こちらは本編前日譚です。そして前作『城兵として召喚されたんだが俺はもう駄目かもしれない』を読んだ方向けの話が多いです。
※よく分かる前作あらすじ=『キャメロット城の兵士フスカル・ローナルドは周りにもう味方いないけど城兵なので戦って死んだ』
この前日譚は刑部姫に召喚されたオリキャラのパンプキンヘッド粛正騎士が、なんやかんやする感じの物になります。よく分からない方は本編へどうぞ。
第1話 酒を呑む城兵
息を吸う。空気が旨い。その後ろ。
一句出来ちゃったじゃねえかとかは思ってないよ?
「――ぁぁぁああああぁぁぁあああア!!?!?!?!何コイツちょおっと姫(わたし)の事なめてるのかなあ!?それとも凄くなめてるのかなあ!?!」
「・・・」
まただよ(笑) 俺は苦笑いを盛大に浮かべながら思った。
「ねえちょっと。ちょっとってばちょっとッ!!!」
「・・・はい。何でしょうかマスター」
ドアを開ける。被り物に手を当てる。
そこにはマスターと、座布団に放り投げたコントローラーが見えた。
「これ」
「え?何ですこれ?」
「コイツ倒して」
「倒してって・・・・」
この部屋に誰も近付かせるな。ドアの前に立って動くものは全てぶっ倒せ。それが今世における俺の主の初命令だった。
それを分かりましたと頷いた俺も俺だが、そんな事言っといて倒せないゲームのボスをぶっ倒せだなんてどの口が言うんだろうか?
「しかもその台詞昨日も聞きましたよ。なんでしたっけ?ハイデ騎士に勝てないぃ~とかでしたっけ。今回は何ですか?」
「この刑吏のチャリオットとかいうヤツ!このボスすっごくストレス溜まるんだよおお!これじゃあ進捗があああぁ!」
「ならそんなのやらなければいいのに・・・」
「そんなのとか言わない!!これは試練なの!」
「試練?」
マスターは時より医学的に言うとイっちゃってる瞳でゲームをプレイしている。ピコピコ音がするディスプレイには黄昏色の太陽と押し寄せる波が美しく、儚いBGMも完備な素敵ステージが。・・・童心を思い出すから止めてほしい。
「ってちょっと何拠点に戻ってるんですか。はやくさっきのステージにワープして下さいよやってあげますから」
「ここに帰って、私はみどたんに誓うの…。次は勝つ次は勝つ、諦めない諦めない。ずっと、私の希望が尽きるまで。マデューラは私の故郷だから……」
「アンタの故郷はここだろおっきー」
「おっきー言うなあっ!!」
おっとツッコんでしまった。
「よし、じゃあやりますよ。コントローラー貸して下さい」
「勝てるの?コイツに。ていうかこのギミックに」
「勝てない敵なんていませんよ。そして俺に勝てるのはあの人だけなんで」
「なにそれ怖い。ていうか何言ってんの?」
「やってやんよおお!」
・・・・・。
・・・・・。
「勝てませんでしたすみません」
「えぇぇ…?」
10回ほどひき殺されて、ていうか3回ほど道中の橋から落ちて死んだ。
「こんなイカすBGM流すのが卑怯なんですよ!聞き惚れちゃいます聞き惚れちゃいます」
「は~あほくさ。そんなんじゃルドウイークとか倒せないよ?城兵の名が泣くよ?」
「あ、もうこんな時間。では気分転換も出来た事と存じますので、俺は扉の前で暇をつぶす任務に戻りますね」
「ちょっとちょおっとお!!?!」
元気が戻ったマスターの叫びを無視しながら扉をそっと閉め、立てかけていた自分の槍を取る。これで彼女はしばらくは大丈夫だろう。そんな感じで、生前も含め今も使っている槍を手に持ち、今日も今日とて俺は此処に立つのであった。
「・・・・何で英霊なんだろうなあ」
くるくる回す。からから鳴る槍に尋ねる。
俺は別に何か凄い事をしたわけでも、偉業を成し遂げたわけでもない。ただ城を護ろうと約束を果たそうとして、全部出来なくて死んだだけなのに。
・・・まして誰かに信仰だの何だのなんて、されるわけないのに。
「・・・・。ま、いっか」
「何を独り喋っているの?フスカル」
考えても分からない時は、お茶を濁す。閃きの為に。と思いきや不意に先輩が話し掛けてきた。
「いえ、すいませんメカエリチャン先輩。
何で自分は英霊に?なんて、詮無きことを考えていました」
「あらそう。でも私だって英霊でありサーヴァントよ。こんなメカでもね」
「ええ、だからですよ。これは深く考えてはいけない系の奴だなと。つまり詮無きことだと一人ごちてしまいました」
「言うわね、ミスターパンプキン。そんな後輩に私から一杯おごってあげるわ。ちょっと付き合いなさいな」
「いいんですか?ありがとうございます」
あのぐうたら姫ならほっといて大丈夫よ。と言われ、共に歩き出す。うぎゃああ!と案の定マスターは叫んでいるが、平常運転なのでスルーした。
「はい。どうぞ」
「頂きます」
差し出されたのは葡萄酒(ワイン)と呼ばれるお酒だった。綺麗な赤色、匂いは・・・生前では嗅いだ事もない優雅な香り。俺は先輩にも注いで、共にそれを飲み干した。
「!美味しいですね」
「でしょう?この辺りで採れた葡萄を使っているの。地酒って奴よ」
「う~ん、いい酒ですね。久々に美味い物を飲んだ心地がします」
「へえ?生前は余りお酒は嗜まなかったのかしら?」
「そうですね。独りで飲む酒ほど美味くないものもありませんでしたし。でも誰かと飲むと、酒はこんなにも美味い」
「友人と飲んでいたのかしら? あの頃は」
「ええ。と言っても、相手は私が勤めていた城の保安長。そして私は只の一兵卒。しかし共に駆け抜けた日々を思うと、一緒に飲む酒はいつも美味かったものです」
「友じゃない。それ」
「友であったと、彼が思ってくれるなら」
「ちょっとちょっと何話してるの~?お酒飲んでないで早く手伝って~~~!!」
「なまぐさ姫が何か言ってらっしゃるわよ?フスカル」
「ええ。少し見てきます」
飲み干すワインはあの日のエールやミードのようにとても美味しく。でも何かが足りない。そんな気がするのだった。