どこにもいない水瀬を部屋で待っていた。温泉旅行翌日は月曜日、朝から何だか騒がしかったが、スイープにとってはまた水瀬と顔を合わせるということで頭がいっぱいで、何を話そうかなんて柄にもないことで頭を悩ませていた。
ガラガラ。
「あっ、遅いわよミナセ! こっちは1時間以上も待って、……? なんだ、違ったの。アンタ、『事務室』の……」
入ってきたのは朝日──事務室の女性が、不気味なほど静かで、そして悲痛な表情を浮かべていた。
「スイープちゃん。あのね……落ち着いて聞いて。水瀬くんが昨日の夜逮捕された。無免許でトレーナーをしていたんだって……」
「? 何を言ってるの?」
「信じられないよね……? 私もそうだよ。だから、どうか……どうか、落ち着いて聞いて」
よくわからない。一体何を言ってるんだろう? 言葉が水のように流れて、そして意識の向こうへ滑り落ちていく。
「ミナセはどこ? アイツ遅いのよ。もう1時間も遅刻してるの。今まで遅刻なんてしたことなかったのに」
「水瀬くんは、もう拘束されてる。スイープちゃんのところにも、すぐに『警察』の人が来て、きっと……『証人』として、『証言』をお願いされると思う」
「???」
「水瀬くんはね……レース史上最悪の『詐欺師』であり、『犯罪者』だったんだ……。こんなこと、初めてで……『URA』も、『トレセン』も……どう対応していいか、分からないの……」
「あっはは、何言ってるの? アイツがそんなわけないじゃない。嘘つくとすぐ分かるのよ? 顔に出るし、それに『約束』してくれたのよ? アタシに『嘘』はつかないって」
カラッと笑って流したスイープの表情に、朝日の顔の影が一層深くなった。そして、部室に備え付けてあったテレビのリモコンに手を伸ばす。
「……テレビをつけるね。朝からその話題で持ちきりだから」
テレビをつけると、どの番組も『それ』を取り扱っていた──
『あー、ですから今回の件はですね、いわゆるトレーナー業界全般の問題点なんですよ! そもそもトレーナーって、いわゆる世襲的なものが通っていてですね、まあやろうと思えば出来るってものだったんですよ! ほら、偉い人って大体はトレーナー上がりでしょう』
『まあなんていうんです? 組織の隠蔽体質ってものがですね、まああったわけですよ。流動性のない組織はやっぱりどうしても腐っていくわけで。まあここにいわば、水瀬トレーナーが付け込む隙のようなものがあったっていう』
『これまでの実績を考えると、水瀬トレーナーの受け取っていた報酬というものはかなりのものになると思うのですが、その辺りはいかがですか?』
『まぁ、無免許でやっていたわけですから、全部不当に受け取ったものじゃないですか。中学生くらいの女の子騙して金を稼ぐってのは、まあなんていうんですか? 到底許されるような行為ではないと思いますね』
「あっ、分かった! ドッキリね? もう、テレビまで使うなんて随分大掛かりなのね? これも何? こんなチャチなビデオ一つでアタシを騙そうなんて百年早いのよ。ほら、他のチャンネルにすれば──」
『現在警察から発表されている情報では、水瀬さんは過去3年に渡って免許証を偽ってきたとして、今朝書類送検されました。どのようにして免許証を偽造したかという点については現在捜査中とのことです』
『水瀬さんは約3年前からトレーナーとしての活動を開始し、魔法使いスイープトウショウさんのトレーナーとして有名でした。その素性については公表されていませんでしたが、今回の件を受けて、トレーナーとしての偽造のために偽ってきた可能性が高いとして、警察は取り調べを進めています』
『URAは今回の件を受けて、現在事実関係を調査中だとして、コメントを控えました。街の人の反応は──』
「……ッ!」
「あら? おかしいわね。ドッキリのくせに、全チャンネルこれやってるの? どいつもこいつも、アタシを騙すためにそこまでやるの? 暇な連中ばっかりなのねー……」
アホな大人たちに、スイープは『はぁ』、とため息をついた。
「……スイープちゃんは……騙されていたの。ずっと……『水瀬光一』という人に……」
「アッハハ、騙されてって! さっきも言ったけど、アイツがそんなこと出来るわけないじゃない。さ、ドッキリはもう十分でしょ? ミナセ、さっさと出てきなさい〜!? 今ならまだゲンコツ一回で許してあげるわ!」
スイープトウショウの明るい言葉が痛いほど突き刺さって、朝日は静かに瞼を抑えた。
「……こんな、どうして……こんな、酷いこと……」
「もう、さっさとしなさいよね! 仕方ないからアタシから迎えに行ってあげる!」
廊下を出た時、大量の警察官が居た。
「へ? な、なに? あんたたち……」
険しい顔をした大量の警察官は、スイープに断りもなくズカズカと中に入っていくと、用意していた段ボールに部屋の全てを詰め込み始めた。
「え……な、なに──なにしてるのよ? やめっ、やめなさいよ、それは、アタシのトロフィーとか……っ、それはミナセのパソコンよ! 何してるの!? やめなさい! なにしてるのよ、こんなことして、絶対許さないんだから!」
「……酷すぎる、こんな……」
棚に並んだ『10個のトロフィー』、この3年間の『証』も。棚に飾ってあったスイープのぬいぐるみグッズも、机の上に散らかっている水瀬のペンも、ノートも、棚にあるファイルも、デスクの中も全て。
「待って、やめなさいって言ってるでしょ!? なんでやめないの!? ミナセ……ミナセはどこ? どこかに居るんでしょ? 隠れてるんでしょ!? はやく……出てきなさいよ、なんで出てこないのよ!」
詰め込まれては外へ運ばれていく。最初はただ狼狽えていたスイープも、手を伸ばして1人の警察官の腕を掴んだ。しかしそんなことをしている間にも、別の警察官が手を伸ばしているのを見て、慌ててそれを止めに走って、
「どうして……どうして、こんなことに……」
「やめなさいっ、やめなさいったら! それはミナセの──アタシの大切な『思い出』なの! 返しなさい、返してっ!! 持っていくのをやめて!! 返して、返してってばっ!!」
どれだけ力があっても、スイープは1人しかいない。大量にいる警察官の作業を止めることなどできない。瞬きの間に物が無くなっていく。
「見てられないよ……こんなの……えっちゃん、どうして……?」
「やめてっ!! アタシの大切な『思い出』を持っていかないで!! 返しなさい!! アイツとの『思い出』を持っていくのをやめて!! ミナセとの『思い出』を奪わないで!! 返しなさい!! 返してぇっ!!!」
次々と運ばれていくものを取り返そうとして、朝日がぎゅっとスイープを抱きしめた。
「もういい……もういいよ、スイープちゃん。もうやめよう……!?」
「放しなさい!! アイツが……そうだ、ミナセはどこ!? どこにいるの、今すぐ会わせて! アイツと話をさせて! そしたらすぐ、『ウソ』なのかどうか分かるから!」
朝日はこれから、この少女に全ての『真実』を告げなくてはならない。それがどれだけ痛くとも、誰かが伝えなくてはならない。
この残酷な『真実』を──
「『嘘』だったんだよ……スイープちゃん……ッ!! 全部、全部ぜんぶ、最初っから『嘘』だったんだよ……! ミナセくんは元々本当にただの『事務員』だったのッ! レースのことなんて、なんにも知らなかった……」
「『ウソ』に決まってるでしょそんなことっ!! アイツは元々北海道のトレセンにいて、そこでトレーナーをしてたの!! でもそこが閉鎖されちゃったから、仕方なく中央に来て、そこでアタシと出会ったの!!」
どうしてこんなことになったのだろうか?
「違う。違うの、スイープちゃん。水瀬光一なんて人が岩見沢トレセンにいた事実なんてないんだよ。全部嘘なの……」
あの時──怪しむべきだった。スイープトウショウのトレーナーになったばかりの水瀬は本当に素人で、手がかりはあった。『レースのことは何も知らない』と、『事務員』になったばかりの水瀬は言っていた。
『あの時、トレーナーであることを隠さなければならない事情があった』、朝日は本気でそう信じていたのだ。そうでなければ、こんな前人未到の伝説など作れるわけがなかったから。
「違う。そんなわけない、どうしてそんなウソをつくの? アタシを困らせたいの? だって『約束』したの。ミナセはね、アタシにウソをつかないのよ。つかないって『約束』した。ずっとその『約束』を守ってくれていた!! アイツが『ウソつき』なわけないわよ!! アンタ一体何を言ってるの!? ふざけるのもいい加減にしなさいよっ!!」
「スイープちゃん!!!」
「っ!」
ムキになって否定するこの少女に、『真実』を理解してもらわなければならない──ふざけるのもいい加減にしろなんて、本当はこっちが言いたいよ。
「……ミナセくんはね、4年前まで『K大学』に在籍していたの。記録もある、当時の教授も認めてる……」
「ウソよ」
「ベンチャー企業を立ち上げていたそうなの。当時からとびっきりに優秀だったみたい、ぐんぐん成長していった……当時の仲間たちとも『証言』が一致した。間違いなく水瀬光一と一緒に働いていたって」
「ウソをつかないで」
「仲間たちとトラブルがあって、裏切られた。結果的に水瀬くんは罠に嵌められて逮捕された。実刑も下って、水瀬くんは大学を辞めた……!」
「うるさい! アンタの思いつきを語らないでよ!! アイツがそんなことするわけないでしょ!? タイホなんて、『嘘』に決まってるじゃないっ!!」
「行き場のなくなったミナセくんを拾ったのが『二階堂家』なの。URAに太いパイプがあった『二階堂家』の当主、『二階堂正毅』の好意で、ミナセくんはトレセン学園の『事務員』として、新しい人生を始めた。でも……」
「っ、ニカイドウ……!」
宝塚記念の騒動は記憶に新しい。スイープだって、あの原因がなんだったのか全く知らないわけじゃない。
「スイープちゃん。君はあの頃、いろんなチームに出たり入ったりってしてたよね? それが問題になって、君は二階堂トレーナーに預けられることになった」
「そんな訳のわかんないことが起きる訳ないでしょ!? どうしてアタシだけ『特別扱い』されてたって言うのよ!!」
トレーナーの数は絶望的に足りていない。そんな中、ウマ娘を逆にトレーナーに付けるなどあり得るはずがない。あり得るはずがなかった。
「あなたの『おばあちゃん』が、URAの会長のお友達だった。だから、その好意で……ちゃんと『トレーナー』が付くようにって、それで」
「グランマがそんなことする訳ないでしょ!!」
「ただの雑談というか、そんな厳重なものじゃなかったんだよ。君にいいトレーナーがつくといいなって、そんな……ただの『願い』だった。ただ、その偉い人たちに忖度したトレセンの上層部が、トレーナーたちに命令してたの! 君にトレーナーをつけろって!」
──似たようなことはこれまでに何度もあった。名門や名家と呼ばれる家の出身は優遇される。あからさまとまではいかないまでも、そもそもその肩書きだけでトレーナーはそのウマ娘に注目しやすい。
『人』が運営する組織の中で、それは決して綺麗なだけの世界ではなかった。そしてその全ての『歪み』が、最悪の形になって現れた。
「なによ、それ……」
「でも、ワガママ放題だった君を引き取りたいトレーナーなんて居なかった!! だからトレーナーの人たちはこぞって二階堂トレーナーに押し付けたの!」
「……!」
──あの時だ。水瀬と出会ったばかりの頃、確かにそうだった。誰も彼も気に入らなくて……そんな『記憶』と、朝日の言葉の『辻褄』が合致していく。裏付けられていく──そんな感覚が怖くて、ただ目を見開いた。
「でも二階堂トレーナーも君の相手をしている暇はなかった。二階堂トレーナーは重賞制覇に向けて燃えていたから」
「……ウソよ」
やめろ。そう考えれば、確かに納得がいく──なんて、考えるな。
「だから二階堂トレーナーは押し付けることにしたの。君がよく懐いていた『事務員』を『トレーナー』に仕立てて、君を押し付けた……不幸にも、ミナセくんには『二階堂家』に大きな『恩』があった。行き場のない自分を拾ってもらった『恩』が……だから……逆らえなかったんだよ。やるしかなかった。だからミナセくんは君の『トレーナー』になるしかなかった」
「ウソをつかないで。アイツはね、アタシが『魔法』をかけたの。アタシの『トレーナー』になれって。そんな、ワケのわかんないことが原因でなったんじゃない……」
『魔法』をかけたのだ。『魔法』には『種』も『仕掛け』もない、だからそれは違う。違う、違う──朝日は、そんなスイープの思いを砕くように話し続けた。
「でも二階堂トレーナーは君とミナセくんがレースを勝つなんて想像してもなかった! 君にどれだけ才能があっても、ミナセくんはトレーナーとしては『全くの素人』だったから! 『メイクデビュー』を勝利して、『GⅠ』を制覇して!! 『トリプルティアラ』を達成して、そして『宝塚記念』まで勝っちゃって、史上初の『9冠』を達成しちゃうなんて想像も出来なかった! 2、3回もレースに出れば、負けて諦めるだろうって! そうタカを括ったんだ!!」
もう手がかりは揃っていて、朝日が真実を知るのはそう難しいことではなかった。そして、この全てがいずれ報道の自由の名の下に、白日の元に晒されるだろう。
「証拠を出しなさいよ!!! アンタの言うデタラメがホントだって示す証拠を見せてみなさいよ!! じゃなきゃ信じない!! アンタの話なんて信じない!!」
「……宝塚記念の時……覚えてるよね、水瀬くんが誘拐された。あれはね、二階堂トレーナーが計画したことだった……」
始まりからして歪んでいた。
砂遊びのように建てた城のように、寄せる波一つで崩れてしまうそれを、必死に守ってきた。
「水瀬くんの正体が暴かれたら、二階堂トレーナーだっておしまいだよ。でも、もう君と水瀬くんを止めることなんか出来なかった。だからって、君たちを放っておくことも出来なかった。もちろんそれだけの理由じゃなかったけど、結果的に水瀬くんは『恩』のあった『二階堂家』を裏切って、君のトレーナーであることを選んだ」
「……──信じない。信じない、アタシは信じないっ!!」
「素人だったミナセくんはね、努力したの。君を勝たせるために……たくさんのことを勉強していった……」
「そんなの全部デタラメに決まってるじゃないっ!! アンタの言ってることがホントなら、ミナセがアタシにソーダンしなかったワケないっ!!」
「……言えるわけない……。水瀬くんが君に『真実』を伝えることなんて、出来るわけないよ……!」
「っ、どうして!? アイツはアタシの『使い魔』で、隠し事なんてダメなんだから……!」
「『共犯』になるからだよ」
「きょう、はん……?」
「いつか、『魔法』が解けた時……君が『罪』に問われないために……! 『真実』が明らかになった時、君が『責任』を問われないように……! 水瀬くんは『正体』を隠さなきゃいけなかった、だけど君が勝てば勝つほど余計に『正体』が暴かれる可能性も高くなっていった。水瀬くんは致命的な『矛盾』を抱えていた……!」
きっと、えっちゃんがやらなくても誰かがやっていたんだ、と朝日が呟いた。それは後悔だったのか、それとも恨み言だったのか?
「イヤ。信じない、信じない……信じない、アタシは信じない!! 信じない!!!」
スイープは首を振った。目を閉じて──何も見えないように、目を閉じて叫んだ。目を閉じて、耳を塞いで、認めない認めないと、それこそ駄々っ子のように。
だけどここに至っては何もかも遅いのだ。
「でもミナセくんは、そんなこと気にも留めずに君を勝たせるための手段を尽くしたの!! それはどうして!? 自分が『破滅』することを分かってたの、ミナセくんは……最初っから分かっていたの!!! でも続けたの! 君のトレーナーを続けて、君は歴史に残る偉業を残した!! ミナセくんはずっと君の横にいた!! それはどうして!? 答えて!!」
スイープに一切の罪はない。朝日には分かっている──スイープが何も知らないことも、知らなかったことも、知らないようにされていたことも。だけど叫ばずには居られない。そうでなければ、あの水瀬という哀れな青年はなんだったのか。
「うるさい!! うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいっ!!! 黙ってっ!! 黙りなさいっ!!」
「どうしてそんなことをしたの!? 分かってるでしょ!? ミナセくんは身の安全を考えるなら君のトレーナーなんてさっさと辞めて!! トレセンも辞めて、どこか別の場所に消えるべきだったんだよ!! でもそうしなかったの!!! それはなんで!?」
「うるさい!! うるさいうるさいうるさい!! もう黙って!! もう黙ってよ!! 黙りなさい、黙りなさい!!!」
トゥインクルシリーズを巡ってきた偉大な旅路の果てにあったのが──こんな泣きそうな少女では、あまりに報われない。
「君には分かってるでしょ!? 答えて、スイープちゃん! 君が答えなきゃダメなの、分かるでしょ!? 君が分かってあげなきゃダメなの!!」
「わっかんないわよ!! アイツは、バカで! なに考えてるのか、あんまり分かんなくて!! アタシの言うこととか、ワガママも……全部、聞いてくれたの。嫌な顔一つせずに……だって、アイツは……アタシの、『使い魔』だったから……」
「そうだよ!! ミナセくんは……君のトレーナーを続けたかったんだよ!! ミナセくんは、君の『魔法』を見ていたかったんだ!! 君のことを見守っていたかったから……最後の瞬間まで、君の隣に居たの……!!!」
苦痛もあったはずだ。葛藤もあったはずだ。今のスイープよりも、水瀬はずっと苦しんでいたはずだ。どれだけ信頼されようとも、どんな花のような笑顔を向けられても、『騙していた』事実を抱えていたはずだ。
こうなるしかなかったのか? もしも水瀬が、あるいはスイープが、お互いの中にもう一歩踏み込んでいれば──何か、変わったのか?
「お願い……もう、なんにも言わないで……っ」
涙の滲む小さな声。
水瀬が何かを隠していることなど、スイープだって分かっていた。あの『夏合宿』の日、水瀬がスイープに言わなかった先に、きっと『大事なこと』が隠れていたことなんか分かっていた。
それでも信じた。いつかは話してくれると信じたから──こうなった。
「……やだ、やだ……やだ、やだ、やだやだやだ……」
問い詰めるべきだったのか? 多分そうなのだろう。疑って、怒って、そしてなんとしてでも聞き出すべきだったんだろう。
「やだ……こんなの、やだ。こんなの……だって『約束』したの。『また明日』って……明日も、その次の日も、その次の次の日も、ずっと……一緒にいるって、『約束』したの……」
乙名史は疑った。スイープは信じた──その結果、こうなった。疑うことを知らなかった。信頼が嘘を生んだ。
「やだ……やだ、やだああああああああ! やだ! やだ、やだ、やだ!! やだ!! やだ、やだっ!! やだぁ……っ!!」
「スイープちゃん……」
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
「やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ……っ」
どこから間違っていたのだろう。
「アイツが一緒じゃないとイヤなの! ミナセが横にいないとイヤなの!! じゃないと、アタシ……っ!」
最初から『正解』などなかったのだろう。最初──そうだ、『あの時』だ。
「なんで……こんな、ことに……っ」
こんなことになってしまった『最初の魔法』。きっとこの『結末』は、あの時に決まった。不幸にも、スイープはそれに気が付かないほど愚かではなかった。
「……君のせいじゃない。君は何も悪くないんだよ、スイープちゃん……!」
「そんなわけないじゃないっ!! そうだ、アタシが──アタシが『魔法』をかけた……っ! ミナセに『魔法』をかけて、トレーナーにした……!!」
──これが『魔法の代償』。『不可能』を『可能』にしたその不思議な力が、その『代償』として求めたもの、その果て。
「アタシが……『魔法』をかけたから?」
「違う!! それは違うよ、君のせいなんかじゃない! こうなってしまったのは私たち大人の都合で、君は何も関係ないの!」
朝日の否定の言葉もスイープには届かない。そんな表面的な言葉など、もう耳に入ってこない。
「アタシが……『レースの魔法』を探すために、『ティアラ』を目指して、『宝塚記念』を目指したから?」
「君のせいじゃない。違う、違うんだよ……!」
朝日が否定すればするほどに、その思いは強くなった。
「アタシが、アタシが『魔法』なんてかけたから──……」
それに気がついた時、スイープトウショウは心の底から後悔して、そして絶望した。無邪気に魔法を信じて、そしてそれを振り撒いてきたことを後悔して、そして水瀬を『そこ』まで連れてきたのが自分だという事実に辿り着いて、生まれて初めて後悔した。
「使わなきゃよかった──『魔法』なんて、使わなきゃよかった!! こうなるなんて分かってたら、アタシは『レースの魔法』なんて知らないままで良かったっ!!」
スイープの『魔法』は、これまでのレースの『歴史』を壊し、『常識』を壊し、壊してはいけないものまで壊していった。何もかもを壊して、何もかもを変えていった。
「返して!! アタシの使い魔をっ、ミナセを返してぇっ!!!」
誰に叫んでいるんだろう。朝日はその言葉を受け止めることが出来ずに、ただ小さな肩を抱き締めることしか出来なかった。
「返して、お願い…………────」
最終話 魔法のない世界で生きるということ