英霊城兵六番勝負   作:ブロx

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 ここまでお読み下さりありがとうございます。今回で第一部は終了となります。ネタバレですが第二部からはオリキャラ、ローナルド一族など結構出るのでご注意を。その上で楽しんで頂けたら幸いです。






第十一話 Passage

 

 

 

 

 ボルトハンドルを操作して、薬室を開いた射手はニードルガンに紙薬莢を装填した。

 

「おいおい。本当に初めてか?お前。その目付きと手際、まるで歴戦の古強者だ」

 

 パースエイがそう言うのを聞きながら、無駄なく親指でコッキングピースを押し込んだ立香が口を開く。

 

「…もしそうだって言ったら?」

 

「別に?どうもしねえし変わらねえよ何も。勝てなけりゃ終わりだし、勝てりゃ終わりだ。違うか?」

 

その答えを聞いて彼女は笑った。相変わらずの態度と言葉に。

 

「そうだね。たしかにそうかも」

 

「だろ?まあ、それはさておき作戦はどうする?お嬢さん方」

 

「突撃」

 

「突撃。他に質問は?」

 

「一つある。今から挑む敵は近距離戦で負けた事がない。だからこそ現チャンプなわけだが、それでもか?」

 

 あくまでも接近戦で雌雄を決するのか。パースエイは問いを投げる。立香はシューターの瞳で返答した。

 

「それでもだよ。勿論」

 

「一応言っておくが辞めてもいいんだぜ?・・・クソ真面目に水鉄砲の掛け合いっこなんて。探してみれば意外と他にも手段が、」

 

「辞めちゃったら会えなくなる」

 

「?誰にだ」

 

「仲間に。そして家族に」

 

「そうか」

 

 彼と彼女の視線が再度合わさった。

・・・そういえばコイツは何故戦うのだろう?パースエイは今まで一度も立香に訊いた事がなかった。

 今や遊びを楽しむ心も味わう余裕も持ってはいるが、彼女がここにいる理由は全て只一つの目的の為だという事を。

 

 ―――必ず取り戻す。

 

 意気に当てられ、彼の右腕がボルトハンドルを握る。

ライフルの中の撃針がついに出番かと奮い立つように音を立てる。

 90°回転するライフルのボルトハンドル。その姿、パースエイの銃を見て、立香は不可思議な違和感を感じたが、口にする前に彼が小屋の扉を開けていた。

 

「往こう。もう時間だ」

 

 声が鼓膜を震わせ、彼女の耳に届く。それはそれは厳かな男の声だった。

――初めて本音を聞いたかもしれないな。立香は思った。

 

「狙い撃つ感じ?」

 

「まあな」

 

「チャンプがめちゃめちゃ動いたら?」

 

「停まるまで待つ。定石だ」

 

「もし停まらなかったら?」

 

「寝ぼけた事を訊くな。お前の仕事はそれだろうが」

 

「了解。絶対に、最低でも0.5秒はヤツを停めてみせる」

 

 だから一発必中よろしく。

立香はそう言って、エリザ粒子を纏った足で地面の砂を蹴る。それがこの世界における最期の戦い(遊び)の幕開けであった。その証拠にもう見える。敵が見える。

 

 英霊城兵にしてウォーターブリッツ世界王者のアーチャーを、ついに立香は視界に捉えていた。

 

「―――ようこそ、ガンスリンガー。またお逢いしましたね、藤丸立香」

 

「今日こそ勝つよ。アーチャー・ハドマ!」

 

 啖呵を切り、不変の誓いを口にする。幾度も幾度も自他へと宣言するこの行為は、思えば果たして有言実行こそ我ら人間の心意気だと信じる為か。

 

「なるほどなるほど。そのエリザ粒子、なるほど確かに、今の貴女なら全力で遊ぶに値します」

 

それとも互いに共感する為か。

 

 大気に満ちるエリザ粒子が収束し、鼓舞するかのようにこのバトルフィールドに集うプレイヤー達に伝播する。

 脚に満ち、腹に満ち、胸に満ち、首と頭をすっぽりとエリザ粒子で覆い尽くしたウォーターブリッツ参加者全員の銃身から水が迸ると、シューター達はついに遊びの渦中へ。

 

 火薬の炸裂と共に射出された弾丸は只一つの的であるハドマ目掛けて飛び掛かる。しかしそれらを前にして、やはりチャンプは楽しく笑い続け避け続けていた。満を持さず、いつものように。

 

「なんという射線の冴え。そしてなんという鋭さか!!

ならば今一度名乗りましょう。王者(チャンプ)であり、英霊城兵としての我が真名を!」

 

エリザ粒子が熱をもち、ついに舞台の幕を切って落とす。

 

「…もしかしたら私はずっと、この時を待っていたのかもしれません。しかし!!!

 しかして!真打!ついにこの時!!!我が誓いと我が見得、アーチャー・ハドマをいざここに!!!!」

 

 ――遊んでいいよと。存分に親が子に言い聞かせるように。

 

英霊城兵大将降臨

 

「私はアルトリア・ペンドラゴン!そして此処は我が世界・ウォーターブリッツ!

 永全不動なるかな、一切豪遊の名の下に!!

さあ、戦ごっこという名の遊びの作法を御照覧!―――伸るか反るかの一天地六、貴女の名前は?お嬢さん!!!!!」

 

英霊城兵六番勝負

 

「私はカルデア・マスター、藤丸立香!」

 

 勝負,一番目。

藤丸立香VSアーチャー・ハドマ(【一切豪遊】アルトリア・ペンドラゴン)

 

「 いざ尋常に――― 」 

 

「 勝負!!!!!! 」

 

 

 

 

 乱痴気と怖気催す戦いの口火は何時にも増して硝煙の臭いで満ちていた。

 エリザ粒子を全身に纏う者同士、個人の技能は留まる所を知らず、そして只の人間である立香はハドマと渡り合いはじめていた。

 眼にエリザ粒子を纏えば敵の射線が何となく判り、脚に纏えば発射される弾丸と同じ速度で動く事も出来る。

 

 前人未踏の境地へと至る事となった立香は、しかしエリザ粒子を纏う練度の違いが勝敗を分けると確信していた。すなわち自身の敗北をも。

 いかに摩訶不思議な粒子を身に纏い、技能と力を底上げしても、所詮は人間。元々が英霊(サーヴァント)であり、エリザ粒子を同じく身に纏うアーチャー・ハドマを凌駕できる道理は、何かで足し算か掛け算でもしない限りありえまいと。

 

 仮に立香がハドマに正面切って勝てるとすれば、エリザ粒子を更に深く練り込み纏うことのみだが、今の彼女でもまだその境地には至ってはいない。

 

――では勝機は。

――あるとすれば、それは。

 

「フ、ッーーーーッ!!!」

 

 疾風のような呼気が周囲の硝煙を散らす。

立香の両手に握られたライフルが、役目はまだかと言わんばかりに手の中で疼く。――未発のニードルガン。未だ装填済みの、二発の弾丸。それらは一発も発射されていなかった。

 

そう。あえて立香は、今。ハドマの射撃を避ける事のみに全力を注いでいた。

 

「見事!! しかし正気ですか?貴女」

 

「スゥー、…フーーーーッ………!!!」

 

 持久戦でもって勝つ。歴戦のカルデア・マスターはそう判断していた。

例えばそう、こちらが一発も撃たずにハドマの射撃を避け続けた場合、ハドマはある段階で、チャンプの誇りに掛けて絶対に立香を撃ち抜いてやろうと企図する筈だと。

 

 これまでの戦いの中で、ハドマの視界はこのフィールド全体を網羅している。だから狙撃手が先に狙撃されるという珍事が起きるし、立香と刑部姫の射撃はこれまで一発たりと届いていない。

 

 すなわち目指すは一点集中。ヘイト管理。

敵の頭の中から、狙撃の二文字を消すことである。

 さしものウォーターブリッツチャンピオンも確実にその瞬間に弾丸を叩き込まれれば、手も足も出まい。視線と射線は全てこちらに向いている。咄嗟に飛びのいても無駄であろう。

 何故ならそれこそが立香のもう一つの勝機であり、その時こそこのライフルがついに火を噴き、敵を撃ち負かす。

 

 その為には攻撃を避け続けなければならない。英霊城兵大将アーチャー・ハドマの魔弾を、全て避け続けなければならない。

 だがそれこそが至難であった。

 

「フーーーーー…ッ!!!」

 

 五月雨の如き途切れない水銃弾を紙一重で躱す。長く息を吐きながら五体にエリザ粒子を纏わせ、立香は動く。動き続ける。攻撃は最大の防御なれど今は防御こそが最大の攻撃手段であると考え、ゲーマーとしてシューターとして王者として、撃った弾が一発も敵に当たらない等という事態は屈辱の極みだと思うだろうと敵を信じて。

 

 ………私はリロードどころか一発だって撃っていないのに。貴女は何発も何発も弾を撃つ。まるで馬鹿の一つ覚えのように。

 ―――まるでではなく、これこそ馬鹿だと。敵が思うその時まで、立香は弾を避け続ける。

 

「こ、の……!!」

 

 ハドマに焦燥のようなものが現れる。が、それを即座にブラフ(嘘)であると立香は看破。常に笑顔である王者が、この期に及んで表情を変える等というトーシロじみた行動を起こす事は考えにくく、その証拠に一秒前とはまるで別人のように脚の速度と射撃スピードが精密かつ上昇している。

 

それに騙されず、負けず、集中集中集中。

 

 集中が切れたら此方が負け。集中を向けさせれば此方が勝つ。

元来が屈強の剣士であり今や銃を持ったアルトリア・ペンドラゴン相手に、我慢比べという勝機を掴むことさえ出来れば。

 

 立香は眼球の潤いすら瞬きすらエリザ粒子に任せ、限界まで目蓋を開き、敵を視界に映し続けた。閉ざすのは勝った時。

 敗れた時は。きっと、また視界が暗くなるだけなのだろう。でもそれはもう二度とない。

 

「―――ッ!?」

 

「――――!!!」

 

 果たして。その時は訪れた。

此方を視界に収め続けていたハドマの瞳が、刹那、遥か左方の砂浜の先から飛んできた水弾に、文字通り眼を奪われる。

 意識の外からの狙撃。絶対に避けきれない射撃は、しかし左手の聖剣でもって防ぎ止め。その瞬を余さず逃さず、立香は今こそ両手に握るニードルガンをハドマ目掛けて撃っていた。

 

 勝機を獲った。立香は確信する。最早この間合では避ける事は出来ないと。聖剣での防御は不可能である。だからこその近距離だ。ハドマはすぐそこにいる。そう、吹いた息が届く距離。

 だから立香は退かぬ心で、間合いの捕捉と我慢比べについに勝った。

 

―――だというのに。

 

「ぇ、―――?」

 

 何故。 水浸しになっている筈のウォーターブリッツチャンピオンが、すぐそこに蹲っていないのか。

 

 答えは明快にして異常。

不可能の極みを超えて、横滑りに。ハドマは跳躍していた。

 

 

 

 

 

 

「 スイミング!! 」

 

 ―――勝利する。またこの戦いに、勝利する。

狙撃手めがけて迫るアーチャー・ハドマは笑顔で確信した。今回もいつものように、定石通り自分は勝ちを得たのだと。

 

 ―――次発を再装填しても無駄である。

 

 ニードルガン、すなわち初期ボルトアクションライフルはその構造的堅牢さと未熟さゆえに、一度撃ってしまえば①コッキングピース操作②ボルトハンドル操作③次弾装填④ボルトハンドル操作⑤そしてまたコッキングピースの操作と、全部で5つの工程をし終えなければ再発射が出来ない。

 

「 華麗。あまりにも華麗! 」

 

 急ぎそれらを行おうとも、その遥か前に我がエクスブリッツは狙撃手を撃ち濡らす。

 

「 帆柱と散れ―――、陽光煌めく!! 」

 

 金属薬莢を使うマガジン付きのライフルないし、自動小銃(アサルトライフル)であれば間に合ったかもしれぬものの。

 …全ては終わる。

そうしてまた、このウォーターブリッツ(遊び)は続いてゆく。かつての先生へと狙撃手へと狙いを定め、だからこそ突き進むハドマには見える筈だった。

 

コッキングピースを親指で引き、ボルトハンドルを操作する愚鈍な狙撃手の指が。

 

狙撃手の指が、狙撃手の指が、

 

狙撃手の指は―――

 

「 勝利、の 」

 

 

―――何処だ?

 

 

 

 

 

 

 装填を終わらせ、弾を再発射した射手がボルトハンドルを左に動かす。

ビチャリと、水が敵の顔に当たる様を、その眼で認めて。

 

「そういえば教えてなかったな。この銃の名を」

 

 ガチリと90°回転する遊底(ボルト)本体は、しかしその先端部だけは回らず、その作用により内蔵されたスプリングは撃針の再コッキングを完了。

 

これで彼の銃は、いついつでも引き金を引ける。

 

「この銃の名はDreyse Zündnadelgewehr。

一般的にはニードルガンとも呼ばれていて、製作者ニコラウス・フォン・ドライゼの名と共に歴史に名を刻んだ」

 

 無論のこと紙薬莢を入れ直してハンドルを右に回す動作が必要だが、それでもこの銃はこれまでのニードルガン=ドライゼ銃と一線を画している。

 

「だが親父のはまだ粗悪品で、完成品はこれだ」

 

 ボルト(遊底)全体の構造改革。彼が行った工夫はそこにあった。

目的は一つ。コッキングピースの手動操作廃止。

 

「撃つたび装填するたびにコッキングピースを操作していてはならない。それは迅速な射撃と狙撃の妨げになる。

 望まれるのは再装填の際、ボルトハンドルを操作するだけで自動的に再コッキング=射撃準備が完了される技術機構(システムオブアート)。だから造った。

 Mauserには負けちまったが」

 

 ――西暦1871年。普仏戦争に勝利したプロイセン国王ヴィルヘルム1世が帝政ドイツ皇帝に就任した年に、現代まで名を残しているモーゼル(マウザー)兄弟のボルトアクションライフル・Gew71(Mauser Modell 1871)が帝政ドイツに採用された。

 

 かの銃が旧来のドライゼ銃に優った理由は諸説あるが、一説によればそれはコックオン・オープニング方式という技術を採用していたからだと云う。

 ボルトハンドルを左に回すだけで撃発が可能になるシステム。 

それはフランスのグラース銃や日本の村田銃にも採用され、やがて時代は更なる連射力、つまりは金属薬莢を詰め込む弾倉(マガジン)を求めるようになっていった。

 

「だがそれはボルトアクションを廃らせ、更なるオートマチック銃を誕生させる事になる。人の技術の進歩を俺は否定しないが、銃は人が技術で撃つ物であるべきだ。技術を人が撃つのではなく。

 いずれ射手は引き金を引き続けるだけの存在になるだろう。だから紙薬莢こそが最上であり、それをボルトアクションで最も速く発射するにはどうすればいいか俺は考え、1874年にこれが出来た」

 

 ・・・ドライゼの銃口から硝煙が上がる。狼煙のように、勝利を込めて。

 

「何故なら他の誰よりも俺が一番この銃を愛していて、誰よりもこのライフルを近くで見てきて、誰よりもボルトアクションを研究している。

 ―――だから俺の銃が。俺が造ったニードルガンが一番巧い」

 

追いついた立香はその場で、彼と共に高らかに勝鬨を上げた。

 

「俺達の勝ちだな。元ウォーターブリッツチャンピオン」

 

一手遅かったアーチャー・ハドマは、笑顔で砂の大地に伏していた。

 

 

 

 

 

 

「ドライゼ銃っていうんだ、このライフルって。先に教えてほしかったよ」

 

「訊かれなかったからな。それに嘘は言ってねえよ俺は」

 

 この世界(遊び)の支配者・英霊城兵ハドマを撃ち負かした事を確認した立香とパースエイは他の参加者をあっという間に水浸しにしていた。

 

当初の作戦通り、残ったのは彼と彼女だけである。 

 

「ううん。パースエイは一つだけ嘘ついてた」

 

「何?・・・・そんな筈はないが」

 

「名前だよ名前!」

 

パースエイって偽名でしょ? 立香は高らかに宣告した。

 

「名前なんて意味のない事だろうが。少なくともこの浜辺じゃな」

 

「意味ありありだよ!私達ずっと名前言ってたもの!!貴方に!」

 

「む・・・。それもそうか」

 

「決まってるよ!」

 

パースエイと名乗る男は笑って、そういえばと納得した。

 

「パースエイってのはまあ、テキトーだ。あまり深い意味はない。・・・・親父がくれたドライゼの名を名乗りたくなかった。それだけの事だ」

 

今はもう違うけどな、と。男は続けた。

 

「俺は色んな奴らに負けてきたが、俺自身には負けちゃいなかった。只の一度も。このウォーターブリッツでそれが分かった。

 だから名乗ろう、カルデアの藤丸立香。俺はフランツ。フランツ・フォン・ドライゼだ。ニコラウスの息子の」

 

「フランツ……。じゃあフランくんだ!」

 

「それはマジで止めろ」

 

 フランツ(パースエイ)・ドライゼが強く否定し、変な愛称をつけたがる立香を水鉄砲で撃つ。ずぶ濡れ、しかし悪びれないカルデアのマスターは笑ってそれを受け入れていた。今も変わらない約束だからだ。

 

「ごめんごめん、フランツ。…ううん、フランツさん。退かずに勝利を掴んだ人。―――って、あ!そうだ!ハドマに訊かないといけないんだった!!この世界の外、上階に上がるにはどうしたら」

 

「それには及ばない。俺が上へと続く扉を創ってやる。優勝者は何でも願いが叶うってな。

 だがこの世界はいずれ閉じるだろうから、もう行った方がいい」

 

「え、フランツさん達はどうするの?」

 

「俺はこの世界の片棒を担いだ責任がある。親父と俺が望んだのがここだ。親父は栄光を、俺は勝利を。だから最期までここに居る。

 多分、俺達参加者は夢を見ているんだろうな。意識だけがこの場所に飛ばされ、勝利するまで醒めない夢を。何故ならエリザ粒子に不可能はないから」

 

「なるほど…?」

 

『先輩。ミスター・フランツの言う通りのようです。チェイテ城エリア、つまりはこの微小特異点ですが、緩やかに縮小が始まっています。いずれは元のお城に戻る事でしょう』

 

「分かったよ、マシュ。でもハドマはどうしよう、起きないんだけども寝てるのかな?」

 

『敗北がよほどショックだったのか気絶しているようですね…。…霊基に異常は無いようですが』

 

『彼女には訊きたい事が山ほど有る。――そうだ、パンプキンの彼の所に送ってあげるってのはどうかな?』

 

「井戸底に居るパンプキンさんに見張っててもらうって事?ダ・ヴィンチちゃん」

 

『ああ。頼めるかな?刑部姫』

 

「あ~それ良いかも。オッケーですよ、アイツそういうの得意っぽいし」

 

「おっきーまで。いいの?本当に大丈夫?」

 

「大丈夫大丈夫。アイツ、私の命令には絶対服従だから。それにあの場所よりも良い場所は無いと思うし」

 

「分かった。それならそうしよっか。

あ、おっきー、ハドマをおぶって連れてくから手を貸して」

 

『その必要はないわ、立香。

どうやら貴女達がこの階の英霊城兵に勝ったお陰で、こちらからその空間に干渉出来るようになったの。井戸へのパスを開きますので、そこに彼女を置いて貴女達は先を急ぎなさい』

 

「了解です所長。でもそっか…、遊びに勝つだけで本当に勝てちゃうんだ、あれだけ強かった英霊城兵に。………でも何で遊びなんだろう…」

 

「それこそ訊いてみたらいいだろう。そこで気絶してる敗北者にな。そしておまえの家族の居場所も吐かせれば一石二鳥。

 だってそれがお前の戦う理由で、諦めない理由だろう?」

 

「…うん。勿論」

 

「ならこの先もきっとあるだろうヘンテコな遊びには絶対負けるな、カルデアの藤丸立香。お前なら出来る。きっと、お前なら見失わない。

 こんな時間すらよく分からなくて途轍もないだけの世界に負けるな。勝てよ、戦友」

 

 フランツが指先を彼女の右方に向ける。するとそこには扉が出来ていた。

強く頷いて、立香は扉をくぐる前に一度だけ後ろを振り向く。…もう逢えないのだろう仲間に対して、笑って別れを言う為に。

 

「ありがとう戦友(パースエイ)。そしてフランツ・フォン・ドライゼ。私は貴方を忘れないよ」

 

「さっさと行け。――まだまだ先があるんだろう?」

 

「………」

 

 カルデアの一行が往く。そしてパタンと、扉が閉じる。

同時に彼は勢いよく目を覚ました。ずっと最悪だったが最後には良い内容であった記憶とも言えない夢の中身を想い出して、自室のベッドから起き上がる。

 

そう。今日は大事な商談の日であったのだ。

 

「幸運を祈ってるぜ、―――若いの。俺も頑張って自分の作品を宣伝して、広めてみるさ。自分に胸を、張れるように」

 

 1874年。初老の職人の呟きが朝焼けの窓ガラスに溶けていき、吐いた吐息は部屋にこもる。

 窓に映る景色はそんな男の顔を反射して、しかし眼の奥の綺麗な光だけは、曇らず彼を照らし続けるのだった。

 

 

 

 

 

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