英霊城兵六番勝負   作:ブロx

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第九話 Guns&Reloads その5

 

 

 

とにかく挑み続ける。立香にはそれしかなかった。

 

「こんのぉおお!!!」

 

 ――意地だ。この心が退かない限り負けはない。その一心で、砂浜を走る。

 

「楽しいですね。今回は何を勝機と定めているのですか?」

 

「当たれええええ!!!!」

 

「それではダメダメです。闇雲闇雲、さようなら」

 

またも水浸し。

 

「うおおおおぉお!!!!」

 

「力押しは気が楽になりますが、そんなんで勝てれば誰だってやっていますよ。もう少し歴史を学んで下さい」

 

今回も水浸し。

 

「発射!!!」

 

「――おっと。貴女は狙撃に向いていませんね。撃った後、標的だけを見てしまうクセがあります。弾は撃ったら真っ直ぐにしか進まないのですから、当たったか当たらなかったかなど確認する必要はない。そんな判りきった事を。

 周囲を見、そして鑑みる心構え。それがなくては残心とは言えません。貴女はどちらかと言うとインファイター向きのようです」

 

また水浸し。

 

「凸砂ですか、好いですね。芋る者よりとてもいい」

 

「ぅうおおおおおお!!!」

 

「しかし、だから私はこの距離が一番大好きで、一番得意なのですよ?」

 

 さようならの言葉と水と水のコンサート。水弾の掛け合いは、敗北の一途を立香に辿らせていた。

 

「一応自己紹介しとこ――」

 

「貴方はパースエイ。私は藤丸立香。ボルトアクションライフルの水弾とガンベルトがあったら頂戴」

 

「・・・・」

 

 もう何度目のやりとりだろうか。パースエイが無言で手渡し、立香がそれを受け取る。作業のようなそれが彼女のリスタート地点である。

 

「ハドマを接近戦で仕留めるから。援護狙撃、お願い」

 

 話す言葉すら最短で無駄なく。手慣れた水鉄砲のボルトハンドルを引き、装填、戻す。この時間すらも惜しいと示すように。

 

「待て。二丁も持っていくのか?」

 

「あとは引き金ひくだけで撃てるから。武器は多い方がいいでしょ」

 

「そりゃそうとも言えるが、手際いい。・・・・本当に初心者か?」

 

「もう行こう。そろそろ給水する筈だから」

 

「ヤツがか?何故分かる」

 

「女の勘」

 

「なるほど。了解」

 

 小屋を出る。突っ込む。まるで両手に花のように、立香が銃を敵に向ける。排莢の必要がないからこその両手持ちである。

 ――そう。この水鉄砲の薬莢は紙薬莢であり、水弾と装薬(ガンパウダー)と銃用雷管(プライマー)を包む薬莢は、発射と同時に銃の中で燃え尽きる。金属薬莢を排莢する現代銃の多くは(無論例外はあるが)、左手で撃つと空薬莢が右側に飛ぶ為射手を邪魔する。

 

 この水鉄砲にはそれがない。

立香が左右のライフルをぶっ放し、すぐさま放り投げて腰のハンドガンに手をかけ、素早く近距離戦に持ち込んでいるように。

 

「………ッ!!」

 

その闘志を、敵は笑って迎える。

 

「無駄な動作と無駄口がなくなりましたね。それでこそです」

 

「………!!!」

 

 吸気よりも呼気を強く、時にはどちらも止めて、立香達は確実に水弾を撃ち続ける。水がワルツを踊るように。正しくウォーターブリッツの一大決戦が、ここには存在していた。

 

「そうです。金属薬莢など、オートマチックもリボルバーなども一部の好事家が使えば良い。ここはウォーターブリッツ。誰も死なず、誰もが楽しく、再装填と発射を至近と遠距離の狭間で繰り返す。至上の遊びです」

 

 間合いが狭まる。水弾が飛ぶ。脚を動かす。射線を読む。それら全てを物ともせず、この世界の王は喋り続ける。

 

「貴女の気持ちは分かります。私が貴女の立場だったとしても同じ事をするでしょう。――何をしてでも勝つ。勝ち上がり再会する。家族の安否を確かめる。任務を全うする。今は違いますが私とて一国の王だったモノ。大切な者達の為に戦った人間でもありました」

 

―――けれど、けれどね。ハドマは続ける。

 

「良いではないですか、ここで。私達と一緒にずっと遊んでいましょう。

メカエリチャンが何を突き付けたかは詳しく知りませんが、この城の上階で楽しんでいる私の同僚たちは決して貴女の兄を悪いようにはしない。

 いや、出来ない。そういう風になっている」

 

「………!!!ッ!」

 

残弾1。視線誘導。弾倉へ。

 

「我々は日々楽しく永遠に遊び続ける。この世界で」

 

誘導成功。狙いよし。

 

「………大事なのは」

 

「――護ってみせますよ。貴女たちを、この宇宙で」

 

全て、よし。

 

「大事なのは間合い、そして!!!」

 

「!?」

 

 叫びと共に立香が水鉄砲を投げ捨てる。未だ中身が充分入っているハンドガンを。

 同時に足を蹴り上げて、持ち上がったそれを狙い通り思いっ切り掴む。ハドマの射撃を躱しながら、立香は残った最後の紙薬莢をそこに入れた。

 

「足元に――捨てたライフル!」

 

「………ッ!!!」

 

 次発装填、再発射される至近距離からの攻撃。

先程までのハンドガンタイプではない、ライフル水鉄砲による超高速の一撃。それをこの距離で躱す事は至難である。如何にこのチャンプであっても。

 一説によれば相手の銃口の向きと引き金の指の動きに集中していれば弾は容易くよけられるという話はあるが。嘘か真かはともかく、

 

「ビューティフォーです」

 

それは事実である。

 

「視線誘導と不意打ちは近接戦闘において基本。それは分かっていましたが、こんなにも速く再装填と発射をしてみせるとは。そのニードルガンで。

 でも今回も私の勝ちですね?」

 

「そんな、!あぶっ」

 

「狙撃も接近戦も私の手の内。ではでは、また会いましょう。楽しい一時を共に」

 

永遠に、水に濡れ続けるのか。――立香はまた眼の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

「・・・駄目だったか」

 

「おや貴方。何か一矢報いるとでも?」

 

「・・・・」

 

「しませんか。ただこの遊びは戦争ではない。遊びの敗者は何とでも言って結構ですよ?勝者である、この私に」

 

「・・・・じゃあ一言だけ」

 

「どうぞ遠慮なく」

 

「――お前を撃ち抜くのはこの俺だ」

 

「ハハッ、性懲りも無く素晴らしい。またのお越しを」

 

ハドマはそう言って、本のページを捲り戻すように手を振った。

 

 

 

 

 

 

「一応自己紹介―――」

 

「貴方はパースエイ。私は藤丸立香」

 

 撃ち合いは続く。まだ、この遊びが終わるまで。飽きさせる事なく。先程の戦いなど無かったかのように。

 

今回もまた、眼の前に彼女は居た。

 

 

 

 

 




再戦のための回帰。
愉悦のための譫妄。
浜の真砂は尽きるとも、連綿と続くこの楽しい遊戯。
ある者は笑い、ある者は傷つくことなく、ある者は自らに希望する。
そう、営みは絶える事なく続き、また誰かが呟く。
このまま、火薬の臭いと己に酔うのも悪くない。
次回『生存率100%』
神は、ピリオドを打てない。

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