羽田空港から飛行機で1時間、空港からバスで40分、そこから電車に乗り換えて18分、歩いて10分。水瀬の実家──というより、母親が1人で暮らしている場所は、ある地方都市にあった。経年による汚れが目につくが、そこそこのマンションらしい。
ゴミ置き場や、騒音への注意書き、ポストに詰まったチラシの山はほったらかし。嫌でも感じ取るのは生活感。路上にポイ捨てされたタバコの吸い殻は、掃除され損ねて残っていた。
階段を上がる。
ピンポーン……。
ピンポーン…………。
ピンポーン………………。
「……」
ピンポーン、ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン、
「うるさい!! 誰!?」
幸いにも在宅だったようだ。怒涛のインターホン連打に顔を顰めながら出てきたのは、中年の女性だ。
「営業なら間に合ってる、さっさと帰って!!」
「突然の訪問、申し訳ありません。こういうものです」
乙名史が慣れた様子で名刺を差し出している横で、スイープはその女性を見上げていた。乙名史の話が確かなら、このくたびれたような中年の女性こそが……。
「え……レース、記者……? な、なんで……こ、ここが……?」
「水瀬裕子さんでお間違えないですね。少々、お話を聞かせて頂けませんか?」
「こ、断ります。私、忙しいから」
そう言ってドアを閉じようとしたところに、乙名史は靴を入れ込んで邪魔をした。
「あなたの息子について、お話を伺いたいんです」
「ッ、知らない! 私は、光一なんて知らない、私に子供はいない!!」
「誰もあなたの息子が水瀬光一などとは言っていませんよ」
酷く怯えた様子の女性、その理由には想像がつく。水瀬の関連ニュースはまだ続いているし、バッシングの勢いは増すばかりだ。自分がその母親だと知られたら──まして、記者を名乗る人物が訪ねてきたら。
「安心してください。私はあなたのことを取り立てて公表するつもりはありません。ただお話を聞きに来ただけなんです」
「そんなわけない……! 違う知らない、何も知らない、悪いのは全部光一、光一が全部悪いの……!」
「ドアを開けて頂けませんか? お互い、場所を変えたほうがいいと思いますが」
「帰って、帰って帰って帰って! こんなの、全部光一のせいよ! 私は悪くない、私は悪くない、私は悪くない……」
ドアチェーンがある限り、まともに顔も見ることができないその女性は酷く狼狽していた。うわごとのように繰り返されるその言葉に、静観を保っていたスイープトウショウの我慢が効かなくなった。
「危ないから、どいてなさい」
「え?」
メキッ……!
力任せに引っ張ったドアと共に、ドアチェーンが根本から千切れた。鉄製のドアも少し歪んでいる──
「ひっ……!?」
「……アンタ、ミナセのお母さんなんでしょ? ねえ、なんでアンタまでミナセのことを悪く言うの?」
「あ、ちがっ──や、やめてッ! 来ないで……!」
「教えて。ミナセの『家族』なんでしょ?」
「わ──悪いのは光一! 昔から……問題ばかり起こして!! そのくせ、最後には私を捨てて東京へ逃げた……!!」
小さなマンションだが、玄関から見る限りはそう狭くなさそうだ。平日の夕方に訪ねたにしては、留守ではなかった──在宅職か、あるいは。
「あなたのことは、調べさせていただきました。借金があるとか──」
「っ……あなた、人のことを勝手に……!」
「8年ほど前、経営していた会社が潰れたことで、かなりの借金を背負ったそうですね。しかし、その全ての負債は最終的にあなたの息子がどうにかした、と」
正確には、二階堂家がその負債を肩代わりする形で決着し、今も債務は水瀬に引き継がれているはずだ。
「しかし妙ですね。あなたは現在、定職には付いていないようですが……こちらのお部屋、家賃はそう安くはないでしょう。この玄関の靴、おそらくブランド品ですよね? さらに借金をされている。どういうことなのでしょう?」
「ちが──こんなはずじゃなかった! 光一が──もっと、お金を送ってくれれば、こんなことにはならなかった!」
「どういうこと……!?」
トレーナーとして十分な収入を得ていた水瀬だったが、別に車を買うわけでもなく、贅沢をするわけでもなかったらしい。収入のいくらかは実家への仕送りに充てられていたということだ。
「そうよ!! 光一がもっと『お金』を送ってくれれば、私は幸せになれたのに!! アイツのせいで、私はこんな、酷い目に遭ってる!! またとんでもないことして、私に迷惑をかけてる! 息子のくせに!!」
「……『家族』じゃないの?」
まるで、全く知らない未知の生き物を見るように、スイープは首を傾げた。
『家族』──暖かいもののはずだ。パパ嫌いのスイープとて、家は気楽で、安心できるところだと知っている。
「なんでそんなことを言うの? ……『家族』って、そういうものなの?」
「いいえ。水瀬さんは、この環境から逃げ出すために上京したと話しています。彼にとっては、ただの鎖だったはずです」
「……」
目の前の、必死に喚き立てる女性を見下ろす。
「また私に迷惑をかけて、また犯罪を起こして! 産んでやって、育ててやったのに! 恩知らず、あの恩知らず! あんなヤツ息子じゃない! 私は悪くない! 私は悪くない!!」
「……、…………哀れね」
この世にはどうしようもなく救いようのない存在がいる。
これまで出会わなかっただけで、確かにそこにいた。
空はずっと曇っている。飛行機を降りて、空港から見える空はずっと灰色だ。ここのところ、あれが青色に染まっているところは見ていない。太陽も見えない。
全てが暗闇に沈んでいたと思っていた。
隣を見ると、乙名史がいる──水瀬ではなく。
ずっと隣にいるものだと思っていた。
「……ミナセ。アンタ、ずっとひとりぼっちだったのね」
自分だけが苦しいと思っていた、いや──そもそもそんな意識もなかった。
「それでも、アタシに出会ってくれて、アタシの側にいてくれてありがと」
辛かっただろう。苦しかっただろう。いつ嘘が暴かれるかと、怖かっただろう。それでも側にいてくれた。
「ありがとね、ミナセ」
空を見上げた。やるべきことは明確になっている。
「──オトナシ」
「はい」
「アタシ、『有馬記念』に出る」
「!」
「アンタをアタシの『雑用係』に任命してやるから、面倒なことはアンタが全部やりなさい。分かった?」
「謹んで拝任します。差し支えなければ、有馬記念へ出走する理由を伺っても?」
「──『魔法』をかけるのよ。この世界に、もう一度」
その答えに、乙名史は満足そうな微笑みを浮かべた。そしてすぐに、スイープに立ち塞がるであろう障害に思索を巡らせる。
スイープは振り返らずに歩き出した。
-
「有馬に出るって……本気なの、スイープちゃん……!?」
「何度も言わせないで。アタシは出る。出るって決めたの」
部室を訪れた朝日が驚きと、焦りの表情を浮かべている。ようやく学校に登校し始めたと聞いたので顔を見に来たのだが、またとんでもないことを言い出している。
「出る、って……だ、ダメだよスイープちゃん! 今の君が『レース』に……『有馬』なんかに出たら、どんなことが起きるかわからないよ!」
朝日の言葉など聞こえていないように、スイープはホワイトボードにレースの模擬図を書いている。簡単な作戦を考えているのだ。
「水瀬くんは『偽物』だったんだよ!? そんなトレーナーにウマ娘の『管理能力』なんて認められない! 今まで出場してきたレースも、優勝を取り消すって話も出てるくらいなんだよ!」
「で?」
「で、って……だから、出場なんてURAは認めないよ、『世間』だってそう! 君はあのトレーナーに騙されてきた『可哀想なウマ娘』なんだよ! 今までの水瀬くんの行動は、『レースの歴史』に泥を塗る行為だった!」
「なんで?」
「だってそうでしょ!? 『能力』さえあれば『資格』はいらないなんて、じゃあその『資格』を取るために努力してきた他のトレーナーたちの立場はどうなるの!? そのトレーナーたちに指導されてきたウマ娘たちはどうなるの!? 『罪』は『罪』だよ! どれだけ凄いトレーナーだったとしても、水瀬くんは『犯罪者』なのッ!」
朝日とて、水瀬を庇いたい気持ちはある。しかし、同時にスイープの意思を肯定するわけにはいかなかった。スイープが『前』に進むことで降りかかる困難は、スイープを酷く傷つけてしまうかもしれないから。
「君と水瀬くんにそんな気がなかったことなんて、私だって分かってる、分かってるよ……! でも、それでも……水瀬くんがやってきたことは、レースに関わる全員を、バカにしてる……!」
同時に、朝日もレースに救われた1人の人間としてそう感じたことも事実だ。水瀬の境遇など朝日だって分かっている。だが朝日は割り切れなかった。割り切れなかったのだ。
『真実』に薄々は気がついていながらも水瀬を止められず、友人の起こした悲劇を止められず、そして今度はスイープも止められない。それができる立場にいたはずなのに──
「だって、『こんなこと』を起こさせないために『トレーナー試験』が……『法律』があったのに……」
これ以上傍観者の立場でいることを、朝日の中の何かが許さない。そのためにはスイープを止めなければならない。
「関係ない。アタシはそんなの知らない」
しかしそんな朝日の心境こそスイープは知ったことではない。
「スイープちゃんッ!」
「アタシのトレーナーはミナセだけよ。アンタたちが何を言おうが、認めようが認めまいが、アタシにとってはそれが『真実』なの」
「……無理なものは、無理だよ。だって、レースに出場するためにはトレーナーが必要だもん。それが『ルール』なんだから……」
水瀬が居なくなった今、スイープは微妙な立場にある。少なくとも『トレーナー』のいないウマ娘は、レースに出場することは絶対に出来ない。
「そんなの誰でもいいわよ、適当なヤツを探せばいいじゃない」
軽く言い放つスイープだが、朝日の表情は厳しい。
「引き受けてくれるトレーナーがいると思うの……? 今の君を……」
スイープに『罪』はない。だがスイープは厳しい立場に置かれている。この業界を巻き込んだ不祥事にわざわざ巻き込まれたがる酔狂なトレーナーなどいない。仮に有馬記念を制覇できる名誉と天秤にかけても難しいだろう。
「……探すのよ。そして見つけるの。絶対に」
現実がどれだけ厳しくても関係ない。突き刺すような『決意』に満ちたスイープの言葉に圧されて、また止めることが出来ないのだと、朝日は自らの無力を嘆いた。
まあ、結局トレーナーなど見つからなかったが……。
「……どいつも、こいつも!!」
トレーナーたちは皆怯えるばかりだ。かつてチームを荒らしまわった実績に加えて、これ以上厄介ごとに巻き込まれてはたまらないとばかりに逃げ回った。
「根性なしばっかり……!」
「……そりゃそうだよ、見つからないって言ったじゃん」
「アンタもアイデア出しなさいよ!!」
「勘弁してよ! 君に何かあったら天国の水瀬くんに顔向け出来ないよ!」
「勝手にミナセを殺さないで!」
世間が大変なことになっている間も、実際問題として朝日は暇だった──というよりも、何もしていないという方が正しい。立場上やろうと思えば色々動けるのだが、これ以上引っ掻きまわすことも出来ず、スイープの保護者役としてお茶を啜りながらため息を付いている。
「みんな心配してるよ。いやほんとに、もうこれ以上何か起きたら……」
「余計なお世話っ! あーもう、誰でもいいから連れて来なさいよ! この際トレーナーじゃなくてもいい! そうだ、アサヒ! アンタがやりなさい!」
「マジで笑えないからやめてくれる?」
噂というものはあっという間に駆け巡る。特にスイープに関してのものは尚更で、『有馬記念』に出場するために、トレーナーを探しているという噂は誰もが知るものとなった。
誰もが『やめろ』といい、友人たちですら止めようとしたが、後にも先にもスイープを止められる者などいなかった。これまでそうしてきたように、ただ突き進む──が、実際問題トレーナーは見つからなかった。
別に能力など求めていない。そもそも書類上の手続きとしてトレーナーが必要なので探しているだけで、トレーニングに口出しさせる気もない。カカシみたいに突っ立ってくれるトレーナーでいいのだが(それはそれで嫌かもしれない)、やはり見つからない。
ガララ……。
扉が開いて、ついそちらに目を向けると──
「トレーナーを探しているらしいな、スイープトウショウ。それなら俺が引き受けてやる」
「……二階堂……!」
この件で最も疑惑が掛けられているスーツの男。
「名義さえあれば構うまい。俺の名前を使え」
二階堂健人が黒い瞳でこちらを見ていた。
「ニカイドウ……アンタ……どのツラ下げて……!!」
「必要なんだろう。今のお前に力を貸すやつなんぞ、俺の他には見つからん」
ガタンッ!
「ッざけんじゃないわよっ!! ミナセは逮捕されちゃったのに、なんでアンタはのうのうとしてるわけ!? 元はといえばアンタが……!!」
「法律というものは、常に社会的弱者のみに降りかかる。ヤツのようにな」
「ッ、許さない、ブッ殺してやるッ!!」
──脳髄まで黒く染まるような憎悪。
それは倫理や道徳などという浅い鎖など簡単に引きちぎり、簡単にその手段へと踏み切らせる。目の前の男を許すなと、そいつを黙らせろと叫んでいる。これ以上、水瀬への侮辱を許すなと。
──今すぐにでも、その首をへし折ってやる。
「スイープちゃん落ち着いて!!」
「放しなさい!! 怪我しても知らないわよッ!」
朝日は軽い生命の危機を覚えていた。キレたウマ娘は野生動物と比較して大差ない。クマを相手にしているようで冷や汗が流れるが──
「ダメだよ、これ以上何かしたらスイープちゃんだってただじゃ済まない! ダメったらダメなの!! それに二階堂トレーナーを許せないのは私だって同じだよ!」
「……ッ!」
「どういうつもりなの、二階堂健人……ッ! 一度は捨てたスイープちゃんを使って、今更『GⅠ』を制覇しようなんて……そんな都合のいいことが許されるとでも思ってるの!?」
二階堂は結局、今も凡庸なまま。平均的なトレーナーとしての成果を上げ、そして今ではごく普通の中堅トレーナーへと変わりつつあった。
「今更名誉など求めていない。俺に『罪』は課されなかった。だが……」
かつての野心に溢れた二階堂の姿は、もうそこに無かった。
「……すまなかった。スイープトウショウ」
あの二階堂が頭を下げていた。それは見る人が見れば驚愕する光景だったが──火に油を注ぐだけだ。
「黙りなさい……この……クズ……!! アンタが──アンタが、ミナセを都合のいいように使ってっ! いざそれがバレたら全部ミナセに『罪』を押し付けてっ!! アンタさえ居なければ、ミナセは、ミナセは……今頃アタシの横で笑っていたのに……っ!!」
「『二階堂家』がなければ、水瀬光一は今でも社会の路傍に転がっているだけの『犯罪者』だった。そして俺がいなければ、ヤツはお前の『トレーナー』になることはなかった。そしてお前はあの『レースの魔法』とやらを使うことも出来ず、ただの気性難のウマ娘として凡庸なままレースを終えていただろう」
「ッ、この──」
「そして、俺もまた自分の『器』を自覚しないまま、無様にトレーナーという立場にぶら下がっていただろうな」
「……は?」
──何度も。
何度も、何度も、何度も──
「……結局のところ、俺は凡人だった。お前たちが伝説を残して行くたび……俺は嫉妬に狂って、現実を呪って……あの時からそれは『諦め』に変わった。そしてその瞬間、それまでの嫉妬は『羨望』に変わり、そして『憧れ』になった」
──それを見ていた。
それの最初の引き金を引いた人間として。
「俺の役目は、お前たちを『引き合わせること』だった、と……そう気が付いた。それがどれだけ『歪んだ形』でも、お前たちが出会うにはあれしかなかっただろうからな」
『偶然』と呼ぶにはあまりに強かった。二階堂はそれをただの『偶然』だと思えなかった。『運命』なのだ──そう信じてすらいた。
坂道を転がるような『運命』。それは今もなお転がり続けている。
「お前の進むべき『道』には手助けが必要だ。違うか?」
「都合のいいことばっかり言わないでッ!! これまでにあなたがしてきたことを忘れたって言うの!? 水瀬くんをこんなことに巻き込んで、挙句『宝塚記念』で、あなたは……ッ!」
「悪かったと思っている。これは水瀬光一への、せめてもの手向けのつもりだ」
「ッ、ホンット──何なの、マジで……それが『贖罪』だとでも言うつもり!?」
「そうだ」
──身勝手だ。誰も彼も自分の都合ばかりだ。水瀬はスイープに何も伝えなかった。トレセン学園は水瀬を切り捨てた。世間は水瀬をサンドバックにして盛り上がっている。二階堂は今更都合の良いことを言っている。
「バカにするのもいい加減にしてッ!! あなたに『罪の意識』があったのなら、どうして水瀬くんを助けてくれなかったの!?」
「……『二階堂家』の力も所詮『URA内部』にしか通じん。それに、ヤツの『罪』は全て本当のことだ。どうしようもない」
「ふざけたことばかり言わないでッ! 現にあなたは逮捕されてない……ッ、その『罪』から隠れて、水瀬くんを見殺しにしたッ! あなたは『罪を償おう』としているんじゃない! 『自尊心』を守ろうとしているだけ!!」
まだトレセン上層部は二階堂を庇うつもりだ。警察の捜査は確実にその喉元へ届くはずが、結局二階堂は今もピンピンしている。本当に裁かれるべき人間が裁かれていない。
「本当に『罪を償う』つもりがあったのなら水瀬くんを助けるべきだった、そうでしょ!? でもそうしなかった。そうすることで失われる数々のものが惜しくて、動けなかった……!」
『二階堂家』の権力なんてものがどれほどのものかは知らないが、現代において金とは力だ。出来ることはあったはずだ。
浅ましい目論見を糾弾する。朝日はもうとっくに我慢の限界だ──
「トレーナーなんて立場はもうどうでもいいですなんて顔しながら、結局は今もトレーナーをしているのがその証拠だよ……!! 『罪』を償う『代償』があまりに痛そうだったから、こうして手軽そうな『贖罪もどき』に手を出したんだッ!!」
「……そうかもしれんな」
「あなたはその『罪』を水瀬くんに押し付けた! そして今度はその『贖罪』をスイープちゃんに押し付けようとしている!」
誰も彼も、スイープに全てを押し付けようとしている。乙名史も、二階堂も──水瀬でさえも。
朝日はまるでスイープを守るように前に立ち、二階堂の前に立ち塞がった。
「もう二度とスイープちゃんの前に現れないで。この子はもう、十分背負っている」
そんな朝日の思いなど関係ないかの様にスイープは軽い足取りで二階堂の方へと歩いていく。
「……あ、ちょっと。スイープちゃん……!?」
「アンタのことは許せないし、一生許す気もない。けどアタシは行かなきゃいけない。だからアンタの『立場』を貸しなさい」
「好きに使え」
──ダメだ。朝日は手を伸ばした。
「スイープちゃん、ダメだよ! 何をしようとしてるのか分かってるの!?」
「ねえ。アタシのために怒ってくれてありがと。でも、アタシは走るって決めたから」
──ダメだ。
「スイープちゃん……君が責められていないのは『知らなかった』からなんだよ。でももう知っちゃった。知ってるのに、その先に行くのは……『責任』が伴うの」
ダメだ。行かせてしまっては水瀬に顔向けできない。
「君への批判の声は水瀬くんが全部肩代わりしてくれたんだよ。それでも『走る』っていうのは、水瀬くんの『覚悟』を無駄にするかもしれないってことだよ……?」
「分かってる。アタシはもう何も知らない子供じゃない」
「子供だよ! 君はまだ子供なんだよ!!」
「アタシはミナセにずっと守ってもらってた。だから今度はアタシがミナセのことを守ってあげるの」
そこに居たのは、かつての何も知らない無邪気な少女ではなかった。
そこに立っていたのは、立ち向かう『覚悟』を決めた、1人の──
「アタシを信じて。アタシは『魔法使い』スイープトウショウなんだから」
運命は転がり続ける。その果てへ向かって、加速し続けていた。