はぐれ艦娘と孤立小隊   作:小椋屋/りょくちゃ

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第7話

「頼む、帰るまでは持ってくれよ…!」

ボロボロになった身体を抱き上げ浜辺へ駆け出す。

彼女の主機を下ろそうかとも思ったが、彼女の命脈を繋いでいるのは艤装による「加護」だ。武装の類は持っていないことが幸いだが、主機を背負ったままの艦娘1人となるといくら小柄とはいえ相当な重さだった。

 

ゼェゼェと息を切らせながら浜辺に戻ると、電や文月も起きており、各自で艤装のチェックや、陸上に引っ張り上げた大発の偽装作業をしていた。

「すまん!2人とも!急いで出発だ!!」

「どうしたのです!?」

「大丈夫〜…?」

ただならぬ雰囲気を感じ取ったのか2人が駆け寄ってくる。

「この子が奥に倒れてた!もう時間がなさそうなんだ!鎮守府まで運びたい!!」

身体に障らないように、なるべく揺さぶらないように運んできたつもりだが、その影響かだいぶ身体にガタが来ていた。運んできた艦娘を一旦文月に預け、呼吸を整える。

「三日月ちゃん!?」

その艦娘の顔を見て文月が反応した。

「面識あるのか!」

「面識があるも何も、姉妹艦だし、一緒に戦ったこともあるもん…!」

どうやら浅からぬ縁があるようだ。尚更助けなくては。

「電!!鎮守府に連絡を!!!」

「は、はいなのです!!」

文月から三日月を受け取り、背中におぶる。私の主機もあるが、抱き上げたまま運ぶよりかは楽だ。大発にも目をやるが、そこには深海棲艦が満載だった。

「「せーの!!」」

文月と共に大発を海面に降ろす。幸い満潮に近いこともあり時間もかからず戻すことが出来た。

「受け入れ態勢を整えて待ってるとの事なのです。」

鎮守府に連絡をつけた電が合流し島を後にする。

残る燃料で出せる最大戦速で海を駆ける。

「電!この速度なら何時頃までに帰投できる!?」

「現在時刻が0927(マルキュウニーナナ)なので、1600(ヒトロクマルマル)頃までには近海に入れるはずなのです!」

「そうか!頼む、間に合ってくれよ…!」

酷い栄養失調状態であり、いつ「加護」の力が切れてもおかしくない。「ヒト」としての死を「加護」の力で強引に先延ばしにしているだけの状況であり、一刻も早い治療が必要だった。

 

深海の偵察機に見つからないように雲と雲の間を縫うように動きながら最短距離を駆け抜ける。

命の灯は、刻々と薄れていく。

 

「前方に敵艦隊!はぐれ駆逐なのです!」

偵察役を買って出た電が報告する。水平線上に僅かに見えるだけだが向こうもコチラに気づいたようだった。

「邪魔なんだよっ…!」

遠距離ではあるが精密な雷撃と砲撃を先頭の駆逐艦に叩き込む。三日月を背中に背負っているため、いつものような肉薄突撃はできない。しかし…

「三日月ちゃんとは私も縁があるのですっ!だから今は!沈んでいて欲しいのです!!」

静かに近寄り、的確に急所を撃ち抜く一撃。本来の電であれば、滅多にしないような、『確実に息の根を止めるためだけの攻撃』。電だって、何度も何度も死線をくぐり抜けてきた猛者なのだ。ただ、自分の信条のため、それを使うことが多くないだけで。

「ごめんなさいなのですっ!!」

発言とは裏腹に、素早く、的確に、一体ずつ潰していく。あまりの肉薄が故に、顔にまでベッタリと返り血を浴び、さながら悪鬼羅刹のようにも見えた。むしろ『本来の彼女』はこちらなのではないか、そう思わせる雰囲気まで纏いながら殲滅する。

「すまない、助かった電。」

「大丈夫なのです。三日月ちゃんのためですから。」

綺麗な茶髪が、深海棲艦の血で紅く染まったままニコリと笑ってみせる。文月とはまた違ったベクトルで、深海棲艦に対して何かを抱えているのかもしれない…そう痛感した。

 

日が暮れだす頃に、ポートモレスビー近海にたどり着いた。呼吸もかなり弱々しくなっていたが、何とか間に合った。数度、はぐれ駆逐には遭遇したが、その都度電が殲滅した。

「待っていましたよ皆さん!」

状況が状況のため、提督が湾内移動用の船に乗って出迎えに来た。数体のドッグ妖精さんも連れてきているのが見える。

「だいぶ遅れた!!すまない!!」

素早くそちらに飛び乗り、三日月を降ろす。

「命が繋がっているなら、大丈夫ですから。」

提督と協力し、船内に安定させる。直後、数体の妖精さんが三日月の診察を始める。ドッグ管轄の妖精さんとリンクしたことで『艦娘としての死』からは免れられたようだ。しかし、極度の栄養失調等により『ヒト』としての死は、もう目前に迫っていた。

「少し飛ばしますよ!!」

珍しく、感情をモロにむき出しにした提督が船を飛ばす。缶とタービンを積んだ時の最大戦速並の速度が出ているようだった。

湾内とはいえそんな速度であれば大揺れも起こすが、妖精さんたちはテキパキと応急処置をしていく。

少し目を離しているうちに栄養剤を1本、静脈注射しているようだった。

そのまま工廠に突っ込むように入港し、2人で入渠ドッグまで運ぶ。

「間に合った…のか……?」

強行軍で飛ばしてきた私はフラフラと座り込む。

「えぇ…ここから先は妖精さん達が全部治してくれるはずです…。」

基本的には冷静な提督も、息を切らすほどだった。

戦闘以外で、ここまで精神をすり減らすのは初めてのことだったかもしれない。それほどまでに、命は重いのだ。重くて然るべきなのだ。

ただ、大発に積まれた深海棲艦(生き物)を物資としか思っていなかった自分が、半ば殺戮を繰り返していた自分自身の手が、戦争という狂気に呑まれたこの常識が、途端に恐ろしくなった。




艦娘も深海棲艦も、何よりまず「生き物」ですからね。それは1個の「命」であることに違いはないと作者は解釈しています。
だからこそ「ヒトとしての死」と、「艦娘としての死」は別物であると解釈している訳なのですが。
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