【完結】EVERYDAYLIFE・《それっぽい文章》・STRAlGHTEN 作:王者スライム
火常が連れられたのはこれまた真っ白な部屋だった。目が覚めた部屋とは別の筈なのだが、家具もその位置も最初の部屋とまるで同じ。
こういう部屋が幾つもあるのだろうかと疑問に思いながら、火常は入ってきた扉に手を掛ける。今度は開いたのでほっと胸を撫で下ろした。
「さて、まずはお前の身体についてから話してやるか」
「……いや、その前にさ。なんでこの家から逃げないの?最初は逃げるって話だったじゃん」
「最初はそうだったな。でも、お前は立ち上がって殴りたいやつがいるって言い放った」
「それになんの関係が……あっ、もしかして僕以外にも護衛する人が居るの?」
「そう言うこった。エーがお前を護衛しようとお前に近づいた様に、俺にも俺で別の護衛対象が居るんだよ。エーから何も聞いていないのか?」
当然、火常はそんなことは一つも聞いていない。エーが言う必要はないと判断していたのか、それとも頭から抜けていただけなのか。
優しくてこちらのことを常に気遣ってくれてはいたが、肝心の所は無計画だったり、ちょっとした質問にたいして学問を一から教えようとしてたりと天然な所が多かったので、多分後者だろうと火常は結論づけた。
「……そう言えば守るのは家にいる時だけなの?エーは僕について来てたけど」
「外に行った時は遠くから見張ることにしてるのさ。なにしろ、この護衛対象は結構厄介なやつでな。下手に未来の物を関わらせるのは不味いんだよ」
「へー、どんな人なの?」
「
「……そりゃあ、凄いね」
未来からやって来たサポートロボット。火常がそんなエーと過ごしたのは短い時間ではあるが、それでもその凄さは十分に理解できる。
AI搭載を搭載していて、普通に会話ができる形が自由自在のパワードスーツ。単なる身体補助ではなく、第二第三の腕としても使えるとは本人談だ。知識が詰め込められているのだって、確かなポイントだ。
さほど機械方面に詳しくない火常なれど、そんな代物を共同開発ではなく一人で作り上げたと聞けば、流石に凄いということは分かる。
「Slime-
「なんでナンバリングがそんなことに……?」
「俺に聞くな。未来でも考察されてたりするんだよそれは」
「考察されてるんだ……」
「ちなみに最有力の説は開発者が何も考えずに適当に決めただ」
「それが最有力なの……!?」
そこで脱線した話を戻すかのように、ゲタ助はわざとらしく咳き込んだ。
「話を戻すぞ。要は将来そんな凄い物を作り上げる発明家に、未来の物を見せるとどういう反応が起きるか分からないってことだ。下手すればスライム型ロボットの発明が数年早まるなんてこともあり得るかもな」
「未来変えようとしている敵関係なく未来が変わっちゃうってことか……」
「そう言うこと。だから俺は直接は会わずに遠目からの護衛に徹してるってことだ……まあ、もう手遅れだがな」
「なんで?まだ会ってないし、多分だけど敵も来てないでしょ?」
「……俺の護衛対象は肉塊だったお前を拾ったやつだ」
「あっ……」
今の火常はエーと融合した、現代の科学ではあり得ない存在だ。当然、ゲタ助の言葉に合わせるならば見られるのは不味い存在である。
だが、有栖川の言葉が正しければ今の火常は護衛対象であろう有栖川の兄に見られるどころか実験すらされている。確かめるまでもなく手遅れだった。
「……まっ、過ぎた事だ。開発が早まった所で未来に起こるのはちょっとした変化って所、まあ気にしなくてもいいだろ」
「そうかなぁ……?」
「そうなんだよ。今重要なのは未来じゃなくて、今のお前の身体の話。聞きたいだろ?なんで女性の姿になってるん──」
「それは凄い聞きたい」
「……めちゃくちゃ知りたがってるな、お前」
そりゃあ当然だろうと、火常は心の中で強く頷く。
自分がエーと融合したというのは、状況証拠からなんとか導き出すことはできた。だがそれは、自分の姿が女性の姿になっていることとは全く結びつきはしない。
重要な事なのに一切理由が分からないというのは怖いものである。だからこそ、火常の興味関心はその理由に食いついたのだ。
「まあ、じゃあ解説していくか。まずエー……こと、Slime-Aってのは今回の作戦の為に作られた特別品だ」
「……そうなの?」
「そうなんだよ。だから、パワーや動きの制度は他の型のやつとは明らかに違う程スペックが高いし、耐久性も十分に盛られている。商品として売り出せば間違いなく十桁にいくだろうと確信できる程にな」
「そんなに!?」
そこで慌てて、火常はエーのことを思い出してみるが、凄いのは思い出せても、十桁に見合うかどうかまでは分からない。
他のスライム型のロボットの性能も値段も知らないのだから当然なのだが、それでも自分は価値の分からない人間なのかもしれないという考えが火常の頭によぎった。
「さて、そんな特別製のSlime-Aは他にも機能があってだな。お前がその姿になっているのはそれが関与したんだろうと俺は思っている。で、その他の機能ってやつが
「なんか、思ってたより凄そうな機能じゃない……?」
「細胞培養機能ってのは、まあほぼそのままでな。細胞を培養して増殖させるっていう機能。これは人間設計図の為の機能だと思ってくれていいぜ」
「じゃあ、その人間設計図ってのは?」
「これも殆どそのままだ。Slime-Aは人間設計図を持っていて、その通りに増殖させた細胞を配置していけば人間ができる──ハッキリ言って、未来でもあり得ないと一喝されるぐらいの機能だ」
その説明に火常の返事はなかった。
未来のこととはいえあまりにもそれが現実離れしていたというのもあるし、なんでそんな機能をエーに詰め込んだんだという理由を考えたからというのもある。ただ、一番大きいのは凄いよりもイカれていると思った所だった。
未来ですらあり得ないと一喝されてしまうような技術。それを
「まあ、流石に人間丸ごと作るのには時間もエネルギーもかなり使うみたいだがな。本来の用途は、護衛対象が敵の攻撃によって四肢欠損等の大怪我を負った時にそれを治療するための機能だろうな。腕がなくなったなら、腕を作り出して、間にスライムボディを入れてくっつければ元通りって訳だ」
「……つまりさ、僕の身体が女性の姿になってるのって」
「お前が四肢欠損所じゃない大怪我を負ったからだろうな。想定はされているが本来ならやる筈もない、
「そっか……」
バラバラになった身体を繋げたのではなく、一から身体を作り上げた。それならば元の姿ではなく、女性の姿になっているのにも火常は納得──はできなかった。
「いや、待ってよゲタ助」
「どうした?何か気になることでも?」
「うん。あのさ、未来から来た敵は僕を狙ってるし、エーは僕をマスターと最初から呼んでたんだけどさ。つまり、僕が護衛対象とは未来でも分かってたんだよね?」
「まっ、そうだな。そうじゃなきゃ守りようがねぇし」
「ならなんで、
それは当然の疑問だった。火常の怪我を想定し、火常の治療をするための機能ならその設計図の姿は
仮に人間設計図の姿を丸ごと作られるとは考えていないとしても、そもそも性別が違うのだから手足だけでもちょっとした問題は起きそうなものだ。
だから、その点を火常は疑問に思った訳だが、ゲタ助の返答は少し曖昧だった。
「あー、それはだな……まあ、多分って前置きがつくんだがいいか?」
「いいよ、それで納得できるかもしれないし」
「じゃあ言うぞ。いいか?あくまでも多分で事実とは限らないからな?」
「いいからいいから、早く言ってみてよ」
「……多分なんだけどさ、趣味だと俺は思う」
「えっ?」
「趣味だよ趣味。性癖に刺さる女性の姿を考えて、人間設計図にしたんじゃねーのか?」
「……ゲタ助。殴りたいやつが一人増えたよ」
「そいつは護衛対象だし、この時代ではまだ無罪だから見逃してやってくれ」
あくまでもゲタ助の考えであり事実とは限らないなんて言葉は忘れ、火常は強く拳を握りしめる。しかし、殴るべき対象が現代に居ないことに溜め息を吐いて、腕の力も緩めた。
未来の有栖川の兄がしっかりしていれば、自分の姿は自分の姿だった筈なのだ。それが、しっかりせずに趣味に走ってしまったがばかりに自分は女性の姿になっている。流石に火常にも怒りの感情が生まれたが、やはり宛がないのでなんとか押さえつけた。
「……まあ、と言うことでだ。お前の身体能力は以前よりは高いし、その身体はスライムのような性質も持っている。それを上手く活用できれば、殴りたい奴を殴る事なんて造作もないって訳だ」
「……ちなみにそのスライムの性質ってどんな感じなの?あんまり実感ないんだけど」
そう言いながら、火常は自身の腕を摘まんでみた。普通に腕という感じで、思っていたよりは伸びたが千切れそうにはない。
目覚めてからあまり身体を動かしていない現状、身体能力が高いというのも全然信じられていないのだ。なんなら、先ほどゲタ助に抵抗できずに引きずられたばかりなので、むしろ力は弱くなっているんじゃないかと火常は疑っている。
「スライムの性質ってのは主に二つ。物にくっつく点とよく伸びる点だ。人間の身体を構成してる現状、多少は伸びてもよく伸びることは無いだろうが……物にくっつく方は問題ないと思うぜ」
「そう言われても……ほら。壁にくっつけてもすぐ離れるよ?ゲタ助の勘違いだったりしないの?」
「身体全部がスライムで構成されてる訳じゃねぇんだ。そのまま壁を触った所でくっつくことはねぇさ。だから、意識して触るんだ。身体の中のスライムを外側に押し出すようにな」
「……急にそんなこと言われてもできないと思うけど」
「だったら、ところてん作りをイメージしてみな。棒を押して先からところてんがニュ、っと出てくるシーンをだ」
「別に分かりやすくなってないよ!?」
そんなイメージをした所ですぐに出きるようになる筈もなく、それから練習を続けること数十分。ようやく、火常の掌はしっかりと壁にくっついた。
「……本当にスライムみたいにくっついたね」
「だから、そういう性質は持ってるって言っただろ?まだ疑ってたのか?」
「いや、分かっていても現実味が沸かなくてさ。でも、コツは掴んだよ。内にあるスライムを外側に押し出す感覚」
「ああ、棒を押してところてんを──」
「そっちはよく分かんなくて一切役に立たなかったけどね」
「……わざわざ言う必要はねぇだろ」
少しショボくれて自身から離れていったゲタ助を見て、案外面倒な所もあるんだなと思う。
仕方ないので、適当に煽てて機嫌でも直して貰おうとゲタ助に近づいた所で──何かが火常の腕に突き刺さった。
「……えっ?」
それを認識した瞬間激痛が走り、慌てて抜いて放り投げる。エーと融合した影響か血は出ておらず、穴も自然と塞がっていく。
「うーん、やっぱりただ刺すだけじゃ効果は薄いのかなー?ナイフ以外にもっと道具を持ってきても良かったかも」
声が聞こえた方向に顔を向ければ、そこには
恐らく、自分が起きるまで傍にいた人物で、気になったことを色々と教えてくれた人物。ただ、容赦なく自身を部屋に閉じ込めた人物なので信用はできないと考えていた人物。
それでもどこか有栖川のことを危険よりは安全側に置いていたことを、火常は自覚した。
「橘……!」
「どうしたのー?あっ、もしかして命の心配?安心してよ、殺したりはしないからさ。君には聞きたいことがいっぱいあるからねー」
最初、普通に会話できていたことが嘘のように思えるような言葉。きっと、戦うしかないのだろうと拳を握り、火常は有栖川を見据える。
戦い方を教わっている最中なのに、戦いはエーに任せっきりだったのに、自分はまともに戦えるだろうか──そんな不安を抱いた火常だったが、その不安は衝撃的な物を見て一瞬で搔き消される。
扉から入ってきて、こちらを見る有栖川の更に右。壁にそって立て掛けられた棚の上にそれはいた。
──
火常の殴りたい相手がまた一人増えた瞬間だった。