翌日、まだ日も登らぬ時間に起きてしまう。
昨日は資材の揚陸、分別もそこそこに休息、就寝となったため、いつもより早く起きてしまった。
もしかしたら、三日月が起きているかもしれない。着替えて様子を見に行くことにした。
廊下に出ると、バッタリと電に出会う。
「おはようございます、長波ちゃん。」
「おう、おはよう…これから入渠ドックか?」
「はいなのです。入渠が完了したと報告があったのです。」
鎮守府内の妖精さんによる動きは、逐一秘書艦権限を有する艦娘に報告される。原理は…不思議な妖精さんネットワークによるもの、としか形容できないが。
「私も着いて行っていいか?」
色々と聞きたいこともあるし、もし支えが必要なら私も居た方が役に立つだろう。
「もちろんなのです。」
ニコッと笑うと、そのままドックのある方へ歩き出す。
「電は、今まではどこで戦ってたんだ?」
後ろから着いていきながら、話しかける。
「電は基本的に、後方支援及び島嶼攻略支援がメインだったのです。だから、長波ちゃんみたいなのは、ちょっと憧れちゃうのです。」
はにかみながらそう話す電。
「なるほどなー…。」
焼けこげた二水戦腕章を残して置いてくれたのは電の計らいだったのだろうか、そんなことを思いながら相槌を打つ。
「そういえば、どうして電はポートモレスビーに居たんだ?」
ずっと聞いてみたかったが中々聞けなかったことを聞いてみる。
「ニューギニア攻略支援先遣駆逐隊として配属となったのです。当初の予定だと、後続として第四戦隊の人や三水戦の人も来る予定だったらしいのです。本当ならそのままソロモン諸島海域方面まで、私たちは足を伸ばすはずだったんですけどね。」
「そうだったのか…。」
攻略支援艦隊と銘打っては居るが、深海棲艦も艦娘も、特段陸上戦が得意なわけでない。完全な地上であれば相応の訓練を受けた部隊の方が圧倒的に強いだろう。その彼らが、海上から逆侵攻を受けないようにするのが本来の役割だったはずだ。
「っと、着いたのです。三日月ちゃん、起きてますか…?」
話している間に入渠ドックまで着いていた。
「あれ…電ちゃん……?電ちゃんが居るってことは…ここは…?」
キョロキョロと辺りを見回し、自分の体を確認する。
「ポートモレスビーだぜ。」
三日月に制服を渡し着替えるように促す。
「えっと…あなたは?」
怪訝そうな顔で私を見てくる。
「あぁ、すまない、自己紹介が遅れた。夕雲型駆逐艦4番艦、長波だ。現在はここに配備ということになってる。よろしく。」
そう言いながら右手を差し出す。
「睦月型駆逐艦10番艦、三日月です。よろしくお願いします。」
まだ打ち解ける程では無いが、しっかり握手をしてくれた。真面目な性格なのだろう。
「それで、三日月ちゃん、体の調子はどうですか?」
「今の所…大丈夫……だと思います。」
制服を身につけクルクルと回るように全身を確認して答える。
「それは良かったなぁ…せっかく命を繋いだのに後遺症が…なんてなったらやるせないしな……。」
無事そうな様子を見て胸を撫で下ろす。正直自分でもびっくりするほど三日月のことを心配していたようだ。
「その…長波さんが助けてくれたんですか…?」
艤装のチェックために工廠に向かいながら話しかけてくる。
「あーいや、私は見つけてここまで運んだだけだよ。それも電が居てくれたから余計な怪我をさせず運んでこれたんだ。私だけの力じゃない。」
「なるほど…でも、長波さんが見つけてくれなかったら死んでた訳ですから、私の命の恩人は長波さんですね。」
何故かそういう解釈をされてしまった。間違ってる訳でもないから無理に訂正はしないでおく。
「艤装も大丈夫そうですね。」
艤装のチェックも問題なく終わらせたところで、文月がやってくる。
「あ〜いたいた〜。朝ごはん、準備出来たよ〜。」
私たちがここで色々としている間に、文月が用意してくれたようだ。
「…私の事ですか?」
朝食を食べながら三日月について聞くことにした。
「そう。なんであんなところに居たんだ…?」
三日月を見つけたのは辺鄙な無人島。おそらく輸送機がいた事から大方予想は着くが…。
「そもそも三日月ちゃんはあたし達と同じくニューギニア攻略支援先遣駆逐隊所属だったんだよ〜。」
そういうことだったのか。
「艤装のオーバーホールと新装備のテストをするために内地に配置転換になったんじゃなかったのです?」
「そのはずだったんですけど…その……輸送機が襲撃を受けて……空中迎撃のために艤装を着けたおかげで…生き延びれたみたいです…。」
伏し目がちにそう答える。なるほど、そういうことだったのか。
「でも…それってかなり前なんじゃ……?」
キョトンとした顔で電が尋ねる。
「……今日って……何日ですか……?」
それに触発されたように三日月が日付けを尋ねる。
「今日はもう7月5日だな。」
私がそう答える。
「!?そんなに経ってたんですか!?」
驚愕のあまり三日月が声を上げる。
「ざっと三日月ちゃんがここを出たのが6月2日だから……大変だったねぇ………。」
あの文月が目を丸くして驚いている。1ヶ月もあの状況で気を失っていたのならあの状態になっても仕方ないだろう。それを救出したのが私という訳なのだった。
先週は投稿できず申し訳ございませんでした。