【完結】EVERYDAYLIFE・《それっぽい文章》・STRAlGHTEN   作:王者スライム

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第九話 《中身のない不思議なだけのタイトル》

 時間は有栖川が女を倒した頃──火常は未だに白い館を駆け抜けていた。

 有栖川の兄が狙われている現在。本来ならば一刻も早くその側に行き戦わなければならないのだが何故火常は今なお一人なのか。その理由は単純で──

 

「くっ……リビングってどこだったっけ……!?」

 

──そう、純粋に迷子になっていた。

 

無駄に広い館、代わり映えのしない廊下、そして大量のダミー部屋──そんなちゃんと道を覚えようとしなければすぐにでも迷子になりそうな家。

 案内に着いていくばかりで道を覚えることなどすっかり意識から抜けていた火常に道など分かる筈もなく、既にリビングから庭まで行く際に使ってもいない階段を五回は通っている。同じ道も三回程度通ったのだが、それに気づく様子も一切なかった。

 

「確かダミー部屋は泥棒対策で作られたって言ってたよね……じゃあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 実際はそんなことはなくただ火常が迷子になっているだけなのだが、何にせよこのまま合流できないというのは不味い。

 本当に有栖川の兄も狙われているのならもう既に襲われている筈だ。いくらゲタ助がいるとはいえ、火常とエーを瞬殺した兵器を持つあの男にどこまで戦えるのかだって分からない。

 だから、手遅れになる前に合流しなければならないのだが──有栖川と早期に別れた意味がなくなっているのが今の現状だ。

 どれがダミー部屋かは開ければすぐにでも分かるのだから、手当たり次第やるべきか──と火常がそこまで考えた時だった。

()()()()、と火常の後方から大きな音が鳴り響いた。

 火常はその音で足を止めてゆっくりと振り返る。そこにはダミー部屋の扉が外れ壁へとめり込んでいた。そして扉があった筈の場所から人の影が現れる。

 

「あー、手当たり次第探そうかなんて思った訳だけど、いちいちオートロックがかかるなら話が変わってくるなぁ……やれやれ、果たしてどこに逃げたのやら」

 

 それは一人の男だった。

 相変わらずどこにでもいそうな普通の男。未来人なんて言われてもあまり信じられない──一度殺された相手だと分かっていても、ついそんなことを思ってしまう。

 けれど、その男は火常にとって因縁の深い相手だ。名前など知らなくても、どんな性格なのかも知らなくとも、それは確か。

 簡単にメンバーが増減している殴りたい相手リストに初めて入れた相手──それが目の前にいる男なのだ。

 

「あれ?あのやけに強い妹と兄とあの鳥以外に人が──」

 

 火常の次の行動は早かった。全速力でその男へと駆け寄り、躊躇いなく右拳をその男の顔に向かって振るう。

 突然の奇襲に加え、エーと融合した火常の異様な身体能力。仮に防御が間に合ったとしても、その防御ごと容赦なく顔をぶん殴れる──その筈だった。

 

「えっ?」

「驚いている所悪いけど、驚きたいのは俺の方なんだよね。君の拳、強すぎるよ。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……着ているようには見えないのに」

「……じゃあ、その拳を止めたあんたのその力はどこから来てるのかな」

「それこそ答えるまでもないんじゃないかな?()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 男は火常の右拳を左手で押さえ込んだまま、話を続ける。

 

《やけに機械的な名称》《機械的なルビ》。オーダーメイド品でね、この世に一つしかない俺専用の物さ。まあ、今の人気はスライム型のパワードスーツに寄っているが……こういうのが便利なことも多くてね」

「へー、やけに色々教えてくれるんだね」

「警戒に値しないからね。俺と同じく未来から来たのかそれとも彼の力でも借りた現代人かは知らないけど、ハッキリ言って君はたいしたことないよ。身体能力が高いだけで使いこなせていない。なんせ、奇襲をしたのに俺に攻撃を防がれているんだからね」

「そっかそっか……うん、やっぱりムカつくねあんた。一発殴らなきゃ気が済まない」

「やれるだけやってみたらいいよ。所で君は本当に誰なのか──」

 

 それは男にとっても予想外だっただろう。火常が右拳を勢い良く後ろに振り戻した際に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 今の火常の身体はスライムの性質もある。それを使えば、掴んできた手をそのまま引っ付けることなど造作もない。

 そして、身体のバランスが崩れ火常の方に倒れ込む男のがら空きな顔面へと、今度こそはと容赦ない左拳でぶん殴った。

 

「がっっっ──!!」

「いやぁ、思ってたよりスッキリするね。もう一発殴ってもいいかな」

「……スライム型のパワードスーツ?いや、着てはいない。だが今の感触は間違いなくスライムのもの。なら、体内に仕込んでいるとかか?あり得なくはないが──」

「よしっ、もう一発!!」

 

 吹き飛んだ後、立ち上がり何か考え事をしているのかぶつぶつ呟いている男に対して火常は再び右拳を振るう。しかし、男はその拳をしゃがんで躱し、下から火常の身体をぶん殴った。

 

「ちっ、不意打ちして一発当てて調子に乗ったのか?まあ、警戒はしてあげようかな。でも、それだけでやっぱり君は強くない」

「いたたた……」

「見た感じお嬢様って感じだしね。喧嘩もしたことないんじゃない?身体能力が高くたって、俺とは五分五分。なら、軍配があがるのは俺の方じゃないかな」

「まあ、うん。今のは調子に乗ってたかもね。何も考えずに戦った所であんたには勝てそうにない」

「訂正しなよ、多少考えた所で俺には勝てっこないんだから」

「はっ、言ってな──よっ!?」

 

 男の右手にいつの間にか握られていた拳銃から弾が飛び出す。当然、急なことであっても火常の目はしっかりとそれを捉える。すぐさま身体を動かし避けようとして──()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……えっ?」

 

 そして、火常から溢れた声は銃弾が身体に当たった痛みではなく、銃弾を避けきれなかったことへの疑問だった。

 その声を聞いて、なんてことはないように男は喋り出す。

 

「そんなに避けられなかったことが不思議かな?一応言っておくけど、見てから避けられる程こいつの弾速は遅くないよ」

 

 例えば女の武器、《やけに可愛い名称》《可愛いルビ》。所詮あれは凄い性能を持つモデルガン。更に弾に改良が加えられているので弾速が遅くなっている代物。だから、一定の距離を保ちさえすれば見てからでも当然のように避けられた。

 例えば、有栖川の投げナイフ。異様に洗練された技術を持つ有栖川の投げるナイフは確かに速い。けれど、結局は人が投げているだけあって、速度は先程の《やけに可愛い名称》《可愛いルビ》の弾速より少し速い程度。これもまた距離を保ちさえすれば見てからでも避けられた。

 だから、火常はどこか勘違いしていたのかもしれない。確かに火常の身体は異常だ。人としては異様な身体能力があるし、先程抉り取られた傷も既に治っている。けれど、それだけ。

 今の火常の全速力は高速道路を走る車よりは速くとも、ジェット機と比べてしまえば明らかに遅いだろう。今の火常なら四肢を失ったぐらいなら徐々に再生して取り戻せるが、首から下を失えば少なくとも再生は間に合わない。

 要はそういう事、何事にも限界はある。何しろ、今の火常は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のようなものなのだから。

 

「拳銃……未来から持ち込んだとか……?」

「そうした方が早いがね、未来でも日本は銃大国にはなってないよ。これはここに来てから手に入れた」

「まさか、警察から奪ったの!?」

「本当にまさかだね。わざわざそんな手のつくことはしないよ。これは単に作っただけだ。銃なんて知識さえあれば、不格好でも日常的に買える物で作れる物だからね……で、そこに未来の知識を加えればどうなる?」

「……えっ?」

「別に未来だからって未来の道具は未来にしかない材料で造られてる訳じゃない。新しく見つかった未来の製法だとかそれまで知られてなかった化学反応だとか、そもそも未来にしかない材料だって、その材料の材料は過去にあったりするものさ。じゃあ、クイズと行こうか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 その言葉に火常はただ唖然とした。

 最初に倒した女でさえ、使っていたのは当たれば命を失う程の武器だった。

 初めて男に会った時に、使われた道具は盾になろうとしたエーもその後ろにいた火常もバラバラになる程の殺傷能力を持つ武器だった。

 今さっき男が使ってきた道具は殺傷能力は急所に当たりさえしなければたいしたことはないものの、見てからは避けられない程の弾速があった。

 どれも恐ろしく躊躇いなく使われてきた未来の道具。更にそれらは未来から持ってくるだけでなく、現地にあるもので作れてしまう物ときた。

 そこで投げかけられた問題とは別に火常の頭に一つの疑問が浮かぶ。果たして、自分のはそんな相手に勝つことができるのか──と。

 暫くの逡巡、火常はなんとか一つの言葉を絞り出した。

 

「……知らないよ」

「ん?」

「知らない、って言ったんだ。あんたがどれだけ未来の道具を持っていようが、それにたいして僕の勝率とやらがどれだけ低かろうが知ったこっちゃない!!ただ僕はあんたが倒れるまであんたを殴るって決めたんだよ!!」

 

 それは答えというよりは開き直りに近いものかもしれない。問題に対しては何も解決していない、その上解決の手段も方法も見えていないときた。それはもう単なる意地っ張りで意味のない物といっても差し支えはないのかもしれない。

 けれど、だ。火常は立ち向かった。開き直りだろうが、無謀だろうが、意地っ張りだろうが──それでも立ち向かった。果たしてそれに、誰が()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……本来なら君は殺さなくてもいいんだけどね。けど、ここまで邪魔すると言い張ってくる君をボコボコにぶちのめすだけで見逃すのも癪だね。うん、さっさと殺させて貰おう」

「言っておくけど勝つのは僕だよ」

「勝手に言っておきな、それが遺言だ」

 

 それを皮切りに火常と男は同時に動き出す。火常は男から少し距離を取って、男は次々に未来の道具を取り出して火常へと近づいて。次の瞬間には数々の未来の道具が火常へと襲いかかった。

 右からは《優しそうな名称》《優しそうなルビ》が、左からは《恐ろしげな名称》《恐ろしげなルビ》が、上からは《朧気なな名称》《朧気なルビ》が、下からは《語呂が良さげな名称》《語呂がよさげなルビ》が、真正面からは《めちゃくちゃ長い名称》《めちゃくちゃ長いなルビ》《笑ってしまうような名称》《笑ってしまうようなルビ》《カッコよさげ名称》《カッコよさげなルビ》が、少し離れた所から《短い名称》《短いルビ》《ハチャメチャな名称》《ハチャメチャなルビ》が、避ける方向へと《意味をなさなそうな名称》《意味をなさなそうなルビ》が、そしてもしもの反撃から男を守るように《神妙な名称》《神妙なルビ》が、そして更に──

 

「どうしたのかな?勝つんだろう?少しは反撃の一つや二つ、してみたらどうなんだい?」

 

 それに対して火常は防戦一方。次々に迫る未来からの攻撃を避け続けるだけ──いや、実際の所は避けきれてさえいない。あからさまに当たれば死んでしまいそうな攻撃だけは確実に避け、当たっても大丈夫そうな攻撃は二の次にする。

 そうすることで、声を出す余裕すら無くとも攻撃のさなか、今なお耐え続けることに成功していた。しかし、少しずつ、そして着実に火常の身体に傷が増えていく。再生能力は間に合わず、傷から動作が鈍っており当たる筈もなかった攻撃にも当たり始めている。

 光明など見えなかった。それでもなんとか見つけなくてはいけなかった。避けることに集中し続け、なんとか頭脳をフル回転さえ、解決策を見つけ出そうとしたその時──確実に避けなくてはいけない《笑ってしまうような名称》《笑ってしまうようなルビ》が首元までやってきていた。

 

(あっ、死ぬ)

 

 結局何も思いつかず、火常がその現実を受け入れようとした──その時だった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ!?」

 

 複数のナイフはいくつの未来の道具を弾き返すだけでなく、男の元にも向かう。当然それは《神妙な名称》《神妙なルビ》によって防がれたが、男は少し後ろへと後退する事になった。

 猶予ができたのに、何がなんだか分からないと再び唖然としている火常。そんな後ろから一つ声がした。

 

「いやぁ、大ピンチだねー。最初に御兄様が狙われていた時には間に合ってなかったらしいしざまぁ無いけど……そのあとは良い仕事をしてたみたいだねー、ぐっちょぶぐっちょぶ」

 

 その声のする方を振り向けば、そこに居たのはすべき事を終えて最後の敵を倒しにやってきた有栖川の姿だった。

 

 

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