『桜花賞』。
条件:クラシック級、芝1600m。『マイル戦』──『桜の女王』を決める戦いである。
『ティアラ』と『クラシック』に分たれたウマ娘たちは、いずれかを『選択』して『前』へ進む。そして『ティアラ』から『クラシック』への方向転換はあり得ても、『逆』はない。
スタート地点の1コーナーポケットから2コーナーにかけての直線が『約150m』と短く、2コーナー侵入角度が『約50°』もあるため、距離損を避けるため、あるいはいい位置を確保するためにこの急コーナーにウマ娘たちが殺到し、その結果前半は『超ハイペース』になりやすい(通称『魔の桜花賞ペース』)。
クラシック期の登竜門であるこのレースでは、まだウマ娘たちは『未熟さ』を残している──そしてこのコースの『特性』によりペースが乱され、実力を発揮できない、あるいは予想よりもずっと実力を発揮する場合も少なくない。タイムも乱れがちだ。
『桜花賞』という『名前』の通り、咲き誇る『桜』の下でのスタートは『優雅』であり、『ティアラ三冠』の開幕戦としてふさわしい『舞台』である。
・:*+.\(( °ω° ))/.:+
『桜花賞』を控えたある日のこと……
「ミナセ!」
ガラガラ!
今日の姫の予定はオフ。しかし姫を止められるものは誰もいない。
「出かけるわよ! アタシ、行きたいとこがあるの!」
「なるほど」(思考停止)
断るという選択肢は姫には通用しない。子供は元気だなぁ……。
「どこに行くんだ?」
「それはアンタが決めて!」
「なるほど……えっ」
「アタシは『こういうとこがいい!』っていう『条件』だけ言うから、アンタはその『条件』にピーッタリ会う場所を探すのよ! 分かった?」
「はい……」
えー、ということでやって参りました。こちら花畑の名所でございます。色とりどりのお花が咲いていて綺麗ですね。見渡す限りのお花畑って感じでね、もうどうにかなっちゃいそうですね。
「アンタ何変なこと考えてるの? まあいいわ、なかなかいいところじゃない」
姫にお気に召して頂いて何よりだ。『お花とかがいっぱいで、魔力に満ちた場所』というキーワードから見事この場所を探し出してくれたグルグル先生には頭が上がらない。
「ま、少しはいろいろ揃えてるみたいね。グランマのお庭にはぜーんぜん敵わないけど!」
(確かにそうかもしれない……)
「ほらミナセ、付いてきなさい? 前から思ってたんだけど、アンタお花のことを知らなさすぎよ。『コーイの使い魔』なんだから、そういうのもちゃんと覚えなきゃダメなんだから! ふふっ!」
そんなわけで、姫によるお花講座を受けることになった。
「まずはチューリップから。これぐらいは分かるわよね?」
「赤いヤツだな。食えるのか?」
「食べられないわよ?」
花畑はいい香りがしてリラックスできる。今日は天気もいい。
「次はバラ。トゲには気をつけなきゃいけないんだけど、このお花で紅茶を淹れるとすっごく美味しいのよ!」
「
「食べらんないわよっ!」
次。
「あら、シロツメクサ。懐かしいわね、昔よくグランマに花綸を作ってもらったっけ」
「ただの草だな」
「立派なお花よ! 失礼ね!」
次。
「サツキね。……随分早咲きなのね、ここのサツキ」
「サツキ……
「言っとくけど皐月は5月よ」
「ううん……」
無知を晒してしまった……だって皐月賞って4月にあるじゃん。違うのかよ。
「ねえミナセ、ニリンソウの花言葉って知ってる?」
「『白い』、とかか?」
「ねえミナセ、花言葉って知ってる?」
「……もうすっかり『春』だな」
「誤魔化しても無駄よっ!」
テッテッテッテテレレレレ!(移動するときの効果音)
少し歩いてきて小高い丘に着いた。花畑全域を見回せる絶景である。
「キレイなんだな、花って」
小学生でももう少し気の利いたことが言えるはずなのだが、実際素直な感想なのだから仕方ないだろう。
スイープはというと……
「ねえ、ミナセ。アタシやっぱり、『レースの魔法』を見つける最初の『手がかり』は、アンタが持ってるんだと思うの」
「『手がかり』?」
「だってアンタにはアタシの『走り』が『魔法』みたいに見えてるんでしょ?」
「ああ……」
『レースの魔法』を使って『世界を変える』と意気込んだはいいものの、その『方法』はまだ具体性を欠いている。その話だろう。
「なら、もっとちゃんと教えて。『言葉』にして。アンタは──アタシの『走り』を見ると、どんな風に感じるの?」
──ずっと考えていたことがある。
『初めて』スイープの走りを見た時に感じたあの感覚の正体について。他のウマ娘を見ても、レースを見ても……同じようには感じなかった、あの『魔法』の正体について。
「今のアンタならきっと、あの時とは違う『答え』が言えるはずでしょ?」
「そうだな」
──『春』が来て、そして季節が巡って、もう一度『春』が来た。もうじき、スイープトウショウと出会って『1年』が経とうとしている。
以前は曖昧で正体の掴めなかったその感覚を『今』なら言葉にできる。
「『俺』はいつも、君の走りを見ると、新しい何かが始まりそうで、ワクワクする」
「……!」
それは、スイープにとって──
(それ、おんなじじゃない)
思い出すのは昔のこと。
(アタシがグランマの魔法を見るときにいつも感じてるのと、おんなじ──)
水瀬の言葉はスイープにぶっ刺さった。
「やっぱり──やっぱりそうだったんだ! きっとアタシ、アンタに対しては使えてる! 『レースの魔法』、使えてるのよ!」
そうはしゃぐスイープに水瀬は思った。これまで数々の『魔法』をかけておいて、今更何を驚くことがあるんだろうか?
「でもダメ。まだ魔法は未完成もいいとこね。だってアタシはこの『世界』のぜーんぶに『魔法』をかけてやらないとなんだから!」
あの『魔法』で味わった衝撃はかなりものだった。スイープは知らないだろうが、水瀬はその『魔法』の威力の強さをよく知っている。あれを『世界』の全部にかけるとは、すっごいこと考えるなこの中学生。
「だから──そう、『強化』よ!! 『魔法』をもっともっと強くしないとなんだわ! ミナセだけじゃなくって、見ている『全員』に届くくらい……!」
ほんと、すごいこと考える。
( ´Д`)
「で、それってどうしたらいいわけ〜!?」
帰り道に寄ったファミレスにて、魔法少女のうめき声。
「もうっ、ずーっと考えてるせいでどんどんお腹がすくわ……! ミナセ! パンケーキおかわりっ!」
「すみませーん、パンケーキおかわりお願いしまーす!」
ほんとよくそんな甘いもの食えるな。年頃の少女にとって甘味は水みたいものなのか?
「ふん! アンタも何か思い付いたんだったら言いなさい。アンタはアタシの『ソーダン相手』でしょ!」
「ろんもち、だ」
「真面目にやって。こっちは真剣なの」
「ごめんなさい……」
真面目に考えよう。
今のところ、水瀬にだけ使えている『レースの魔法』をいかにして『強化』するか。
そもそも『レースの魔法』とは?
「グランマは言ってたわ。『誰かの人生を変えてしまうぐらい、すごい魔法』って」
(『誰かの人生を変えてしまうくらい』、か)
なるほど。確かにそれは『レースの魔法』だ。事実変えられちゃったし。
そもそも『レースの魔法』が数ある『魔法』の中で1番すごい理由とは? そこから考えることにしてみる。
「……レースが『特別』だから……いや、『特別』なレースだから? 違う、『特別』なレースでなら、使うことが出来る……?」
「ふぅん?」
「『レースの魔法』は『特別』なものだ。だから『特別』なレースでしか使うことは出来ない?」
「へぇ。『特別』なレースって?」
「さぁ……」
水瀬はいまいち『トゥインクル・シリーズ』というものがピンと来てない。一般人でも知っているようなのは、『天皇賞』とか『有馬記念』とかだろうが……つまり『GⅠ』ならどれでもいい、という訳でもないだろう。何せ『レースの魔法』は『特別』。英語で言うとスペシャル。
「例えば『クラシック期』のレースは『一生に一度』しか挑戦できない。それは『特別』なんじゃないか?」
「アンタはどう思うの?」
「そうだな……」
長年レースのファンをやっていたであろう正当な『トレーナー』なら、こういった問いに迷いなく答えられるのだろうが、水瀬は残念ながら正当な『トレーナー』ではない。
これは重要な問題だ。よく考えて答える必要がある。
「『特別』なんだと思う。多分」
「多分って何よ。はっきりしないわね」
「はっきりと断言は出来ない。だが……行けばわかると思う。そして確かめればいい。『そこ』に『魔法』があるのかどうか、『走れば』分かるはずだ。そうだろ?」
「……そうね。その通りだわ。『走れば』分かる──なら、『走って』みればいい。そうすれば分かるに決まってるわね! 『レースの魔法』、その『秘密』っ!」
どうやら決まったようだ。
「アタシ、『走る』わ!」
「確かめよう。ついでに『勝てれば』、それが1番いい」
「決まりね! 『トリプルティアラ路線』の中で──見つけ出す。そして『完成』させる! アタシだけの『レースの魔法』を!!」
そして──
『さあ、今年の『桜花賞』! どのウマ娘が最初の『ティアラ』を手にするか!』
始まる。春の『GⅠ戦線』、その『初戦』。
──ワアアアアアアアアアアアアア!!!
『各ウマ娘が今、『ゲート』に収まりました!』
『桜花賞』が、今始まる──
──
走る、走る、『走る』──その、孤独な行為で、いつからかウマ娘たちは競い始めた。
足音が──息遣いが、気配が、その全てが訴えてくる。これが──『桜花賞』。
────ワアアアアアアアアアアアアア!!!
『前』を見ていた。
『前』へ向けて走っていた。この呼吸さえままならない『レースの世界』で、前に向けて走っていた。
それだけだった。その他のことは全部いらないから、ただ走っていた。
『スイープトウショウ!! スイープトウショウ先頭に変わった! 内にはダンスインザムード! 後方からアズマサンダース突っ込んできた!!』
『勝てる』から、とか。そういうことじゃない。
ああ。なんだろう、これはどういうことなんだろう? これをどう表現すればいいんだろう。
(『楽しい』。今……すっごく、『楽しい』!)
人の身では到達し得ないその『速度』、それは彼女たちに与えられた『祝福』。走ることは苦しくて辛いこと。『身体』の方はそう叫んでる、けど『心』は──
スイープトウショウは『天才』だ。『追い込み』というのは並のウマ娘では出来ない走り方だ。バ群から抜け出す『レースのセンス』、追い上げにかかる『末脚』、そして『運』が必要だ。
この『桜花賞』には、時代に選ばれた『18人』のウマ娘が集まった。日本中から集まった『才能』がぶつかり合う。
楽しくない訳じゃない。だけどどこか『退屈』な日常が続いていた。そんな『つまらない』現実を、今──『魔法』をかけて、変えてしまう。
(あっははっ! アタシ、今までで1番『速く』走ってる!!)
嬉しいのだ。後ろからは足音がする。
(みんな、そんなアタシを追いかけて食い下がってる! 本気で『勝とう』としてる! そうよね、『勝負』なら本気でやらなくっちゃ、面白くない!!)
また一度、全身に力を込めて大地を蹴った。
だから『前』だけを見た。でも後ろから迫ってくる『足音』が聞こえるから、それがまるで『意地』のように感じて、それが嬉しかったんだ。
そしてそれを叩き潰すことの、なんと気持ちいいことか!
────ワアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
『スイープトウショウ先頭! スイープトウショウだ! 先頭は変わらずゴールイン!!』
────ワアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
@@-
そうだ、スイープ。君の走りはいつだって、古い『過去』が壊れていく感じがするんだ。
俺の失ってきたものとか、奪われてきたものとか、そういう『過去』を壊して、粉々にして、新しくて眩しい『未来』を始めてくれる、そういう予感を感じさせてくれる。
だから俺は君のトレーナーになることが出来て本当に嬉しかった。嬉しかったんだよ、スイープ。
-0
────ワアアアアアアアアアアアアア!!!
「────はぁ……っ、はぁっ、はぁっ……!」
息が苦しくて、どれだけ空気を吸い込んでも足りなくて、疲れたなんて言葉では表現しきれなくて。でもそれ以上に何か、『充実感』に似た心地いい感覚がした。
だけど──
「いやー、いいレースだった!! まさかあの位置から差し切るなんてな!」
「ね! 今年の『トリプルティアラ』も面白くなりそう!」
「つっても『春のクラシック戦線』は始まったばかり! 来週はいよいよ『皐月賞』だぞ!」
「『最も速いウマ娘』が決まるレース……! 絶対絶対、見逃せないよね〜!!」
ウマ娘の聴力ではそんな会話が聞こえてしまう。なんとなく、これは『違う』と感じてしまう。
「〜っ、だぁー、かぁー、らぁー……! なんっっっで『最も速いウマ娘』なんてものが『皐月賞』でしか決められないのよっ! ほんとにレース見てたのかしら、もうっ!!」
観客の心の中までは響かなかったらしい。スイープは不機嫌そうに言う。
「まだダメ! まだ『レースの魔法』はぜんっぜん未完成だわ……!」
そんなスイープを、後ろから睨むウマ娘がいた。
「……ッ!」
そのウマ娘は悔しそうに口を歪めて、ずっとスイープを睨んでいた。
囧
後日。
スイープも含めたトリプルティアラ路線のウマ娘たちを集め、今後に関する取材が行われたのだが……。
水色リボンが特徴的なウマ娘がインタビューを答えていた。
「はいっ、次はもちろん『オークス』を狙います。なのでこれからも応援よろしくお願いします!」
パチパチパチ……。
手慣れた進行だ。記者たちにとっては日常的な風景なのだろう。つつがなく……言い方を変えれば、どこか慣性に任せた進行というか、有体に言えば水瀬は退屈だった。しかし、次はスイープの番。
「では次に、スイープトウショウさんと、水瀬トレーナー。お話を伺わせてくださいませ」
主導的にそう聞くのは、割と美人な記者──『乙名史記者』だ。水瀬にも当然見覚えがある。
「まず初めに、先日の『桜花賞』、『優勝』おめでとうございます。素晴らしいレースでした。今後の『展望』や『目標』につきまして、お話頂けますか?」
「ふんっ。展望だとか目標だとか、そんなちっぽけな話じゃないけどね──」
どうやら退屈せずに済みそうだ。こういう場所って普通は緊張とかするものだろうが、スイープが緊張しているところなんて想像できない。
「アタシはアンタたちみーんなにいつか絶対! 『魔法』をかけてやるわっ!! それで今あるつまんないジョーシキとか考え方とかぜーんぶ、変えてやるんだから!」
ざわ……ざわ……。
わずかな動揺があたりを包む。この会見はライブ中継されている──記者たちの心配そうな視線が水瀬に突き刺さったが、水瀬はしれっとこれをスルー。
「『魔法』、ですか。以前私が取材させていただいた時にもおっしゃっていましたが……」
『阪神JF』の後、スイープは取材を受けた。その時はまだいまいち方向性が定まっていなかったが……。
「スイープさんのおっしゃる『つまらない常識や考え方』とは、どのようなものを指すのでしょう?」
「決まってるじゃない! 『三冠路線出身の子は、トリプルティアラ路線出身の子よりも強い』とかってヤツよっ!」
ざわ……。
「どっち出身だろうと、強い子が強いってだけの話なのに! ティアラの子が三冠の子に勝てば快挙? 『最も速い』のは『桜花賞』より『皐月賞』? 『つっっまんない』話だわ、それって!!」
「……!」
美人記者が少し息を呑んだのを感じた。
「なるほど、おっしゃることの意味は『非常に』よく分かります。ただ、無礼を承知でもうひとつお訊ねさせてください」
記者さんの瞳は真っ直ぐにスイープを捉えている。それはまるで、宝石の価値を見定めている鑑定者のような、試すような……それでいて、少しワクワクしているような『瞳』。
「率直に申し上げますと、事実として、例えば『有馬記念』や『宝塚記念』などといったレースでは、それを証明する『結果』が多くございます。その他のレースでも、両者がぶつかり合った場合、『三冠路線出身』のウマ娘が勝ってきたことの方が圧倒的に多い──」
会場の注目は完全にスイープが独り占めしていた。記者たち、そしてファンたちの総意を代表する『乙名史記者の疑問』に対する、スイープの答えを待っているのだ。
「この歴史が証明してきた『事実』を、どう考えていらっしゃるのですか?」
「だったらその『歴史』ごと変えてやるわよ!!」
「!」
「証明してやるわよ、アタシが!! トリプルティアラ出身だろうが、強いウマ娘は強いんだって!!」
『堂々』と、物怖じひとつせず、真っ直ぐに。
なんてクソ度胸なんだろう。いや、きっと彼女は度胸なんて意識もしてない。当たり前のことを当たり前だと言っているだけだ。
「アタシはこれからトリプルティアラを駆け抜ける。そしてシニア級でそれを『証明する』! 『誰が』『どう』見たって、どう考えたって、アタシが『強い』ってことを思い知らせてあげる!」
「……素晴らしい」
「?」
「もうひとつ質問をお許しください。スイープさん、あなたが『強い』ということを──『誰が』『どう』見ても『強い』ということを証明するための、『具体的な方法』についてお聞かせください」
「? そんなの簡単よ。アタシはこれから『全てのレース』を勝ち続けるわ。『ティアラ出身』も『三冠出身』も関係なく、『どんなレース』でも、『アタシが勝つ』。そうすれば分かるでしょ?」
ざわ……!!
(なんてことを……)
当然こんなことを喋るなど水瀬は知らない。まあなんかやるだろうとは思っていたが、これは自信満々というか、スイープは多分水瀬が新人トレーナーであることを忘れていると思う。
「……無礼を承知でお聞きします。『本気』ですか?」
「『当たり前』じゃない! 『魔法』っていうのは、『不可能を可能にする力』のことっ! アタシのとっておきの『魔法』、見せてあげる!」
少なくとも今のところはスイープは『無敗』。ついでに『GⅠ』二連勝中──あれ、この中学生相当強くないか? 水瀬は現実逃避気味にそう思った。
乙名史記者は──ついには、ふっと口元を緩めた。
「その『魔法』、心から楽しみにしております。ありがとうございました!!」
乙名史記者にはなんかが刺さったらしいが、会場の99%は困惑と心配に包まれている。そんなこと言って大丈夫か? と。
しかし残りの1%がスイープに声をかけた。
「流石だ、スイープ」
「! ふん。『当たり前』でしょ? アタシを『嘘吐き』にさせないよう、アンタもせいぜい頑張りなさい?」
「『当たり前』だ。せいぜい頑張るとするさ」
コツン。グーでタッチしたその姿に、なんとなくスイープと水瀬の関係性が見てとれる。
「……素晴らしいですっ! スイープさんの壮大な宣言を受けて全く揺らがぬその姿勢! トレーナーとして、自身の全てを尽くして担当に尽くすおつもりなのですねっ!」
(うわ出たよ)
「そして今後も火の中水の中禁忌の中、『呪い溢れる地の中』でさえも、スイープさんのためならば駆け回る『お覚悟』と……!!」
(ハハ、笑えな)
現在進行形で禁忌の中をひた走ってる水瀬としては、曖昧な愛想笑いも浮かべられない。
──言葉は『呪い』だ。
特に『宣言』とか『誓い』の類は尚更そうだ。自らに課した『鎖』であり『楔』である。だが、それを成し遂げた時、きっと彼女の全てが『魔法』に変わる。
「さあ! やるわよ、ミナセ! 『オークス』まで時間がないんだから!」
「はいはい」
「はいは一回っ!!」
「……なによ、『魔法』って。バカバカしい……シニア級の話まで持ち出して、もう私たちの世代代表でいるつもり?」
『初夏』の風が吹く。
「──……なによ……私だって……!!」
『戦い』が始まる。