英霊城兵六番勝負   作:ブロx

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第十話 生存率100% 下

 

 

 

 ―――俺は望みを叶えるが。お前は一手遅かったな。

 

大往生の前に、男は俺にそう言った。

 

 ―――二代目、お前はこれからどうする?俺の予想じゃこの先この国は金属薬莢と、パウル達が台頭してくるだろうぜ。

 

『どうするもなにも無い。俺は貴方の後を継ぐ』

 

 職人同士の会話というものは少なく、そしてアウトプットは言葉ではなく指先と手の動きのみ。更に言うならインプットはそれら全部を呑み込んで、出た結果を認めること。

 

俺はここに来るまでずっとそんな環境で生きてきた。

 

『それが徒弟の道理だろう』

 

 ―――徒弟だと?冗談じゃねえ。俺はお前を徒弟だとは思っちゃいない。少なくとも今はもう。

 

『じゃあなんだ今更。子供扱いでもしてくれるのか?』

 

 ―――まさか。お前は俺と母ちゃんの子だが、子供扱いなんざ死んでもごめんだ。

 

 眼の前から失せろといった風に、男は弱々しく片手で空を撫でる。それを俺は眺め続ける。

 お前は徒弟でもないし息子でもないと言う。なら、男にとって俺は何だというのだろう。斜陽工場を引き継いだ只の跡取りか。それともノロマにも祖国から見捨てられると分かっている、只の職工か。

 

『じゃあ俺は誰だ。俺は貴方の、一体何だ』

 

男は空を撫でるのを止め、かわりに眼を瞑った。

 

 

 

 

 

 

「何かが掴めそう」

 

「あん?」

 

あともうちょっとで。 いつもの挨拶を終えると、急に彼女はそう言って弾を装填し始めた。

 

「パースエイ。エリザ粒子に不可能はないっぽいんだよ」

 

 それはかつて俺が言った言葉であり、ついにそれは彼女にとって真実になったわけである。

 

「・・・。まあ、そうだな」

 

俺は適当に頷いた。

 

「狙撃よろしくね」

 

「ああ」

 

 彼女が笑う。勝機を見つけた人間の顔と声で。それはあの男と同じ。

ようやくこれで望みが叶うと。・・・そう信じてる人間特有の面だった。

 だからだろうか。いつもとは違い、俺は話を続けていた。

 

「できるだけ長くだ」

 

「?」

 

「・・・出来るだけ戦闘を長くもたせろ。ハドマは近距離速攻型の戦法を得意としている。第一回目のウォーターブリッツからな。

 だからお前はその逆、持久戦でいけ。勝機はそこだ。あとは俺が終わらせる」

 

「了解、任せた」

 

「あいよ」

 

 望みが叶うのかどうかは神のみぞ知る。

だがこの世界の場合は銃のみぞ知るのだろう。だから満面の笑みを浮かべてコッキングピースを押し込む彼女が、俺には。

 

「レッツゴー!!」

 

 わかれて、俺は駆ける。そしてベストポジションに着くその前に、遠くから銃撃音が聞こえてきた。

 ・・・ドンパチの音がけたたましい。今まで何度も聞いた発砲音、と思いきや今回はひどく違った。

 

「・・・なんてゲームだよ。心底」

 

 第二回ウォーターブリッツ。飛び入りのくせにそこらにいる参加者と同じ笑顔で彼女が舞う。舞うように走り撃つ。

 それが見える。

 

 アイアンサイト越しに見える浜辺の戦模様は、最早何度も見てきた光景であり、火薬と海水のにおいに狂っているようにも感じた。火薬のように弾けるハドマの笑顔も。

 

「・・・・絶妙な射線管理だ」

 

 ―――また。そしてまだ撃てない。

狙撃手を意識しての立ち回り、そのポイントは只一点、上手く動き続けること。多人数を相手に毎度毎度それが出来るのがチャンプである所以。その確たる証拠は、ともし問われれば、この世界において俺がこの愛銃を撃った事は一度として無いという現実を問者に突きつけざるをえない。

 

 それが俺の変わらぬ無能を宣言するのであっても。

忘れるな。奴こそエリザ粒子を全身に纏い、いついつでも約束された勝利を掴み続けるウォーターブリッツワールドチャンピオン、アーチャー・ハドマ。

 

 しかし前回の戦闘同様、ダークホースである彼女も負けてはいない。

酔狂にも近接射撃で勝とうとする藤丸立香は、しかし俺の狙撃にも勝機を見い出し、今やエリザ粒子を下半身全体に纏い始めている。水着仲間と共に。

 

「速い。いや、迅い。弾丸よりも」

 

 空気抵抗だのその他大勢の理屈はエリザ粒子でカバーしている。つまり無意識のうちに、少しずつではあるが彼女は全身に纏い始めているのだ。

 

エリザ粒子を。ハドマのように。

 

「同じになったのか」

 

それは対等か並列か。しかし、何故こんなにも。

 

「そう簡単に出来るものじゃない筈だ。一体何がそこまで・・・お前を立たせる。支える」

 

 水弾よりも速く動く彼女が、ハドマの後ろを取った。

訪れる好機。人差し指に力を込めた俺と彼女はその時、確実に、ハドマに勝てるその瞬間を逃す事なく引き金を引いて―――

 

「 陽光煌めく勝利の剣 」

 

笑い声と共に、俺の眼の前は真っ青になっていた。

 

 

 

 

・・・・またか。そう思わなくなったのは、一体いつの頃からだろう。

 

 光と水の奔流が俺達を海へと流し続ける。

薙ぎ払うように銃口(エクスブリッツ)から発射された水流は俺と彼女を水平線の彼方へと放りやり、またも敗北という名の結果を突きつけていた。

 

 バシャリと、海水が顔に掛かる。瞼を開け、仰向けのまま視線を横にずらす。言葉を口にする為に。

 敗者への言葉など勝者には存在しないが、同じ敗者同士ならば一言くらい有っても良い筈だから。

 

 ――俺はそう思って、彼女を見た。しかしそこには、見た事のない表情を浮かべた負け犬が、一心不乱に空を睨んでいた。

 

 それは勝機を見つけた人間の顔ではない。

ようやくこれで望みが叶うと。・・・そう信じてる人間特有の面でも、勿論ない。

 

 それは勝ちを欲する者の表情。弱さを経た強さ。たとえ一言も口に出さなくとも、分かるモノの一つ。だから穴のあくほど、俺はそれを見続けていた。

 

・・・・・何故だ、と。場違いにも思い出して。

 

『じゃあ俺は誰だ。俺は貴方の、一体何だ』

『パースエイ。―――どうすれば勝てる?』

 

ずっと。そして今も、彼女は考え続けているというのに。

 

 

 

 

『じゃあ俺は誰だ。俺は貴方の、一体何だ』

 

 男は空を撫でるのを止め、かわりに眼を瞑った。

 そして瞬時に眼を開けた。

 

『そんなの知るかよ。私は何処何処の誰誰だ?そんなの誰が答えてくれる。誰が分かる』

 

 それは男が若い頃から変わらぬ視線であり、職人の眼であり、俺が幼い頃から見てきた師のものであり、勝ちを欲する一人の人間の眼差しだった。

 

何も言い返せない。・・・今の俺では。

 

『自分(テメエ)で名乗れ。テメエで示せ。私はこういう者ですってな。そして思わせてみせろ、他人に。こいつはこういう奴なんだってな』

 

 為し遂げた父が言う。体現した男が言う。職人は造物で以って己と真実を語る。言葉は商い、嘘ばかり。

 

 でもこの言葉は。恐らく最初で最後に肩を並べ合った人間同士の、互いを認めた者同士の短い会話であったのだろう。

 

『・・・分かった。自分の事は自分で広める。そして答えてみせる。必ず』

 

『無事を祈ってるぜ、草葉の陰で。Mauserでもない誰でもないお前だけの物を造れ。そして掴め、お前も勝利を』

 

 そうして場違いな想い出は終わって。――今、俺は勝利の為にここに来ている事を見つけ直したのであった。

 

 

 

 

 

 

「ふゥ、良い汗をかきました。やはり楽しいですね、このウォーターブリッツは」

 

「おい」

 

「しかしこんなにも早くエリザ粒子を纏えるようになるとは。先生が良いのでしょうか?それとも、」

 

「おい」

 

「おや、噂をすれば。流石は先生。まだ意識を保っていらっしゃる」

 

俺は彼女の前に立つ。意識を強制的に刈り取られた、藤丸立香の前に。

 

「この遊びはいつ終わる」

 

「いつ?それはおかしな問いかけですね。人間はいつ滅ぶのか?と同じように」

 

「そうか」

 

「ええ。では性懲りもなく、今回もこの私に言葉をかけて下さい。そしてここが何処なのかを。だってそれが貴方と、貴方の父君の最期の望みなのですから。永遠に、勝利の為に」

 

「・・・」

 

・・・・・。

 

「――ここは第二回ウォーターブリッツ世界大会。勝利者は何でも手に入り、そして勝利を手に入れたい者のみが集う場所。

 だから何度でも。生存率100%の、お前を撃ち抜くのはこの俺だ」

 

 エリザ粒子が循環する。次こそはという想いを乗せて。

だから敗者は永遠の二文字の実在を証明する。アーチャー・ハドマが勝ち続ける限り、我らにとってはここが永遠。終わりのないのが『終わり』なのだと。

 

「またのお越しを、先生。この世界と私に教えて下さった最初のボルトアクション・ニードルガンの造物主よ。ゆえに私は誰よりも貴方よりも藍よりも青く、誉れある王者としてここに居続ける事と致しましょう。

一切豪遊の名の下に」

 

 無邪気に手を振る様を只々見つめて、俺の眼の前はまた真っ暗になる。

しかしいつぶりだろうか。真っ暗になる瞬間に握った拳は俺の掌に痛みを与えていた。

 

もう忘れるなと、希うように。

 

 

 

 

 

 

 ―――そうして眼の前が明ける直前。ついに彼は声を出していた。

 

「一応自己紹介しとこうか?俺はパースエイ。第二回ウォーターブリッツの参加者だ」

 

今日という日は今日で最期。当たり前のそれを、二人に示すように。

 

「私は藤丸立香!」

 

「私は刑部姫!」

 

 彼女達もまた声を出す。今日という日は今日で最期だと、今も示しているように。求めるように。

 

 目と目を合わせ、いつも三人は自己紹介からやり直す。思えばそれは目指すエンディングの為だったろうか、勝つ為にか。―――或いは。

 

「始めるか」

 

「応!!!」

 

勝つまでは。

 

 

 




変わらない。変わらない。変わらない。この世の舞台で遊ぶ王者が、水際でまた動き始めた。
波風は絶えず、人々は慶ぶ。
舞台が笑えば、硝煙も笑う。
いつも、今日も、明日も。
煙の幕を下ろされて見えない。
だからこそ、切り裂く鉄火を求めて。褪せぬ心を信じて。
次回『Passage』
変わらぬものは心だと。言えるのならばそれが強さ。

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