魔法のない世界で生きるということ   作:にゃんこぱん

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第一話 『トレーナー』になるということ③

 トレーナー会議!!

 

 説明しよう。トレーナー会議とは、トレーナーたちが集まって会議することである!!!

 

 普段はコースを誰が使うとか、各種設備に関しての会議とか、うちのウマ娘が1番かわいいとか言い合うのだが、今日の議題はまた違った。

 

「スイープトウショウについて……意見のある者」

 

 ここのところトレセンを騒がせている天才少女、スイープトウショウについてである。

 

「あの子を見るのはウチじゃ無理だ! トレーニングどころか、言うこと一つ聞いてくれない……」

 

「だけどレースのセンスは抜群。間違いなく天才よ。あの才能を放っておくのは、1人のトレーナーとして惜しい」

 

「じゃあ面倒を見れるのか!? あのワガママ少女の!」

 

「それは……ウチにも、チーム内の相性があるから、難しいけど」

 

「ほら見ろ! 出来ないじゃないか!」

 

「しかし、やはりあの才能は惜しい! どこかのチームでやっていけないのか? ほら、地方からやってきたトレーナーたちもいるだろう」

 

「彼らには荷が重いだろう。それに、正直私はどうかと思うがね。あの制度」

 

「……二階堂(にかいどう)に預けてみるのはどうだろうか?」

 

 ボソリと呟かれた言葉でトレーナー陣が色めきだった。

 

「おお! あの名門と名高い二階堂の!」

 

「ナイスアイデア! 彼ならうまくやってくれるだろう!」

 

「それだ! いや、それしかあるまい!」

 

「完璧! よし、じゃあそういうことで! 二階堂、頼んだよ……って、欠席だったか。仕方ない、このことは私から伝えておくよ。じゃあ次の議題! 青色のリボンが1番似合うウマ娘は!」

 

「はいはいはーい! ウチのシュネルストレートだと思います!」

 

「いや! ウチのロードロックンローラーに決まっている!」

 

「ふざけるな! ウチのリボンニアウヨに決まっているだろう!!」

 

 今日も平和か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 @@:( ´∀`)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は……? 俺が?」

 

 二階堂というのは、東京の郊外に豪邸を構える地主の家系。旧華族だったとも言われており、資産家である。トレーナーも多く排出しており、いわゆる上級階級に分類される名家である。

 

 その長男、二階堂建人(ケント)──

 

「──ふざけるな! 俺を誰だと思っている! 俺は二階堂だぞ、なぜガキのお守りなんかをしなければならないんだ!!」

 

「そ、そのぉ……トレーナー会議で決まったことでして。二階堂さんは欠席しておられたので……」

 

「お前……どこの家の出身だ!? この俺に向かって、そんな……」

 

 二階堂は人を出身で判断するタイプの人間である。

 

「ひ、ひえええ! と、とにかくそういうことですから……」

 

「おい、待て! 話はまだ終わっていないぞ!」

 

「すみませえん! 私はこれで失礼します〜!」

 

 伝言役をやらされた可哀想な一般職員が退室していった。残された二階堂は拳に感情を込めて机を殴った。

 

 

 

 

 

 

 

「おい、神門(みかど)トレーナー! 貴様、あのガキの件、どういうつもりだ!」

 

「おっと、二階堂トレーナー。いきなりやってくるなりそれか?」

 

 トレーナー同士は同僚だが同時にライバル──特に二階堂はその意識が顕著だ。

 

 トレーナー室。ノックもせず入ってきた男、二階堂はかなり怒っているように見えた。

 

「人の許可も得ず……どういうつもりだ! トレーナーの言うことも聞けない子供など、なぜ俺が預からねばならんのだ!」

 

「いやだってトレーナー会議で決まったことだし。優秀なんだろ? 扱ってみせたらどうだ? それとも、まさか子供1人従わせられないからそうやって怒っているのか?」

 

「き、貴様……!! 俺は忙しいんだ! 子供に付き合っている暇などあるものか……!」

 

「才能のあるウマ娘を、トレーナーが育成しない理由があるのか?」

 

「トレーナーに従わんウマ娘など、どれほど才能があったところで意味がない。俺はやらんぞ……!」

 

 そんな二階堂の様子に、神門はふっと笑うと言う。曰く──

 

「彼女は『特別』なのさ。だから絶対にトレーナーを付けなきゃいけない」

 

「……どういう意味だ?」

 

「詳しくは知らない。だが、上の方からそういう話が降りてきた。だからトレーナー会議で決めていたのさ、誰が彼女の面倒を見るのか」

 

 つまりこれはババ抜きだ。才能はあるが指示に従わない厄介なウマ娘を、誰かが引き取らなければならない。まあトレーナーなどをやっていれば、たまにこういう面倒なことはある。

 

 『上』の方から話が降りてきた──というのは、大抵はそのウマ娘がどこかのお偉いさんの子供だったり、孫だったりするとかそういう話が大半だ。おそらくスイープトウショウもそうなのだろう。そういうのに限ってわがままだったり自己中心的な性格だから手に負えない。

 

「トレーナー会議に出席してきた大抵のトレーナーは君に一任する方向で固まっている。というわけで、よろしく頼んだよ」

 

「メリットのない話を引き受ける理由がない。対価は!」

 

「おいおい、この手の話で対価があったことはほとんどないだろう。まあ、その子の親とか家族──今回の話も、多分お偉いさん関係だと推察されるから、強いていうならコネクションかな?」

 

「下らん!」

 

「そんなにやりたくないなら、他の人に引き受けてもらうんだね。ま、私は御免だけど」

 

 そうして神門トレーナーは話を打ち切ると、またパソコンの画面に目を向けた。話は終わりということらしい。

 

 二階堂の性格でまともに仲のいいトレーナーなどいるはずもない。今回二階堂にスイープトウショウが押しつけられたのも、二階堂が嫌われているからである。もちろん本人は嫌われていることに気がついていない。

 

 冗談じゃない。なんとかして他人に押し付けなければ──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして顔合わせ──二階堂は威圧するように腕を組んでいたが、スイープも腕を組んで品定めするように二階堂を睨んでいた。

 

「……ふん! アタシ、アンタの言うことだけは絶対に聞かないから」

 

「よく聞け。お前はな、俺の言う通りにやれば勝てる。いいか? 絶対に勝てるんだ」

 

 当初、二階堂はこの才能を手懐けようと考えていた。しかし──

 

「知ったこっちゃないわ。アタシ、別にアンタじゃなくても勝てるもん。アンタのチームがどうだかは知らないけどね」

 

「お──俺のチームの勝利数がいくつか知らないだろう!! 去年の俺の勝利数は15勝だ!」

 

「大したことないじゃない。たったそれだけなの?」

 

「こ、こ、この……クソ、落ち着け、落ち着け……!」

 

 15勝という数字がどれだけのものか──それなりに優秀な部類だ。二階堂の年齢を考えればかなり優秀ではある。二階堂はまだトレーナー3年目であり、業界では新人に分類される。新人が勝利を挙げるのは難しいのだ。

 

「俺が見てやるんだぞ!? この、二階堂が……!!」

 

「知らないわよ。どーせアンタ、卑怯なことばっかりやってなんとか勝ってるとか、そういうのじゃないの?」

 

「……!!!」

 

 二階堂の限界が来た。この少女──クソガキを手懐けて成果を上げる計画など最初から不可能だったのだ。

 

「アンタじゃ役者不足。別の人を連れてきて」

 

「い、言わせておけば……!!!」

 

 ここがトレーナー室で良かった。思わず手をあげそうになった姿を見られたらとんでもないことになる。そんな姿を見て、スイープはまた鼻で笑った──その浅い人間性の底を見透かしたわけだ。

 

「……!!」

 

 どうする? こんなクソガキをチームに入れても悪影響を及ぼすだけだ。表面だけ契約しておいて、あとは全て放っておくこともできるが、学園にバレたら問題になる。

 

 誰かに押し付けなければ。

 

「それにしても、下品な部屋ね。コテコテと多くもないトロフィーなんか飾っちゃって……昔のことばっかりひけらかす割に、なーんか空っぽっていうか」

 

 好き放題言いながら、スイープトウショウはふと窓の下を見下ろした。すると、野外で作業中らしい人物の背中を見つけた。それは偶然にも──

 

「あら……ミナセ!」

 

 偶然にも見つけたその背中に、窓を開けて呼びかけるも、残念ながら気がつかないまま水瀬は歩いて行ってしまった。

 

 二階堂は──その、ミナセという言葉を聞いてハッと顔をあげた。

 

「『ミナセ』……?」

 

「あら、何よ。ミナセはアンタなんかと違って、ちょっとは見どころがあるんだから」

 

「ミナセ……学園の、『事務員』か?」

 

「何よ、アンタも知ってたの? あーあ、アイツがトレーナーだったら良かったのに」

 

 『アイツがトレーナーだったら』

 

 それを聞いた時、二階堂の頭の中にあったいくつかの単語がつながりを持ち始め、そして収束し、一つの閃きに繋がり始めた。

 

 誰にも懐かないはずの天才少女。『上』からの話、そしてミナセという事務員。地方トレーナー登用制度。

 

 冷や汗から、歪んだ口元。

 

 『それ』が始まろうとしている。

 

「おい。ひとつ、いい話がある。聞くか……?」

 

 その『悪魔』の言葉を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-@@

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『トレーナー』について。

 

 『彼ら』(あるいは彼女ら)は、URAが認定、発行する『トレーナー資格』を得て、『トレセン学園』で働いている。『トレーナー』の仕事に最も類似するのは、一般高校などの部活動の『監督・コーチ』、あるいは『体育教師』と言われている。

 

 『彼ら』(あるいは彼女ら)は『裏方』だ。

 

 しかし、『勝利』を勝ち得た『トレーナー』には、その『ウマ娘』と同様に『名誉と栄光』が与えられる。多くのレースの『ファン』にとっては憧れの職業だ。

 

 『トレーナー』の仕事は、『ウマ娘』を勝たせること────

 

 『トレーナー』になるためには、特別な資格は必要ない。もしもあなたが必要な『知識』と『経験』を備え、『トレーナー試験』に合格できたならば、あなたは『トレーナー』として働き出す資格を得る。そこから先はあなた次第だが。

 

 『統計的な事実』として、現役『トレーナー』の80%が、幼少期からウマ娘とコミュニケーションを取る機会があり、70%の現役『トレーナー』が、三等以内の親族が既に『トレーナー』であったために『トレーナー』になったと回答している。

 

 つまり、客観的な『事実』として、ほとんどの『トレーナー』というのは生まれた時から『トレーナー』になることが決まっているのである。

 

 逆に、あなたがこのように親族や環境に恵まれなかったのにも関わらず『トレーナー』になっているのならば、相当な『才能』か、特殊な『事情』があると推察することができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(´ε` )

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……は? ま──待ってください。僕が、トレーナーを? それでは話が違います、なぜ!?」

 

「悪い話じゃないだろう。話は俺が付けておいてやる。お前は適当にヤツの相手をしていればいい」

 

「は、話って……どうして、僕が!?」

 

 静かな料亭に水瀬の焦った声が響いた。出された料理など口も付けていない。

 

「スイープトウショウは、お前がトレーナーだったらいいと言っていた。何の問題がある……? お前も退屈な事務仕事などやめて、トレーナー業を体験するいいチャンスじゃないか」

 

 そう口にしながらも、二階堂の額にはわずかに冷や汗が滲んでいる。それが意味するところを理解しているのだ。

 

「ですがッ!!」

 

 赤坂の料亭。それは──単純に上流階級が食事に使うだけではない。大抵は、聞かれてはまずいような密談に使われる。ここを指定したのは当然二階堂だ。

 

 叫び声を出した水瀬を二階堂が睨んだ。それで勢いが削がれるが、水瀬は続けた。

 

「……僕は、トレーナー免許など持っていません」

 

「分かっている。だから……ほら。バッチだ」

 

「は……?」

 

 コロン。テーブルに転がされたその金のバッチは、二階堂が襟元に付けているのと同じ──

 

 それが意味するところは、ただ一つ。

 

「は……犯罪行為に、手を染めろと?」

 

「お前……口答えが過ぎるな? 思い出せよ。お前……俺に口が利けるような立場だったのか? いつからそんなに偉くなったんだ?」

 

「ッ……! それは……」

 

「それに安心しろ。現在学園が行なっている『地方トレーナー登用制度』だが、俺の立場を使えば簡単に新人トレーナーとして紛れ込ませることが出来る。偽物だとバレることはない」

 

「そういう問題ではありません! それに、一体いつまで……」

 

「スイープトウショウがレースを引退するまでだ。そう長く持つまい」

 

「その間のトレーニングの指示も、二階堂さんが……?」

 

「……俺はな、忙しいんだよ……! あんなクソガキの面倒なんか見るわけないだろうがッ! お前が対応しろッ!」

 

 無茶苦茶な話だ。こんな──正常には見えない。二階堂は事実追い詰められていた。そしてこれは、一発逆転のための唯一の手段。

 

「僕は素人です! 半端な指示で、彼女に危険が及んでは……」

 

「知るかッ! お前には分からないだろうが、俺にはやることがある! 期待できる素材も入ってきた! 今年こそ、重賞を取らなければならないんだよッ!!」

 

「そんな……」

 

 そんな、馬鹿な話が──水瀬は完全に崖っぷちに立たされていた。できる筈がない、水瀬にトレーナーなどできるはずがなかった。

 

「……そう悪いようにはならん。少なくともお前にとってはな。レースの世界は、あんな調子に乗ったガキが簡単に勝てるほど甘くはない。2、3戦もして現実を知れば、すぐに諦めて引退するだろう。トレーナーの真似事はそこまででいい。十分な報酬も出す」

 

「で、ですが……」

 

「何度も言わせるなッ!! 俺に……二階堂家にどれほどの『恩』があるのか忘れたのか!? お前は俺の言うことに従うしかないんだよ!!」

 

「ッ!」

 

 ──水瀬には、二階堂の言葉に従わざるを得ない『事情』がある。

 

「トレーナー室は用意してやる。明日から……お前は、トレーナーだ……!」

 

 『アーランス・アーテクトリ! アタシのトレーナーになあれ!』

 

 どうしてだ? スイープトウショウの『魔法』を反射的に思い出していた──ああなんてこった。悪い冗談だ、こんなの。

 

 その『魔法』の呪文。それは水瀬にとっての、二階堂にとっての、そしてスイープトウショウにとっての──『呪い』の呪文。

 

 

 

 

 

 

「話は……聞いていると思う。今日から君の専属トレーナーになった、新人トレーナーの水瀬だ。よろしく」

 

「ふん! 仕方ないから、アタシのトレーナーにしてやるわ! 感謝しなさい!」

 

 

 

 

 

 

 

 『魔法』のない世界で生きるということ。

 

 それは『呪い』を抱えて生きていくということ。

 

 

 

 

 

 

 ──これは『魔法』をかける物語。

 

 

 

 

 

 

 あるはずのないものを『ある』と言い張ること。それは『嘘』だ。

 

 しかし、それを本当のことにしてしまうこと。それが『魔法』。

 

 水瀬の『トレーナー』という称号。それは『嘘』か『魔法』か──あるいは『呪い』か。

 

 その『答え』は、芽生えを待つ種のように、境界線上を漂って、時が来るのをただ待っている。

 

 

 

 

第一話 『トレーナー』になるということ 終わり

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