【完結】EVERYDAYLIFE・《それっぽい文章》・STRAlGHTEN 作:王者スライム
「──それでは作戦会議を始めましょうか」
「えっと……うおー!」
場所は先程の堤防から少し歩いた橋の下。特に何か道具があるわけではないが、火常とエーはその場に座り込んで作戦会議を始めていた。
「では、まず敵の武器から説明しましょう。《商品名らしき言葉》と、言ってもマスターには伝わらないでしょうから、簡潔に言わせてもらいます。要は小さくて良く燃えるマッチです」
「……小さくて良く燃えるマッチ?」
「はい。イメージ的にはそれが一番近いと思います。未来では資格など必要なく、誰でも購入できる商品ですから」
「……そうかなぁ?」
そうかなではなくそうなのだろうが、それでもその説明を火常は呑み込めなかった。
当然、現代人である火常は未来なんてものは知らない。だから、エーのその言葉を明らかには否定できないし、技術が発展した未来のマッチはあれ程までに大きな炎を上げられるのかもしれない、とは思う。
だが、
明らかに日常で使わない規模の炎で、尚且つなんの前触れもなく突然発火できる。そんなものをどう考えれば日用品として売ることができるのか──と、火常がそこまで考えていた所でエーが説明を続けた。
「この良く燃えるマッチを《これまた商品名らしき言葉》……まあ、凄い性能の良いモデルガンです。これらを組み合わせて武器として使っているようですね」
「ああ、成る程……」
そこで、あくまでもマッチは良く燃えるだけで、突然の発火は狙撃によるものだと火常は納得した。ならば、良く燃えるマッチも日用品として売れるかもしれないと──まあ、異常火力についての疑問は何も解決していない訳だが。
「さて、この武器ですが……正直に言ってしまえば、さほど驚異ではありません。勿論、直撃すればマスターは当然のこと、私ですら半分が燃え溶けますが──」
「当たらないから問題ないってことね」
「そういうことです。元がモデルガンですし、さらに弾に改良を加えているせいで弾速はたいしたことありません。近距離はともかく、数メートル以上離れていれば余裕で避けられます」
その言葉で火常は、初めて攻撃された時のことを思い出す。あの時のエーは自分との会話に意識を割いていた筈だと。それ故に攻撃に気づくのは遅れていたが、避けるのに問題がなかったとも。
であるならば、目の前のエーの発言は偽りも誇張もなく真実なのだろう。そして、自ずと作戦も見えてくる。
「なら、敵の位置を探るためにもう一度撃たせるのが、一番良さそうかな?」
「……そうですね。安全だろうとは言えマスターに命を賭けさせることになるので非常に申し訳ありませんが、それが一番だと私も思います」
「別に気にしないでよ。エーが来なくちゃ、僕は何も分からないまま死んでいた訳だし、それにこのままだと命の危険も続くんでしょ?」
「そうですね。敵の姿はこちらも把握していませんが……ここまで計画を進めていて、私が来たからという理由で計画を諦める相手だとは思えません」
「だったら、賭けられるよ命を。そうじゃないと僕の日常は帰ってこない訳だし。それにさ」
と、一旦火常はそこで一呼吸置いた。そしてそのまま、ただ事実を述べるように淡々と言葉を続ける。
「
「……当然ですよ、マスター。私が傍にいる限り貴方が死ぬことは決してない」
「なら安心だ。じゃあ、もう始めようよ。僕としては早く日常に帰ってきて欲しいからさ」
「そうですね。作戦名【狙撃させて敵の位置把握しようぜ】、開始します」
「……他に良い名なかったの?」
「分かりやすいのが一番ですよ、マスター」
「……そっか」
そうして、火常は立ち上がりエーと共に端の下から動き出す。日常どころか自分の命すら脅かす、まだ見えぬ敵を倒す為の第一歩を踏み出した。
風で、木葉が掠れる音がした。
山の中腹、木の下に一人の女が座っている。うなじ程度まで伸びた赤い髪に、黒い目。身長はそこまで高くなく、衣装は適当に古着屋で揃えたのか、ブランドも色もバラバラだ。
そんな特徴的な女は双眼鏡で住宅街のとある一点を覗く。そこには一人の少年がいた。そして、
「これ、間違いなく誘ってるわよねぇ……」
その少年とスライムは、他に誰もいない住宅街をただ談笑して歩いているように見えた。先程、何度も狙撃された筈なのにである。
もしこれで誘っていないとすれば、どうしようもない頭パッパラパーの楽観能天気野郎ということになるが、当然ながら女はそうは思わなかった。
「これまで順調だったのになんでこうなるかしら。いやまあ、むしろこれまでが順調過ぎたというのもあるでしょうけど……」
女が持っている武器は《やけに可愛い名称》だ。《商品名らしき言葉》と《これまた商品名らしき言葉》を組み合わせた、狙撃銃。
未来ならともかく、自らにとっては過去である現代ならば驚異の武器。よって八割も計画が進んだ今なら、簡単に任務を済ませられる──筈だった。
「まさか計画が気づかれたなんてねぇ……一切邪魔が来なかったから、もう大丈夫なんだと思ってたわ」
少年の傍にある、スライム型のロボット。それは、世界を大きく変えたとすら言われる一つの発明。それが途轍もなく便利なことは、この現代ではこの女が一番知っていると言ってもいい。できれば、この現代に持ち込みたいと思っていた程に。
だからこそ、そのスライムが少年の味方をしていることを女はとても厄介だと考えていた。
「Ⅰ型、MⅠ型はないでしょうし……順当にいけば最新型のMⅠF型でしょうけど、お姉さんも知らない新型とかはないわよね?」
そんなことを一人呟いても、答えを教えてくれる者はいない。ただただ時間が過ぎるばかりだった。
「さてと、選択肢は二つよね。一旦撤退するか、それとも敢えて誘いに乗ってあげるか」
メリットはそれぞれにある。一つ目の案はリーダーにこの件を伝えられる為に、あの少年を簡単に処理できるということ。二つ目のメリットは、
順当に考えれば撤退がベストだと女は考えた。先程のことを踏まえれば、遠距離で攻撃しても当たりはしない。近距離なら分からないが、近づかれて危険なのはむしろこちらの方。自身だけで倒すのは無理とは言わないが、危険な橋を渡ることになる。
それを考えれば、撤退を選ぶのはベストとと言うよりは当然と言えた。だから、女は双眼鏡をしまいこんで──《やけに可愛い名称》を構えた。
狙いは当然、未だに談笑を続けている少年。そこに狙いを合わせて、躊躇いもなく引き金を引いた。
「お姉さんね、
そう言う女の目には、立ち上がる巨大な炎とそれを避けてこちらへと向かってくる少年の姿が写っていた。
「見えました、こちらです」
「了解!」
エーを身に纏い、火常は山の方向への一本道を走り抜けていく。その間も、何発か撃たれている様だったが身体が勝手に避けていた。
「危惧していたように逃げ出そうともしていません。恐らく、近づかねば当たらないと私たちを待ち構えているのだと思います」
「でも、僕たちも近づくしかないよね?」
「ええ、勿論です。捕まえるのもこちらから攻撃するのも、近距離からでしかあり得ませんから」
「ちなみに攻撃って身体強化されたこの身体で殴ったり蹴ったりだよね?僕、喧嘩なんてしたことないけど大丈夫?」
「安心してください、私に任せてくれればなんとでもして見せます」
「そっか、じゃあ任せたよ!」
「任されました、マスター」
そのまま走り続けること数分。火常は敵が待ち構えているであろう山の麓にたどり着いた。
そこから、火常は少し慎重に山の中へと歩みを進める。ここにたどり着く少し前に攻撃は止んだ。
つまり、敵は元居た場所ではなく、やって来た火常を文字通り迎え撃つためにこの山の何処かに隠れたということだ。
だからこそ、先程の距離の余裕がある時とは違い、エーは勿論のこと火常ですら、周囲への警戒をしている訳だが、そこで火常に一つの疑問が生まれる。
「……思ったんだけどさ、今さら逃げたってことも考えられるよね。だとしたら今の僕らはそれを手助けしてることになるんじゃない?」
「その可能性はない、とは言い切れませんが殆どないでしょうね」
「逃げる気なら最初から逃げ出していた筈だから?」
「それもありますが、大きいのは敵が攻撃を続けていたことです。何しろ、未来から持ってきている弾は有限ですから」
「あー、確かに」
「我々がそう考えるのを見越して撃ったという線もありますが、やはりそれならば最初に逃げ──」
火常に張りつくエーがそう考えを説明していた、その時だった。銃声がそれを遮り、銃弾が火常の身体を襲おうと発車される。
下手人である女との距離はおおよそ五メートル。しかも、エーは火常との会話に気を取られている。そんなタイミングを待ち続けていた女のその一発は──
「ほら、見つけましたよマスター。やはり、我々を待ち構えていたようです」
「急に大きい音がしてビックリした……」
──間一髪、火常の身体はその一発を見事に避けていた。火常自身はは命の危機だったにも関わらず、呑気なことを言っているが。
「お見事、と言うしかないわよねぇ。結構ギリギリを狙っていたのだけど」
「警戒自体は怠っていませんから当然の結果です。さて貴女、投降する気は?」
「投降する気はないけれど……いいの?」
「構いませんよ、ないならないで強硬手段に出るだ──」
「あー、そうじゃなくてぇ……
「……えっ?」
「……えっ?」
そう言葉をシンクロさせて、火常とエーはゆっくりと後ろを振り返った。すると、
思考が停止しながらもゆっくりと火元から離れ、二人はその広がっていく炎を観察する。
まさに山火事だった。このまま燃え広がっていけば、少なくともこの付近の自然は全部燃え尽きてしまいそうな山火事。
火常からすればなんでこの状況でと、突っ込みたくなっていた。日常を壊した敵と戦うことを決めて、その敵の一人とようやくぶつかって、エーに全てを任せているとはいえいざ戦うとなった所でこの山火事。
タイミングを考えろよ、とまで思った所で火常に一つの思考が浮かんだ。そう言えば、その敵の武器はなんだっけ?と。
「もしかして、この山火事ってさっきの攻撃のせい!?」
「ハッ!!」
「えっ、流石に気づくの遅くないかしら……?」
「これまで炎がすぐ鎮火していたせいで失念してた……!!」
「普通に考えれば思い付く筈なのに同じように失念していました……!!」
「……あなたたち、バカなの?」
敵である筈の女が思わず呆れてしまう程に、火常とエーは落ち込んでいた。
けれど、女からすればそれを見逃す通りもない。これまた容赦なく、引き金を引いたが同じように火常の身体はその攻撃を回避した。
「どうするのエー!!このまま炎が広がっていったらだいぶヤバイんじゃない!?」
「落ち着いてくださいマスター。炎が広がり過ぎると不味いのは向こうも同じ。それを考えれば銃を何発も撃ってくる訳が──」
「まっ、炎が燃え広がった時はその時よね」
「あの人、あんなこと言いながらめちゃくちゃ撃ってきてるけど!?」
「なんでそんな無計画に攻撃を……!?」
火常とエーは当然のように銃弾を避けていく。けれど、それは山火事を広げていくも同義。今は良くとも後で絶対に支障が出る。
そして、その支障が出た際に訪れるのは死だ。そこに気づいたエーの思考は、一瞬で冷静になった。そしてその思考はこの状況をなんとかする案も導きだした。
「マスター、少し危険な行動に出ます。よろしいですから?」
「その行動に出ればなんとかできるんだよね!?」
「当然です。何しろ私は貴方を守るために派遣されましたから」
「じゃあ、頼むよ、そもそも最初からエーに任せっきりにしてたしね!!」
「任されました、マスター」
そう最初に任された時と同じ言葉を残すと同時に向きを変えて、火常の身体は女の元へと向かう。その距離、七メートル。まだ銃弾は避けられる。
「なんのつもりか知らないけれど……近づかれるのはこっちにとってもチャンスなのよ?」
更に近づき、四メートル。まだ火常の身体に銃弾は当たらない。
「お姉さんがビビって逃げ出す算段だったのかもしれないけど……少々近づき過ぎたわね!!これでおしまいよ!!」
近づきに近づいて、その距離は一メートル未満。避けられる筈もない銃弾はそのまま火常の肩にぶつかろうとして──
「えっ!?」
──その前に、スライムのボディの一部が銃弾に勢い良くぶつかりながら包み込んで銃弾の軌道をズラした。その結果、スライムの一部と共に銃弾は明後日の方へと飛んでいく。
「ちょ、ちょっと待たないかし──」
「言ったでしょう?強硬手段に出るだけと」
その距離、ゼロメートル。容赦ない右ストレートがその女の顔面にクリーンヒットした。