【完結】EVERYDAYLIFE・《それっぽい文章》・STRAlGHTEN 作:王者スライム
「一応聞くけどさ、なんでここが分かったの?」
「あの部屋から消えたのは分かってたからね、後は監視カメラの映像から──って言いたかったんだけどさ、実際は
「総当たり……?外に逃げてるとは考えなかったの?」
「まーね。私からすれば、
その言葉に火常は困惑する。今、有栖川が自分に攻撃しているのは閉じ込めていた筈の実験対象が逃げたので、それを捕らえる為だからだと火常は考えていた。だが、それだと外に逃げるのは問題がないという理屈が分からない。
そこ辺りを深く掘り下げようと口を開こうとした、火常だったが、それよりも先にナイフが飛んできていた。
「──危なッ!!」
「会話は嫌いじゃないけどね。でも、会話は君を捕らえてからでもできるしさ」
「僕としてはもう少し情報が欲しい所なんだけどさ……」
「ふふっ、それは私の台詞でもあるんだけどね──それより、避けたらもう終わりだと思ってる?」
「えっ?」
そんな言葉が漏れると同時に、火常の背中にナイフが刺さる。困惑している暇もなく激痛が走り、それを抜こうと背中に手を振り撒くが──それは成功しなかった。
突然、身体に電流が流れ、何もできずにそのまま倒れ込む。
「がッァぁぁ──!!」
「実は単なるナイフじゃなくて、スタンガン機能を内蔵したナイフなのでしたー!正直、使ったらやりすぎちゃうし使いどころないなーと思ってたんだけどさ。君ならナイフが刺さっても問題ないから試し得だと思ったんだよね」
「はぁ……はぁ……」
「結果は成功、電流も効くと分かったし君に対しては良い武器かなって感じだね──まあ、普通の人よりは電流に対して耐性があるみたいだけどさ」
融合しているスライムの機械の要素の部分がなんとかしてくれたのか、いつの間にか背中のナイフは火常から外れていた。
倒れた身体を起こし上げ、もう一度有栖川を見つめる。その手にあるのは複数のナイフ。恐らく全てスタンガン機能もあるのだろう。一回刺される分には耐えられるが、行動は制限される。そのうちに、向こうは同時に複数刺されると考えれば一回刺されるのすらも問題だ。
今の自分なら目で見てからも投げられたナイフは避けられる──だが、先程の後ろから刺さってきたナイフはなんなのか。そのタネが分からなければ、今度こそ何もできずに負ける──と、そこまで考えて、火常は部屋の後ろに下がって、背中を壁に当てた。
「なるほど、後ろの空間をなくして私に奇襲はさせないってことかな?でも、私じゃなくて部屋に仕掛けがある可能性だってあるのに、それだけで大丈夫かなー?」
「大丈夫だよ。この部屋のナイフの総数は増えてないからさ」
「……へー、案外見るものは見てるんだね。感心しちゃうなー」
それは壁際まで後ろに下がったからこそ見えた事実。床に落ちているナイフは二本だけだった。当然それは最初に腕に刺さった一本目。そして、次に投げられた二本目。
仮に部屋にナイフを飛ばす仕掛けがあるとすれば、後ろから飛んでくるのは三本目のナイフがあるということになってしまう。だからこそ、部屋そのものには仕掛けがないと火常は考えたのだった。
「でも、私の手口がバレたって訳じゃないし……先程とは違って、君は壁に追い込まれてる。機転は誉めるけど、別にピンチから脱却した訳じゃない。むしろ、別のピンチに陥っただけだと私は思うよ」
「でも、さっきみたいに何も分からず刺されるってことはない。言っておくけど、僕は橘がナイフを投げたのを確認してから避けられる。ナイフを何本持ってるかは知らないけど、全部当たらないと思うよ」
「挑戦状って訳だ。じゃあ、試させて貰おうかなー」
その言葉と共に投げられる一本のナイフ。火常は当然のようにそれを避ける。ただ、それを予測していたかのように避けた先にもナイフが投げられていて──火常は見事にそれも避けきって見せた。
今度は、また一本のナイフとは別に避ける先を潰す様に三本のナイフが投げられ、火常はそれもその隙間を拭うように避けて行く。
そこで、有栖川はナイフを投げるのを止めた。
「うーん、凄い身体能力だね。御兄様が見ていたら大興奮間違い無しだよ」
「余裕そうだね。ナイフ以外は何も用意していないんでしょ?さっきのでもう通用しないってのは分かって貰えた筈だけど」
「そうだねー、この場所から投げるだけじゃあ通用しなさそうだよ。でもさ、距離を縮めたらどうなるかな?」
「……僕の身体能力の高さは知ってるよね。扉から離れて、僕が逃げると考えられないかな?」
「扉の反対側に居る君が、迫ってくる私とその私が投げるナイフを躱して扉まで走り抜ける……流石にそれは希望的観測ってやつだよ」
その言葉を火常は否定することはできなかった。正確に言えば、近づいてくる有栖川を躱す策はある。だが、投げられるナイフの方がこの策だと避けられるか分からない。
それでも、その策で行くしかなかった。高い身体能力があるとは言え、火常は喧嘩なんてしたことはない。だから、向こうが近づいて来たところを狙って近接戦に持ち込んだとしても、カウンターでナイフを刺されて終了なんてことが目に見えている。
だから、火常は待つ。有栖川が一定の距離まで近づいてくるのを。策が成功する可能性にかけて、ただその時を待つ。
一歩、二歩、三歩。あと二歩近づい来た時に動く──と、覚悟を決めた火常だったが、有栖川はそこで歩みを止めた。
「君、何か企んでるのがバレバレだよー」
「……だからなにかな?この距離でも僕は避けられ──」
そこから先の言葉は出なかった。今度は火常の足の背中に激痛が走る。そして、同時に電流が流れて再び火常の身体は地面へと倒れ込んだ。
油断していたつもりはない。壁を背にしているから後ろからの攻撃が来る筈もない。けれど、現実は自分が後ろから攻撃が来たことを示していた。
「何か作戦を立てるのは良いけど、周りへの注意が散漫になってるようじゃまだまだだね」
「……糸、だね」
「おっ、気づいたんだ。まあ、もう手遅れだけどさ」
倒れた時に見えた後ろにナイフは一本も落ちていなかった。本来ならば、
つまりは、今自分の身体に刺さっているナイフは壁に刺さっていた物ということ。そのナイフを遠隔で操れる方法があるとすれば、ナイフと橘は糸で結ばれているとしか考えられない。
実際に火常に刺さっているナイフからは、うっすらと非常に細い糸のような物が有栖川まで伸びていた。
「一本抜こうが、別のナイフで電流を流してそのうちにもう一本刺すだけだからあんまり抵抗はしない方が良いよ?私としても、弱いものいじめは嫌だからねー」
「……どうやったの?」
「どうやったって?」
「ナイフのことだよ。糸で結ばれているからって、自由自在に動かせる訳じゃないでしょ?だったら、他にもタネがある筈」
「タネかー……うん、ちょっとしたのならあるよ。掃除機って、コードを一瞬で巻けるでしょ?あれの強化版みたいなのがあるねー」
「それだけじゃ──」
「できるよ。別に未来の技術がなくたってさ、発想と努力さえあればなんとでもね……まあ、これの場合腐る所だったんだけど」
そんな言葉に火常は言葉を失った。どんな発想をすればそんな物を作れるのかと思った──点ではない。どこまで努力を積み重ねればそんなことができるのかと考えてしまった──という点ではない。
ただ、一つの言葉が聞き逃せなかったのだ。
「
「あれ?今更惚けるのかなー?そんな不思議な身体をしておいて、何も知らないなんて言わせないけどねー」
未来の技術。一部ではあるが、それを火常は知っている。エーのことは勿論、ゲタ助から説明を受けたエーの機能。そして、詳細は不明とは言え単なるハゲタカであるゲタ助を人の言語を喋り、道具も使えるように調教した技術。それらを火常が知っているのは当然のことだ。
ならば、
ならば、火常の身体の研究結果を見て、現代の技術では不可能だから未来の技術だと考えた。勿論、それはあり得ない話ではない。けれど、ここまで核心めいて発言するだろうか。
「未来からやって来た御兄様を殺そうとしている不届き者、そんなのを私が見逃すと思う?」
そこで、全ての謎は解けた。
ゲタ助はこの有栖川の兄も自分と同じく三人の未来人に命を狙われていると言っていた。そして、同じく命を狙われている自分は既に二人からの襲撃を受けている。では、残り一人が有栖川の兄の命を狙いに行って、そこでゲタ助よりも有栖川が気づいて始末したとしてもなにもおかしくはない。強いて言うなら、ゲタ助よりも先に存在に気づいて倒した有栖川がおかしい。
ならば、誤解を解くだけである。自分は君の兄の命を狙う不届き者ではなく、同じく命を狙われているというか一度殺された仲間だと。そう説明すれば有栖川も納得する──と火常が考えた所で、有栖川が口を開く。
「正直、君は怪しいけど襲撃者かって言われると微妙な所だったんだよね。明らかに身体に現代の技術ではないものが使われてるけど、バラバラになってた理由が分からないし。確かにバラバラになっても生きていたら、御兄様の気は惹くだろうけどもっと方法はあるだろうしさ。実際に君と話してみても何も知らない被害者って感じだったし」
「そうだね。だって僕は──」
「けどさ、何も知らない被害者ならこの家に居座ったりはしないよね」
「……え?」
「閉じ込められたままなら怪しくなかった。抜け出したとしても家の外に逃げたなら、御兄様の命を狙う不届き者とは関係ないと安心できた。けどさ、
それは火常からすれば誤解だった。火常がこの家に居座ったのは有栖川の兄を狙う未来人に要があるからで、有栖川の兄自体には要はない。けれど、そんなことを言った所で有栖川が信じる筈もない。
何しろ、誤解だと分かっている筈の火常でさえ、一瞬有栖川の推測に納得しかけてしまっていたのだから。
そもそも、有栖川が会話に応じてくれているのは自身の勝ちを確信しているからであり、その確信通り火常がなにをやった所で今の状況を打破はできない。そんな火常が本当のことを伝えようとしても、適当な言い訳だと思われるだろう。
このまま自分は連れられて、意味のない拷問を受けるのだろうか──と、火常が考えた時だった。突然、有栖川の身体が横に吹き飛ぶ。
「えっ?」
「何呆けてるんだバカ!さっさとそのナイフを全部外せ!」
「あっ、えっと、うん」
言われるがままにナイフを全て外し、自由の身となる。あまりにも突拍子のない出来事に火常の思考は止まっていたが、数秒程度でなんとか持ち直した。
「あれ、ゲタ助?剥製のフリして御茶を濁してた筈じゃあ……」
「状況を窺ってたと言え!状況を窺ってたとな!正直、お前の戦闘の訓練になると思って見守ってた所はあるがな、本当にヤバそうになってたから助けに来たって所だ」
「ゲタ助……!」
「それよりさっさとまた移動するぞ!別に気絶させた訳じゃあねぇんだ!」
「了解!」
ゲタ助を殴りたい相手リストから減らしつつ、言われた通りに扉へと一直線に走り出す。今や、扉の前には誰も居ない。容易に逃げられるだろう──と、そこでフラグが立ったのか。最早、何度目か分からない激痛が火常の足に走った。そして、電流のコンボでまたもや身体が倒れてしまう。
「少しは考えようよ、私が扉付近に何も置いていないと思う?」
「……用意周到だなあんた」
「敵とは言え、誉められるのは嬉しいねー。でも、ハゲタカが相手だなんて動物愛護団体に訴えられたりしないかなー?」
「安心しろ、どうせ怪我一つしねぇからな」
「へー、言うねぇ」
「……僕の預かり知らぬ所で煽り合うの止めてくれない?」
最初の時とは違い、扉は火常のすぐ後ろ。けれど、そこから出るのを素直に見逃してくれる筈もない。だが、隙を作り出せれば可能性はある。
ナイフを外し、どう動くか考え始めた所で──
「ねぇ、橘。お客様と話してる所悪いけど、少し聞きたいことがあるんだ……良いかな?」
「御兄様が何故ここに……!?」
現れたのは、火常と同じく未来人に命を狙われている、有栖川の兄だった。