英霊城兵六番勝負   作:ブロx

16 / 38
前装も好きです。





第八話 Guns&Reloads その4

 

巻き戻る。早戻る。楽しい時を、もう一度味わう為に。

 

「―――いいのですか?これではみすみすあの者達を見逃すようなもの。さっさと捕らえてしまえば楽でしょうに」

 

「駄目よ」

 

強い否定の声に、ハドマは目を細めた。

 

「駄目。とは?」

 

「まだ足りない。彼女達を上階へ招く必要がある」

 

まるでメカのような硬い音声。それを弄ぶように、会話を続ける。

 

「なんとまあ私に負けろと言っているのですか?チャンプである私に?」

 

「まさか。これは命令でも指示でもない。時間はまだまだたっぷり造れるでしょう?楽しみ尽くしたら寄こしなさい」

 

「成る程、しかし私は彼女達を敬愛してしまいました。敵同士で見えた事はまだ一度ですが、されど一度目。これからもっと楽しみが増える事になると思うと、武者震いが止まりません」

 

「では一切豪遊の名の下に。恥じることなく堪能なさい。皆そうしているわ、英霊城兵大将ハドマ」

 

「了解。英霊城兵大将フフバ。万万一私が飽きるか彼女らが勝てば上階に通しますよ。それまでは何度でも、繰り返し遊ぶだけです」

 

水音が鳴る。スプラッシュが響く。遊びはまだまだこれからである。

 

 

 

 

 

 

『信じられない。まさかこんな事が』

 

通信機からの声が、立香に現実を伝えていた。

 

「………」

 

『先輩。そちらの特異点内における時間が戻っています。そしてこの場所…』

 

――時間遡行です。その意味が、立香にはよく分からなかった。

 

「……」

 

『特異点内だからといっても時間遡行が行えるなんてありえません、ダ・ヴィンチちゃん』

 

『第一に理由が分からない。こちらが勝つではなく、負けて悪い理由が、英霊城兵にあるとは思えない。―――いや、もしや?』

 

『それが目的ってわけかもね。ヤツの。……私達が勝てるまで遊びを楽しむ』

 

「――何度でも」

 

 自分に言い聞かせるように、立香は声を出した。対面するパースエイは?マークを浮かべ、刑部姫はもっと??を浮かべ、カルデア管制は憶測と推理を整えようとしている。

 

 しかし立香だけは違った。

彼女は今、時間だの何だのの理由よりも、勝つまで何度でも挑んでやろうという気概が生み出され溢れようとしている。

 何故か?決まっている。あの時も、兄妹は彼にそう言った。

 

それは生きる意志を持つ者の意地に他ならない。

 

「行こう!パースエイ!」

 

「あ?何だいきなり元気出して。それよりお前の名前を教えてくれねえと俺はお前を何て呼んでいいか分かんねえんだが?」

 

「私は藤丸立香!ウォーターブリッツ大会を突破して、英霊城兵ハドマをアッと言わせてやるカルデアのマスター!!だから勝ちにいこう、パースエイ!!」

 

「へえ?中々どうして。シューターの眼だぜ?お前」

 

 気に入った。そう続けたパースエイと立香は笑い合い、共に利害を一致させていた。

 

 

 

 

 

 

装備を整えている最中、刑部姫は困惑を振り払っていた。

 

「何だかよく分からないけどマーちゃん。要するに敵は私達に何度でもかかって来いって言ってるわけだと思うんだけど、合ってる?」

 

「勿論。色々あるだろうけど要約はそれ以外ありえないでしょ」

 

「てコトはだよ。すなわち勝利は一つ、そこに至る道はいくつ?それを探る必要があるね?」

 

「うん。最適解だろうと理論値だろうと、どちらも有ろうと無かろうと。私の答えを作ってブチ込んでやる」

 

『それは良い。おっきーも君も、意外と似た者同士だったかな?』

 

 立香の意志に賛同する、何処かで聞いたような男性の声。…誰だっけ、という言葉を飲み込んで立香は口を開いた。

 

「? この声、パンプキンさん?」

 

『はい先輩。パンプキンのランサー氏にも通信を行えるようにしてみました。…時間がかかりまして申し訳ありません』

 

「ううん、ありがとうマシュ!」

 

『ランサー氏って。・・・まあいいや、どうだい?そっちは。中々ヤバいって聞いたけど、何か俺に手伝える事があったら何でも、』

 

「パンプキンさん!近中遠距離スキがない相手にはどうやったら勝てばいい?」

 

『?逃げればいい。勝てっこないだろそれ』

 

 戦意ではなく気分が高揚した立香が捲し立てる。通信モニターに映るパンプキンヘッドは、逡巡せず彼女に答えた。

 

「逃げるって選択肢は無い!」

 

『おっと不退転。そして退路無しと。その上でも俺の意見は一つだ。逃げればいい』

 

「だからそれは…!」

 

『逃げるって意味を一つだけだと思ってないか?

敵の間合いがこちらを優に凌駕しているのなら、正攻法で勝つ事は無理。こちらの間合いに、キルゾーンに引き摺り込んでブチのめす。その為に、敵の間合いからはひたすら逃げる事だ』

 

「…なるほど」

 

『まずは手札を揃えるんだ。君の持ち味、得物、地形、情報、仲間、そして間合い。勝利の為に。退く事なんて勿論ねえよ』

 

「はい!!」

 

自然と、大きな声が出る。古強者じみた言葉が、立香を鼓舞していた。

 

「いつだって大事なのは間合い、そして退かぬ心だ!!」

 

『・・・・ゑ?』 

 

「ありがとう!じゃあまたねパンプキンさん!!」

  

『ちょ、それ何で知って待っ』

 

 ブツン。元気と気合を込め直して通信を切り、立香はパースエイに向き直った。得物は多い方がいいという判断からである。

 

「終わったか?・・・って顔じゃねえなそれ」

 

「パースエイ。それ、私にも使えるかな」

 

手のひらを広げる。大事そうに抱えている水鉄砲に向けて。

 

「このライフルか? 誰にだって使えるのが売りだからそりゃ使えるが」

 

「教えてほしいんだけども」

 

「ちょっと待ってろ。たしか小屋の中に・・・・、有った。ほれ受け取れ」

 

「っと。少し重いね?」

 

「少し? 中々鍛えてるみたいで感心だ」

 

 そう言ってパースエイは立香に渡した物と同じ水鉄砲を拾い、ボルトハンドルを握ってみせた。少しだけ笑みを浮かべて。

 

「一つ講釈でも垂れようか。我慢出来なくなったら言ってくれ。まずこれはボルトアクション式のライフル水鉄砲だ。こうやってコッキングピースを引いてから、ボルトハンドルを左に回し、後ろに引く。するとチャンバーが開くからそこにこの紙薬莢を入れる。

 やってみろ。そうだ、そうそう。そしたらハンドルを押して、右に回す。コッキングピースを押し込んだら準備完了。後は引き金を引いてズドンだ。簡単だろ?後装式の傑作だ」

 

「後装式…」

 

「最初、ライフルは全て前装式だった。ライフリングっていうこの溝(ミゾ)が彫ってあるバレルの中を、でっかい弾と火薬を銃口から棒でムリヤリ押し込んで装填してた。下品だろ?弾をドングリみたいに小さくするとか工夫は存在したが、所詮は前装。スピーディじゃなかった。

 そこでこれの登場だ。後装式なら速く低く、伏せながら装填できる」

 

「マニア?」

 

「続けるぞ。命中率と装填速度、そして姿勢。後装式は全てにおいて前装式を凌駕した。そしてボルトアクションの誕生・普及により、イカレてるくせに最も効率的で合理的だった戦列歩兵戦術は歴史からついに消え失せ、俺達スナイパーや散兵が生まれたってわけだ」

 

「マジ?そんな凄いのが何でここにあるの?」

 

「・・・・」

 

パースエイは少し黙って、やっと口を開いた。

 

「昔、ある男がいた。男はこのライフルが火を噴き続けるフィールドを望んだ。決して人殺しがしたかったわけじゃない。ただ、遊び続けたかった。男は自分が作った物が永遠にメインアームである場だけを望んだ。

 ・・・そして勝利しろと。ウォーターブリッツだろうと何だろうと勝利しろと言った。それを全てハドマは叶えた」

 

「………」

 

・・・・・。

 

「だから終わらせたいのさ。俺は、ゆっくり浜辺で寝ていたいからな」

 

 パースエイはずっと冷めた目だった。さっさと終わらせてゆっくり寝たい。そこに嘘が含んであることに立香は気付いたが、全部が全部そうではないとも思った。

 

 ――この遊びは終わらせる。そして実現するのは、絶対にこの手で。

隠すように脇に抱えたままの彼のライフルが、こちらをチラリとも覗かないままに。立香はふと、目線をそこに向けた。

 

「あの、」

 

「何だ」

 

「そのライフルは……」

 

「おしゃべりが過ぎたな。そろそろ行くぞ」

 

「あ、ちょっと!」

 

 逃げるように外へと向かう彼を追う。きっとそれが、今自分がやるべき事なのだと信じて。

 

 

 

 

「ホルスターとベルトだ。サイドアームと予備の紙薬莢はそこに突っ込んでおけ」

 

「ありがとうパースエイ」

 

「礼はチャンプをブッ倒した後にしてくれ」

 

「了解!」

 

 ハンドガンタイプの水鉄砲をホルスターに収納する。腰に触れる感触が日射と共にジワリと吸いつき慣れると、立香は片手でポンと叩いた。

 

「よし、馴染んだ!」

 

「早くも歴戦っぽいな。・・・本当にこの試合が初めてか?」

 

「うーんと、初めてじゃないと言えばそうだし、初めてと言えば初めてだよ」

 

「言葉遊びが趣味ってわけか。食えないな」

 

「どうも。それより向こうの方じゃない?……ハドマはたしか」

 

「いい勘してるな、たしかにドンパチの臭いがする。どうやらそうらしい。走るぞ」

 

「何だか犬っぽい」

 

「は、し、れ」

 

 記憶を頼りに指差した方向はやはり合っていた。前回と同じ、数多のライフルとエクスブリッツの応酬が見えてくる。

 では今回の作戦は。

前回は急襲、即ち接近戦を仕掛けたが読まれて負けた。ならばこのライフルでもって、今回はもっと遠い間合で戦ってみよう。躱されたら再装填して再度攻撃、接近してきたらそれこそこっちの手の内。このハンドガンで水浸しだ。援護はパースエイの狙撃がある。

 

「ここで分かれるぞ。ヤツに隙を生み出せ」

 

「外さないでよ?パースエイ」

 

「こっちの台詞だ」

 

二手に分かれる。前回と同じく。そして、敵に近付く。

 

「マーちゃん、今回はちゃんと私も、私も勿論参戦するからね?

ハンドガンタイプの水鉄砲をさっきの小屋から二丁持ってきたし、デュアルって感じで」

 

「カッコいい…!」

 

本心を言う。するとどこかサマになっている刑部姫は照れだした。

 

「えへへ、そう?やっぱりそう見えちゃう? 実はこれでもシューティングはPCでよくプレイしてたんだ。ハンドガン二刀流でさ、リロードモーションがかっこいいって理由だったけど」

 

「へ~」

 

「ふ、フフ、でもあそこだけは肩車にジャンプして空中散歩。屋上から這い出てくるテロリスト共を、真上からマシンガンぶっ放すのが好きだったなぁ……」

 

昏く楽しく笑う。おっきーは無駄にテンションが上がった。

 

「バニホバニホ。あ、じゃあ状況開始で。今から姫(わたし)は敵の注意を引き付けてくるから。バニホ、バニホ、バニホ…」

 

「え、何その動き」

 

立香はドン引きした。

 

『ありました先輩。古い形のようですが、どうやらある種のシューティング・プレイヤーにとっては素振りであり基本であるらしいですよ?』

 

「出てこいチートォ。透明だろうが高速移動だろうが間合予測して弾ブチこんでやるからぁ…、壁抜け芋砂マシンガンの背中にナイフは外交儀礼ィ!!」

 

 しゃがんでは跳び上がり、しゃがんでは跳び上がりながら急速に前進し続ける姫。よく分からない光景が立香の眼の前にあった。

 

「うーん、オッケイ!」

 

『流石です先輩』

 

 果たして、サーヴァントは会敵した。

意外と俊敏な動きでサイドからハドマを強襲。時より何も無い所から盾のように折り紙を繰り出しては水弾を防いでいる。

 

 …凄い。あれがアサシン・刑部姫の力なのだ。

いや、見惚れてはいられない。ライフルのトリガーに指を掛けながら、立香はハドマに狙いを定めた。

 用心深く三重に重ねられた折り紙が貫通され、しまったと表情を浮かべて刑部姫が水に濡れるのと同時に、立香がライフルのトリガーを引く。

 

 白煙が視界を塞いだがすぐさまボルトハンドルを左に、と思ったがその前にコッキングピースを引く事を忘れていたので視線をそっちに。親指で行ってからボルトハンドルに手をやり、やったのかやってないのか敵に視線を戻した瞬間、立香は見た。

 

 ――輝く黄金の刃。 まるで雲間から射し照らす陽光のように、こちらを見詰める忘れもしない、健在なる敵と聖剣の姿を。

 

「あれは……エクス、!」

 

 やはり倒せていなかった。教わった通りボルトハンドルを左に、そして手前に。新たな紙薬莢を薬室に装填、ボルトを押し込み右に回す。

 

「侮れないものですね」

 

 水弾を防いだ勝利の剣。その柄をハドマはエクスブリッツの銃口に突き入れた。

 ――ロングバレルだ。ライフルのコッキングピースを押しながら、立香は青ざめた。

 

「やはりカルデアは、我々は遊びであっても戦士から離れられない。ということですか」

 

 もう一度狙う。人差し指以外の全てが強張る。引き金が、彼女の意思に逆らう事なく潮のように急速に引かれる。

 

「エクスカリバー・ヴィヴィアン」

 

 先に撃ったのは立香の方だった。

距離があるとはいえ撃ち合いの勝敗とは、相手より先に撃った方が勝つ。それは西部劇などでよく見られるガンスリンガー同士の不文律。

 その証拠に立香は自身の弾が真っ直ぐ敵へと向かったのを紛う事なく見た。確実に、相手よりも早く。

 

 しかし相手が撃ったのは水弾ではなく水流だった。

雷管起爆・火薬の爆発という運動エネルギーを乗せたこちらの一撃を掻き消して尚余りある聖剣の発露。まるでここがウォーターブリッツ(水鉄砲)の大会だという事を忘れさせ、ていうかそれ弾じゃないでしょ良いのかよというツッコミすらどこ吹く風のような一撃が、立香に迫る。

 

「………ッ!!!」

 

 ――再装填する暇はない。今出せる力の全てを、たとえ火事場すら二周三周してみせるだろうありったけの力を発揮して、立香はヴィヴィアン(水流)を横っ飛びで回避した。

 

 …やった、避けれた!

ホルスターからハンドガンを引き抜く。足に力を込め、後は突っ込む。と考えた彼女の顔を、ハドマが見詰める。

 

「また会いましょう」

 

 息が詰まる。目線はこちらに。しかし笑う敵の指先は向こうに。

指し示すその場所の意味に気付いて、立香は振り向いた。

 

「何度でも」

 

綺麗に水浸しになった地面。そして遠くパースエイが残念そうに、こちらを見ていた。

 

「さようなら」

 

前回と同じく。水に濡れた立香は眼の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「一応自己紹介しとこうか?俺はパースエイ。第二回ウォーターブリッツの参加者だ」

 

 陽射しを遮る涼しい小屋。右手に水鉄砲。そして低い声。

視界が広がるとそこにはまるで先程の戦いなど無かったかのようにやり直すように。今回もまた、眼の前に彼は居た。

 

「お前の名前は?お嬢さん」

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。