【完結】EVERYDAYLIFE・《それっぽい文章》・STRAlGHTEN 作:王者スライム
火常の目に映るのは一人の美少女。
ゆるふわウェーブがかかったうなじ辺りまで伸びた金色の髪に、藍色の瞳。なんと言うか、そういう風に作られたのではないかと疑ってしまう程整った顔。あとはワンピースで良いのだろうか?ピンク色のその服装をしている。
「これが僕……?」
何も分からないまま死んでしまったと思えば、何がなんだか分からないまま美少女になって生き返ってる始末。どうやら、自分は人間をやめているらしいという情報も相まって、火常の思考は止まりかけていた。
エーが自分を助けるために自分と融合した、それは単なる推測でしかないが、ほぼ間違いなく正しいだろうと火常は確信している。あのバラバラになった自分を助けられるとしたら、それ以外方法がないからだ。しかし、そうなると疑問点が一つ。
「それで性別が変わったりはしないよな……?」
未来の技術なんて殆ど知らない火常だが、バラバラになった身体をくっつけるだけなのに性別まで変わるなんてことは流石にないだろうと分かる。
それなのに今の火常は性別どころか見た目まで大幅に変わってしまっている。そんなことは身体をゼロから再構築するぐらいでないと、そうはならない筈だ。
では、他の推理があるかと聞かれれば何も思いつかない訳で──取り敢えず、火常は今の自分の身体については全て思考を停止することにした。
「取り敢えず、これからのことでも考えてみようかな」
議題一つ目、このままこの家に居ても良いのかということ。先程出ていった、有栖川は火常に優しくはしてくれていた。起きるまで傍に居てくれたのだろうし、質問も何一つ隠さずに答えてくれた。有栖川はそこまで問題視しなくても良いと火常は考える。
だが、問題はその兄の方。兄こそ、自分をここまでつれてきてくれた恩人のようにも思えるが問題なのは、
仮にその頃には火常の身体がある程度くっついていたとしても、普通警察に通報するのが普通だ。それなのにその兄はその身体を拾って、実験までしていたらしい。果たして、そんな相手を信用してもいいものなのだろうか?という疑問が火常に浮かぶ
「……逃げよっか」
推定異常者の有栖川の兄は信用はできない結論づけ、議題二つ目も取り敢えず置いておいて、火常は外に逃げる事にした。
この家の広さや構図は分からなくとも、まあなんとかなるだろうと根拠のない自信を持ちながら扉に手をかけ──そして、扉は一切動かなかった。
「あれ、ここ部屋の内側だよね……?」
そう確認するように呟きつつ、火常はドアノブをもう一度捻る。しかし、扉はびくともしない。確認してみれば、しっかりと鍵がかかっている様だった。しかも外側からである。
その後、火常は無言で部屋を見渡す。起きた時と変わらず、白を基調とした壁紙や家具があるだけだ。統一感を大事にしている人の部屋なのかな、なんて思ってしまいそうな普通の部屋。
だが、良く見ればこの部屋には窓はない。家具だって、ベッドと机と椅子だけと必要最低限しかないように思える。
それに加えてこの部屋は外から鍵をかけられる仕組みになっているらしい。まるで
「あー、えっと……どうしようか?」
そんなことを呟いても全ては手遅れだった。部屋からは出られず、推定異常者の有栖川の兄から逃げるなんてことは不可能に近い。
未来からの敵という危機から逃げきった(こうなってるのに逃げきったと表現できるかは別として)筈が、今度は現代から危機がやって来ている。しかも、その危機からは逃げれそうにもないときた。
いったい自分が何をしたんだと、火常は心中で悪態をつくが当然それでは現状は変わりやしない。
「扉が開くまで待つ……しかないんだろうけどなぁ。問題はそれがいつ起きて、起きた場合にどうなるかが分かんない所だよね……」
部屋の中に時計はなく。日の光も窓がないから見えない。時間は推測することすらできない。そんな中ずっと扉が開くのを待てるのかという点が一つ。
そして、待ち構えていた時に扉が開いたとして向こうが何をしてくるのかが分からないという点がもう一つ。
火常からすれば、もうこの家の人物は誰も信用できそうにない。問題視しなくて良いと思っていた有栖川でさえ、ここに容赦なく閉じ込めた存在だなのだから。
「向こうも僕が閉じ込められたって気づいてるだろうし、無警戒で扉を開けたりはしないよなぁ……僕の身体能力、今はあり得ないぐらい凄いらしいし」
自分の身体の筈なのに他人事のようにそう言いつつ、火常は思考を続ける。
仮想敵である有栖川かその兄がどう入ってくるかをシュミレーションしてどう対策するべきなのかを考えていく。ただ、情報が少ないのもあり、殆ど《もしも学校にテロリストが突然やって来たら》で自分が物凄く活躍する程度のレベルで役立ちそうにもない。
かと言って、他にすることもないだろうと火常はそのシュミレーションを続ける。だから、反応が遅れてしまった。
そう、
「……えっ?」
火常のシュミレーション通りに、銃を突きつけられることはなかった。睡眠ガスや閃光発音筒のような物を投げ込まれることもなかった。複数人が一気に入ってくることもなかった。
そして、
ただ、そこには一人の──いや、一匹の鳥が居た。
「やっぱり、うどんはうまいなぁ。他の麺類も捨てがたいけど、こう食感とかスープのだしとかそういうのが一番噛み合ってるというかさ……なあ、あんたも分かるだろ?」
「……実は全部夢だったりするのかな」
しかも、その鳥は実に器用にうどんを食べていた。
あまりにも現実離れしたことが起きすぎて、ようやく脳のキャパシティを越えてしまったらしい。火常は迷わず、ベッドに寝転んで──
「おい待てや、現実逃避するな!!」
「うわっ、うるさ……」
容赦なく叩き起こされ、火常は今度はしっかりとその鳥を観察する。
「ハゲタカ……だよね?」
「種族で呼ぶな種族で。お前は友だち相手も人間って呼ぶのか?」
「いや、君の名前知らないし」
「……それもそうか。俺の名前はゲタ助だ」
「ハゲタカだからゲタ助か……結構安直だね」
「うるさいぞお前。俺はお前らを助ける側だって言うのに」
「……もしかして、エーの仲間?」
「そうに決まってるだろ、喋るハゲタカなんて現代で見たことないだろ?」
そこで一旦会話を区切り、ゲタ助はうどんを完食した。なんで鳥類なのに麺類が好きなんだろうか、なんて思いつつ、火常は適当に器をそこら辺に放り捨てたゲタ助に質問をする。
「ちなみになんで喋れるの?」
「そりゃあ、調教の賜物に決まってるだろ。ここまでペラペラに喋れるようになるまで五年も訓練し続けたんだぜ?」
「……なんか未来のテクノロジーとかじゃないの?」
「調教には使われたりはしたがな、これ自体は自前だぜ」
「へー、努力家なんだね」
「はっ、まあな。箸の使い方だって最初はまあ苦労したもん──って違うだろ!!」
「……何が?」
「なんでそんなお前が余裕そうなのかは知らねぇが、俺はそんな下らねぇ話をしに来た訳じゃないんだよ。早く部屋から出るぞ、ここがまあまあヤバい家なのはとっくに気づいてるだろ?」
「……あっ!今なら逃げれる!」
「こいつアホなのか……?」
どうしようもないバカを見るような目をするゲタ助に対し、「君がインパクトありすぎて忘れてただけだよ」と言い訳する火常。ゲタ助はその言い訳に一切反応せずにそのまま扉から出ていくので、火常もそのまま後をついていった。
扉を開けた先にあったのは普通に廊下だった。これまた全体的に白くて、それとは別に広い。ここだけでかなり大きいお屋敷なのが窺えた。
「さて、一応の確認なんだが火常平で良いんだよな?」
「ああ、うん。見た目どころか性別も変わってるけどそうだよ」
「なら良い、家の外までは案内してやる。そこからは自分で帰りな、目立つ建物でも見つければ場所なんてすぐ分かるだろ」
「帰るか……何も解決してないのに?」
エーの味方であるゲタ助が来てくれたおかげで、未来のテクノロジーの身体になってしまった火常が実験体にされるのは回避できそうだが、未来からの敵についてはまだ一人しか倒していない。なんなら、その一人も恐らくは回収されてしまった筈だ。
故に、ここからは逃げれたとして外にはまた別の脅威があるという意味で火常はそれを言った訳だが──なんてことの無いようにゲタ助が告げる。
「いや、お前の場合はもう解決してるよ」
「……えっ?」
「そんだけ見た目が変わっていればあいつらも気づきはしねぇよ。だから命を狙われる危険とはオサラバって訳だ。さっさと帰って、日常に戻ってしまえば良い」
「そうかな……」
「見た目も性別も変わってる自分が、火常平だと家族や友人に受け入れられるか不安か?人ってのは、見た目だけじゃなくて中身も重要視してるんだよ。自分達しか知らない思い出でも秘密でも喋ってしまえば、なんだかんだ信じてくれるさ」
きっとそれはゲタ助なりの励ましの言葉だったのだろう。劇的な一日を過ごして、更にはどうしようもない変化が身体に起こってしまった火常への励ましの一言。
ただ、それは火常には一切響かなかった。もしも火常が、自分が日常に戻れるかどうかで悩んでいればその励ましが届いたのかもしれない。
けれど、実際の火常の悩みは別の所にあって──そして、共感のない言葉は火常の心を癒したりはしない。これまでがそうだったように。
「……僕の日常はさ。既に結構変わってるんだ」
「でもそれは小さな変化だろ?しかも、他に誰も気づいていない。たいした物じゃないだろ」
「僕はそうは思わないよ。たとえどれだけ小さくとも、変化は変化だ。僕の日常はあいつらに踏み荒らされたままだ」
「別にそれはあいつらを捕まえたって元には戻らねぇ。既に起こったことだからな。それはエーからも聞いてるだろ?」
「でも、僕は──」
「
そのゲタ助の声はそれまで違っていた。その声を聞いただけなのに、火常の身体はほんの少しだけではあるが震えていた。
そんな火常の様子を見ながら、ゲタ助は更に続ける。
「今のお前は奇妙な状態ではあるけど、生き残ってるんだよ。だったらそれで良いじゃねぇか。日常なんてそもそも時間経過で変わるもんだ。それが今回は人の手によって変えられただけ……生きたもん勝ちだろ、こういうのは」
「……」
「まだ諦めてないって顔だな。理由はなんだ?そんなに日常が踏み荒らされたのが嫌なのか?それともエーのやつがお前のために犠牲になったのが気にくわないのか?」
「やっぱりエーは僕のために犠牲になったんだね」
「……まあ、お前のその姿を見れば嫌でも察する。意識の機能が残ってる可能性もあるが……まあ、考えない方が良いぐらいに少ない。で、やっぱりエーが理由なのか?ならあいつは──」
「いや、エーのこともそうだけど……理由は別の所にあるよ」
「じゃあ、いったい何が理由だって言うんだよ。間違いなく一回死んだのに、それでも立ち上がれる理由ってやつは」
その言葉に火常は少し過去を振り返る。
思い出すのは、あの男。女を回収するついでと言わんばかりに火常とエーを殺した、未来から来た敵の一人。
その思い浮かべた顔に、火常はただ右拳を握り締めて、前へと突き出した。
「全力で殴りたいやつがいるんだ」
「……それが一番の理由なのか?」
「うん、エーのこととか日常を踏み荒らされた件とかいろいろあるけど……やっぱり、一番はそれだよ」
「マジかよお前。それだけに命を張れるのか?」
「張るもなにもこっちは一回殺されてるからね。一発ぶん殴らなきゃ取り返せない」
火常のそんな言葉にゲタ助はただ黙った。呆れて物も言えないのか、と思えばそうではなかったらしい。突然、ゲタ助が笑い出す。
「ハハッ……ギャハハハハハ!おもしれぇ、おもしれぇじゃねぇか!乗ったぜ、火常。ここから出て帰るのはやっぱり無しだ。一緒にその殴りたいやつを殴ろうじゃねぇか!」
「えっ、いやここからは出たいんだけど……」
「お前の身体能力はだいぶ強化されてる筈だ。なら、後はその使い方さえ分かれば強力な武器になる。師匠として俺が戦い方ってやつを教えてやるよ」
「話を聞いてよ。ここからは出たいし、あと勝手になんで師匠って名乗ってるの?」
「こうしちゃいられねぇ、さっさと行くぞ火常!」
「いやだから──って、その身体の何処にこんな力が!?」
ゲタ助に無理やり身体を引っ張られ、抵抗することもできずに火常が館内で振り回される。
有栖川やその兄に見つかりたくもない火常は叫ぶこともできず──ただ、なすがままにされるのだった。