はぐれ艦娘と孤立小隊   作:小椋屋/りょくちゃ

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第12話

「ふぅ…もう少し……。」

文月たちが運用する大発を座礁しないように押しながら、マングローブの繁る河口を上流へ移動していく。最終目的地であるビントゥニ空港のある、ビントゥニ市街地へ向けて進む。艦娘である私たちは、最低限の水深と川幅があれば、「水上艦」が入れない地帯へも入っていけるからだ。

「それにしても、静かなのです…この辺りに住んでいた人達は………。」

遡上していくにつれ、小型舟など、人の痕跡が見つかる。電がそう呟くと、深海棲艦によって大切な人を喪った文月が少し反応した。

「避難できた…と、思っておきましょう……。」

三日月が小さくつぶやく。私もそう思いたい。しかし…日本程の防災先進国ですら、深海棲艦からの初動避難はマトモに出来なかった。まして占領下となった島なんて……あまり考えたく無いものだった。

「私らが奪還して、元々住んでた人たちを返してやろうぜ。」

重苦しい雰囲気を払うように一言、つぶやく。

川の中程を進む私たちに、日差しがジリジリと照りつける。深夜行をしていたのも相まって、気力がどんどん削がれていく。

 

あまりに静かな空間。

鳥のさえずりや野生動物の気配すらあまり感じない。

これが「支配された」場所なのかと思うと、暗澹たる思いになる。

深海棲艦によって制圧された海域は、「紅く」変色する。その原理は不明ながら、その海域を奪還すると色は薄れ、消えていく。実際、ニューギニア島周辺海域も、ほとんど真っ赤に染まっていた。「紅い海」は人体や生物に悪影響があることは証明されていない。しかし、その海域の魚の数が著しく減少したり、活動的で無くなることが報告されている。死なないだけで、未知の悪影響があることはおそらく間違いない。しかし、「妖精さん」の存在原理同様、それを証明する方法がない。奪還さえすれば概ね元通りになることはよく知られているが、やはり元通りに戻る原理も不明。人類にとって、「分からないことだらけ」なのだった。

 

「長波ちゃ〜ん、この辺で、降ろしていいかなぁ…?」

いつものように間延びしたテンポで文月が聞いてくる。

「ん〜…まぁ…この辺で陸揚げしても問題ない……か?」

旧市街地にある空港は、海から距離があったため、ある程度遡上してきたが、引き潮も相まって、そろそろ大発が水底に乗り上げてしまいそうだった。

「ここから先に大発で進むのは難しそうなのです。」

様子を見に行っていた電が合流し報告する。

「OK分かった、揚陸しよう。妖精さんも、頼むぞ。」

艇首を開き、妖精さんにより運用される人型サイズのブルドーザーやロードローラーなど、整地、飛行場設営に必要な重機から物資まで、降ろしていく。

なるべく近づけるところまで近づいたが、それでも空港のあった所までは数キロあった。が、川辺の木が妖精さんの手によって切り倒されると、眼前にはビントゥニ旧市街地が現れた。アスファルトで舗装された市街地の道を進めば楽に物資輸送が可能だろう。

降ろした物資を妖精さん運用トラックに載せ、物資を全て預ける。

ここから先は、妖精さん達に任せればいい…とは言ったが、輸送した物資の量はまだまだ少ない。鎮守府に帰ればすぐまた輸送しなくてはいけない。

「あとは任せだぞ、妖精さん。あんたらに私らの命運がかかってると言っても過言じゃなくなるかもしれない。またすぐ、物資を持ってくるよ。」

設営隊隊長の妖精さんにそう伝えると、サムズアップして答える。基本的に口を開くことはないが、妖精さんたちは感情表現が豊かだ。

「それじゃあ、頑張ってくれよな〜!」

手を振り妖精さん達を見守る。彼(彼女?)らは仕事一徹の職人だ。すぐにでも取り掛かるらしい。私たちは日暮れを待って、ここから離脱する予定のため、思い思いに休息を取った。

 

「文月ちゃん、起きてなのです。」

電が、大発の上で寝ていた文月を起こす。

「ふぁぁ…もう朝〜……?」

眠そうな目を擦りながら身体を起こす。

「朝じゃないですけど、時間ですよ。これから、帰るんですから。」

三日月がそう言いながら文月に艤装を装備させる。もちろん、大発の操作リンクも忘れずに。

「よし、時間ピッタリだな。」

潮も十分に満ちており、大発を湾口まで戻すのも時間がかからなさそうだ。

眠気まなこだった文月も、もうある程度しゃんとしており、今からの行動にも耐えられるだろう。

「よし、仮設第一ポートモレスビー攻略支援小隊、旗艦長波抜錨。これより鎮守府へ帰投する!」

そう宣言し河を下っていく。思っていた通り、あっという間に湾部分に到達することが出来た。

「このペースならあっさり帰れそうなのです。」

月明かりの晩。風も凪いでいて、電探も好調である。

「すぐ帰って寝られそうだねぇ〜…。」

「何事もなく帰れそうで嬉しいですね。」

そんなにことを話す文月と三日月。往路行での負担を考えるなら、確かに早く帰れるに越したことはない。

キラキラと水面に月光が映える。

ここが戦地のど真ん中で無ければどんなに綺麗だったろうか。海がもっと綺麗ならどうだっただろうか。

美しい波間に人工物のような物を発見しげんなりとしてしまう。

「文月!三日月!最大戦速!電に合流しろ!!!」

思わず叫ぶ。その瞬間、見張り員が右舷に雷跡を発見する。そう「人工物のようなもの」それは深海棲艦の潜水艦の、潜望鏡なのであった。




イベントやってて投稿するの忘れてたとか言えない(気づいてよかった)
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