【完結】ロッシュリミット/TS転生してモブを主人公と勘違いする話。 作:潮井イタチ
この手の入りから語られるキャラクターなんて大概が全く普通の高校生なんかじゃあないだろうが、少なくとも
中肉中背、中庸中立。
平凡な能力、平凡な家柄、平凡な経歴。
人生何も無いと言えるほど平らでもないが、何かあると言えるほど尖ってもいない。
平凡な人間なんていない、人はみんな特別だ……、
なんて言説を唱えるのであれば勝手にすればいいけれど、他の誰になんと言われたって、
だから、特筆すべきものがあるとするなら、それは彼自身ではなく――その隣に居た、「彼女」についてであるべきだ。
自身にまつわる関連項目の中で、唯一特別だと思える彼女。
桜色の髪を靡かせる、子供らしくて大人びた、年の離れた青年のような同い年の少女。
彼と彼女の関係をカテゴライズするなら「幼馴染」だ。
けど、家は三軒離れていたし、親同士の仲も顔を合わせれば軽く立ち話をするぐらい。当然家族ぐるみの付き合いなんてなくて、近所付き合いも大してない。
しかし、小学校の頃にはもう知り合いだった。
どういうきっかけで話し出したのかは覚えていない。
席替えで隣になっただとか、帰る道がいつも一緒だったからとか……そんな程度の、覚えてられないような、ありきたりな理由で話かけて知り合ったのだと思う。
正直、あんまり感じのいい女の子ではなかった。
その頃から可愛らしい顔はしていたが、見るからに同年代を子供扱いしていて、それを取り繕うともしないで……。
でも、それに文句を言わせないぐらいの大人びた態度と、子供離れした能力――そして、誰も知らない真実を知っているような謎の雰囲気。
明らかに孤立しながらも、彼女には先生も誰も「他の子ともっと仲良くしましょう」なんて言わなかった。
だが、
それはやっぱり、何か
しかし、
思い返せばいつも、年下の男の子か、弟を観るようなそんな素振りで、同い年の友達として扱われたことは、ついに一度もなかった気がする。
お姉さんぶった大人目線。顔に似合わない中性的で活発な振る舞い。常に自分と周りを隔てて、それを当然だと思っているような、自身を特別と確信する人間にしか出せない独特のオーラ。
子供の狭い視野での捉え方であったかもしれないけれど……あの頃の
正直な話、好きだったのだと思う。
もっとも、それは小学生のませた恋愛感情なんかじゃなく、憧れとか、興味とか、羨望とか……そういうものがごちゃ混ぜになった末の、未成熟な好意ではあったが。
でも、そんな子供の好意を、彼女は少し照れ臭そうに受け取っていた。男の子みたいにいたずらっぽく笑って、それからちょっとずつ、心を開いて、距離を詰めてくれるようになっていた。
で。
「ほらほら
「ヴヴォァアアアア゛ア゛ァーッ!?!?!?」
「すげえ声出ててウケる」
それなりに仲良くなった結果として見せられたのが、
曰く、超常性。曰く、都市伝説。曰く、脅威存在……
気づかされてみれば、そいつらはそこらじゅうにいた。
日常に入り込むほど多くはなく、日常から覗き込めないほど少なくはない。
少し意識の焦点を合わせて探せば、子供の足でも届くほど近く、すぐそこにいるもの。
幼い
大人にも相談したが、当時小学生である彼の言葉なんて誰も信用しなかった。
今にして思えば、信用されないであろうことを見越して彼女はこれを暴露したのであろう。カスである。
思い返すとトラウマになってもおかしくないような恐怖体験だったと思うのだが、なんだかんだ慣れた。
わざわざ手を出そうとしなければ特に何も起こらないというのもあったし、結局のところいるものはいるのだからと諦めたというのもあったし、女子の
「レベル1のザコなら棒でシバくだけでもイケるでしょ」
その
あの頃は特別感があった。
自分が、何かの物語の主要人物であると信じて疑わなかった。
でも、彼女はそんな風には思ってなかったらしい。
「なあ
「これ?
「いねえじゃん、こんなの。ライダーとか戦隊とか、あいつらがテレビで
「『彼』は居るよ」
真剣な声で、彼女は言った。
「
「……でも
「作れないんじゃなくて作らないの。
その彼女の、彼に向けて話していながら、彼のことをまるで意識していない様子に――無性に、心がザラついていた。
よくわからないが、何かがイヤだった……いいや、違う。
何がイヤだったかなんて分かっていたが、それを認めたくなかったのだ。
「困ったらこの人たちに助けてもらうといいよ。そこらにいるザコの対処法は色々と教えてきたけど、それでも
「…………」
「ほらこれ、覚えておいた方がいいキャラね。今はまだいないけど、そのうち――わっ、あっ、何すんの!」
差し出されたメモ用紙を、ビリビリに破いたことを覚えている。
その日はそのまま喧嘩別れした。
……というには、彼の方が一方的に拗ねていた気もするが。
大人気ないと言いながらなだめていた彼女も、最後には多少イラついた様子で「今度この人に会ってくる」とかなんとか言って別れて、それで――
――何かがあった。
その時期の記憶は混濁している。
今なら、『彼ら』が特殊な記憶処理を広域かつ長期に渡って施したのだと分かるけれども。
それは表向き「大きな火事があった」ということになっていて。
気が付いた時には焼け跡の復興があり得ないほど迅速に終わっていて。
そして。
「えー、
そういうことになっていた。
でも、その直後はまだ……自信があった。
何の自信かと言われると難しいが、ここからまた何か始まって、よくわからないけど円満に解決して、最終的には彼女が帰ってきて、元の日々に戻れるんじゃないかという……根拠の無い、自信。
何もできなかった。
転校先の学校とか、火事の時にあった出来事とか、色々調べてはみたのだけれど、何もできなかった。
具体的に何をすればいいのかもよくわからなかった。
思えば、これまでの冒険だって、なんとなく彼女についていっていただけで――その破天荒に振り回されたり、危険な目に遭うのを助けたり、二人で協力したりするようなポーズを取ってはいたけれど――そんなのは、ただ、彼の主観の話で。
大抵のことは準備も何もかも彼女一人でやっていたし、小学生にとっての『危険な目』なんて彼女は些細なトラブル程度にしか思っていなかっただろうし、二人で協力してやったことは金か手間か時間をかければ一人でも出来たことだった。
それに気づき、落ち込み……。
それでも、
こんなものがあるなんて、他の人間は誰も知らない。
だから、ここで待っていれば、その内に彼女がやってくるんじゃないか、と――
「――こちら現地隊員。既知超常脅威、問題なく駆除完了。……記憶処理……いえ、目撃者はないと思われます。はい、これから後始末を――」
そして、世界の裏側では、二人だけの秘密なんて、当たり前の事実に過ぎないことを知った。
どうにか『彼ら』の後始末をかわして、しばらく経ってからもう一度来てみると、不気味で神秘的だったその場所は、どこにでもあるコンビニに建て変わっていた。
考えてみれば、当然の話だった。
あんなバケモノがそこら中にいるのに、世界が終わる気配がない。誰かに知られてすらいない。
なら、当然、そこには日常を守る誰かがいて、人目につかないように隠していたに決まっているのだ。
そしてそれはきっと、なにか劇的なものですらない。
……いつだったか、両親の仕事を調べてきなさいだとか、そういう学校の宿題があった。
彼の父親は環境省の公務員だかなんだかで、ビールを飲みながらライフラインがどうのインフラがどうのと言っていて、ちゃんと聞いてすらいなかったが……「日々の生活を守る大事な仕事」だというのは、覚えていた。
多分、『彼ら』もそうなのだろう、と思った。
英雄的行為でも何でもない、ただの害獣駆除。毎日のお仕事。誰も知らないだけの、普通の労働。
今まではしゃいで見ていたものは、そんな程度のものでしかない。
実感した。痛感した。
……そして、
自分が特別だなんて、全く思えなくなったのだ。
主役でも主要人物でも何でもない、ただの
そして多分、
だが、きっとそれでよかったのだ。
無理に近づこうとしても、良いことなんてあるはずが無い。
それは場違いで、分不相応な話で、イカロスの翼よろしく思い上がりのしっぺ返しを受けるのが目に見えている。もしくは、
「…………」
だけど……せめて何か、知りたかった。
何を知りたいのか、自分ですら分からなかったけど。
中学に上がり、平凡な日々を過ごし。
その
そして普通に中学を卒業して、普通の高校の入試に受かって。
春休みをダラダラと、いつものように適当に、不思議なものを探して過ごしていた、ある日だった。
「何だアレ」
デカい雷の怪獣がいた。
そしてそれと戦う、淡い桜色の髪の少女を見た。
そして、戦いの中で少女の被っていたフードが破けて、その中に幼馴染の顔が、
「――こちら事後処理班。目撃者の記憶処理を開始します」
見えたところで『彼ら』にその記憶を吹っ飛ばされたが、『彼ら』はアレで案外ずさんなところもあると
理念的に無理も無いが、基本的に一般人をナメているのである。
ので、記憶を消される前に、そこで起こったことを買い物メモに見せかけた暗号で腕にマジック書きした。
ついでに謎装置に記録を消されないよう――原理は全く分からないがこれまでの経験でそういう装置があることは知っている――茂みの中に隠して撮影させておいたスマホを後から回収して、その時あったことを知った。
そして、帰宅後。
「……やっぱ
五年近く会っていないけれど、他人の空似とは思えなかった。
電磁波の影響であまりはっきりした映像にはなっていなかったが……それでも分かる。あのシグナルレッドの鮮やかな眼光。神秘的な立ち居振る舞い。派手な
――
と、ごく自然にそう思った。
「…………」
少し嬉しかった。
幼馴染だった少女はやっぱり特別な存在だった。
そう思った。
「…………」
それでも、何か、知りたかった。
何かが何なのかは、やっぱり自分でも分からなかったが。
そして、そのまま何事もなく高校に入学し、半月が経った時のことであった。
ジャージを持って体育の授業に行こうとした時。
ロッカーにもたれかかるピンク髪の女子生徒の姿を見た。
というか
「(なんか普通に学校に居る……)」
なんか普通に学校に居た。
「ぅ、ふぐ、うぅっ……」
「(泣いとる……)」
泣いていた。
恐る恐る、近づいて様子を見る。
小柄な身体だ、と最初に思った。
うずくまっているせいもあるが、女子の平均身長よりは低いだろう。
当時は同じぐらいの背だったから、余計に小さく思う。体型も全体的に細く、スレンダーだ。
顔は伸ばしっぱなしの前髪に隠れていて、陰気な印象。
この高校の特徴であるデザインに凝った制服もあまり着こなしているとは言えず、全体的に華やかな印象は感じられない。
「(まぁ、昔からあんまり女の子っぽい奴ではなかったけども……)」
本当に泣いているのかと、軽くかがんで、前髪の奥の顔を覗き込む――美少女であった。
思わず、たじろぐ。
春休みの時に一度見てはいるけれど、あの時は遠目だったし、そもそも覚えていない。撮った映像だって、そこまでしっかり映っていたわけではなかった。
けど、こうして近くで見るとはっきり分かる。
可愛い。物凄く。
昔から可愛い容貌ではあったけど、そこにはまだ子供っぽさが残っていた。
しかし今は、あの頃から見え隠れしていた美しさが、花が開くみたいに綺麗に咲いている。
でも、その目はぎゅっと瞑られ、顔はやっぱり涙でぐしゃぐしゃに濡れていた。
何を言えばいいかもわからないまま、
「えっと、その……どうした?」
「……ージ……」
「え?」
「えぅ……ジャージ、わすれた……。ジャージ忘れたぁああぁ……!」
マジかコイツ。
ジャージの忘れ物――ジャージの忘れ物? 高校生にもなって忘れ物で泣いている? 逆にどうしろと?
内心頭を抱えつつ、とりあえずはこうして五年越しに再会したのだし、久闊を叙しておくべきかと口を開く。
「あー、その、ていうか分かるか? 俺だよ、
「知らない……誰……」
あまりにも無慈悲な言葉に青少年のハートが木っ端微塵に砕け散りかけた。
「い……いや、ほらせめて顔見ろって
「名前呼びキモ……」
あまりの口撃力に一瞬死んだかと思った。
ショックで倒れそうなところをギリギリで堪え、食いしばる。
だがしかし、それでもガクガクと震える膝。たった二撃で足に来ている。
もうこうなればヤケである。せめて顔ぐらいは向けさせようと、半ば強引に腕を取った。
「ほら。き……
「――あ」
袖がめくれて、白い包帯が目に入る。
これを見せたくなかったからか、と一人得心する。
一瞬、リスカでもしているんじゃないかと思っていたが、あれだけの戦いをしていたのだ。今日も傷ぐらい負っていても何もおかしくはない。
一旦泣きやんだ彼女の顔をもう一度見て――
「……っ」
――思わず、体を引いた。
きらきらと輝いていたシグナルレッドのあの瞳が、あまりにも暗く、病み澱んでいたから。
だから……何か言うべきだと思いながら、何を言っていいかもわからなくなってしまって。
なんとなく他人行儀な態度でジャージを貸して、それを他人行儀な態度で彼女が受け取って、そのまま、体育館の方へと去っていこうとした、その時だった。
足元に、よれた紙が一枚落ちた。
拾い上げる。
昔、彼女の描いていた
「――こういうの、今でも好きなのか?」
「え?」
反射的に問いかけてしまって、彼女が振り返る――その直前に、チャイムが鳴った。
慌てて
「…………」
手に持ったルーズリーフをじっと眺めた。
……彼女は、一体どういう気持ちでこれを描いたのだろうか。
こういうものになりたかったのだろうか。なれたのだろうか。どうしてああいう風にしているのだろうか。どうしてこういう風にしていたのだろうか。
自分は、どうすべきなのだろうか。
そもそも、何かできることはあるのだろうか。
「…………あー」
知りたいまま知れなかったことを、ようやく言葉にして自覚する。
自分は。
ずっと。
彼女の気持ちが、知りたかったのだ。
「……それがなんでああなった……?」
テンション上がってコスプレ姿のまま街に出て、いつものように妙な気配のする場所を徘徊して――最終的に彼女と戦っていた白衣の男をボコった、その翌日。
「(……しかも、いつの間にかアレ拾ってきちまったし……)」
ごちゃごちゃと物が置かれた机。
その上に、白衣の男が落とした謎のアイテム――幾何学的なラインが刻まれた黒い箱が置かれていた。
机の上には他にも、色んな場所から拾ってきた超常性のアイテムが並べられている。
とはいえ、そう大した代物ではなく、永遠に砂が落ち続ける砂時計とか、水が零れないコップとか、裏しかないのにトスするとたまに表が出る十円玉とか、そういった何の役にも立たない物ばかりだ。
それと同じようにいつもの癖でコレも拾ってきてしまったが、明らかに今までの弱い超常性アイテムとは雰囲気が違う。
部品の一つに刻まれていた、製品名と思しき文字列を見る。
Materializer……直訳で「物質化させるもの」、でいいのだろうか。熟語に言い換えるなら物質具現機といったところか。
昨日の晩に軽く中身をバラして構造を見てみたが、複雑な上に、明らかに現代の科学では無さそうなナニカが使われていてよく分からなかった。
大体、この極小のあやとりのように絡められたこの炭素繊維に一体何の意味があるというのか。何かしら規則性のある動きをしているのは分かるが、こう、結び目理論的ななんやかんやが使われているのだろうか? よく分からないがライデマイスター移動的な。
とりあえずユーザ認証か何かをしていると思われる部分は普通の電子部品だったので、適当に外して弄ったが、正直あんまりよくなかったかもしれない。それを言ったら分解している時点でだいぶよろしくないのだが。
「……再現率3%、コスプレ衣装具現? お、出る」
物質具現機に手を当て、思念的な何かを読み込ませる。直後、自分で作った昨日のコスチュームが虚空から音も無く出現した。
白衣の男や、
……構造はともかく、どういう物かは大体分かって充分に満足はしたのだが、しかしどうするべきだろうか、これ。
……
「……でもなぁ……」
その場合、自分は勝手に彼女の描いたデザインのコスプレで深夜徘徊していた妙な変人、もとい変態になるわけである。
大体、コスプレで深夜徘徊がしたかったわけではないのだ。いや、衣装が完成してテンションが上がったのは事実だが、それでも最初思っていたのはそういうことではなくて……。
悩んでいる内に、学校に到着する。
自分の教室に向かおうとして、その途中。
「――あ」
廊下をうろついていた、ピンク髪の少女と出くわした。
「え、ええと、も……
「おう……。おはよう」
「あ、あの、これ、ジャージ……」
苗字呼びに地味に凹む。
この数年で随分と暗く内気になった様子の幼馴染からジャージを受け取る。
何も言えずにそのまま教室に向かおうとしたが、その直前、「あのっ」と、いくらか上擦った彼女の声に呼び止められた。
「この――この格好してた人知らない? 見てない? 他の人にもその、聞いてるんだけど……」
言って、彼女が見せつけてきたのは、やはりと言うべきか、例のキャラクターのデザイン画だった。手を伸ばし、紙を受け取る。
しかし……
「(……なんか美化されてね?)」
「え? な、なに?」
「いや、なんでも……」
明らかに前見た時より脚が長い。頭身もやや高く、全体的にシルエットが引き締まっている。昨日の有り合わせの中古素材で作ったコスプレ姿の
「一応、見たかな……家の前とかで……」
「っ、本当に!? 具体的には!? どこ行ったか分かる!?」
「あー、うーん、えー、でもちゃんとは見てないかなー……。その時視界悪かったしなー……。その後どこ行ったかは……強いて言えば学校の方カナー……」
「そ、そっか――ありがと、良かった、もしまた見かけたら僕に教えて! お願いします!」
「アッハイ」
紙を返そうとした手をぎゅっと両手で握られる。本当にこの手と指で戦っていたのか疑うほど柔らかい。目にかかる前髪の奥でぱぁっと華やかに笑顔が咲いたのを見て、心が謎に縮こまった。
「……あー、あの、さ。
「え? えっと、それは……昨日、夜にその人が助けてくれて……。だから、また――いや、お、お礼言いたくて……会いたいし……。きっと、その、ヒーローみたいな人だと思うから……」
「うーん、そっかぁ……。……いや、俺がこういうのも本当にアレなんだけど、この格好で夜中に歩いてるとか怪し過ぎないか? なんかたまたま助ける形になっただけのただのコスプレした不審者だったりしない?」
「ちっ――違っ、絶対違う! なんでそういうこと言うの!?」
「あ、はい……なんかすいません……」
本気の涙目で怒られ、
気まずい気持ちを覚えながら、頬をかいて逃げるように会話を打ち切ろうとする。
「じゃあ、まあ……その、ほどほどにな……。ほら、人探しって難しいから、あんまり根詰めてもよくないし……」
「うん――あ、その、すごい助かったから……ごめん、怒って……」
「ああ、いや、いいよ。気にしてない」
その後は、一日中ずっと上の空だった。
「(……もし俺のただのコスプレって分かったら、アイツどうするんだろうな)」
泣くか。怒るか。それとも、嫌われるか。
想像して、憂鬱な気分になる。
そしてその逆に。
もし、自分が本当にヒーローだったなら、その時彼女に向けられる視線を想像して――
「……ッ!」
――ガン! と突発的に額を机に打ち付けた。
「おい、今なんか音したが大丈夫か
「なんでもありませーん……」
授業をしている数学教師に生返事を返す。
そうだ。
別に
浮ついた下心でやったわけじゃない。
ただ、彼女が……
特別な人間が。
一体どういう気持ちでいるのか、それが知りたくて――
「…………」
――もう少し真面目にやってみようか、と思った。
それは彼女に好かれたいからとか、嫌われたくないからとか、そんな理由ではなくて。いいや、それもあるかもしれないけれど。
……ただ、ここでやめたら、そんな理由で、言い訳をし続けることになってしまうと。
そう思った、だけなのだ。