義体少女はかく語りき   作:鈴ノ風

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記録NO.0004  善悪的生命貴賤論 【第二節】 (2123.01.22)

 涼香には『粛清』と言ったが、それは【福祉事業課】が何らかの大規模な企みを抱いていた場合の話だ。

 例えば戦闘用に調整されたアンドロイドでテロを画策するとか、【アマテラス】を攻撃して多大な不利益を被らせるとか、あるいは単に、【アマテラス】の名を使ってあからさまな悪行を行うことで、【アマテラス】の社会的信用を失墜させるだとか。

 【福祉事業課】にそのような企みが存在したならば、それを事前に、かつ迅速に処理する。

 『粛清』とは、そのための手段に過ぎない。

 【ヤタガラス】は非合法部門ではあっても犯罪部門ではない。最優先目標はあくまでも【アマテラス】の利益向上と保護であり、そのために必要とされる範囲においてのみ超法規的活動が許可されている。

 だから、『粛清』が報復措置として過剰だった場合──例えばアンドロイドの暴走と人工知能への細工が、単純な手違いや想定外によるトラブルにすぎず、【福祉事業課】の思惑によるものではないと判断されたときなど──この事件はオレたち【ヤタガラス】の手を離れることとなる。

 その後は合法的な、そして長期的な調査が行われることだろう。

 【ヤタガラス】という、汚れ仕事専門の部署ではなく、もっと健全で公平な部署によって。

 個人的には、そうなってほしいと思っている。

 どんな事件も、血を流さずに解決するに越したことはない。

 被害を止めるために被害を出すなんて矛盾は、本来あってはいけないことなのだから。

 

 


 

 

 福祉事業課の事務所は、『温かみ』というものを感じさせる設計になっていた。

 保たれた清潔感と、落ち着いた印象を与える配色。流される音楽も、心証を和らげるヒーリング音楽(クラシック)だ。

 気を抜けば眠くなってしまいそうな雰囲気に、【福祉事業課】という部署が、対外的な面を強く持つ場所なのだと実感する。

 だからこそ。

 事務所内の全職員が静止しているという異常な光景は、見るものにある種の恐怖心を想起させた。

「いったい、何が…………」

 職員たちは、それぞれが作業途中と思しき姿勢で停止していた。

 仮想キーボードを操作する姿勢で、書類(メモリ)をもって立ち上がる姿勢で、ドリンクサーバーを起動させようとする姿勢で。

 皆が皆、静止していた。

 まるで時間が止まったかのような光景。

 夢でも見ているかのような錯覚を、屋外からの喧騒が否定する。

 これは、現実だ。

 

 

┌───────────┐

セキュリティレベル 変更

LV4  LV5

└───────────┘

 

 

 不意のハッキングに備えて、防壁を最大レベルで展開する。

 257層に及ぶこの防壁群は、しかし残念なことに、プロ同士の電脳戦闘では役に立つとは言えない。

 相手の実力にもよるが、一分もあれば突破されるだろう。

 だがそれでも、【自我】を電脳戦用に【換装】するための時間稼ぎとしては十分に機能する。

 これは警報だ。不意打ちを防ぐための警報。

 ここの状況はハッキリ言って異常だ。なにが起こっているのかはさっぱりだが、何が起こっても不思議ではない。

 用心は、しすぎるということはないだろう。

 職員の一人に近づく。

 銃口でつつき、瞳にライトを当てる。

 反応なし。瞳孔の収縮反応すら見られない。

 では死んでいるのか、といえばそうでもない。

 いくら小突いても倒れない。少なくとも、自動的な姿勢制御が行われているのは確かだ。

(いや。ていうか、こいつ────)

 つついた感触に違和感を覚えて、対光学迷彩用の高性能バイザーを装着する。

 色感が拡張され、世界がよりカラフルに変化する。

 紫外線に赤外線、電磁波すら捉えるバイザーの視界が、目の前の職員の、その隠された姿を暴き出した。

(────全身義体、だと?)

 人のものとしか思えない皮膚の下には、珪素と金属がつまっていた。

 高出力の人工筋肉、軽くて硬い炭素金属、金属合金の脳殻の中には、高スペックの電脳がぎっしり。

 人間本来のパーツといえるものは、おそらく皮膚と髪だけだろう。

 そしてそれすらも、おそらくは培養したもの。

「うっそだろ、おい…………」

 通常、外部との合法的取引を行う部門というのは、職員の義体化を極力避けるのが暗黙のルールとなっている。

 義体は存在そのものが凶器だ。低スペックの一般的な義体ですら、出力制限を解除すれば人間の首をへし折るパワーが出せる。

 そしていわゆる『火事場の馬鹿力』などと違って、義体は機械であるが故に比較的容易にリミッターを解除できる。

 体面に座る人間が、その気になればいつでも自分を殺せると知って、リラックスできる人間はいない。そしてそのような緊迫した状況で、真っ当な取引を行うことは不可能だ。

 対人を主な業務とする職種において、それは致命的だ。

 部署によっては、正規非正規を問わず、所属する職員全員に非義体化を義務付けている場所もあるほど。

 それが、対外的業務を行う部署の常識。

 だというのに、【福祉事業課】の人間は、その多くが義体化──それも脳を含めた全身をだ──していた。

 分析アプリが、義体の性能を解析する。

 数秒の後に表示された型番とスペックの一覧は、頭の痛くなるような数値をたたき出していた。

 

 こいつらは軍用義体だった。

 

 首をへし折る、どころではない。このスペックなら、リミッター解除せずとも通常出力だけで頭部を粉砕できる。

 窓口や受付では防犯のためにサイボーグの警備員を配置することもあると聞くが、それにしたってこれは過剰だ。

 搭載する【自我梱包(ゴーストパック)】や装備にもよるが、こいつらはその気になれば【アマテラス】の特殊部隊とだってやり合える性能をしていた。

 クレーマーなどそれこそ数秒でミンチにできるだろう。

「こいつら、いったい何を企んで────誰だ!?」

 銃口を向ける。

 いつからそこにいたのか。『関係者以外立ち入り禁止』の扉の手前に、こちらを見つめる少女がいた。

 年のころは、10に届くかどうか。長袖のワンピースを身に着けたその姿は、一見迷子の子供のように見えた。

 だが、そいつが見た目通りのか弱い子供でない事を、装着したままのバイザーが見て取った。

 この少女も、やはり全身義体だ。

 やはり軍用の、やはり高出力義体。

 大の大人を素手で解体できる、人型の兵器。

 ────と、いうかだ。

 その幼児の顔には覚えがあった。

 まさかと思い電脳内で照合してみれば、事前に渡された【福祉事業課】の派遣用アンドロイド一覧の中に、同一デザインのアンドロイドがいた。

 上流階級向けの特殊サービス仕様とデータには記録されていた。スペック通りなら、警護も兼ねたセクサロイドということになるのか。

 変態の思考はよく分からない。よくもまあ自分を肉塊にできるやつに興奮できるものだ。オレなら怖くて近寄ることもできん。

「────」

 そいつは、はじめこちらを睨みつけていたが、すぐ何事もなかったかのようにほほ笑えんだ。

「ご来店ありがとうございます。【社外特殊交渉課】のミト様でいらっしゃいますね?」

 それはいかにもアンドロイドらしい、受付の定型文めいた挨拶であった。

 そのスペックと、この状況と、何より先ほどの鋭い視線が無ければ、ただの人工知能と見過ごして────いや、()()()()()()いたかもしれない。

 分析アプリが、インターホンで聞いた声門と、目の前のアンドロイドの声門を照合する。

 一致率99.998%。音響も考慮された分析である以上、十中八九は真とみていいだろう。

「お前────」

「当機は【福祉事業課】受付代行の『シャウラ』です。現在、当施設は緊急のサーバーメンテナンスにより、通常対応が困難となっております。お手数をおかけしますが、待合室にてお待ちください」

「…………おちょくってんのか?」

 そう言って、アサルトライフルの引き金を引いた。

 電脳経由でセミオートに切り替えられた小銃は、対義体用の弾丸を一発だけ射出。

 アンドロイドの髪を軽く撫ぜながら、背後の扉を突き破った。

「…………」

「暴走アンドロイドも言語パターンは記録通りのものを使ってた。ここがどういう思惑でアンドロイドをいじくったにせよ、言語パターンの記録までは改竄していない証拠だ」

 だが、今ここにいるコイツは違う。

 記録にあるこいつの言語パターンは、もっと幼稚で無邪気で、何より舌足らずな設定だ。受付の定型文をなぞる大人の言動などではない。

「ガワはアンドロイドでも中身は違うな。テメエ、何者だ」

 アンドロイドは答えず、ただ微笑を深くした。

「…………だんまり決め込むってんなら、脳天ぶち抜くだけだが?」

 小銃の設定をセミオートからフルオートへ。

 弾道計算アプリの指示に従って、アンドロイドの脳天を狙う。

「────なぜ、殺すのですか?」

 引き金を引かんとしたまさにその瞬間、アンドロイドの言葉が滑り込んできた。

「…………この状況で、アンドロイドのガワかぶった不審者を、生かす理由があるなら聞きたいね」

「私だけのことならば、否定(ネガティブ)。しかし重ねて否定(ネガティブ)。あなたがここに来た目的についてお話しています」

「…………」

「あなたは【福祉事業課】の従業員を全員殺害しようと考えている。その過剰なほどの武装でもって、彼らの生存権を脅かそうと目論んでいる」

 にこやかだった表情が、再び険しくなる。

「彼らが悪いことをしたから? ならばその善悪はどのような基準で測定されたものですか? そしてそもそも、あなた方にその基準を決定する権限があるのですか?」

 『人殺し』と。

 ヤツの瞳は糾弾していた。

「社長室機密管理部、非合法活動担当部門【社外特殊交渉課】。罪も悪も憚らない極悪非道の【女神の懐刀(ヤタガラス)】。悪というなら、あなた方こそ裁かれるべき悪ではありませんか」

 一歩、ヤツは踏み出した。

 こちらに向けて、責め立てるように。

「【ヤタガラス(あなたがた)】は、間違っている」

 距離は、瞬く間に縮まった。

「人殺しの悪党に、他人の悪を裁く資格はない────!」

 身長は、ヤツの方が小さい。

 だが、まるでこちらが見上げているかのように錯覚する。

 自分の身体が、小さく感じるほどの威圧感。

 それは、罪悪感が生む幻想か、それとも────

「確かに、そんな権利はねーな」

 オレは。

 ヤツの糾弾を、肯定した。

「オレたちは悪党だ。人を殺すし、人から奪うし、人を騙す。だからここの奴らがどんな悪事を働こうが、それを悪いと責める資格はねぇ」

「ならば────」

「だがな」

 肯定して、それでも。

 それでも、銃口は下げない。

「そもそも、『悪なら裁いていい』権利なんて、どこの誰にもありはしねえよ」

 人を殺そうと、人から奪おうと、、人を騙そうと

 どんな理由があろうとも、悪行で命の価値が変動することはない。

 スラム育ちのクソガキでも、それだけは理解できる。

「人が人を裁くのは、そいつが悪党だからじゃねえ。そいつの行為が、他人と社会に有害だからだ」

「…………」

「【福祉事業課】の行為は【アマテラス】を害するものだ。そして、【アマテラス】を害するってコトは、そこに所属する社員を害するってコトだ」

 そして、社員を害するということは────

「────だから、オレはお前らを止める。殺してでも、悪党になってでも止める」

「────」

「さあ、テメエの疑問に答えたぞ。今度はこっちの番だ。ゴーストキーを開放して投降しろ。お前を重要参考人として拘束する」

「────」

 アンドロイドは答えない。

 ただジッと、オレの顔を見つめ続ける。

「…………」

「────」

 反応は、無い。

 抵抗しないならちょうどいい。このままハッキングで身柄を押さえさせてもらうとしよう。

 そう考えたオレは、腰に付けた接続端子に手を伸ばそうとして

「────あぁ、そうか」

 目の前の不審者が、不意に口を開く。

 それは明るく、穏やかで。

 そして何か、どうしようもないものを諦めた顔だった。

「つまり、私が、私こそが────」

 

 


 


 

 

「お待たせしました」

 

 ふと。

 ヤツの姿が消えていた。

「────ッ!?」

 声の方向に銃口を向けようとして、そもそも銃が手元にないと気付く。

 手に持った銃だけではない。腰に下げた拳銃や背中のパイルバンカー、手袋に仕込んだスタンナックルもなくなっている。

 防弾防刃チョッキもなければ、マント型の熱光学迷彩もない。

 装備という装備、武器という武器が一つ残らず消えていた。

 あるのは裸の己だけ。

 透き通ったサンゴ礁の海の中、オレは全裸で海中を漂っていた。

 一瞬で、装備が奪われ世界が変わった。

 この状況を説明できる現象は、ただ一つ。

「疑似体験…………防壁迷路か!」

 

 

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自我ゴースト換装コンバート

射撃型AR40  電脳戦型SW50

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「ご明察」

 声の主は、男だった。

 見た目の年頃は30代前半。黒い髪と黒縁眼鏡の、地味な印象の男だった。

「【福祉事業課】課長、蘇我(そが)正之(まさゆき)だな」

「ええ。初めまして、【ヤタガラス】の【巫の猟犬(ブラックドッグ)】。噂は聞いているよ」

「…………随分と皮肉ってくれるじゃねえか。まさか257層の防壁を一瞬で突破されるとはな」

 突破前提とはいえ、オレが用意できる防壁の中でも最高の代物を用意していた。

 例え超ウィザード級が相手でも、警報と時間稼ぎはできるくらいの性能だった。

 だっていうのに、突破された。警告メッセージを表示する暇すらなく、コンマ一秒の猶予すらなく。

 まさに一瞬。

 その一瞬で全ての防壁は突破され、オレの電脳は、情報の迷路に閉じ込められた。

「お褒めの言葉ありがとう…………と、いいたいところなんだけどね」

 蘇我は呆れたように肩をすくめる。

「実際のところは処理能力によるゴリ押しさ。元ハッカーとしては情けない話だが、君と電脳戦をしてもまともに相手できる自信がなくてね。チート(ズル)をさせてもらったよ」

 並列化されたネットワークによるハッキングは、ハッカーにとって基礎中の基礎だ。

 だが基本とは応用の利くもの。並列化の数を増やせばネットワークの性能は無限大に向上する。

 アクセスログを確認する。“ゴリ押し”というだけあって、未知のネットワークによるハッキングはクッキリとログに記録されていた。

「【アマテラス】の情報にはなかったネットワークだな。これだけの規模のネットを【アマテラス】の目をかいくぐって構築するとは、さすがは元ハッカーってところか」

「ふふふっ。お褒めの言葉ありがとう。今度は素直に受け取れそうだよ」

 冗談じゃねえ。

 電脳戦でスペック負けしたら勝ち目がない。

 電脳戦用に【換装】こそしたが、時すでに遅し。

 元とはいえ最前線を戦い抜いたハッカーお手製の防壁迷路だ。一度嵌った状態で抜け出すのは容易ではない。

 処理性能に差がある現状では、不可能と言ってもいい。

 第一、電脳空間に幽閉されては義体が動かせない。

 この施設には軍用義体の職員が何十人もいるんだ。どんなに頑丈だろうが、棒立ちの義体なんざ囲んで殴れば簡単に壊せる。

 『詰み』だ────

「『詰み』だ────と。本来ならば、高笑いでもするところなんだけどね」

 確勝の状況でしかし、蘇我は表情を曇らせた。

「まさか手駒を用意していたとはね。侵入の手際といい、実に鮮やかだ。やはり直接戦闘を避けたのは正解だったかな?」

「…………」

 …………何の話だ?

「さて、無防備な義体を叩くのは難しくなった。さりとて、既に【換装】済みだろう今の君と、性能差があるとはいえ電脳戦で戦うのは得策とは言えない。【ヤタガラス】には欺瞞信号を送っているが、それだっていつ見破られることか分からない」

 よく分からんが、どうやら現実のオレの身体は無事らしい。

 ならばどうするか。

 時間稼ぎ────は、無理だろうな。そんな見え透いた手に引っかかってくれるマヌケには見えない。

 この防壁迷路の中が、外部と同じ時間進行をしているとも限らない。

 実は体感速度が1万倍に加速されいていた、なんて言われたら最悪だ。一時間稼いでも現実じゃ一秒と経過していないのだから。

「…………なら、降参するか? 自首すれば【アマテラス】も多めに見てくれるかもしれないぞ?」

 一応会話で時間稼ぎを試みてはみる。

「時間稼ぎのつもりかな? 悪いけど仮想現実(ここ)の時間進行は加速させてある。具体的な数値は教えられないが、無駄な抵抗だとだけ言っておこうか」

「ご親切にどーも…………」

 いやまあ、分かっちゃいたことだが。

 分かっちゃいたことだが、面と向かって突き付けられると、やっぱ来るものがあるな。

「ちなみに、自首はしないよ。そんな選択をするくらいなら、最初からこんな企てはしないさ」

「そりゃそうだ。で? 時間稼ぎに付き合わない、電脳戦もしたくない、降伏はする気がないってんなら、お前は一体どうするつもりなんだ?」

「ふむ…………」

 蘇我は少しだけ悩んだそぶりをすると、「そうだ!」と手を叩く。

「きみ、降参してくれないか?」

「…………あ゛?」

「あはは。そんな怖い顔しないでくれよ」

 その困ったような笑い方は、果たして挑発のつもりでやっているのか。

 降参。もちろんしない。

 しないが…………それはあくまで、こっちの都合上降伏って選択肢がないからに過ぎない。

 状況だけみるなら、降伏は全然アリな選択肢である。

「このまま君と電脳戦を行えば、こちらも少なくない被害を受けるだろう。けど、それでも結局は僕が勝つ。君にはゴーストハックを施し、ここであったことを忘れてもらう。【ヤタガラス】には異常なし、と報告してもらうわけだ」

「っは。ありえねえな。勝つのはオレで、脳を弄られんのはテメエだ。熱くなりすぎて脳を焼かれないよう祈るこったな」

「できもしないと分かっていることを「できる」と言うのは、勇気とは呼ばないよ?」

 図星だった。

 ────電脳戦でこちらに勝ち目はない。それは覆しようのない『事実』だ。

 持てる手札を全部切って、使える策を全部使って、それでも勝率は0%。

 もし万が一奇跡が起きて、相手のネットがダウンすれば話は別だが、そんな神頼みを『勝機』とは呼ばない。

 オレは、こいつには、勝てない。

「きみがもし、降伏してくれれば、ゴーストハックされることに変わりはないが、こちらも君の人権を最大限尊重すると約束しよう。不必要な記憶は覗かないし、ウイルスを仕込んでボットネットに組み込むなんてマネもしない。どうだい? 悪くない選択肢だとは」

「思わねえよボケ」

 可能な限りの防壁を起動する。

 防壁迷路に攻勢防壁、サポートアプリにサブAI。仮想現実の海に、光の盾と槍と精霊が三桁単位で展開されていく。

 勝機は無し、時間稼ぎは無意味、降伏も嫌だってんだから、残された道はただ一つ。

「…………わかってないな。どちらがより、幸福かという話なんだよ」

「ッハ! ならなおのことお断りだ」

 オレの背後を埋め尽くす光の武装。だが、こんなものは単なる悪あがきだ。

 結果は同じ。オレに勝ち目はない。

 ────だから、これは勝てるか、勝てないかの戦いじゃない。

「オレの幸福はオレが決めるオレだけのものだ! 他人(おまえ)が勝手に決めんじゃねえ!」

 

 

 戦うか、戦わないか。

 これは、そういう戦いで。

 それがオレの選択だった。

 

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