はぐれ艦娘と孤立小隊   作:小椋屋/りょくちゃ

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比較的平和回です。

地獄の戦闘に突入するためには英気も養って貰わなくてはいけませんから。


第5話

「艦隊、帰投したぜ~。」

「お疲れさまでした。補給などは用意してあるのであとで受けっとってきてくださいね。」

執務室で待っていればいいものをわざわざ出迎えに来たようだ。

「あたし、もう寝てもいいかなぁ~?」

ズルズルと運んできた輸送艦をドックに陸揚げしつつ、そんなことを言う。

「文月ちゃん、さすがにシャワーくらい浴びた方がいいと思うのです...。」

返り血をべったりと浴び、揚陸や軽い解体でさらに朱く染まっているわけだが...本人は全く気にしていないようだ。

「なぁ文月...ソレ、嫌じゃないのか...?」

頭から足先まで煤に油に、そして血にまみれている状態の文月を一瞥しながら陸揚げを手伝う。

「あたしは別に~?むしろ、こうやってぐちゃぐちゃにしてやれるだけ気が晴れるかなぁ...?」

一瞬、文月の瞳に残虐な色の火が灯るがすぐ消える。

「あーあ、駆逐艦なんかじゃなくて戦艦だったら、沢山、あたしの手で殺ってやれるのになぁ...。」

心底悔しそうにそうつぶやく。

「あぁ、そういうことか、すまなかったな。」

電も、提督も、伏し目がちに作業を進める。「沖縄諸島の戦い」と同時並行して、深海棲艦の一部部隊が全国各地の港湾都市を襲撃していた。おそらくその際に肉親が殺されたりしてしまったのだろう。この時の攻撃は苛烈を極めた地域もあり、酷いところだと数千人単位で被害者が出た地区もあると聞いたことがある。幸い、「私自身」の故郷は海からは程遠く家族や知り合いが亡くなることはなかったが、「艦娘」として戦場を駆けるようになってからは、様々な「別れ」に直面してきた。だが、それだけである。彼女だ体験してきたような思いを、私は味わったことがまだ無い。

「別に、全然大丈夫だよ~?長波ちゃんは何も悪くないし、悪いのはあいつらなんだから...。」

そう絞り出した声には、恨みや悲しみが詰まっていた。

 

 

「あったかぁ〜い……このまま寝れそ〜……」

浴槽にもたれ掛かりながら文月がそう漏らす。放っておいたらそのまま寝てしまいそうだ。

「寝ちゃダメなのですよ?」

隣に電が入り文月の様子を伺う。

「わかってるって〜。大丈夫だよぉ〜。」

それなりに構っていれば大丈夫そうだ。汚れを落とした私も2人に合流する。

「はぁ……休まるなぁ……。」

「なのです。妖精さんと司令官さんには感謝なのです。」

文月が運搬していた大発動艇からの陸揚げが終わると、司令官は「後はこちらでやるから」と、私らに休むように指示をした。実際、夜通し動き回り疲労がピークに達していたので大人しく休ませて貰うことにした。

「そういえばだが…ここの風呂はどうやって沸かしてるんだ…?そもそも真水も貴重だろうにこんなに沢山使っても良いもんなのか…?」

ふと気になったことを電に尋ねる。私が居た前進基地じゃ、身体を洗ったり流すのは可能でも、入浴が出来るのはそこそこ稀であった。

「えっと、元々ここはニューギニア島、ソロモン諸島、オーストラリア攻略の陸軍部隊用の前進司令部施設が建築される予定だったのです。そのために、真水確保は重要であるからと雨水を貯めたり海水を浄化するシステムが元から備わっていたのです。敷地外縁の方には風力や太陽光の発電設備が備わっているのでこの人数と妖精さんが使う分には充分足りている、という話らしいのです。」

「へぇ…なるほどなぁ…。そういう事なら合点が行くなぁ…。……文月〜寝るなよー?」

溶けかけている文月を突っつきながら話を聞く。

「大丈夫大丈夫〜……。」

いつもどこか掴めない雰囲気をしているが、掴めない状態になられると非常に困る。服を着せたり部屋まで運ぶのは私たちなのだから。

「しかしまぁ…私も肩が凝ったりするし気持ちは分かるが…普段ももう少しだけシャッキリしてくれると助かるんだけどなぁ…。」

浴槽を出て「ほら文月、出るぞ〜」と声を掛けつつ文月を引っ張りあげてる。

「…………………のです…。」

胸の辺りに手を当てながら何かをブツブツ呟いている。

「電、何か言ったか?」

文月をおぶりつつ聞いてみる。

「な、なんでもないのですっ!//」

すごい剣幕で返される。

「お、おう……顔真っ赤だし、のぼせる前に出ろよ〜…。」

何があったか分からないが、気に触ったようなら後で謝っておこう、そう思いながら文月を連れ脱衣所へ向かった。

 

 

「なんでも…ないのです…………。」

静かになった浴室で、電は1人ごちる。

視線を下げると子供体型とも呼べる細い身体が目に映る。

実年齢はあの2人より少し上なのに、艦娘になってからというものほとんど成長していない、2人ともより貧相な身体に手を重ね。

「いつか私も……あんな風に………なれると………うぅん、きっとなれるのです!そう思うことにしておくのです………。」

顔半分を沈めぶくぶくとさせながら

「長波ちゃん……羨ましいのです…………。」

と脱衣所で文月と格闘している長波に向け、嫉妬とも羨望とも取れる言葉を聞こえるはずのない彼女に放り投げたのであった。




作者の脳内設定では艦娘自体は、生物学的な「ヒト」と何ら変わりは無いと解釈しています。

被弾しても、被雷しても、「即死」しないのはなんででしょうね。
こういう裏話的設定が気になる方がいればこのシリーズで設定についても語っていこうと思います。
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