【完結】EVERYDAYLIFE・《それっぽい文章》・STRAlGHTEN 作:王者スライム
「あー、もしかしてエーって君のことー?火常クンから話には聞いてるよー」
「おお、マスターと知り合いなのですか。話が早い。と言うことは、有栖川橘さんは未来のことも把握していると見てよいですか?」
「いいよー、と言うより私のこと知ってるんだね」
「ええ、当然データにございます。何しろ、有栖川裁葉の妹さんですし」
出会って数秒、エーと有栖川は互いを把握し、そのまま情報交換をし始める。現在の状況、未来からの敵は何名倒されているのか、護衛対象は無事なのか等。
ある程度情報交換を終え、エーが今に至るまでの状況を把握し、有栖川がエー何も情報持ってなかったな、と理解した所で有栖川が口を開いた。
「そういえばエーは火常クンのパーツに使われて死んだって聞いてたんだけど、どうして生きてるのー?」
「ふむ、その質問に答える為には私の身体の機構について説明する必要がありますね」
「というとー?」
「人の身体となった今では分かりにくいかもしれませんが、元々私はスライムの性質を持ったパワードスーツです。パワードスーツとして使用者の力を増幅するのは勿論のこと、形は自由自在、更に壁や地面にくっついたりでき、私自身自立して行動することができます」
「聞いた聞いたー、凄い便利だよねー」
「では、
「……うーん」
スライムの性質を持ったパワードスーツ。言うのは簡単だし、想像するのも簡単だろう。
スライムを、またはスライムと同じ性質を持つ何かを材質に使えば形を自由自在に変えられる元はできるだろうし、壁や地面にくっつくのも再現はできる。
だが、それをどうやって自由自在に動かすのか。そもそもそれはパワードスーツの機構と両立できるのかという問題点が生まれる。エーの場合は更に会話が普通にできる程の知能を持たせる必要があるのだから大変だ。
だから有栖川は少し悩み──そして、答えた。
「私なら小さい機械の集合体するかなー?ナノマシンとかそういうのでね。一つ一つにスライムの性質を持たせれば全体的に一つのスライムの塊に見えるよねー、実際にできるかは別だけど」
「流石です。殆ど正解と言って差し支えないでしょう。実際、スライムのパワードスーツシリーズはスライムの性質を持った小さな機械の集合体であり、人の神経と外部から接続する事により新たな手足としての稼働を可能にしています。そして一部分でパワードスーツの機構も再現してしまえば、私が完成すると言うわけです」
「頭脳の面は解決していないと思うけどー?」
「それも同じことです。パワードスーツの機構を再現したように
「……流石未来の御兄様が作った機械って所かな」
小さな機械の集合体であるが故に、その大きさに収まるなら自由に機構を再現できる。細胞培養機能も人間設計図もそれによって再現された機構だ。
それができるなら当然
「私の身体の機構は説明し終えましたので、後は簡単ですね。人間設計図通りに人を作成する際にマスターの身体を利用したり、足りない所は新しく培養したり、私の身体を用いたり──そして、私の人口知能のシステムを残して置くだけです。今回はマスターの神経に繋ぐ形ですね」
「なるほどなぁ……でも、すぐに目覚めなかったってことはそこまで多くは残せなかったのかなー?」
「ご名答です。想定より身体のパーツに取られてしまい……安定するまでスリープモードにしていたのです。そして今回、マスターの頭が吹き飛び脳と神経の接続が離れたことで緊急時だと私が目覚めた訳ですね」
「だからこれまでも目覚めてなかったと……あっ」
「どうかしましま──あっ」
エーの言葉に有栖川は何かを思い出したようで後ろを振り向く。それに合わせてエーもそちらを向き、それに気づいた。
そこに転がっていたのは、切り飛ばされた火常の頭だった。
火常は身体から切り飛ばされたショックで意識を失っていたようだが、どうやら頭は頭でスライムの部分が血管を繋げ酸素も補給していたらしい。
身体と接続して暫くすれば意識も回復し、思ってもいなかったエーとの再開に楽しく会話を繰り広げていた。
そしてそこから暫くして──全てを終わらせる時が来た。
「あー、わりと無傷な主犯の男に、刺し傷が一つの女。そして明らかに拷問されて意識がある筈なのにどこを見ているかも分からない男、と……やり過ぎだ、バカ」
「……てへっ」
「ねぇ、裁葉。たまに妹のことが怖くなったりしないの?」
「いや?普通に可愛い妹だと思うけど」
「……ふっ」
「凄いどや顔ですね」
未来からやった来た敵の数は三人。そしてここに捕らえられた未来から来た三人の男女。あとは簡単だ、その三人を未来へと送り返す。ただそれだけの仕事。
有栖川とその兄、そして火常は山火事でいろいろと燃え尽きてしまった山に隠されていた部屋へと来ていた。
部屋と言っても地面も壁も土で、そこまで広くもない。けれども、その奥にある乗用車程の大きな機械はとてつもない存在感を放っていた。
「これがタイムマシンか」
「思っているより大きいよねー」
「過去のデータやサンプルを未来に持ち帰ることは基本的ですからね。タイムマシンの製作費はかなり高いので、一度で多く持ち帰られるようにそこそこの大きさで作るんですよ」
「それに、今回の場合こいつらを連れて帰らなきゃいけないからな」
「あー、なるほど……」
有栖川の兄はタイムマシンに近づいて興味深そうに色々と観察しているようだが、火常は遠目見ているだけだ。あまり興味がないと言うのが一つ。だが、それよりもこれでこの騒動も終わりなのだと噛み締めている部分が大きかった。
今回の騒動の始まりは日常の小さな変化だった。解決策などなく、誰も共感してくれず火常の精神を参らせ続け──そして
順風満帆に行ったとは思わない。なんか女になってしまったし、痛い目にはかなりあった。それでもなんとか解決できた。それは火常にとってとても大きいものだ。
「さて、そろそろ離れろ裁葉。さっさと帰って任務完了を伝えなきゃならねぇ」
「……あと五日は待ってくれないか?」
「駄目に決まってんだろ、分解でもするつもりか!?」
「駄目鳥、まさか御兄様の言うことが聞けないとでも?」
「すぐナイフを持ち出すなテメェ!!動物愛護団体が黙ってねぇぞ!!」
「……コントかな?」
「コントのようなものですよ、マスター」
「そこの傍観者ぶってるお前ら!!ちょっとは助けようと思わねぇのか!?」
そこから数十分は揉め、火常の見た目が有栖川の兄の好みであることを利用したあざといお願いポーズにより有栖川の兄が折れる形で解決した。あと火常の精神にまあまあのダメージが入った。
まあ、揉め事が解決すればやってくるのは当然、
「さて、と。準備は完了。今すぐにでも帰れる形だな」
「おっ、もしかして別れを惜しんだりしてるのかなー?」
「まっ、そういう訳でもないがな。何しろ本来なら俺はてめぇらに気づかれる前に事を済ますつもりだったし……まっ、今にして思えば随分と甘い見積りだったが」
そう言いながらゲタ助は今回の仕事を振り返る。三人のうち一人は知らずのうちに有栖川に倒されてしまっていたし、エーが失敗してしまったことにより有栖川の兄に未来の道具の知識も知られてしまった。
主犯の男は想定よりも強く、自分では時間稼ぎしかできなかった。そんな相手を倒して見せたのは火常と有栖川だ。ああ、確かに甘いだった考えだろう。だが、それはそれとしてだ。
「……なぁ、橘。なんかお前やけに強くね?」
「分かる。なんと言うか人間業じゃないことをしれっとしてるよね」
「現代じゃあ恋する乙女は最強だからねー」
「成る程、新たな知見です」
「あははは、あくまでも橘の持論だからあまり参考にしない方が良いと思うけど……」
恋する乙女は最強(少なくとも有栖川という人間は)、という結論を最後に出しつつ、脱線した会話を本線に戻す様にゲタ助はただ一言呟いた。
「バイバイ、ゲタ助。君が教えてくれた未来の知識はとても興味深かった」
「さようならー、二度と御兄様の命が狙われることの無いようにねー」
「さよなら、いろいろと助けてくれてありがとうゲタ助」
「後仕事は任せました」
「じゃあな、てめぇら。過去も悪くなかったぜ」
その言葉を最後にタイムマシンは未来へと出発し、この場から消失した。先程まで大きな存在感を放っていたタイムマシンが消えたことにより、狭かったこの部屋もそこそこの大きさに見えてくる。
暫く、言葉はなかった。誰もが事件の終わりを感じ取っていた。未来から来た敵は未来に送られ、その敵を追ってきたゲタ助も未来に帰り、少なくとも火常も有栖川の兄も命を狙われることはない。
これまで変わってきた小さな日常の変化は戻らずともこれ以上起こることはない。火常の性別が変わってしまったことはそこそこの問題だが、中身が同じだと分かってくれればなんとでもなるだろう。
これでめでたしめでたし。歴としたハッピーエンド──
「……そんな訳、無いだろ!!」
突然のその言葉に、有栖川もその兄も驚いているようだった。エーも心配して「大丈夫ですか?」と音を発声させる。
だが、火常はそんな周りの様子は気にも止めないで更に続ける。
「
火常が納得できないのはそこ。小さな変化だろうが、他に誰も気づいていない変化だろうが、
花壇を踏み荒らした犯人が捕まろうと、花壇は荒らされたままだ。それを元に戻すには誰かが頑張るしかない。それが
そんな火常の怒りを、エーはしっかりと把握した。把握した上でどうしようもない事実を告げる。
「しかしマスター、それは既に過ぎ去ってしまった過去です。覆水盆に返らずという言葉があるように過去の出来事はなかったことにできな──」
「でも、あいつらは過去を変えようとしてた」
「──、マスター。現代にはタイムマシンは存在しません。完成するのを待ったって、過去を変える為にタイムマシンの使用を許可する物はいないでしょう」
「そうだろうね、でも不可能じゃない。エーは時空についての専門的な知識があるんだよね?でも、多分それだけじゃない。もっと他にも未来で進んだ専門的な知識がある筈だ。それでタイムマシンは作れる?」
「……不可能ではありません。しかし、確実に成功するとは限りませんし、かなり時間もかかるでしょう。険しい道になりますよ、マスター」
「構わないよ、
それは火常の揺らぎない覚悟だった。奪われてしまった物を取り返す為に自分の全てを捧げる。端から見れば矛盾したようなそれも火常に取っては釣り合っている、どころかむしろ得だ。何しろ、そうしなければ取り返せないのだから。
「分かりました、マスター。貴方がそこまでの覚悟だと言うのなら──」
「その話、ちょっと待ってくれないかなー?」
「……橘?」
「そうだね、そこの二人で決めてしまうのは慌てすぎだと思うよ。端から見たら一人とはいえ」
「裁葉まで……言っておくけど僕はこの考えを止める気は──」
「いやいや、私たちも止める気は無いよ」
「ただ、僕たちにも手伝わせてくれないかな?」
「えっ?」
その言葉に火常は困惑した。二人の手助けがあるのは、シンプルに火常にたって利だ。何しろ有栖川の兄は未来でタイムマシンを作る天才科学者な訳だし、有栖川だって人間業ではない技術に目が行きがちだが、空中で自由自在き操れるナイフを作成しておる。少なくとも火常よりは役立つだろう。
ただ、理由が分からない。確かに協力体制ではあったが、協力する理由は先程無くなってしまった。むしろ、この身体を研究するために再び捕まえられる可能性すらあるのに、と火常が考えた所で二人が口を開いた。
「私は君に命を助けられてる訳だしねー、その恩は返したいかなー」
「妹が助けられた、それだけで理由は十分だけど無許可で君の身体を研究してしまったという負い目がないこともない。それを考えれば君を手伝う理由は十二分さ」
「そっか……ありがとう。ねぇ、エー。これなら計画の成功率も上がったんじゃない?」
「そうですね。半世紀後に十五パーセントの確率で成功から、半月までに九十九パーセント成功まで上がりました」
「そんなに!?」
本当に険しい道だったんじゃんと、ついでに突っ込みつつエーを含めた四人は揃って部屋を出て行く。事件はまだ終わっていない、これからちゃんと事件解決するために。
「それでは始めましょう。作戦名【タイムマシンを作って過去に行き、未来からやって来た敵に何もさせずボコボコにして送り返す】を──」
「流石に作戦名変えない?」
「あまりにも長すぎるかなぁ」
「ただの羅列でカッコよくないかな」
「……ハイ、ヘンコウシマショウ」
その後会議が暫く続き、作戦名は【EVERYDAYLIFE・《それっぽい文章》・STRAlGHTEN(《それっぽい文章》の中身はそのうち考える)】になったのだった。