ぼくの弟 3年 とう矢アキラ
ぼくには6才の弟がいます。名前はハルカといいます。ハルカくんは、去年ぼくのお家に来ました。遠くからおひっこししてきたので、ようちえんには通っていません。
ハルカくんはおとなしいせいかくです。お家ではいつも本を読んでいます。なので、文字を読むのがとくいです。ぼくが読めない漢字があってこまっていると、読み方を教えてくれます。
お話を作るのもとくいです。お家や学校、病院にいるおばけのお話をたくさんしてくれます。ぼくがどんなおばけか描いてみてとお願いすると、お絵かきをして教えてくれます。
お話をするだけではなく、お父さんやぼくから「ご」のお話を聞くのもすきです。ぼくやお父さんのように強くなりたいといっていました。ぼくもハルカくんにまけないよう「ご」のお勉強をもっとがんばりたいです。
さいきん、いつもはしずかなハルカくんが大きな声を出したことがありました。
ぼくとお父さんの弟子のあしわらさんと日本き院に遊びに行った日のことです。院生の人たちが対きょくしているへやをいっしょにのぞくと、男の人の顔を見ておどろいた顔でとつぜん大きな声でさけんだのです。
ぼくもあしわらさんも院生の人たちもみんなびっくりして動けませんでした。そうしているうちに、ハルカくんは1人の男の人にだきついて、はなれなくなってしまいました。
おむかえに来たお父さんは「ハルカくんにはハルカくんのお父さんとあの男の子がそっくりに見えたのかもしれないね。」といいました。
それを聞いてぼくは、ハルカくんは前より明るくなったけれど、まだお父さんとお母さんが死んでしまって悲しいままなんだと思いました。
ぼくは、ハルカくんのことが大すきです。
これからも、いっしょにお話したりお勉強したり遊んでだりして、ハルカくんが悲しい気持ちでいっぱいにならず、楽しい気持ちですごせる日がふえたらいいなと思います。
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塔矢家に引き取られて早1ヶ月。オレは退屈していた。
子供は毎日新しいことを体験するから体感時間が長いという。では二度目の人生を送っているオレは子供の姿とはいえ大人の時と変わらない時間を過ごすのではないかと思っていたのだが、その予想は裏切られたのだ。
前世と違い、この世界には悪魔がいる。視界に映り込む顔のない女や明らかに口やしっぽの多い猫のような生き物、壁をすり抜けて行くジジイに、天井から降ってくる目玉の付いた毛玉。初め病院で見てビビり、連れられてきた日に家中を確認した時にはいなかったはずのそいつらが、家の中で白昼堂々現れ始めたのにビビり散らかしていたせいで初めの2週間はこれまでの人生かつてない程に長いと感じた。
しかしこの家には最強の先生と将来有望なアキくんがいるのだ。誰も気に止めないということはつまり、あの日病院にいた悪魔やこの家の悪魔たちは倒す価値もない雑魚か、人間の使い魔みたいなものなのだろう。オレの家に現れたような人をぶっ殺す悪魔は、相当運が悪いか、わざわざ悪魔を倒しに行かない限り現れないという事だ。出会ったらほぼ確実に即死ルートのようだが、この家にいる限りは安全だろう。
恐れる必要は無いと安心してしまうと、恐怖も不安も消え去った。ではようやく大人と同じ体感時間になるのではと思ったが、そうは上手くいかず。この家に引き取られて1ヶ月。様々な理由で行かないことに決めた幼稚園も行っておけば案外楽しめたのではないかと血迷った考えが浮かんでくるほどにオレは時間を持て余していた。
決して何もしていなかったわけではない。最強の男になるため、初日から先生に教えを乞うていたが、流石は先生。毎日忙しいのと、教え子の力を試したいということで、オレは毎日1時間アキくんから“碁”を教わることとなっていた。1時間だけ?と思わなくもないがアキくんにはアキくんの修行があるのだ。仕方がない。
初めこんな石並べになんの意味があるのかと思ったが、多彩な戦略や忍耐力、集中力を鍛えるのに大いに役立つだろう。
しかし、オレには才能がなかった。いや、アキくんに才能がありすぎるのもあるだろうが、精神的知能的に大人であるはずのオレがアキくんに勝利したことは一度もない。オレはこの世界でもモブなのだ、きっとこれから先も勝てることは無いだろう。そう分かってしまうと、この勉強もなんだか無駄に感じてしまった。
しかし死にたくないので、オレもアキくんや先生のように強くなりたいと言うと、突然襖を開けて中学生位の男が入ってきた。
「キミ!よく言った!」
「芦原さん!急に入ってきたらハルカくんがびっくりするでしょう!」
「いやーごめんごめん!でもハルカくん?凄いよ!アキラに何回負けても折れずに強くなりたいって。俺だったら心折れちゃうかも」
そう言ってヘラヘラ笑いながらオレの頭を撫でくりまわす男は、先生の弟子で、今はプロの卵である院生として修行をしているらしい。
修行という単語に思わず反応すると、近々その修行場所に連れて行くと約束してくれた。軽そうな感じで少し不安だが、お人好しの良い奴そうだ。
院生とトラブルが起こると大変だからとあまり修行場所を見に行ったことの無いアキくんもオレの付き添いで行くことになり、嬉しそうにしている。
明日は久々に退屈しない時間を過ごせそうだと呑気に考えてアキくんの隣の布団に潜り込んだオレはまだ、そこで運命に出会うだなんて知る由もなかった。