魔法のない世界で生きるということ   作:にゃんこぱん

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第七話 『前』に進むということ①

 

「──それで私、思っちゃったんです。あの日のスイープトウショウの走りを見て。これから先、『トリプルティアラ路線』のウマ娘たちだって、『シニア級』でもなんでも、いろんな『GⅠ』取っちゃうんじゃないかって!」

 

 ──とある街頭インタビュー。

 

「『天皇賞(秋)』は俺、ずっと応援していた『トリプルティアラ路線』の子を見に行こうって思ってるんです! ……ってか正確には、その子が『勝つとこ』を。だって……ありえなくない話でしょ? そう思うんすよ! あの『宝塚記念』を見せられちゃったらさ!」

 

 この世が湖なら、それは投げ込まれた石の『波紋』──

 

「や、もしかしたら! もしかしたらですよ? あんな感じで、『トリプルティアラ路線』から出てきた子が──『七冠シンボリルドルフ』会長と並ぶような、……超えるような! GⅠ勝利記録を打ち立てることだって、あるかもですよね! 現にスイープトウショウはもう『6コ』取っちゃってる訳ですし!」

 

 揺れる水面は、それまでにない『波』に揺られ、

 

「『ない』だなんて、言い切れなくなっちゃったんですよ。なんか……自分の中の『常識』、ぶっ壊されちゃったなぁって。そうだなぁ、まるで──」

 

 ──『魔法』をかけられたみたいに。

 

 人々は口を揃えてそう語った。それこそが、スイープトウショウの成し遂げた中で、最も価値のある出来事。

 

 そして彼らはいつだって『次』を待ち望んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 ( ´∀`)

 

 

 

 

 

 

 まあ色々あったが……本当に色々あったが、スイープは無事『宝塚記念』を1着で終えることができた。

 

 そして『レースの魔法』に辿り着き、『歴史』を変えることが出来たのだった。ここまでの長い長い『2年間』とちょっとを、共に乗り切ることが出来たのだ……──。

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………。

 

「あっ、もしかして『終わり』か?」

 

 水瀬が素っ頓狂な声を上げた。

 

「スイーピー。ちょっと」

 

「……ぅええっ? な、なによミナセ! 言っとくけどね、アタシはまだアンタにその呼び方を許した覚えはないわよっ!!」

 

 魔導書を読み込んでいたスイープがうろたえている──そんなに嫌だったのか、この呼び方。やっぱり『グランマ』だけに許された呼び方なのか……。

 

「もうっ、新しい『魔法の呪文』が浮かんでたのに消えちゃったじゃない! それに──アンタの机、もっとちゃんとキレイに掃除しなさいよっ! 時計の針もズレてるっ! それと、あと、えっと……もっとちゃんとしなさいっ!!」

 

「ごめん……?」

 

「気持ちが入ってない! もう一回っ!」

 

「ごめん……じゃなくて。スイープ、次のレースの話なんだが」

 

 そう──『目標』としていた『レースの魔法』はもう見つかってしまったわけだ。なんか暇だなーとは感じていたのだが、次走が決まらないと水瀬の仕事がなくなる。

 

「レース?」

 

 心底不思議そうにスイープはこてりと首を傾げた。かわいい……。

 

「それはもういいでしょ。『レースの魔法』は最強のヤツだって使えたし」

 

 あっ、そっかぁ……。

 

「もういいのか。俺はもう一回スイープの走りが見たかったんだけどな」

 

「……ふ、ふんっ! あのねぇ、アタシが覚えたい『魔法』は、『レースの魔法』だけじゃな・い・の!! ミナセのくせにナマイキなこと言わないでっ!!」

 

 まあ……そりゃあ、確かに『レースの魔法』を見つけるためにここまでやってきたわけだし。目標を達成したわけだから、これ以上わざわざレースに出る理由もないけども……。

 

「『魔法』の勉強は大変なんだから! アンタももっと気を利かせてよね」

 

 ……こう、なんだろう。まだ『エンディング』には早いんじゃないかなーとか思ったりするのだが、さしたる説得の材料もなし。『コンパス』を失った気分だ、使ったことないけど。

 

「……それに、またアンタが、危ない目に遭ったら、アタシ……」

 

「え、なんか言った?」(難聴)

 

「何も言ってないわよ!! バカ!!!!」

 

 ガララララッ! ガン!!

 

「たのも〜〜〜っ!」

 

 エントリーしてきたのは『カワカミプリンセス』──『物理的に』強いウマ娘だ。

 

「『レースの魔法』を教えてくださいですわ〜〜! たのも〜〜〜〜っ!」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………は?」

 

「……! その『は?』とは……」

 

 水瀬が固唾を飲んで見守る中で、カワカミプリンセスは喜びの声を上げた。

 

「『はい』の『は』ということですわねっ!? オッケーをくださり、恩に着ますわ〜っ!」

 

「そんなわけないでしょ! バカワカミ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 第七話 『前』に進むということ

 

 

 

 

 

 

 

「そもそもアタシ、レースに出る予定ないし! 『レースの魔法』も休業中なんだけど?」

 

「エエエエエエエっ!?」

 

「うるさ〜いっ!」

 

 大変元気がよろしい。耳がキーンってなった。

 

「で、でも……っ、私には貴方の『魔法』が必要なんです……っ! だって、だって……っ」

 

 おっと、カワカミプリンセスの様子が……

 

「あの方の心を変えるには、もう貴方の『魔法』ぐらいしか…………うわぁぁぁぁんっ!!」

 

「ちょ……なんで急に泣き出すのよ!? んも〜……っ!」

 

 

 

 

 

 それで、結局話を聞くことになった。

 

「で、なんで『レースの魔法』が必要なの?」

 

「…………レースを好きになってほしくて」

 

 どういうこっちゃ。

 

「私、ある『先輩』にもう一度、レースを好きになってほしいんです」

 

 『先輩』とな。

 

「その『先輩』とは以前一度だけ、並走する機会がありましたの。私はそれはもう張り切って走りましたわ。『先輩』はとても優秀な方でしたから、彼女にぜひ……『勝ちたい』、と」

 

 カワカミプリンセスは暗い表情で続けた……。

 

「レースが始まった瞬間、私は道をこじ開けようとして向かいました。より前に、もっと前に出ようとして──……『どん』、と衝撃がきたんです。それで……小さな『悲鳴』が聞こえました。振り返ると、『先輩』の顔が真っ青になっていて」

 

 走行中の『接触』──結構ヤバいことの一つ。それが起こってしまった、と。

 

「そのまま彼女は立ち止まってしまって、コースからも離れてしまって。ほどなくして、『『先輩』は走るのが怖くなった』という話を聞いたんです」

 

 なんと……。

 

「私、急いで謝罪に行きました。しかし『先輩』は『あなたのせいではないのだから、謝る必要はない』と仰るだけで……でも、あれは完全に私のせいで……っ!」

 

「ねえ。その『先輩』ってだれなの?」

 

「……『先輩』の名前は──」

 

 

 

 

 

 トコ、トコ、トコ……。どこか寂しそうにも見える背中が歩いている先には、一人分の影。

 

「へぇー。『秋華賞』後のケガで休養中って聞いたけど、並走できるくらいには調子も戻ってたんだ」

 

「……え。スイープさん!? あっ!? えっと……久しぶり?」

 

 彼女の名前は『ヤマニンシュクル』──『クラシック期』においてスイープと『ティアラ三冠』を争ったライバル。それがカワカミプリンセスが言った名前だった。

 

「ねえアンタ、走るのが怖くなったって本当? だいぶ勝手な『ウワサ』が流れてるみたいだけど。それって本当なの?」

 

「! ああ、それは………本当、だよ」

 

「え?」

 

「でも全部が全部、『ウワサ』通りじゃない。カワカミさんは本当になにも悪くないの。あの子は本気で競り合ってくれただけ。『接触』も大したことじゃなかったし、ケガをしたわけじゃない。……あの時立ち止まったのは、私の『問題』」

 

「『問題』ってなによ」

 

「『無理だ』って思っちゃったの」

 

 まるで悟ったような表情で、ヤマニンシュクルは確かに口にしたのだ。

 

「ケガで休んでる時もうすうすは思っていたんだけどね。このまま復帰しても……きっと私は、って」

 

「…………なによそれ。『無理』って……」

 

「実際カワカミさんとの競り合いで怯んじゃったのが『証拠』。私、彼女に力負けしちゃってた」

 

 『諦めた』ことを──やはりどこか、寂しそうに。

 

「……っ、それに──あなたの『宝塚記念』も見た。すごかった。みんなが『魔法』みたいっていうのもわかるぐらいに、すごかった。『届かない』って思っちゃうくらい……だからもう『やめよう』って」

 

「っ!? なんで? アタシのあのレースを見て、なんでそう思うのよ!? 『届かない』なんてふざけたこと言ってないで、もう一度始めればいいじゃないっ! 『オークス』や『秋華賞』の時のアンタみたいにもっと──」

 

「──無理なんだよっ!!」

 

「っ!」

 

 その叫びに怯んだ。その──拒むような、悲痛な叫びが。

 

「……怖くてしょうがないの。ボロボロに負けて、『終わった自分』を突きつけられることが。私はもう『あの時の私』とも違う。ケガして半年以上も休んだら、誰だって置いていかれる。……そんなの『常識』でしょう?」

 

「……なによ、ジョーシキって。なんで──そんな『つまんない』顔ができるの!? 意味わかんない! ぜんっぜん意味わかんない!! ジョーシキがなんなの!? そんなつまんないことであきらめてる今のアンタ、ほんとに『つまんない』!!」

 

「『常識』は『常識』だよ! あなたと私は違う。私は『魔法』も使えないし『奇跡』も起こせない、『普通』のウマ娘で──」

 

「そんなの知らないっ!! フツーとか、ジョーシキとか、『魔法』でぶっ壊せばいいだけだもん!」

 

「だから、私は『魔法』なんて使えないって言ってるでしょ!? あなたと私は違うの……っ!」

 

「うるさいっつって言ってんのよっ!! アンタ、アタシの秋のレース見にきなさい! 『魔法』で元のアンタに戻してやる!! 絶対に……」

 

 叫んだ。その『思い』を──

 

「絶対なんだからっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ( ´Д`)

 

 

 

 

 

 

 ガラガラガラ!

 

「ミナセ! 次の『GⅠ』っ!! なに!?」

 

「……あー。んー……」

 

 びっくりした。カワカミプリンセスと一緒に部室で待ってたら姫がすごい勢いで飛び込んできた……。部室を出るときとテンションが違いすぎるが、とにかくレースに出る気になったらしい。なったんだよな?

 

「次、次……『天皇賞(秋)』ですかね」

 

「じゃあそれでいい! それからカワカミ!」

 

「はいっ!?」

 

「『天皇賞(秋)』ですっごい『魔法』を使ってやるから、『アイツ』を絶対に引っ張ってきて!」

 

「わっ、わかりましたわ!」

 

「あとミナセ! トレーニングの予定きっっっっちり組んどきなさいよ!」

 

「はいはい。任せてくれ」

 

 

 

 

 

 そして次にスイープが向かったのは校内──

 

(『レースの魔法』は『つまんない世界』をぶち壊して、みーんなをワクワクさせるすごい『魔法』なんだからっ)

 

 とっとっと……ぷんすかオーラを立ち上らせながら目的の人物を探して歩き回っていた。

 

(アタシの『魔法』を見たのにあきらめるなんて、絶対に許さない! もっとカンペキに、もっとすごい魔法を使うっ!)

 

 気に入らない。気に入らない──何を勝手に諦めているのか、許せない。

 

(そのために必要なのは、あとは『ライバル』よっ。みんなを熱狂させる『特別なレース』をするための『ライバル』──)

 

 と、そこの角から現れたのは目的の人物。

 

「ロブロイ! ちょうどいいところに!」

 

「スイープさん!? よかった、私もあなたに話したいことが……」

 

「アンタなら、アタシの『ライバル』役として間違いないわ! 『天皇賞(秋)』に出て!」

 

「! 『天皇賞(秋)』にですか? スイープさんもそちらに出走を?」

 

「ええっ!」

 

「……! ふふっ、私ももう一度あなたとレースがしたいとお願いしに来たところだったんです」

 

 渡りに船とはまさにこのこと。

 

「ぜひお願いいたします。次こそは私……負けませんからっ」

 

「ええ、サイコーの『ライバル』役を頼んだわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 目標:『天皇賞(秋)』

 

 カーン‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 東京は今日も止まることを知らない川の流れの如く、人々をその水流として流れている。都内──小さなカフェ。

 

「お忙しいところ来ていただいてありがとうございます」

 

「ううん、いーのいーの。どーせ生徒たちはもう『夏合宿』に出ちゃってさ。ただでさえウチは『暇』なんだし、ちょうど良かったんだよ」

 

 2人の女性がテーブルを挟んで向かい合っていた。

 

「えっちゃんがこんなとこに呼び出すなんて珍しいね。何かあったの?」

 

「……学園内ではお話しづらいことですから」

 

「ふーん? それで、話ってなーに?」

 

「水瀬トレーナーの件で、いくつか伺いたいことと、お願いしたいことがあります」

 

「水瀬くんの?」

 

「ええ」

 

 2人のうちの片方──『乙名史記者』は、目の前の女性の1人の『友人』ではなく、『記者』としての面持ちで切り出した。

 

「現在、私は水瀬トレーナーの『正体』を調べているんです」

 

「へー……いいじゃん、私も気になる。何か分かったの?」

 

「……今のところはまだ、はっきりしていません」

 

「はっきりしない言い方だね〜? それで、私になにを聞きたいの?」

 

「彼は元々『事務員』だったとか」

 

「うん、そだよ。ウチにやってきたピカピカの一年生って感じでねー……。いやー、すっかりウチの水瀬くんも有名になっちまったもんだよ。『先輩』として誇らしいぜ!」

 

「その時のことを聞かせて頂けませんか?」

 

「え? あー、まあいいんだけどさ。本人に聞けばいいじゃん」

 

「……ええ。その通りですが……記者としての『勘』とでも言いますか──彼は何かを『隠している』。それを知るためには、『警戒』されてはいけない……漠然と、そう感じるんです」

 

 真剣な表情でそう言い切った乙名史を、もう片方の女性がじっと見つめてから答えた。

 

「いいよ。ま、『秘密』があるなら知りたいと思っちゃうのが人の『(サガ)』。しょーがないよね! あることないこと喋っちゃおうかな。そうだね、まず──」

 

 そして女性──朝日は語り出した。

 

「まあえっちゃんもなんとなく分かってるとは思うんだけどさ。ウチって『ワケアリ』なわけ。そんでもって『窓際部署』だから、わざわざ若い男の人をわざわざ雇うのもどーかなーってカンジなんだけど」

 

「職員採用の基準は、どのような?」

 

「さあ。私は人事じゃないし、さっぱり知らない。でも……ほら、レース業界っていろんなお偉いさんたちだとか、『名門』とか『名家』とかあるじゃない?」

 

「ええ」

 

「なんていうかなー。あんま大声じゃ言えないんだけど、まあトレセンにもあるわけよ。『派閥』とか、『力関係』とか、そういうの。1番それが現れるのがトレーナーの人たち。で、次に──『裏方』の人たち、つまり私たち」

 

「……」

 

「いや、別に悪だくみとかしてるわけじゃないんだけどさ。例えば先生とかが実はさる『名門』の手の人でー、その『名門』のウマ娘をこっそり補習から逃してあげるとか。かわいいもんでしょ? まあこれだけで済んだらどうってことはないんだけど」

 

「『URA』との関係、ですか?」

 

「そ。よく知ってるねぇ、さすがは記者さんだ。トレーナーの人たちが目指すのはね、最終的にはURAの『役職』であり『理事長』さんでもある。そもそもURAは『特殊法人』──元々政府から『全額出資』の上で設立された過去を持ってる。もっと具体的に言うならば『文部科学省』の言いなりってわけ。まあ学校ってものは全部そうなんだけどさ、ともかく出世するには無視できない要素なのよね。まあそっちはそっちでいろんな争いがあるみたい」

 

「なるほど。しかし、それとトレセン内の『派閥』がどのように繋がるのですか?」

 

「繋がるってほどじゃないんだけど……トレセンの職員が『URA』に行ったり来たりっていうのはよくあるんだよ。それに、トレセンとか『URA』の中に自分の家の手下がいるっていうのは『何かと役に立つ』……らしいよ。例えば採用担当を抱え込んでおけば自分の家の人間を簡単にトレセンに送り込める訳だし」

 

 いわゆるコネ入社というもの。しかしトレセンとて優秀な人材で溢れかえった場所だ。あまりに無能だと普通に追い出されたりすることもなくはない。

 

「……水瀬トレーナーは、そうしてやってきた『事務員』の1人であった……と?」

 

「かもねー、ってか多分そう。まあ多分、『二階堂家』の人だったんだろうけど」

 

「『二階堂家』の人……『だった』?」

 

「まー、一悶着あってねー。私の仕事は、そういう派閥争いが行き過ぎたときにシュタッと現れて、課長と一緒全員ボコすことなんだけどさ。いやー、あれは大仕事だったよ」

 

 まあそれはともかく。

 

「ズバリ私の予想では──水瀬くんは『トレーナー免許』を取得したはいいけど、『二階堂家』の命令で仕方なく『事務員』としてトレセンに潜入することになり、そしてスイープちゃんに出会ってしまった! ……どう? どう? それっぽくない?」

 

「そ、そうですね……。ええと、ではどうして『二階堂家』はわざわざ水瀬トレーナーを『事務員』にしたんでしょうか?」

 

「あっ、それはねー……これ結構自信ある推理なんだけどね。ほら、二階堂っていうチンピラいるじゃん?」

 

 チンピラ……。

 

「やっぱりほら、水瀬くんの方が目立っちゃうのが嫌だったんじゃないかな。多分水瀬くんは下っ端だったんだけど、あのチンピラの百億倍才能あるし。でも『二階堂家』としてはやっぱり、水瀬くんが目立つのは都合が悪いわけじゃん」

 

「……確かに、『納得』はいく説明ですね」

 

 仮説1:二階堂家の子息である二階堂健人よりも、ただの下っ端である水瀬光一が目立つのを嫌がって、二階堂家は水瀬光一を事務員としてトレセンに送り込んだ。

 

 しかしそれではどうしても『納得』がいかない。それならばどうして、元『地方トレーナー』であるなどという『嘘』をついていたのか? 通常通り、『中央トレーナー』のライセンスを取得したのであればそのような『嘘』は必要ないはずだ。

 

 加えて、なぜ水瀬をそんな『窓際部署』に送ったのか? この友人──朝日の『正体』は一応『秘密』らしいが、二階堂家は知らなかったのか?

 

 必ず『理由』があるはずだ。全ての疑問を解消する『理由』が。

 

「あらら。えっちゃんってば全然『納得』してる顔じゃないね」

 

「私はどうしても知りたいんです。その『秘密』に隠されたものを」

 

「根っからの『記者』だね。でも、私が話せることはこのぐらいだよ?」

 

「朝日さん。お願いがあります。水瀬トレーナーの『履歴書』を手に入れることは出来ませんか?」

 

「えーっ! 『履歴書』ぉ……? そりゃ、まあ……うーん、まあ……えーっと……なんていうか、人の家の冷蔵庫勝手に開けるみたいで嫌なんだけどぉ……」

 

 朝日はしばらくうんうん言っていたが……。

 

「……いいよ! 私も気になるしね、暴いちゃおう! 水瀬くんの『秘密』!」

 

「私から頼んでおいて何ですが、可能なのですか?」

 

「トレセン職員ネットワークを駆使すれば何とかなるかな。派閥があっても、みんなレースが大好き! まぁ任せてよ、でももちろんタダじゃないからね。覚悟しておくよーに!」

 

 

 

 

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