ソードエピソード   作:女良息子

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03.最果てを視る弓(ピリオド)

『絶対人間帝国』が中枢のとある建物に、その会議室はある。

 狭くはないが広くもない空間に、長机と椅子だけが並んでおり、他に家具の類はひとつも見当たらない。

 置かれた椅子の数は──九。

 九人が集まり、九人が顔を合わせ、九人が語り合う──その為だけに他を徹底的に排している。

 そんな印象が見受けられる部屋だ──その扉が。

 重々しい音を立てて、開かれた。

 

「…………」

 

 開かれた扉から、ひとりの人間が入ってきた。

 肩口のあたりで切り揃えた桃色の髪に、線の細い体型──外見だけでは男か女か判別できない、中性的な美しさのある人間だった。

『絶対人間騎士団』の黒い軍服に袖を通しているものの、各所に大胆かつ華美なアレンジをあしらっており、それによって一層、その人間の美しさが際立っている。

 そんな格好だけを見ると、軍人よりも踊り子を連想させられるかもしれない。

 だが。

 腰に差しているたった一本の刀の存在が、ただそれだけで、その人間のイメージを剣呑なものへと塗り替えていた。

 仕方のないことだ。

 それは、ただの刀ではなく。

 九世兵器のひとつ──十二本ある“全を薙ぐ刀(エピソード)”がうちの一本なのだから。

 剣呑な雰囲気を纏っていて当然だ。

 軍服の人間はくりくりとした愛らしい瞳で室内を見回す。やがて視線が一点で止まると「あーっ!」と口を大きく開けた。

 

「ト! ここにいたのか!」

 

 批難の色を帯びた視線の先──九つの席がひとつには、誰かが座っていた。

 十七、八歳ほどの若い少年だった。

 彼は殆ど寝るような浅い座り方で本を読んでいる。

 伸びた前髪が目元にかかっているため全貌は分かりづらいが、その顔に特徴らしきものはない。

 ありふれた顔をしている。

 言うならば。

()()()()()()()()()()()()だ。

 もっとも、その顔から視線を下ろして腰に目をやると嫌でも視界に入る剣── “全を薙ぐ刀(エピソード)”は、全然ありふれていない、希少性の塊なのだが。

 

「ようシャルル」少年は会議室への来訪者を認めると、本から顔を上げた。「今日も元気そうだな──ところで、いつも言ってるだろ。ぼくの名前はトじゃない。   トだ」

 

「? またわけのわからないことを言ってるねえキミは」

 

「うーん……」トは天井を見上げて呻いた。「やっぱり伝わらないか……。これで何度目だ? まさかそこだけ聞こえてないってことはないだろうし……、なんでかなあ」

 

「いくら騎士団に友達がいないからって、奇行で気を引こうとしても逆効果だと思うよ?」

 

「前から思っていたけど、おまえは毒気のない顔をしている割に、軽率に毒を吐くよな」

 

「サボってた人は毒を吐かれても仕方ありません! ──それに!」

 

 形のいい目尻を吊り上げながら、シャルルはトの服を指差した。

 これまでの話から察するに、ふたりは同じ騎士団に所属している間柄なのだろう──しかしトが着ているのは『絶対人間騎士団』の軍服ではない。

 色味こそ軍服と同じ黒だが──それ以外の全てが違う。

 首まで閉じられた襟も。

 金色のボタンに刻まれた紋章も。

 軍帽の代わりに被っている帽子も。

 何もかもが──『絶対人間騎士団』の軍服どころか、()()()()のあらゆる服飾文化から外れていた。

 

「また変な服着てる! ちゃんと軍服を着なよ! いくら”剣客”だからって、いつまでもお客様気分なのは困るぜ?」

 

「いや、これにはワケがあってさ……、軍服より着慣れているこっちの方が動きやすいんだよ。ていうか、おまえだって他人に文句が言える服装じゃないじゃん──あと変な服って言うな。これにはちゃんと()()()って名前があるんだ」

 

「ガクラン? なにそれ。なんて意味?」

 

「ええと、たしか略語だった気が──『学』が『学生』の略なのは察しが付くけど、『ラン』はなんだったかな。わざわざ略すくらいなんだし、きっと長い言葉なんだろうけど」

 

「なーんだ、着ているトでも意味が分からない名前なんだね! ふふんっ、じゃあやっぱり変な服でいいじゃん!」

 

「くそっ……! もっと普段から身近な言葉の意味に敏感でいるべきだった……!」トは悔しそうに言うと、それまで開いてた本を閉じ、改めてシャルルと目を合わせた。「──ところで何か用か? わざわざぼくに小言を言う為だけに、探し回ってたわけじゃないんだろ?」

 

「あー! そうだった! 伝えることがあったんだった!」

 

 言われて気づいたのか、大声を上げた。

 シャルル・テーブル。

 何かと騒がしい人間である。

 

「いっ、いいかい? 聞いて驚くなよ?」

 

「うん」

 

「ふ、副団長が……、”流星流”に殺されちゃったんだって!」

 

「へー」

 

「ホントに驚かないやつがいるかアホー!」

 

 シャルルは容赦のないグーを放った。

 だが、線の細い体型から放たれた拳に力はなく、トの胸元でぽすりと音を立てて止まる。

 

「仲間が死んだんだよ!? だったらもっと驚くとか、それが無理でも悲しむとかさあ!」

 

「いや、だって、ミルドットって前から“流星流”について色々と対策を研究していただろ? あんだけ熱心に調べていたっていうのはつまり、裏を返せば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことじゃないか。そんなん戦う前から負けているも同然だぜ──あいつの策に“流星流”がどんな攻略法を考えたかまでは知らねーけど、きっと何もせずにそのまま戦ったとしても、副団長に勝っていただろうさ」

 

「『だからミルドットが“流星流”に殺される展開は予想できていた』……ってことかい? 酷い言い草だなあ」

 

「それで、“流星流”は今どうしているんだ? まさか騎士団の副団長を殺すような反逆者が、その後大人しく捕まったなんてことはねーんだろ?」

 

「行方不明。ミルドットの“全を薙ぐ刀(エピソード)”も一緒にね──あとついでに言うと、マフィとも連絡がつかなくなってるし! まあ、あの子は元からふらふらしがちだったし、体質的にミルドットみたいにどこかで死んでるなんてことはなさそうだから、安心していいんだろうけど」

 

「……へえ」

 

 その時、トの目に何らかの思惑が滲んだが、伸びた前髪に隠されていたので、シャルルはそれに気付かなかった。

 

「色々起きてるんだな」

 

「他人事みたいに言うなー!」

 

 再度、トの胸元でぽすりと音が鳴った。

 

「というわけで、いま騎士団は大忙しなんだから! 呑気に読書する時間はもちろん、会議室で顔を合わせてる暇さえもありません! もう他の団員(みんな)はとっくに動き出してるんだよ! 特にウーガは先日の巨人族の件を受けて、“ 最果てを視る弓(ピリオド)”の蒐集っていう最重要任務に出かけてるんだからね! トにだってやることはたくさんあるんだよ!」

 

 シャルルはそう言って、トの右腕を掴んだ。

 トはされるがままに引っ張り上げられたが、

 

「…………。ちょっと待てよ?」

 

「ん、どうかしたの? 言っておくけど、今更サボりの言い訳を思いついたって遅いからね?」

 

「いや違う。そうじゃない──あのさ、もう一度言ってくれないか。副団長を殺した剣術の名前を」

 

「え? “流星流”だけど」

 

「もう一度、ゆっくり」

 

「りゅ〜う〜せ〜い〜りゅ〜う〜」

 

「最初の3文字だけを」 

 

「りゅ〜う〜! ──ったく、なんなのさ! べつに初めて聞いた名前でもあるまいし」

 

「ああ、うん、そうだな。悪かった──」

 

 引っ張られていない方の左手で頬を掻きながら、ト・テーブルは誰に聞かせるわけでもない呟きを続けた。

 

「やっぱり聞こえてないわけでも、言えないわけでもなさそうなんだよなあ……」

 

 ◆

 

 『大いなる戦争』で何が起きたのかを説明するのは容易い。

 当時世界に住んでいた種族の全てが参加した戦争、の一言で済むからだ。

 では。

 それと同時期に発生し、勝るとも劣らない被害を残した『大いなる災害』についての説明もまた、同じく容易なのかというと──それは違う。

 たとえば『災害』と聞いて思い浮かべるものを片っ端から列挙していくとしよう。

 『大いなる災害』では()()()()()()()()

 天まで焦がすような大火災も。

 地上の全てを薙ぎ払う暴風も。

 海洋を死滅させる病毒も。

 おおよそ災害と言える類の全てが何の予兆もなく発生したし──どころか、誰もが思いもしなかったようなことまで起きた。

 たとえば、先程まで傷ひとつなかった城壁が突然崩壊した。空間が軋むほどの大音量が響くと同時に周辺の生物が魂が抜けたように死ぬこともあった。

 原理も法則も不明な災害の数々──多くの学者が、その真相を暴こうとしたが、成し遂げた者は現れなかった。

 災害同士に共通点があるとすれば、多くの命を奪ったことくらいであり。

 分かることがあるとすれば、何もわからず、故に恐ろしいということくらいだ。

 五〇年前に突然ぴたりとやんでいなければ、今頃世界に残る種族は、九と言わず零になっていただろう。

 そんなものを一言で説明するなんて──不可能だ。

 

 ◆

 

『絶対人間帝国』を出て西に進んだ先にあるトリエ山脈が、九世兵器集めの旅の最初の目的地だと教えられた時、レスコー・フォールコインは心配になった。

 この世に生を受けて十九年経つが、国の総力をあげて甘やかされてきた彼女に、登山の経験はない。なんなら屋敷の階段を昇ることさえ、滅多になかった。

 そんな自分に登山が出来るのだろうか──そう考えてしまうのも、当然である。

 だが。

 結果的に、レスコーのその心配は杞憂となる。

 なぜなら彼女が訪れた時、トリエ山脈に山は存在していなかったからだ。

 脈々と並んでいるべき山が、一峰たりとも見つからない。

 どころか、何もない。

 木も、草も、建物も──生き物も。

 前後左右どこを向いても生命の気配は欠片もなく、荒涼とした地面が地平線の果てまで広がっていた。

 

「……おかしいですね。たしか山脈って、もっと起伏の激しい地形をされているんでしょう? それともわたくし、砂漠を山脈と聞き間違えていたのでしょうか……?」

 

「砂漠だったとしてもおかしいだろう、この地形は」

 

 砂ではなく固い地面を踏みしめながらそう語るのは、レスコーの同行者にして雇い主であるマクガフィンである。

 小柄な体に似合わない軍服を着ている彼女は、大きすぎる軍帽の庇から覗く目で、隣の“流星流”を見上げた──ふたりの視線がかち合う。

 途端に、レスコーの胸はきらきらとした感情でいっぱいになった。頭が沸騰しそうなほど熱くなり、目元がにやあっと弛んでしまう。周囲に広がる荒地が花畑の幻覚で上書きされてしまいそうなほどの多幸感が、彼女の脳を満たした。

 そんな様子を見て、マクガフィンは「目を合わせるだけでこうなるとは、重症だな」と呆れた。

 旅を続ける上で“流星流”が必要ないま、軍服の少女はレスコーの誤解から生じた恋心を否定するつもりはないが、これ以上面倒くさい方向に勘違いが加速していったら、そうも言ってられなくなるのかもしれない。

 そんな風に考えながら──とりあえず、話をつづけることにする。

 

「ここはトリエ山脈で合ってる──正確に言うと、この地がその名で呼ばれていたのは、地平線の先まで山々が並んでいた、今から五〇年以上前のことになるがな。いま改めて名前を付けるのならトリエ山脈跡地、あるいはトリエ荒野、もしくは『火山の墓場』になるだろう」

 

「ふうん、たった五〇年で山脈から荒野に変わるなんて、自然の変化は凄いんですねえ」

 

「自然にこうなったわけではない」

 

 マクガフィンは訂正した。

 外見年齢と身長で言えばレスコーを遥かに下回る彼女が、あれこれと教える姿は、なんだかあべこべじみてて奇妙である。

 

「五〇年前、ここで『大いなる災害』が起きた──火山の噴火とはまた別種の、原因も理屈も一切不明な爆発だ。結果、トリエ山脈を形成していた山はひとつ残らず吹き飛び、あとにはこの荒野だけが残ったというわけだ」

 

「ふうん……、爆発で山が吹き飛ぶなんて、世の中には小説以上に奇妙な出来事があるんですね」

 

 その口調は相も変わらず気の無い声だったが、今回ばかりは彼女を責めることはできまい。

 地平線の端から端まであった山が全て吹き飛んだなどという荒唐無稽な話は、白ドレスの令嬢のイメージできる範囲を遥かに超えていたのだから。

 それはさておき。

 地理についての説明も済んだところで。

 彼女たちがこんな人気のないどころか、寄り付きもしなさそうな場所を歩いている目的──九世兵器について、話は移る。

 

「行き先にあるのが、なんの種族のなんて武器なのかはまだ聞いていませんけれど、こんな所に国を構えるなんて、よほど風変わりな種族なんですね」

 

「いや、ここに国なんてない──これから蒐集する“最果てを視る弓(ピリオド)”は、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「?」レスコーはきょとんと首を傾げた。「荒地の真ん中に放っておかれているのですか?」

 

「そうではない──まずは“最果てを視る弓(ピリオド)”について、分かっていることを説明しておくか」

 

 マクガフィンは言う。

 

「”最果てを視る弓(ピリオド)”は巨人族に渡された弓だ」

 

「巨人族ってたしか、とても大きいんですよね。わたくしが住んでいた屋敷くらいなら軽々跨げるような身長をしていると、先代(おとうさま)から聞いたことがあります。それじゃあその”最果てを視る弓(ピリオド)”とやらも、相当な大きさをしているのでしょうか」

 

「そうだろうな。実物を見たことはないが、人間の身長に対する弓の比率を、そのまま巨人に反映したと考えれば、途轍もない大きさであることは間違いないだろう。振り回すだけで、他種族にとっては十分な脅威になるはずだ」

 

 だが、弓は振り回す為にあるのではない。

 本来の用途は──矢の射出である。

 

「人と人の戦争であれば盾で防げるような矢でも、巨人が放てばそうはいかない。着弾するだけで地形が変わる規模の衝撃が生まれるのだぞ? そんなもの、防御不能だ」

 

 巨人と、それ以外の種族のスケール差から生じる狂ったパワーバランスは、それだけで絶望的な情報だ。

 しかし。

 これはあくまで、巨人が普通の弓を使った場合の話である。

 ”最果てを視る弓(ピリオド)”の脅威については、まだ僅かしか語られていない。

 

「”最果てを視る弓(ピリオド)”は、番えた矢を発火させ、その炎熱を操作するという特性を持つ──と聞いたことがある」

 

「地形を変えるほどの威力を持つ弓に、炎……」

 

 どれだけ楽観的にイメージしようとしても、思い浮かぶのは災害じみた光景だ。

『全てが一斉に振るわれれば世界を九度滅ぼしかねない』と評される九世兵器の一角を担うには、十分な特性だと言えるだろう。

 迂闊に使われることなく、保管されておくべきだ。

 だが。

 

「先日、巨人族の国から”最果てを視る弓(ピリオド)”を盗み出したものが現れた──フンショという巨人だ」

 

「へえ、九世兵器を国から持ち出すなんて、まるで今のわたくしたちみたいですね」

 

「だな──だが、この巨人の場合、オレたちとはいささか境遇が異なる」

 

「境遇? 九世兵器ほどのものを盗み出したひとの境遇なんて、逃亡生活以外にないんじゃないですか?」

 

「それは九世兵器を重要視している人間の話だ」

 

 つまり。

 巨人は。

 

「重要視してなかったんだよ。全然。これっぽっちもな──だって、地形を変える威力の狙撃は普通の弓矢でも可能だし、矢の発火なんて──」マクガフィンは懐からチリ紙を取り出した。道中で食べた携帯食料に使われていた包装紙である。彼女が二、三言なにかを呟くと、それは発火し、瞬く間に灰となった。「九世兵器を使わずとも、執筆でじゅうぶん実現可能な現象なんだから」

 

 そもそも。

 九世兵器とは、各種族の戦力を均す為に作られた兵器である。

 そのコンセプトを踏まえて考えると、元から大きく、強く、戦力が高かった巨人族に、革新的で、前例がなく、代替の効かない兵器が渡されることなど──有り得ないのだ。

 当然、人間の”全を薙ぐ刀(エピソード)”のように十二個も渡されるなんてことも──ない。

 

「ひょっとすると巨人族は「管理の手間が省けてラッキー」程度に思っているかもしれんな。盗んだのが他の種族だったら、流石に焦ったかもしれないが──まあ、推測であーだこーだ言っても意味があるまいよ」

 

「なるほど。凄くおおらかな種族なんですね、巨人族って」

 

 レスコーはズレた感想を述べた。

 

「つまり、これまでの話を踏まえると、こういうことになるのでしょうか? ──巨人という集団から”最果てを視る弓(ピリオド)”を持ち出したフンショさんは、ただひとりこの『火山の墓場』に流れ着いた、と」

 

「そういうことだ──『流れ着いた』というより『拠点に選んだ』の方が正しいかもしれんが。オレが得た情報がたしかなら、ヤツはここに着いて以降、移動の様子を見せていないらしい」

 

 トリエ山脈跡地という広大な荒地は、大きな巨人が居座るにはこれ以上ない場所である。

 それに──

 地平線まで見渡せるほどに遮蔽物が排されているこの土地は。

()()()()()からしても、絶好のロケーションだろう。

 

「元々、オレが貴様との接触を決意したのは、ヤツが起こした盗難事件が原因でもある。重要視されていなかったとはいえ種族の管理下にあった兵器が個人の手に渡るなんて好機を見逃すわけにはいかないからな──一刻も早く戦力を整えて、蒐集に向かう必要があった」

 

「まあ!」レスコーの顔が、ぱあっと花開くように綻んだ。「それではフンショさんは実質、わたくしとマフィ様を巡り合わせてくれたキューピッドのようなお方なのですね!」

 

「え、あー…………、うむ」

 

「うふふっ、それじゃあ、会った時は一度お礼の挨拶をしなければいけませんね!」

 

「…………そだなー」

 

 あまりに頭お花畑な発言に、返事が鈍くなるマクガフィンだった。

 キューピッドって。

 フンショは天使族じゃなくて巨人族だと言ってるだろ。

 

「……貴様がフンショに恩を感じるのは勝手だが。戦いになったら手を抜くんじゃないぞ」

 

「ええ、それは心得ておりますわ!」

 

 心、の部分をやけに強調してレスコーは即答した。

 これだ。

 どれだけ恋愛脳になろうが──いや、なるからこそ──軍服の少女を優先順位の一位に据えるという白ドレスの令嬢の考えは揺らがない。

 だからマクガフィンは未だに、彼女の誤解を解く気になれないのだ。

 どこまでも利己的な考えだった。

 それはまあ──さておき。

 マクガフィンが知る”最果てを視る弓(ピリオド)”、及びその所有者フンショについての情報は話し終えた。

 

「どうだ? 九世兵器使いの巨人を相手に、“流星流”はどう戦うつもりだ?」

 

 我ながら意地悪な質問かな──と、マクガフィンは思った。

 彼女はこの問いにまで即答が返って来ることを期待していない。

 本来、人間にとって巨人相手の戦いは、軍隊を形成し、作戦を立て、犠牲が出ることを受け入れた上で実行すべきものである。

 単独でそれを成し遂げるなんて、絵空事だ。

 ましてやレスコーは、先週初めて剣を握ったばかりの箱入り娘。

 巨人、それも弓兵を相手にしての戦闘なんて、想像したことさえないだろう。

 とはいえ、問題はない。

 マクガフィン・テーブルは剣を握った戦闘に秀でていない分──“剣頭”ミルドットほどではないが──裏に潜んでの企みや悪巧みが得意だ。

 たとえレスコーが答えに窮しても、その時はマクガフィンがいくつか提案を──

 

「当然! 名案がありますわ!」

 

「…………」

 

 あるんだ。

 あまりの驚きで言葉を失った。

 一方、レスコーは自分が考えた名案を披露して、マクガフィンから褒められたいとでも思っているのか、口早に台詞を続ける。

 

「マフィ様は執筆がお得意なんですよね? それを活かした作戦──いわば、わたくしとマフィ様の共同作業で戦いたいと思っていますの」

 

「……ほう、どんな作戦だ?」

 

「執筆でわたくしに『体が巨人くらい大きい』という文章(テキスト)を書き込むのです」

 

「ん?」

 

「そうすれば、フンショさんと対等に戦えるのではないでしょうか? いやいっそ、『巨人よりも大きい』と書けば、勝ったも同然──」

 

「いや、無理無理無理無理! 無理に決まってるだろ!」

 

 焦るような声がそれ以上の台詞を遮った。

 

「『執筆で巨人以上の大きさに変わればいい』なんて、過去どれだけの輩が思いつき、そして失敗に終わったと思ってるんだ。もしそれが簡単に実現していれば、今ごろ世界はデカブツまみれだぞ」

 

「え、でもマフィ様は以前、こーんな長い刀を小さな指輪に変えていましたよね。あれくらいのスケールで変化が可能なら、逆に人間を巨人くらい大きくすることもできるんじゃないかと……」

 

「そもそもオレの執筆術『換言(クローゼット)』は身に付ける物に限られていてだな──それに、人間への執筆はそう簡単じゃあない」

 

『万物は、自身を表す文章(テキスト)を持った一冊の本である』。

 物理法則と並んでこの世界に横たわる、第二の法則だ。

 これに倣って言うと──生きて思考する人間が持つ文章(テキスト)の量は膨大である。

 指輪や刀では比べ物にならないほどに。

 文字通り、情報量が異なる。

 

「そんな膨大な文章(テキスト)に介入するような執筆は、それだけで高等な技術が要されるわけだ──というか、もし簡単にアレコレ書き換えられるなら、今頃オレがオレ自身を書き換えてるわ」

 

「言われてみればそうですわね」

 

「そもそも、技術的に可能だったとしても、この案は避けるべきだがな」

 

「あら、どうしてでしょう?」

 

「便利だからと好き勝手に執筆してみたとして──たとえば先ほどの貴様の提案を極端にすると──『大きくて』『強くて』『頑丈で』『速くて』『気合があって』『器用で』『賢くて』『幸運な』奴が出来たとする。そんな奴、どう思う?」

 

「…………。とても強いけど、変ですわね。なんでもありになると言いますか、めちゃくちゃと言いますか……」

 

「そう、なんでもありのめちゃくちゃだ。支離滅裂になっている。そんな執筆に整合性などあるはずもないのだから、せっかく加えた文章(テキスト)はすぐに崩れてしまう──下手をすれば、その崩壊に元からあった文章(テキスト)まで巻き込まれてしまいかねない」

 

「元からあった文章(テキスト)まで崩れたら、どうなってしまうのですか?」

 

「さあな。文章(テキスト)の崩壊は存在そのものの崩壊と同義なのだから、順当に考えれば死ぬのかもしれんが──ひょっとしたら『めちゃくちゃ』になったまま、中途半端に世界に残ってしまうかもしれんな」

 

「…………」

 

 それを踏まえて考えると、たったひとつだけとは言え、『対”流星流”』という前例のない文章(テキスト)を自分自身に執筆するというリスクの高い行動に踏み切ったミルドットは、騎士に相応しい勇気ある男だったのかもしれない──ともあれ。

 得意げに披露した名案がボツになったレスコーはしょんぼりと肩を落とした。……マクガフィンに褒めてもらえなかったことを残念に思っているのかもしれない。

 

「そんな、どうしましょう……。この作戦が駄目なら、あとはひとつくらいしか……」

 

「ふうん?」

 

 それはつまり、あともうひとつ、策を考えているということだ。

 箱入り娘には十分がすぎる発案能力である。

 いや──あるいは。

『殺しすぎる剣術』であるからこそ、何かを殺す方面に、発想力が長けているのかもしれない。

 

「なんだ、それは」

 

 聞かせてみろ──と。

 期待を込めて続けられるはずだったマクガフィンの声は、しかし、中断させられた。

 彼女がすれ違おうとした岩──その影から姿を現した大男が、その脳天に刀を思いっきり振り下ろしたからである。

 バヅンッ。

 そんな音を立てて、軍服少女は吹き飛ぶ。

 いや──吹き飛んだのは彼女の肉体だけではない。

 抵抗など無いように幼女の体を通過した刀は、そのまま荒地に接触し、そこを中心として凄まじい衝撃波を生んだ。

 まるで、地面の下に大量の火薬が隠されていたかのような威力だった。

 地面に亀裂が走り、砂塵が大量に舞う。

 当然、これだけの二次被害が生じれば、マクガフィンのすぐ横を歩いていたレスコーも無事では済まないはず──なのだが。

 

「……おやまあ」

 

 先ほどまで立っていた場所から五十歩ほど離れた位置で、レスコー・フォールコインは惨状を目にしていた。いったいどれほどの超速で動けば、たった一瞬でここまで離れることができると言うのか。

 

「…………」

 

 大男は白ドレスの令嬢の声を聞くと顔をそちらに向け、彼女が傷ひとつついていないことを確認すると、不愉快そうに目を細めた。

 

「今の……動き……、まるで体重がないかのような……素早い身のこなしだな……」

 

「“流星流”『肉喰(ししばみ)』──独自の歩法と重心操作で自身の重みをゼロに近づけた結果、高速での移動を可能にする技ですわ。本来なら、高速移動と共に剣を振って、目にも止まらない連続斬りをする技なのですけど」

 

「ほう……。ならばなぜ……、その本来の用途とやらで……おれを斬らなかった……?」

 

「え? だって貴方がフンショさんなのでしょう?」

 

 五十歩ほど離れた位置に居ながら、それでも首を上に向けなければ顔を合わせられない巨漢に対し、レスコーはそう言った。

 

「だったらまずは、わたくしとマフィ様を巡り合わせてくれたお礼を伝えてから殺した方がいいかなあと思いまして……」

 

「こいつはフンショじゃあない」

 

 割り込む声があった──荒地に撒き散らされた血肉の中心から。

 素っ裸のマクガフィンが、そこに立っていた。

 ぼさぼさの髪の隙間から生えている角は、今日も健在である。

 

「よく見ろフォールコイン。こいつの武器は弓じゃなくて刀だろう。それに、いくら大きいとはいえ、巨人ほどではあるまい。こいつが貴様の屋敷を跨げると思うか?」

 

 流石に外で素っ裸なのは寒いのか、適当な破片を執筆で衣服に変えながらマクガフィンは語る。

 それを聞き、レスコーはようやく自分の勘違いに気が付いた。

 

「たしかに……。では、この方はどなたなのでしょう?」

 

「『絶対人間騎士団』……“剣山”……ウーガ・テーブル」

 

 大男が答えた。

『絶対人間騎士団』──その名乗りが正しいのなら。

 彼の手にある刀は、全を薙ぐ刀(エピソード)十二本が内の一本ということになるのだろう。

 

「……それで、ウーガ。何の用でここに来た? オレの頭をカチ割るのに、どういう事情があったというのだ?」

 

「先日巨人族の手から離れたという最果てを視る弓(ピリオド)の回収──それと……さっきの一撃は“流星流”を狙ったものだ……。避けられた結果、隣にいたお前にだけ当たっただけだ……」

 

「事故だとしてもここは、愛すべき同胞に謝るのが礼儀だろ。いくらオレが()()()()()()だからって、ぞんざいに扱われるのはいい気がしないぞ?」

 

「……とぼけるのはやめろ」

 

 ウーガは、短く言った。

 

「先日のミルドットの訃報……“流星流”の腰に差された全を薙ぐ刀(エピソード)と、貴様の手にある指輪(エピソード)……そしておまえたちの様子を見たら、察しが付く……マフィ──いや、マクガフィン……おまえ、騎士団を裏切ったんだな……」

 

「裏切ったんじゃない。オレの目的と合致しなくなったから、別行動をとることにしただけさ。方向性の違い、というやつだ──九世兵器はオレが集める」

 

「理解しがたい……。騎士団という集団でやったほうが……蒐集の成功率は上がるだろうに……。今からでも戻ってこようという気には……ならないのか?」

 

「ならないね。逆に聞きたいが、仮に騎士団が全ての九世兵器を集めたとして──それを全て、同時に、オレ目掛けて使用することは可能なのか?」

 

「無理に……決まってるだろ!」

 

 ウーガが怒りで声を震わせるのも無理はない。

 九世兵器──その全てを同時に使えば、世界を九度滅ぼすとさえ言われる超兵器。

 そんなものを集めて、たったひとりに使用したとして──生じる被害がひとり分で収まるわけがないのだから。

 

「おまえの自殺に……おれたちを──世界を巻き込むつもりか……?」

 

「ああ、そうだ」

 

 マクガフィンは冷たい声で言った。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………呆れた」

 

 マクガフィンの目論見を知り、話し合いでの解決を諦めたのか。

 すっ。

 と、ウーガは刀を振り上げた。

 高く、高く──空高く。

 雲を貫くように、剣先を上に向ける。

 背が低いマクガフィンは勿論、レスコーであっても、首が痛くなるほどに見上げなければ、振り上げられた刀の先端を目にすることができない。

 冗談みたいな上段の構えだ。

 その姿、まさに“剣山”──剣の、山。

 ウーガは鋭い目つきのまま、視線をマクガフィンからレスコーに移した。

 

「ならば……、おれは……貴様の凶行をとめてやろう……。それが愛すべき同胞への……せめてもの情と言うやつだ……。まずは……、貴様の戦力である“流星流”から、この『上段爆衝(じょうだんばくしょう)』で片付ぎゃぶっ!!」

 

 突然、()()()()()()()()()が飛んできて、ウーガに直撃した。

 直径だけで彼の胴回りの三倍はある棒状の物体である。

 当たるどころか掠るだけで、即死は免れない威力を有していた──その上。

 先端がウーガに触れた途端、それが纏う炎は白く輝き、熱量を上げた。

 次の瞬間。

 ボッグオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッンッッ!!!!! 

 と轟音が鳴り。

 このトリエ山脈跡地にて。

 実に五〇年ぶりに、“剣山”ウーガ・テーブルという山が爆発した。

 

 ◆

 

 ウーガの剣を避けた際の一度目の肉喰(ししばみ)で、脚を温めていて助かった──と、レスコーは思った。

 いくら肉喰(ししばみ)が重さの無い神速を可能とする歩法とはいえ──もし、何の準備もなく爆風と爆熱が襲ってきたら、無傷で逃げられたとは思えない。

 一度目があったからこそ、二度目でベストコンディションを発揮できたのだ。

 

「ええと、マフィ様は……」

 

 ウーガが即死するような爆発が起きたのだ、すぐそばに居たマクガフィンが無事なはずがない。

 彼女は不死身なので、どこかでひょっこり生き返っているのだろうが──死因になったのが、これだけ大きな爆発である。

 復活の基点となる血肉が、いったいどこまで吹き飛んだのやら。

 マクガフィンを求めて、レスコーは荒地を歩き回る。

 爆発で吹き上がった砂塵で視界が悪い中での捜索は、結構な時間を要したし、途中で「もうマフィ様と会えないんじゃないか」と泣きそうになったが、それもまた杞憂だったようで──時間にすれば十分ほどで──マクガフィンは見つかった。

 服は新品に取り換えているものの、立ち上がってはおらず、大地に身を投げ出すようにして、仰向けに寝転がっている。

 

「わーっ! マフィ様!」

 

 感極まったレスコーは思わずマクガフィンの喉元に刀を突き刺しそうになったが、それよりも早くマクガフィンが「しー」と人差し指を立てた。

 

「静かに」

 

「…………」

 

 レスコーは大人しく指示に従い、コクコクと首を縦に振った。

 幼い言動は困りものだが、素直なのは助かる。

 そんな思考を脇に置き、マクガフィンは砂埃の隙間から見える空に注視した。

 地上で爆発が起きたばかりだとは思えない、晴天の青空である。

 

「……追撃は飛んでこないか」

 

「というと、先ほどのアレはやはり」

 

「ああ。フンショが撃った最果てを視る弓(ピリオド)に違いない」

 

 レスコーは先ほど見た物を思い出す。

 燃える矢──たしかに、マクガフィンが言っていた通りだが、アレは矢なんて言葉で収まる代物ではあるまい。

 炎を纏いながら高速で空を飛び。

 当たるだけで巨漢を即死させ。

 着弾と同時に爆発を起こすなんて。

 アレはもっと……、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それほどまでに、次元の違う破壊力である。

 

「んー、でも……地平線には何も見えませんよ? こちらからフンショさんが見えないのなら、あちらからもこちらが見えないはずですよね? だったらどうやって最果てを視る弓(ピリオド)をウーガさんに命中させられたのでしょう?」

 

「まず、オレとウーガが起こした騒ぎが彼方まで届いていたという可能性があるが、だとすると射撃を一発で済ませているのが不可解だし、ああも正確に位置を探れるとは思えない──となると、『上段爆衝』の構えが原因だろうな」

 

 マクガフィンは言って、ウーガの構えを真似した。

 それは目立たないように小さく真似したというのもあるかもしれないが、それにしても、あまりにも様になってない構えだった。

 

「ただでさえ背の高いウーガが、更に剣を空高く掲げたのだ。こちらの視点からフンショが見えなくとも、あちらからは全を薙ぐ刀(エピソード)の先端が見えたとしても、おかしくあるまい」

 

 仮に。

 その推測が正しいのなら──いや実際、レスコー達から見えなかったフンショが的確な射撃を成功させた以上、この推測はまず間違いなく当たっているのだろうけど──それは、つまり。

 

「フンショさんは、地平線から飛び出す剣先すら見逃さないほどの視力をお持ちなのですね……」

 

「超常の兵器には超常の持ち主が引き寄せられるということさ。うちの騎士団のようにな──そうそう、騎士団と言えば……」

 

 マクガフィンは立ち上がった。

 服についた汚れを払いながら、彼女は地面に目をやる。何かを探すように視線を彷徨わせていたが、やがて、

 

「お、あったあった」

 

 と、しゃがんで手を伸ばした。

 そこには一本の刀が握られていた。

 ウーガ・テーブルの全を薙ぐ刀(エピソード)である。

 

「あんな爆発があったのに無事なんて、頑丈な剣ですね」

 

「九世兵器だからな。そう簡単に壊れる方が、無理がある──」マクガフィンは短く何かを呟いた。すると瞬く間に全を薙ぐ刀(エピソード)は指輪に変わった。「──オレの執筆のような例外を除けば、壊すどころか形を変えることさえ難しいぞ」

 

 言いながら、マクガフィンはウーガの全を薙ぐ刀(エピソード)で出来た指輪を、ミルドットの全を薙ぐ刀(エピソード)で出来た指輪を填めている隣の指に装着した。

 矢が飛んできた方角に目を向ける。地平線の上に、変化は見られない。

 

「……それにしても──世界最強種の巨人が放つ九世兵器の一射でも、殺せないとは、つくづく嫌になるな、この体は」

 

「あのっ……、マフィ様」

 

「どうしたフォールコイン」

 

「さきほど、マフィ様とウーガさんの会話を横で聞いていたのですけど、マフィ様は死にたいのですか?」

 

「……ああ、そうだよ。そういえば言っていなかったな」

 

 マクガフィンは軍帽を外した。その右額からは、一本の角が伸びていた。

 その特徴から、既に世界から消えた種族──巨鬼(オーク)矮鬼(ゴブリン)が連想させられるが、赤い木の枝のような形状は、どれにも当てはまらない特徴である。

 だいたい鬼たちに、不死身じみた特性があったなんて話は存在しない。

 

()()が直接の原因なのかは分からんが、オレは死ぬことができない。この特性を目当てにオレを迎え入れた騎士団が持つ最新の研究設備ですら、解明することはできなかった──だから、一斉に振るわれれば世界を九度滅ぼすと評判の九世兵器に賭けてみようと思ってな。いくらなんでもこの体に、世界九つ分の耐久力があるとは思えないし」

 

「……………………」

 

「随分とがっかりした顔をしてるじゃないか──失望したか?」

 

 折角同行してきた旅が、世界を巻き込む無理心中だったのだ。

 不満のひとつやふたつ、言われても仕方あるまい。

 もちろん、この場において、マクガフィンには言い訳や虚言を並べて胡麻化す選択肢もあった。

 しかし彼女はそれを選ばなかった。

 べつに、それは彼女の誠実さを意味していない。

 既にレスコーに殺意と恋心の誤認という大きな食い違いが起きている今、更に嘘を塗り固めてしまえば、無理が生じる可能性があった。

 下手をすれば──最初の勘違いまで含めて、台無しになってしまいかねない。

 元からありもしなかった恋さえ──失ってしまう恐れがある。

 それは困る──これから旅を続けていく上で非常に、困る。

 だから、マクガフィンは正直に告げたのだ。己の目的を。

 しかし、それを受けてのレスコーの返事は。

 

「いえ、失望なんて──ただ……、他の九世兵器なんかにマフィ様を殺されたくないなあ、と」

 

「……………………は?」

 

 レスコーは恥ずかしそうに──それこそ、告白する少女のような面持ちで言った。

 

「いつかマフィ様を完全に殺すのは、自分ひとりでありたいと、そう願っているわたくしとしては……」

 

「………………」

 

「他の九世兵器にマフィ様が殺されるなんて、想像するだけで悲しくなると言うか……」

 

「…………くくっ」

 

 マクガフィンは笑った。

 

「くくくっ──はっ、はははははははははははははっ!」

 

 それは彼女にしては珍しく、屈託のない笑い方だった。

 

「はははははははははははははははははははははははははははははっ!」

 

「ど、どうして笑うのです!? たしかに今の未熟なわたくしでは、マフィ様を殺すなんて夢のまた夢なのかもしれませんけれど、それでもいつか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() ──はっ!? もしや独占欲が強すぎると呆れられた……!?」

 

「はははっ──いや、大丈夫。心配するな。むしろオレは貴様を見直したよ、フォールコイン」

 

 たとえそれが勘違いした恋であろうと──その根底には、絶対に揺るがない殺意があることを知り。

 この世界に己の死滅を心の底から願っている人物が確かにいることを知って。

 マクガフィンはたまらなく愉快な気持ちになった。

 笑い過ぎて目尻に浮かんだ涙を拭い、軍服少女は白ドレスの令嬢に言う。

 

「さてと、……そういえば作戦会議の最中でウーガが乱入してきたんだったな。貴様があとひとつ考えているというフンショ攻略法──それは、奴の弓術を実際に目にした今もまだ、有効か?」

 

「もちろん」

 

 全て集まった九世兵器でマクガフィンが自殺するか。

 完成した“流星流”でレスコーがマクガフィンを殺すか。

 どちらが先かは不明だが。

 ともかく今──彼女たちは最果てを視る弓(ピリオド)の蒐集へと動き出した。

 

「先程お見せした肉喰(ししばみ)と──そしてまだお見せしていない追尾(あとおい)の豪華二点盛で、最果てを視る弓(ピリオド)を攻略してみせますわ」

 

 ◆

 

「…………ん」

 

 巨人族の男、フンショは地平線の先でたなびく黒煙を眺めていた。

 上半身をはだけた簡素な衣服に、赤い髪。その顔立ちは人間でいえば三十代後半に見えるが、人間と巨人では寿命にも大きな差がある以上、外見から正確な年齢を推し量ることは不可能だ。

 その身長は──とても高い。

 彼を見た後では、人間の中では大きい部類にすぎないウーガなど、虫ケラにみえてくるだろう。

 

「…………終わった、か」

 

 何か剣の先端のような煌きが見えたので、最果てを視る弓(ピリオド)を射たのだが、それ以降動きらしきものは見えない。

 刀の大きさから考えて、相手は巨人以外の種族だったのだろう。矢が直撃しただけで即死だったに違いない。

 爆炎まで出したのは、オーバーキルだったか。

 

 ──…………いや、そんなことはない。

 

 生き物の死に様に、やりすぎ(オーバー)なんてものはない。

 派手であればあるほど、大規模であればあるほど──華々しく、素晴らしい末路になるはずだ。

 逆に。

 静かに先細りするような終わり方では──誰の記憶にも残らない。

 まるで使い古されて短くなった蝋燭。

 そんな末路では──それまで生きた意味がない。

 フンショはそのような哲学を持つからこそ、先程の一射を放ったのだし。

 最果てを視る弓(ピリオド)を巨人族の里から持ち出したのだ。

 

「もうこの弓にもだいぶ慣れてきたな。矢の補充が済んだら、そろそろ近場の国に向かうとするか。ええと……、ここから一番近い国はどこだったか」

 

 そんな風に呟きながら、矢の製作に戻ろうとした時。

 フンショは見た。

 地平線の先──黒煙の中から。

 人影が飛び出してきたことに。

 

「なッ……!」

 

 巨人の弓兵は驚いた。

 あの爆発に生存者がいたことに──ではない。

 地平線越しに見えたのが剣の先端だけである以上、敵の総勢は不明だった。ならば生き残りがいる可能性だって、まあ、完全にゼロとは言えないだろう。驚くには値しない。

 

「なんだ──あの軽々とした身のこなしは!? 重みがないのか……!?」

 

 彼が驚いたのは、飛び出してきた人影の移動速度──そのあまりの速さにだ。

 

「“流星流”──『肉喰(ししばみ)』」

 

 フンショが目だけでなく耳も良かったら、荒地を駆ける人影が呟いた言葉を理解することができただろう。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、燃える巨大な矢との打ち合いとなれば、流石にこちらが不利になるのは否めませんからね──なので今週は単純(シンプル)に。一気に間合いを詰めて、必殺を叩きこませていただきますわっ!」

 

 既に抜いている全を薙ぐ刀(エピソード)を揺らめかせながら、レスコーは一陣の白い風と化していた。

 依然として、彼女が放つ言葉はフンショの耳に届かない。

 けれども──武器を手に此方へ一直線に向かってくる相手を見た途端、彼は一本の矢を手に取り、最果てを視る弓(ピリオド)に番えた。

 ぎり──と、巨人の膂力で引き絞られる弦。

 その張力が最大限まで高まった瞬間──フンショは手を離し、びんっと弦が空を斬る音と共に、矢が放たれた。

 目にも止まらぬ速さだが、最果てを視る弓(ピリオド)が用いられている以上、それだけでは終わらない。

 矢の全身が燃え上がる──加えて、その後部から爆炎が噴出し、更なる加速を生んだ。

 文字通りの爆速だ。

 空を走る炎の矢。その姿はまるで流星。ひとたび地上に落ちれば、そこにある命を根こそぎ滅ぼす死の具現である。

 だが。

 対する剣士もまた流星──“流星流”当代、レスコー・フォールコインは迷いのない足取りで大地を駆け抜ける。

 結果──巨人に対する人間という的の小ささと、肉喰(ししばみ)の重さを無くす歩法術故の自由自在な足運びがあってこそだが──レスコーは限り限りのところで矢を交わした。

 背後で着弾と爆発が合わさった凄まじい衝撃が轟き、彼女の長い髪を靡かせる。

 それでも“流星流”の足は止まらない。

 地平線の端から端まであった両者の距離は、ぐんぐんと縮まっている。

 その事実にフンショは焦りを感じたが、すぐに対抗策を思いつく。

 

「いくら速くても──」

 

 第二射。

 先程と同等の速度で放たれた矢は、レスコーを狙ったものではなく──彼女の前方に広がる荒地を狙ったものだった。

 

「──足場がなくては走れまい!」

 

 着弾。地下深くへ指向性を持たせた爆炎。地割れと見まがう程に深く、巨大なクレーターが形成される。

 このままレスコーが直進してしまえば、彼女を待ち受けるのは奈落への落下だ。仮にそれを避けるべくルート変更、あるいは後退を試みた場合、多少の減速を余儀なくされる。

 その僅かな隙で射止めるべく、巨人の弓兵は既に三本目の矢を構えていた。

 

「止まるか? 曲がるか? 退がるか? ──どれを選んでも、次で決着をつける!」

 

 そう叫んだ時、フンショは気が付いた。

 こちらに迫ってる人間の数がひとりではなく──ふたりであることに。

 白ドレスの女の長身、その背中に隠れるようにして、負ぶわれている少女がいたことに。

 

「…………」

 

 まあ、だからといって、どうということはない。

 子供を背負ってあの速度で走れる女の身体力には感嘆するが、だからどうした。

 あんな重荷があった所で、戦闘の役に立つとは思えない。いっそ、その場で捨ててしまった方が──捨てた。

 本当に。

 ぽいっ、と。

 ゴミでも放るように。

 白ドレスの女が、それまで背負っていた少女を、刀を持っていない方の手で掴んで──自分の前方へと投げ捨てたのだ。

 

「──…………!?」

 

 フンショの脳裏を大量のクエスチョンマークが闊歩する。

 だが驚くにはまだ早い──これからもっと驚くことになるのだから。

 

「ふんっ!」

 

 そんな威勢のいい掛け声と同時に、いくつもの剣閃が走り、斬った。

 何を? ──()()()()()()()()()を。

 刃が体を裂き、小間切れに変える。

 そしてそのまま、白ドレスの女は走る勢いを落とすことなく──どころか加速さえして。

 クレーターの上──そこを彩る大量の肉片と血飛沫目掛けて跳躍した。

 普通ならそのまま重力に引かれて落下すべき行いだが──彼女は今、独自の歩法肉喰(ししばみ)により、体重が限りなくゼロに近づいている。

 それは──つまり。

 肉片や血飛沫にだって乗れるほど軽くなっているということであり──! 

 

「幼い頃に先代(おとうさま)から「先々代(おじいさま)肉喰(ししばみ)で空さえ飛んだ」と聞いた時は冗談だと思っていましたが──なるほど。こういう応用があったのですね」

 

 傍目から見れば空を飛んでいるとしか思えない疾走を行いながら、レスコーは呟いた。

 ひとつひとつは細かな破片になっているとはいえ──愛しいマクガフィンの死体を踏みつけての行軍である。

 無論、このまま走り続ければ、マクガフィンの死体で出来た橋は途絶える。

 お子様サイズの体をしている彼女の肉片を総動員しても、フンショどころかクレーターの対岸にすら届かないのだから。

 けれども、その心配をする必要は、ない。

 橋の長さが足りないのならば──材料を足せばいいのだから。

 

「ふんっ!」

 

 先程の焼き直しのような威勢のいい声を上げながら、レスコーは再度全を薙ぐ刀(エピソード)を振った。

 刃が走る先にあったのは、肉片のひとつから復活を終えていたマクガフィンである。

 再度、細切れになった死体が撒き散らされる。

 以後、これの繰り返し。

 レスコーはますます前に進み、ますます上へと昇っていった。

 

「………………!」

 

 フンショはレスコーが見せた奇抜な行動を受けて一瞬、呆けていたが、今になってようやく、事態の深刻性を知る。

 

 ──拙い。

 

 ──あの娘。おれの頭を狙っている……! 

 

 レスコーがあのまま何の妨害も受けずに直進し、足元に到着したとして、フンショは今ほど焦らなかっただろう。

 所詮は巨人と人間──フンショが少しでも身動ぎすれば、レスコーは足の裏の染みへと変わるのだから。

 だが──頭まで昇ってこられるのは──拙い。

 身長差という、種族間のアドバンテージを均されるのは──拙い。

 

「く……ッ!」

 

 その時になってようやく、フンショは第三射を放った。

 後方からの爆炎は勿論、上下左右に角度を付けた炎も噴出させ、軌道に変化を付けた矢である。

 だが炎の矢はレスコーの脇をすり抜け、遥か彼方へと飛んで行く。

 ──当たり前の話になるが。

 地上を平面的に移動する相手より、空中を立体的に移動する相手の方が、射撃の難易度は高い。

 ましてや、相手は理外の手段で空を駆ける“流星流”──いつの間にか両者の距離は縮み、ついにレスコーはフンショの顎の下まで到達していた。

 

「ここまで来れば聞こえますかね?」マクガフィンの肉片を踏みしめながら、レスコーは言った。「初めましてフンショさん。わたくしレスコー・フォールコインと申します。実は貴方に伝えたいことがあるんです──貴方がいてくれたおかげで、わたくしは素敵な人と出会えました。一生に一度あるかないかの、かけがえのない体験ができたのです。なんとお礼を言っていいのやら……」

 

 柔らかな声音と、顔に浮かべた微笑は、彼女の感謝を如実に示していた──ぎしりと腰の下で強く握りしめた刀の所為で、全て台無しになっているが。

 

「本当に、本当にありがとうございました。では──“流星流”追尾(あとおい)

 

 レスコーは真上に飛んだ。

 ただの跳躍ではない。

 その軌道のすぐ横にある、フンショの顔面を切り裂きながらの跳躍だ。

 

「うぐァ……っ!」

 

 顔を走る痛みにフンショは呻く。しかし同時に安心もしていた。

 たしかに今負った傷は痛手だが──致命傷というほどではない。

 所詮は人間と巨人──与えられる傷の大きさすら、体格差に比例するということだ。

 それに白ドレスの女は此度の空中移動で()の材料を補給していない。

 ならば彼女が跳躍の最高度に達した時、移動の足場は存在しないのだ。

 そうなれば落ちるだけ。

 そこを仕留めるなど、最果てを視る弓(ピリオド)を使わずとも──容易い。

 そのような企てを胸に、フンショは目だけ動かし、上空を見る。

 そこには、あとは落下するしかないはずのレスコーがいた──頭上で刀を構えた状態で。

 まるでこれから更に技を繰り出すかのように。

 いや、むしろ。

 これから繰り出す技こそが、本命であるかのように。

 

追尾(あとおい)──本来なら、片手で敵に致命傷を与えた後、手首の返しを利用して、傷口を逆方向からなぞるように二度目の斬撃を放ち、確実に殺す技なのですが……、巨人が相手だとこんな大掛かりな技になるんですね」

 

 二度目でようやく致命傷になりそうですし──と。

 そう言って。

 レスコーは落ちた。

 というより、振り下ろした。

 肉喰(ししばみ)を解除し、重力の勢いまで乗せた、特大の上段斬りを──! 

 

「う、ぐぐ──」

 

 頭上から降り注ぐ斬撃に、フンショは対応できない。

 というより、知らない。

 どんな種族よりも大きな巨人である彼が、人間に頭上を取られることなど、これが初めてなのだから。

 彼は知らない内に、レスコーにマクガフィンとの出会いという初めての体験を齎したが。

 レスコーもまた、フンショに初めての体験を与えていた。

 

 ◆

 

 信じがたい光景だ──完全に復活し、本日何度目になるかも分からない軍服の執筆を終えた後、マクガフィンはそう思った。

 不死身の彼女は世間一般的に信じがたい生物だし、更に言えば彼女が連れ歩いている“流星流”も『敵味方の両方から恐れられた殺しすぎる剣術』などという信じがたい流派なのだけども。

 それでも。

 巨人が頭に刀傷を負い、地面に倒れ伏している光景は、それら以上に信じがたいものである。

 

「…………」

 

 マクガフィンは倒れているフンショの左手に向かった。

 そこには最果てを視る弓(ピリオド)がある。

 まずは、それを回収しなくては。

 

「それにしても、本当に巨人を倒せるとはな……オレが体を張った甲斐が──切った張った甲斐があるというものだ」

 

「ええ! マフィ様がいなければ、どうなっていたことか……今回も、わたくしとマフィ様の力を合わせた勝利でしたわね!」

 

「ちょ、まて、その体でべたべたするな。全身が血でべたべたじゃないか。ええい、首を絞めるのは後にしろ。せっかく新調した服なんだぞ。執筆する手間を考えんか、手間を」

 

 はしゃぐレスコーのドレスは今となっては白い部分が全くない、赤ドレスに変貌していた。巨人の出血を間近に浴びたのだから当然だ。

 あとで執筆で替えの服を作ってやろう──そんな保護者めいたことを考えながら、マクガフィンが更に一歩、最果てを視る弓(ピリオド)に近づいた時だった。

 

 

 

 

 びんっ。

 

 

 

 

 と音が鳴った。

 倒れていたフンショの指先が、最果てを視る弓(ピリオド)の弦を弾いた音だった。

 次の瞬間。

 フンショの体が燃え上がった。

 その上に町を築けそうなほどに大きな体が、たった一瞬で、僅かな隙間もなく炎に覆われる。

 

「まだ息があっただと!? それに今のは──」 橙の熱波に顔を照らされながら、マクガフィンは目を見開いて驚愕した。「最果てを視る弓(ピリオド)の発火対象は矢だけでなく、弦に番えた物ならなんでも──所有者の体でも良いのか……!?」

 

 それは──つまり。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()最果てを視る弓(ピリオド)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──!

 

「……しかし、奇妙だな──それでやることが焼身自殺だと?」

 

 それは、世界を巻き込むほどに自身の死を望んでいる彼女だからこそ、導き出してしまった推測なのかもしれない。

 だが──違う。

 フンショは死ぬために自分を燃やしたのではない。

 生きるために自分を燃やしたのだ──フンショの体が。

 追尾(あとおい)で頭に致命傷を負って、動けないはずの体が。

 ゆっくりと──起き上がった。

 

「な……ッ!?」

 

「なにを……」炎の奥から、フンショの声がした。「驚くことがある小娘。この弓を狙ってきたのなら、特性も知っているはずだろ?」

 

 九世兵器のひとつ。

 巨人に与えられた弓──最果てを視る弓(ピリオド)

 その特性は、矢の発火と──炎熱の、操作! 

 

「まさか」マクガフィンは気が付いた。「炎を操ることで、それに纏われている体までも間接的に動かした……ということか!」

 

「御明察──名付けるなら『炎長戦(オーバーキル)』といったところか」

 

 フンショは完全に立ち上がる。

 炎の巨人が直立しているその姿は──不死身の少女よりも、伝説の殺人剣よりも、刀傷で倒れる巨人よりも──現実味がない、幻想的な光景だった。

 

「……理解しがたいな」

 

 フンショの威容を見上げながら、マクガフィンは呟いた。

 

「いくら間接的な操作で動かそうとも、それでは貴様の体が燃え尽きれば終わりではないか。そこまでして立ち上がる理由はなんだ?」

 

「……この世界は、もう終わりだ」

 

 フンショはマクガフィンの問いに答えず、語り始めた。

 

「『大いなる戦争』と『大いなる災害』が終わった直後の五十年前と比べれば、たしかに復興は進んだだろう……。だがそれだけだ。一度減った種族が数を増やすことは無く、息詰まるような停滞を長々と引き延ばしているにすぎん。このままでは世界を待ってるのは、実に緩やかで、つまらない終末だろう。そんな下らない終わり方をするくらいなら──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 淡々と、炎々と、巨人は語る。

 

「とはいえ、今の疲弊しきった九種族では『大いなる戦争』規模の戦争は起こせまい。理屈も原理も不明だった『大いなる災害』をまた起こすのも無理だ──だったらおれが『大いなる災害』の代わりに、この世界に終止符(ピリオド)を撃つしかないだろ?」

 

「つまり貴様は──世界を滅ぼす為に九世兵器を盗んだのか」

 

「ああ、そうだ。文句でも?」

 

「いや──奇遇なことに、オレも似た目的で九世兵器を求めていてな。まあ、オレの場合、『結果的にそうなってしまう』だけで、貴様と完全に一致しているのではないが──文句など、言えるはずもないよ」

 

「ふうん。俺以外にこんなことを考えていた奴が、他の種族にいたのか」

 

 炎の巨人はおかしそうに笑った。

 

「とはいえ、こんな風になっては世界を綺麗に終わらせるなんて、できなくなった──だけど、せめて自分の終わらせ方くらいはマシにしたいと思って、わざわざ起き上がったのさ」

 

「なんだ、結局自殺と似たような考えで火をつけたのか」

 

「少し違う──なあ」

 

 そこでフンショは、それまで話していたマクガフィンではなく、レスコーに向かって言った。

 

「娘……ああ、たしかレスコー・フォールコインといったか」

 

 フンショは最果てを視る弓(ピリオド)──九世兵器であるそれは、炎の巨人に握られているにもかかわらず、少しも焦げていない──を傾けて、言葉を繋いだ。

 

「もう一度再戦(やろう)ぜ」

 

「…………」

 

「どうせ死ぬなら炎に包まれて、死んでも動き回って、災害のように暴れながら死にたい……それが、俺が望む末路だ」

 

 当然。

 レスコーがこれに応じる義理は無い。

 最果てを視る弓(ピリオド)が炎で痛むことは無く、フンショの巨体が時を経るごとに焼滅している今、彼女が取るべき最適解は『マクガフィンを連れてさっさと逃げて、フンショが灰になった頃を見計らって最果てを視る弓(ピリオド)の回収に戻る』だ。

 しかし。

 

「ええ──そのお誘い。お受けしますわ」

 

 レスコーはにこやかな笑みをたたえながら、全を薙ぐ刀(エピソード)を鞘から抜いた。

 

「恩人からのお願いを無下にできませんもの──それに」

 

 レスコーはマクガフィンを見る。

 

「わたくしは、いつか不死身のマフィ様を殺してみせるんですもの──殺しても死なない巨人程度は、今ここで殺せるようにならなくちゃ」

 

「は、よく言うねえ。客観的に見てこの状況、おまえにとってかなり絶望的だと思うんだが」

 

「たしかに──強く大きな巨人で、九世兵器最果てを視る弓(ピリオド)の所有者で、今となっては致命傷を受けても燃え続ける限り動けるあなたを殺すのは難しいでしょう」

 

 そして──“流星流“は構える。

 真っすぐに整った中段を。

 

「だけど──殺してみせます」

 

 燃え盛る巨人から目を逸らすことなく、断言した。

 そして彼女は名乗りを上げる。遥か高くにある、巨人の耳まで届くように。

 

「“流星流”レスコー・フォールコイン──殺して参りますわ」

 

「巨人。フンショ──推して参る!」

 

 こうして。

 レスコーとフンショの戦いは幕を開けた。

 

 ◆

 

 レスコーとマクガフィンは荒地を歩いていた。

 血塗れだったレスコーの白ドレスはまっさらに新調され。

 マクガフィンの軍服には、新しいがらの腰帯(ベルト)が巻き付いている。

 レスコーは真新しいベルトをしげしげと見つめた。

 

「てっきり、最果てを視る弓(ピリオド)も指輪に執筆されるのかと思っていたのですが……ベルトになるんですねえ」

 

全を薙ぐ刀(エピソード)を含めた九世兵器すべてを指輪にしていっては両手が埋まるからな。拳の戦闘力だけがやけに高くなってしまうだろ。だからバランスをとることにしているんだ」

 

「ということは──これから旅を続けていけばいくほど、マフィ様がオシャレさんになるわけですか! 楽しみです!」

 

 それはつまり、これからフンショと同等か、それ以上の使い手たちとの戦いが続くという意味も含んでいるのだが──レスコーはそんなことを気にしていないようで、暢気な顔を晒していた。放っておいたら鼻歌を歌いそうなくらいだ。

 

「ところで、次はどこの何を集めに行かれるのですか?」

 

「お、珍しいな。最果てを視る弓(ピリオド)の時はオレが教えるまで次の目的地すら聞かなかった貴様が、自分から聞いてくるとは……」

 

「えへへっ、フンショさんとの戦いを経験して、思ったんですの──好きな人(マフィ様)のことは出来る限り知りたいって! だからわたくし気になるんです、今、マフィ様がどこに向かおうとしているかが」

 

「オレのことが知りたい、か……」

 

 マクガフィンは小さく──自分さえも気づかないほどに小さく、皮肉な笑みを浮かべた。

 

「そんなこと、オレでも全部は知らないのに」

 

「? 何かおっしゃられましたか、マフィ様?」

 

「いや、なんでもない」

 

 ラブコメあるあるな会話を経て、マクガフィンは言う。

 

「次の目的地についての話だったな。ひとまず、ここを抜けてから話そうか。というか休憩がしたい。いくらオレが不死身だからとは言え、体のあちこちを切り刻まれて、一日に何度も執筆をさせられて、貴様と火達磨の戦いを間近で見せられたのだ──疲れんはずがないだろう」

 

「あらまあ、そんなに疲れておいでですか……。じゃ、じゃあ、ふひひっ、わ、わたくしが背負いましょうか? さっきみたいに」

 

「結構だ。子ども扱いするな」

 

「べつに子ども扱いなんて──」

 

 そんな風に。

 ふたりは和気藹々とした会話を交わしながら。

 華々しく終わった巨人、フンショを後にしたのだった。

 

 

 

 

 次回予告! 

 

 

 

 順調に進むレスコーたちの旅! 

 

 次なる目的地は獣人の国! 

 

 対する敵はあらゆる武芸を修めた『獣人』の女王、クリフハンガー! 

 

 九世兵器一を包む鎧(プロットアーマー)を使う彼女に、レスコーはどう戦うか! 

 

 更にとんでもない事件まで起きてしまい……!? 

 

 

 

 次回! ソードエピソード! 

 

 第四話『一を包む鎧(プロットアーマー)』! 

 

 また読んでね!

 

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