魔法のない世界で生きるということ   作:にゃんこぱん

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第六話 『魔法』をかけるということ③

 

 

 日々は過ぎる──あれだけ寒かった『冬』は段々と溶けていき、また太陽が登っていく。

 

 『春』が来た。

 

 また『春』になった。スイープトウショウの『シニア期』が始まり、そして水瀬は『トレーナー3年目』に突入。月日が過ぎるのは早いものだ。スイープも、出会った頃より少し身長が伸びた。感慨深いものがある。

 

 そんなスイープはというと……

 

「ふふっ、振り分けがクラスごとでしたから今日は同じチームですねっ♪」

 

 『ニシノフラワー』。

 

「ああっ! みんなで力を合わせるぞーっ!」

 

 『ビコーペガサス』。

 

「目指すは1着〜☆ ファーーィ……──」

 

 『マヤノトップガン』。

 

『オーーーーー♪』

 

 そして『スイープトウショウ』──中等部4人組が可愛らしい円陣を組んでいた。

 

 ──『春の大感謝祭』。この日トレセンはお祭り騒ぎだ。

 

「きゃ〜っ、あのチームかわいい〜っ! 私、あの子たち応援しちゃお〜!」

 

 チーム中等部の面々はかなりプリティーだ。外見だけなら華奢な少女たち……。

 

「それではウマ娘&ファン対抗トラック引き対決にご参加の方々はお集まりくださーい!」

 

 運営のウマ娘が呼びかけながら歩いている。競技のアナウンスだ──

 

「よ〜っし、いくわよ! 何人相手でも、このメンバーなら負けないんだから!」

 

 意気揚々と競技場へ向かっていくスイープを水瀬は眺めていた。ファン──つまりは一般人だ。古事記にも書かれている通り、人間はウマ娘には勝てない。たぶん中学生たちが勝つだろう。

 

 が──

 

『ウオオオオオオオ!!』

 

「……!?」

 

 なんだあれ。すごい雄叫びが響き渡った。

 

『やるぞっ、やるぞっ、やるぞーーーーーっ!! 今日こそ、ウマ娘ちゃんたちに勝つぞーーーッ!』

 

「ほっほっほ。出ましたな、100対4のトラック引き。今年こそ、人類の可能性を見たいものですな! ほっほっほ……」

 

「田中山トレーナー。というか、100対4って」

 

「水瀬トレーナーは知らぬようですな。無理もない、今年から復活した競技ですからな!」

 

 なんだそれ。確かに──人類側の方は100人くらいいる。見た感じすごい結束力だ……。

 

『さあ、ファンとウマ娘。今回はどちらが先にトラックを指定の線まで運ぶことができるか!』

 

 実況の言葉に他の観客たちもざわめいている。

 

「う……うそうそうそ!? ウマ娘ちゃんたちはあんな小っちゃい子たちの集まりだよ!?」

 

「しかもトラックでかめじゃん……!? 勝っても大人げないだけっしょ……」

 

 いくらファンたちといえども100対4は無理だろうという雰囲気。まあ気持ちはわかる。

 

『さあ、位置についてー! 運命のホイッスルが鳴り響きます!』

 

 ピピーーー!!

 

「うぉぉ! みんな、配置につけーっ! いちにのさんで、引っ張るぞー! せー……」

 

 の、と言い切る前にウマ娘側のトラックが動き出した。

 

「やぁぁぁぁあああああっ!」

 

「なにィィィィィィ!?」

 

 瞬く間にトラックを運び切ってしまった……。

 

『ウマ娘たちはファンチームの隙をついて、一瞬にしてトラックを運びきった! 見事勝利です!!』

 

「うぉぉぉおおぉぉん……ッ! ご、ごとしも負げだぁぁ……!」

 

 今年も人類は敗北──田中山トレーナーが寂しそうに笑った。

 

「ほっほっほ。今年もダメでしたか……」

 

 そんな深刻になるようなことなのか?

 

「あははっ、小さいからってなに? 見た目でカン違いしないでよね! なにごとも勝つのは、力のある方なのよ!」

 

 これがウマ娘の力か。ファンたちもよう慄いとるわ。

 

「やっべぇ……力もやばいけど、生意気な言い方もやばぁ……!」

 

「あれが『スイープトウショウ』……知ってるか、『安田記念』から『宝塚記念』に行くっていってた、ほら」

 

 そう話していたファンの目の前に──スイープトウショウが空から降りてきた。いや比喩ではない。

 

「そうよっ、今の力を見て、だれよりも『強い』って思ったでしょ?」

 

「ひえっ、跳躍力もやべぇ……」

 

「ふふん。目がまん丸じゃない。そのままアタシにくぎづけになれば?」

 

 スイープは堂々と言い放った。

 

「──『宝塚記念』でいい夢、見させてあげるわ」

 

 そう指を差して……。

 

『それではエキシビションは終了です! 本番のクラス対抗トラック引き参加者はコースにお集まりくださーい!』

 

「……っと、行かないと」

 

 そして歩いて行ったスイープにファンがボソリと呟いた。

 

「あれが『現役最強』候補……スイープトウショウ……!」

 

 

 

 

 そして本番となるクラス対抗戦が始まった。ここからは人類が相手ではないので、スイープたちも簡単には勝てないだろう。

 

『さあクラス対抗トラック引き! 第1回戦は『魔法ヒーローお花ジェットチーム』対『お助けーズ』の対戦です!』

 

 『お助けーズ』。お助け娘キタサンブラックが率いるチームだ。早くも両チームの睨み合いが始まっている。

 

「スイープさん! いざ、真剣勝負だよ! あたしたち『お助けーズ』は優勝候補なんだから!」

 

「あはっ。その言葉、そのままそっくり返すわ!」

 

 そして……。

 

『位置についてー……よーいッ』

 

 ピピーーッ!!

 

「でぇやぁぁああああ!!」

 

「やぁぁああああああ!!」

 

 両者一歩も譲らないバトル。結果は──

 

 ピピーッ!

 

「勝者、『魔法ヒーローお花ジェットチーム』!」

 

 審判がそう叫んだ瞬間、会場から歓声が上がった。

 

 ──ワアアアアアアアア!!

 

「す、すごいパワーとスピード……! ウマ娘同士で体格差も大きいのに……!」

 

「ええっ!? あんな小さな体のどこに筋肉が詰まってるの!?」

 

 それな。

 

「なあ……マジでスイープトウショウ、『安田記念』も『宝塚記念』も勝つんじゃね……?」

 

 観客たちは期待するようにざわめいていた。そしてスイープはいつものように悪戯げに笑う。

 

 水瀬も得意げにそれを見ていたのだが……。

 

「おい、水瀬光一」

 

 背後から声がかかった。声の主は──

 

「来い。話がある」

 

「二階堂さん。どうしたんです?」

 

「さっさとしろ」

 

 有無を言わせない雰囲気に、水瀬は肩をすくめた。

 

「田中山トレーナー。それでは」

 

「ほっほっほ……?」

 

 こてりと田中山が首を傾げた。

 

 

 

 

 

 ファン感謝祭といえど、学内には人が少ない──いや、ファン感謝祭だからこそ、だろうか。ここは二階堂のトレーナー室。静かだ。

 

「単刀直入に言う。『安田記念』及び『宝塚記念』でスイープトウショウが勝利することは許さん」

 

「……ハハ。また下らないことを」

 

「黙れ」

 

 二階堂が水瀬を掴み上げて睨んだ。視線が交錯する。

 

「いいか。その舞台に貴様たちは相応しくない」

 

「さあ? それはアンタが決めることじゃない」

 

「言葉の意味が分からないらしいな。『負けろ』と言っている」

 

 なにを言い出すかと思えば──まさかこんなバカみたいなことを言われるとは。

 

「なぜ?」

 

「貴様らなど相応しくない。それだけのことだ」

 

 まあどうせ何かやってくるだろうとは思っていた。しかしここまで露骨だと笑えてくる。

 

「そう言われて、『はい分かりました』──と言うとでも?」

 

「『お祖父様』がお怒りだ」

 

「……!」

 

 水瀬の顔色が変わった──

 

「貴様が『少々』調子に乗っていることに関してな。目立ち過ぎるのは、『二階堂家』としても困る。この意味、理解できるな?」

 

(参ったな……)

 

「俺は貴様を見張っている。逆らおうなどとは考えるなよ」

 

(これは、ちょっとマズいぞ……!)

 

 額に冷や汗が滲んだ。

 

 

 

 

 

 

(……どうするべきか)

 

 電気のついていない部室で、水瀬は考えていた。『二階堂健人』の方は小物だし、どうにでもなると思っていたが、『おじいちゃん』の方はよろしくない。今まで『傍観』されていたのだし、まさか今更手を出してくるとは……。

 

 ガララ!

 

「あぁー! こんなとこで何してんのよ! アタシたち優勝したのよ!? 見てたんでしょうね!」

 

 お怒りの姫がエントリー。

 

「すまん。ちょっと用事があった」

 

「もうっ! ほら、見なさいよ! これ!」

 

 写真には優勝トロフィーを掲げるスイープたちの集合写真。

 

「写真……お、やったな。おめでとう、スイープ」

 

「ふんっ! 見てなかったくせに! なにしてたのよ!」

 

「いや……大したことじゃない、気にするな」

 

 そう誤魔化す水瀬をスイープはじーっと見つめた。

 

「……アタシに『嘘』はつかない、って『約束』したわよね。ウソついたの?」

 

 じー……。

 

「分かった分かった、悪かったよ。『二階堂』と少し話をしてたんだ」

 

「『ニカイドウ』……って、誰だっけ?」

 

「ほら、元々君を預かる予定だった、あの気取ったチンピラ」

 

「…………あっ、思い出した。アイツ? なに話してたのよ」

 

「あー……」

 

「言えないの?」

 

 じー……。

 

「……分かったって。でも悪い、言えないことだ」

 

「そうなの?」

 

「今は無理だ。どうしても言えない」

 

 スイープは水瀬をしばらくじーっと見つめていたが、そのうちぷいっとそっぽを向いた。

 

「ふんっ! ならいいわよ、別にキョーミないもん!」

 

「ごめんな」

 

「……その代わり、アタシにソーダンすることがあれば、ちゃんと言うのよ。分かった?」

 

「分かった。なぁスイープ、『レースの魔法』を見つけるには、これから勝ち続ける以外に方法なんてないよな」

 

「? あったり前じゃない。アタシが勝たなきゃ『魔法』が解けちゃうじゃない」

 

「だよな」

 

 水瀬は珍しく、疲れたような長い息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ( ;∀;)

 

 

 

 

 

 

「水瀬トレーナーの『正体』を探る?」

 

「ええ! 実はずっと前から考えていた『企画』でして。『安田記念』と『宝塚記念』を前にした大一番の今、その『トレーナーの正体』を知りたいという声は多いんです! もちろんこの私も! その『正体』が気になって仕方がないんです!」

 

 さる編集部──『乙名史記者』が熱っぽく語った。

 

 水瀬というトレーナーは全くの『謎』に包まれている。

 

「すべての『謎』は解明するためにある! そうは思いませんか、編集長! ぜひこの『企画』を許可してください!」

 

「なるほどな。まあ確かにそりゃ、いい『ネタ』だが。『目処』はついてるのか?」

 

「それが、全く付いておりません」

 

 編集長がため息をついた。潔くて結構。

 

「ですがまずは地道にトレセンへの聞き込みから始めるつもりです。担当であるスイープトウショウさんであれば、多少は知っていることがあるのではないかと」

 

 編集長はしばらく考え込んでいたが、やがて苦い顔で言った。

 

「……なんか『ネタ』持ってこい。『手がかり』掴んだら予算下ろしてやる」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

 実質的な調査の許可を得て、乙名史は意気揚々と編集部を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

「なぁに、アンタ。ミナセのことを調べてるの?」

 

 乙名史が訪ねたのは当然スイープトウショウだった。テーブルを挟んで向かい合う。

 

「ええ! ズバリスイープさんが1番ご存知のはずですよね? よろしければ教えていただきたいのですか!」

 

「うーん……。実はアタシもよく知らないのよね」

 

 乙名史が意外そうな表情を浮かべる。

 

「まえ、一回聞いたのよ。でも……あんまり聞いて欲しそうじゃなかったから、それからはあんまり聞いてないわ」

 

「ふむ……スイープさんは、水瀬トレーナーにあまり興味はないのですか?」

 

「そ……そうに決まってるじゃない! どうしてアタシが使い魔なんかのことを四六時中考えたりしなきゃいけないの!? 全然興味なんてないんだから!」

 

「そうなのですか? 実は私の方で『秘密情報』を入手したのですが……」

 

 ここでブラフを掛けると──予想通り、食いついた。

 

「本当っ!? ねえ、教えて教えてっ! 昔のミナセってどんなのだったの!?」

 

「ふふっ、それが……なかなか調べても分からないんです」

 

「え〜! 何よそれっ! ちゃんと調べなさいよね!!」

 

「すみません。もちろんそのつもりです。『秘密』というカーテンの向こうに何があるのか、人は知りたがるものですから。ついては、些細なことでも構わないので教えて頂けるとありがたいです」

 

「ふん! タダじゃ教えないわよ」

 

「と、いいますと?」

 

「『情報』には『情報』でしょ? 最近、ミナセの様子がちょっとおかしくって。大事なときなのに『外出』を繰り返してて、あんまりトレーニングの時にいないのよ。『使い魔』としての自覚が足りないわ!」

 

「なるほど。つまり、外で水瀬トレーナーが何をしているのか気になる、と」

 

「ふん! アイツが使い魔としての自覚を忘れてないか確かめるだけなんだから!!」

 

 ──しかし、妙な話だ。確かに大事な時期なのにトレーニングの時にいないことが多い……。

 

「ちなみに、いつ頃から?」

 

「ここ三日くらいかしら。何やってるのって聞いても、『ごめん、言えない』って。そればっかり」

 

「……分かりました! その『謎』の調査、この乙名史にお任せください!」

 

 そして乙名史の『調査』が始まった。

 

 

 

 

 

 やることは単純で、トレセンに張り込みつつ水瀬を追う。『尾行』である。

 

 この日はスイープのトレーニングは休み。水瀬がトレセンから出て、街へと歩いて行くのを追っていくと……。

 

「……雑貨店?」

 

 しばらくすると出てきた。次に向かったのはぬいぐるみ専門店。次は怪しげな魔法具専門っぽい店。結局何も買っていない。

 

「……」

 

 そして次の店、次の店……そして細い路地に入っていくのを追っていると──水瀬を見失った。

 

「! どこに……」

 

「誰かと思えば、乙名史さんですか」

 

「──ッ!」

 

 振り返ると水瀬が呆れた顔で立っていた。どうやら──罠にかけられたらしい。

 

「サングラスの変人がずっと後ろに隠れてるんです。誰だって怪しいと思うでしょ」

 

「……見事」

 

 観念して変装を解いた──

 

「見つかってしまっては仕方ありません。直接お尋ねしますが、いったい何を探していらっしゃったんですか?」

 

「……」

 

 水瀬はため息を吐くと答えた。

 

「明後日──『5月9日』はあの子の『誕生日』なんですよ」

 

「……なるほど! 『プレゼント』ですか!」

 

「分かっていると思いますが、スイープには言わないでくださいね」

 

 しかし困ったことになった。調査の依頼はスイープからのものだし、『情報』を教えてもらうにはこちらも『情報』を渡さなければならない。

 

 そして、乙名史の出した結論は──

 

 

 

 

 部室──。

 

「……ということでした」

 

 乙名史は正直に喋った。『情報』には『情報』だ。水瀬には申し訳ないが、背に腹は変えられない。

 

「わぁーっ! 何よアイツ、アタシに『サプライズ』なんて生意気ね〜! はぁ、驚くフリをしてあげなきゃいけないじゃない! ほんっとに仕方ないわね、ミナセは〜!」

 

 めちゃくちゃ嬉しそうだ。

 

「それで……『情報』を教えて頂きますね、スイープさん!」

 

「はいはい。でも『秘密』よ? アイツ、あんまり他人に自分のことを知られたくないみたいだから」

 

「……はい、分かりました」

 

 スイープは語り出した。

 

「アイツね、元々は『地方』のトレセンにいたんだって」

 

 その、水瀬の『過去』を────

 

「! 『元地方トレーナー』だったんですか!」

 

「そう。名前は忘れちゃったんだけど、確か『北海道』のどこかだったはず……で、そこが何年か前に『閉鎖』しちゃって。それで仕方なく『中央』に来たのよ」

 

「なるほど……しかし、水瀬トレーナーが活動を開始したのは5月です。普通は4月からではないのですか?」

 

「ああ、アイツ元々『事務員』として働いてたのよ」

 

「『事務員』……?」

 

「そ。まあ何か理由があったんでしょうけどね。まあともかく、アイツは……えっと、なんたらかんたらっていう制度を使って『中央トレーナー』になったの」

 

「『地方トレーナー登用制度』ですね。なるほど! そうだったんですか!」

 

 ネタが分かってしまえば呆気ないが、ずっと秘密にされてきたその『過去』が分かって乙名史は顔を輝かせている。

 

「『秘密』よ? アイツ、一応『秘密キャラ』で売ってるんだから」

 

「もちろん。私も記者の端くれですから。公表するときは本人の『許可』を取りますよ」

 

 そしてその『密談』を終えて、乙名史はトレセンを後にした。

 

 

 

 

 

 ──さる編集部。

 

「……あれ。おーい、乙名史は外出か?」

 

「あ、編集長。乙名史さんはちょっと『北海道』に行ってくるって言って飛び出して行きましたよ」

 

「あの、バカ……」

 




今更ですけど『曇らせ』タグ追加しました
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