚の尾花一家が事件に巻き込まれたとの連絡が」
「搬送先は……」
尾花といえば親族でも特に親交の深い従兄弟一家だった。取材を打ち切り駆けつけた病院は私が来たとわかると水を打った様に静まりかえった。人々の視線の先には婦警にもたれかかる様にして座っている小さな子供——ハルカがいた。
以前目にした際には雪の日の犬の様に駆け回り、辺りに明るい声を響かせていた子が、今は虚な目をして口を閉ざしている。
誰も口を開かずとも、従兄弟夫婦が助からなかったということは明白だった。
遺体の検分が終わり、葬儀が始まっても子供は一言も話さなかった。涙ひとつ見せないどころかどこを見ているのかすらわからない目をして、父と母の骨を拾い集める子供を不気味だと囁くものもいたが、その余りの痛々しさに涙を流すものもいた。
それもこの先誰があの子を育てるのか、という話し合いが始まるまでだったが。
簡単に言えば、誰も難しい境遇になった子供の面倒を見たくなかったのだ。
————あの日通園バスの迎えに誰も現れないことを不審に思った保育士と、持っていた合鍵を使い扉を開けた先で彼は親の体が切り裂かれるその瞬間を見たのだという。不自然に動きを止めた子供のつむじから顔を上げ、倒れる体と窓から逃げ出す人影を見た保育士の絹を裂く様な悲鳴で平和だった彼の境は崩壊した。そのまま親と同じく死んだ様に過ごしている不気味な子供を哀れむ心はあっても、愛する決意のできるものはいなかったのだ。
私はすぐに妻の明子と息子のアキラに相談を持ちかけた。この子供を私達が愛してやることはできないかと。彼らは一も二もなく了承してくれた。
病室を訪ねようとすると、外にいた看護婦がハルカがようやく口を開いたのだと噂話をしていた。
これから家族になるのだと言った私を緩慢に見上げた彼は変わらずその目に何も写してはいないように見えたが、家に連れて行くと忙しなくその瞳を動かし辺りを見回し始め、何者かが隠れていないかと警戒している様だった。
「これからお世話になります。———先生」
家を隅々まで見ると、私たち夫婦を振り返り彼はそう挨拶した。以前までの私をおじさん、おじさんと舌足らずに呼び回っていた彼は消えてしまったのだと漠然と思った。しかし、たった5歳の子供が子供らしさを失うとは悲しすぎる。好きな様に呼ぶといいと伝え、アキラが小学校から帰って来るまで好きに過ごさせると画用紙に絵を描き始めた。黒と赤で人らしきものの頭から鋭い刃が飛び出した絵は、未だ口数少ない彼の心の傷が深いことを表していた。
しかしアキラと握手を交わした時、彼は瞳に光を灯し、あろうことか薄く笑みまで見せたのだ。以前までの無邪気な彼は二度と見られないのではないかと心配していたが、硬く結ばれた二人の手を見て確信した。未来は明るいと——————
主人公カワイソス系になった。ギャグにしたいです。