はぐれ艦娘と孤立小隊   作:小椋屋/りょくちゃ

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第10話

「さてと、これで大丈夫そうだな。」

完成した物資輸送計画の最終確認を行い、第1段輸送のための物資を積み込んだ。

「私もここから指示は出しますが…現場の指揮と判断は長波さんに一任するしかありません…。大丈夫ですか?」

執務室に戻り想定航路や敵艦との遭遇が危惧されるポイントなどが書き記された海図を再度頭に叩き込む。

「あぁ、大丈夫だ。これくらいなら何度もやってるからな。」

詳細な航行計画を立案しながれ行程を詰めていく。

「会敵した場合は物資の投棄をしても構いません。くれぐれも無理はしないように………。」

神妙な面持ちでこちらを見てくる。

「わかってるよ。死ぬために戦いに行く訳じゃないさ。命あっての物種だしな。」

海図をしまい、後ろ手に手を振りながら執務室を後にする。しんみりとした作戦指導は嫌いだった。

 

 

私たちが向かうのは西パプア州南岸、セラム海の東端の湾にあるビントゥニと呼ばれていた場所だ。過去には飛行場が置かれており、艦娘の体では入り込みやすい大河もあるため、ここを選定した。機雷戦や潜水艦による監視は受けやすいが、艦娘にとって、機雷や潜水艦そのものは脅威になりにくい。

「あ、長波さん、お疲れ様です。」

部屋に戻ろうとしたタイミングでちょうど三日月と鉢合わせる。

「おう、おつかれさん…」

挨拶もそこそこに部屋に入ろうとすると、三日月がこちらの瞳を覗き込んでくる。

「…何かありましたか…?」

心の底まで見透かされるような綺麗な瞳にドキリとする。

「…別に、なんともないぞ?」

思わず目を逸らしてしまう。

「……そうですか。無理はしないでくださいね。私たちの隊長なんですから。」

そういうとてくてくと歩き出して行った。

 

部屋に入り布団に倒れ込み深い溜め息をつく。薄暗く静かな部屋に私の溜め息だけがこだまする。慣れてきたからこそ、提督の生真面目さや、理想主義的な面に引っかかるようになってしまった。

これは戦争だ。いつ誰が死んでもおかしくない。

明日被雷して、明後日には愉快な魚礁の仲間入りをしていてもおかしくない。ましてや孤立無援の最前線の基地なのだ。「無理をするな」と言われても、どこかで無理をしないとどの道死んでいる。この基地の命脈を維持している敵輸送部隊の襲撃拿捕だって、作戦的には無茶苦茶で、あまりにリスクが大きい。しかし、この選択が、あの時の、あの瞬間の最適解だったと私は思っている。だから無理をする。今日の命を明日に。明日の命を明後日に繋ぐために。

今更考えても仕方の無いことだと理解しながらも、喉元まで出かかった言葉を改めて飲み込み直す。

「死ぬな」と言われても死ぬ為に戦ってるわけじゃない。

今日を生き抜くために戦ってるんだ。そう提督に面と向かって言ってやりたかった。

 

もう一度深い溜め息をつく。日もすっかり落ちて暗くなっていた。

「…お話なら聞きますよ?」

目の前にいつの間にか三日月が居た。

「わぁっ!?!?」

驚きのあまり素っ頓狂な声をあげ頭をぶつける。

「大丈夫ですか!?」

あまりの驚きように三日月まで驚かしてしまった。

「いっつつ……いつから居たんだよ…。」

完全に逆恨みだが三日月に対して悪態をつく。心の内に入り込まれたようで正直気分は良くなかった。

「さっきからですけど…お邪魔でしたか……?」

一瞬ビクンと身体が震え、1歩引く。少し怯えさせてしまったかもしれない。

「……そうか。ならいいんだ。」

身体を起こし伸びをする。三日月を抱き寄せ頭を撫でてやる。

「あ、あの……長波さん…?」

びっくりしたように身体を固くしていたが、次第に弛緩する。

「……三日月に当たるようなことして悪かったな。」

そのまま撫でて行く。小柄な三日月を抱き抱えていると、じんわりと心まで暖かくなる。

「……私で良ければ、何時でもお話相手になりますからね。」

私のことも落ち着けるように、丁寧な声色で話しかけてくる。

「あぁ…ありがとうな。」

こっちが撫でてるのかあやされてるのか分からなくなってしまったので、離して夕飯のために部屋を出る。

作戦開始は今夜の明朝だ。早めにゆっくり休息を取らねばならない。

基地航空隊による前路掃討、航空誘導を活用し初日に稼げるだけ距離を稼ぐ目算だ。そこから先は私たち次第だ。

物資輸送要員は三日月と文月。私と電はその護衛という扱いだが中に燃料を積んだドラム缶を1つ携行する。

あのルンガ沖夜戦のように、物資を投棄した上で敵艦を撃滅しても意味が無い。幸い今の身体は大きな鋼鉄製では無く、自由に駆け回れる「ヒト」の身体だ。もうあんな失敗は犯さない。無理をしてでも護衛してやる。

 

その決意を、艤装を装備し胸に拳を握る。痛いくらいに力が籠る。やらなければ、明日は無い。それだけの事だ。

 

「仮設第一ポートモレスビー攻略支援小隊、旗艦長波抜錨!出撃するぜ!」

こうして反復輸送作戦の火蓋が切られた。

それは、地獄のような戦闘の始まりだった。




いつもより少し短いです、申し訳ございません。
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