英霊城兵六番勝負   作:ブロx

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 第一部アーチャー・ハドマ
第五話 Guns&Reloads その1


 

 

薬莢を装填する前に、射手は標的を見詰めていた。

 

 

 まだこちらには気付いていない敵を遥か先に、レッツブリッツ(開戦)と同時にこの水弾を撃ち込み、叩く。潰す。すなわち勝利を我が物にする。その時を待つ。

 

全ての勝利を我らに。それが彼に与えられた任務である。

 

 ・・・息を吸う。遊底(ボルト)を開く。弾薬を装填、ボルトを押し戻す。閉じる。

 撃針(ニードル)が標的を狙わせろと、敵を見詰めさせろと手の中で唸る。言葉要らずな相棒のトリガーに示指が掛かり、後は合図を待つだけだ。

 

 樹上からの景色は狙撃手である彼にとってこの上ない狙撃ポイントである。・・・待つ事は得意だろうと、仲間達に言われるがままそこで彼はずっと待っている。この遊びが終わるその時を。そして勝利の二文字、その価値を。銃口はまだ、下げたままで。

 

『レッツ――!』

 

 ――来た。合図だ。それが完全に終わるまで、銃口を前に向けてはならない。ルールという名の刹那の先を予測した彼の指に力が込められていき・・・、

 

込められていき―――。

 

・・・・・。

 

「フライングだ馬鹿!!!!」

 

 ルール違反は厳罰。そう骨身に沁みているのが祟ったと、彼は思って。未発の水鉄砲を抱えて狙撃手は、見知らぬ女に駆け寄っていった。

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

「砂………浜?」

 

「なぁにこれぇ…」

 

『先輩、刑部姫さん。こちらのセンサーでも砂浜と海、そして波音を確認しました。確かにそこは浜辺です』

 

潮の匂いと暑い陽射し。見渡す限りの夏の空気が立香を包んでいた。

 

「…城の中なのに?」

 

『……はい。ですが今は、非常識の中に居るという認識が必要かと…』

 

「認識どころか慣れと諦めが必要だよ……。ここは一体、」

 

『立香。まずは周囲を探るのよ。扉を開けたらビーチだなんて、何か意味が有ってしかるべきだわ』

 

 所長が努めて理性的な声を出すが、理性でもってこの現実を直視し理解する事は少々、いやかなり難題だ。

 

「マーちゃん、い、一応わたしは周囲を偵察してくるね。情報収集な感じで」

 

「…お願い!!」

 

 立香は足を踏み出して言った。周囲に眼をやり、敵影等を探しながら歩くこと約五分。波打ち際では太陽がサンサンと輝いて陽光恨めし。こんにゃろ服脱いでやろうかなんて、思い始めてきたその時だ。

 

「―――ん?」

 

 コロンと足先に何かが落ちている。見下ろせば、そこにはおもちゃがあった。

 

「何これ、水鉄砲…?」

 

『一般的なハンドガンタイプの物ですね。キャップを開けて銃床(ストック)内に水を貯め、トリッガーを引くと水が出るようです。解析によると……、魔術的な要素及び罠はありません』

 

 ジッと見つめる。砂粒と水滴を模様にしたウォーターガンのグリップは、すっぽりと右手に納まった。手首を回すと、照門と照星がこれ見よがしに立香の瞳に映る。

 

「懐かしいな~、小っちゃい頃はよく撃ち合いしてたっけ。…兄さんと」

 

『先輩………』

 

『立香。分かっているでしょうけど、彼とエリザベートを助ける事が出来るのは貴女だけよ』

 

 ――当然。力強く頷く。大事なのは間合い、そして退かぬ心だから。

 

「勿論。それはすこぶる了解ですよっ、と」

 

 しゃがんで水鉄砲を海水に浸けながら、立香は再び誓いを立てる。水面に映る自分の顔、それは決意の灯火に見えた。

 ――絶対に助けるぞ。そうでなきゃ、自分が自分でなくなるから。

 

そしてプクプクと湧き立つ気泡がついに消え、重くなった水鉄砲を構えてみる。

 

「エリちゃんも兄さんも救出して、全員無事でこの城を出るんだ」

 

 そう言って、真っ直ぐ銃口を前に向ける。その時不意に、立香は寒気がした。

 

「? 鳥肌?」

 

 それは人理焼却阻止という濃密な経験から来る物で。正に何かに狙われているという危機感に他ならなかった。

 

「馬鹿伏せろッッ!!!!」

 

「え………、?」

 

 バカとは何だ。と言う前に即座にしゃがむと、今までこの顔があった場所に流水が迸っていた。

 この『迸っていた』というのは、勢い良くという意味だが何もこんなまるで銃弾みたいに頭上を走り抜ける事ないじゃないかと立香は何故か冷静に思って。

 

自身の手を引く誰かを、只見詰めて叫んでいた。

 

「だ、誰……!?」

 

「いいから走れ!!!」

 

「だからあなた誰!?!」

 

「ぶっ倒されて全てエリになりたくなかったら走れ!!お前は銃口を向けちまったんだからな!!!」

 

「え?コレ?」

 

「バカよせ!」

 

・・・手遅れであった。

 

「―――水上ポリス、参上です」

 

 それはまるで星の様に。華麗に、あまりにも華麗に風雅に優雅に玲瓏に。私は楽しい、と全身で伝えていた。

 

「ようこそ私の世界へ。具体的に言うと第二回ウォーターブリッツ、その大会会場へ」

 

「貴女は…、セイバー!?」

 

「よくご存知だ。と言いたい所ですが、違います。私は弓王のアルトリア。ウォーターブリッツ世界王者(ワールドチャンピオン)です。

 しかしてそして、貴女にはさようならを言わなくてはなりません」

 

『水着霊基!…いえ、アーチャー霊基のアルトリアさんです!先輩っ』

 

 陽光を照り返す黒ジャージを羽織った水着姿のサーヴァントは、カルデアで見慣れたセイバーの彼女とは違って朗らか眩しく笑顔で。

 ビーチと夏を満喫、いや豪遊しているブリテン王・アルトリアは、右手に握る水鉄砲(エクスブリッツ)を立香に向けていた。

 

「貴女、私に銃口を向けましたね?先程」

 

「な、何のこと!?」

 

「この世界で銃口を前に向けるという事はすなわち宣戦、私を撃ち負かすという事。そういう風になっています」

 

「そんな……!聞いてない!!」

 

嘘偽りない言葉が弓王に向かう。しかし彼女は笑ってかき消した。

 

「初心者(ニュービー)狩りに精を出す程私は暇ではありませんが、ルールですので。手早く退場をおススメします。何故なら今日も今日とて、私には遊び相手がいるのですから」

 

 向けられる微笑みと銃口から水弾が飛び出そうとするその前に。立香の前に刑部姫が庇う様に現れた。

 

「マーちゃんごめん!!無理かも!」

 

終わりか、いやまだか。立香は眼を閉じず諦めず只見詰めていた。

 

「―――レッツブリッツ!!!」

 

 凡そ水の発射音ではないだろう火薬の炸裂音が連続する。立香の耳がそれを感知すると同時、アルトリアは既に眼を向き直していた。

 

 轟音の発生源である銃弾が、この世界の王者に向かう。それを彼女は華麗に前宙し偶には後方宙返りし、躱していった。

 

「銃弾!?」

 

『いや違う!解析によると、アレは水だ!スゴい!!一体どうやってあんなにも速く水を?―――そうか、火薬で水を飛ばしているのかって何その矛盾――!』

 

「今の内に逃げるぞお前!ここは戦場になる!!エリになりたくないだろ?!」

 

「わ、分かった!」(エリってなんだよ)

 

 ツッコミたい事を何とか抑えて走る。弓王はそれを見ながら、やはり不敵に笑って、満を持して高らかに宣言した。

 

「幸運なるニュービー!!また会いましょう!

そしてもしも貴女がこの城、ピラミッドエリアへと昇りたいのならばこの世界で私を撃ち負かすしかありません!

 私は英霊城兵、アーチャー・ハドマ!!『一切豪遊』の宿業の名の下、この世界、我が特異点!見事全て適応し打ち勝って見せなさい!!

 最上の遊び、楽しんで頂ければこれ幸い。無量大数、一切合切は遊びの天涯!!さあ始めましょう!―――一切豪遊!!!」

 

 英霊城兵の初お披露目。その見惚れる程に容赦も苦悩もない遊び心と姿に、立香は戦慄し続けていた。

 

 

 

 

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