英霊城兵六番勝負   作:ブロx

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第十二話 お前も城兵にならないか? その1

 

 

 

 何において道のりとは長く、苦痛以外の何物でもない。

それが良いとほざく同僚も、少なくとも彼は見た事がない。

 

「待ってろよ」

 

 掠れるのを無視して、声を出す。それでもと力を脚に込めながら。だからこそと、己を鼓舞しながら。

 

歩く。もう走れない脚を動かし続ける。

 

「待ってろよ。・・・待ってろよ」

 

 脚がもつれる。口が、地べたをつく。受け身も取れない我が身を呪う。自分自身を、ひたすら怨む。

 

「あぁ何故だ。何故こんなにも。・・・あぁ、何故俺はこんなにもクズなのだ」

 

 顔だけを前に向けて、もう動けなくなった彼は声を出す。気炎万丈のみが取り柄となってしまった声色は、正に今この男が風前の灯火だとは感じさせぬほどのもの。

 しかしかつての彼を知る者ならば、何ともまあ。と、苦笑いを浮かべるに違いない。

 

つまりは終焉。彼は今、正に今際の際なのであった。

 

「待ってろよ。だから閉じるな霞むな。俺の眼が黒いうちは、俺達が居ればログレスは。たとえこの世が地獄以下の穴底であろうとも・・・・・。そうだろう?なあそうだろう?」

 

 死に往く者の独り言など誰も聞かない。聞いた所で無用の長物。

何故なら誰も死人に用などない。約束を交わしたとしても果たす責務も債権も無かったことになるから。

 

死人に用など有ってはならない。

 

「俺達がいれば誰にも何にも。たとえピクトとサクソンが徒党を組んで襲ってきても。たとえヴォーティガーンが甦ってこようとも!」

 

 ―――全部ぶち殺してやるのに。 彼はそう言って、ついに走馬灯を見始めた。

 

『 願いを見定めた勇士よ 』

 

 今時珍しい走馬灯とやらが喋りだし、彼に言う。喋る暇さえ敵に与えなかった彼に対して。願い、渇望、過去、現在、未来、その全てを視界に収めて。彼に言う。

 

『 その願い、叶えましょう 』

 

もう一度。勝ち取りたい者に、戦場をもう一度与える。

 

 その場所は生存率100%なる異界の地。鉄と鋼、刀剣と血肉が湧き躍る古戦場。たとえそこが彼の胸中から消えぬあの場所では決してなかろうとも。

 

―――それでもお前はそこに居るのだろう?友よ。

 

 彼はそう思うと、意識を肉体から手放した。

その望みは彼らの望みと合わさり収斂し、それはもうじき叶う事になる。

 

 

 

 

 

 

「ここからがピラミッドエリアだね」

 

「そうだよマーちゃん。やっとだね」

 

 一歩一歩。しかし確実に上へ上へと昇っている感覚。立香と刑部姫は大いに味わっていた。

 扉を前にして、武者震いが止まらない。チェイテピラミッド姫路城・中層。ここを突破すれば、ついに刑部姫が渇望している上層へと辿り着ける。

 

 言うなれば正念場。言わずもがな今に始まった事ではないが、常にいつもが正念場。この思考こそが肝要か。

 

「兄さんは…ここに居る」

 

「あの正体不明の英霊城兵。アイツに捕えられてるって認識でまず間違いない感じだよね、マーちゃん。そしてそれはこのピラミッドエリアのどこかに」

 

「うん!油断せずに行こう!」

 

 宣言して、扉のノブに手を掛ける。エリザ粒子を全身に纏わせ、いついつでも敵の襲来が来ようとも、暗い枕元でブンブン飛び回る蚊を目視せずにひっぱたけるような準備と意識。いや、無意識でもって。

 

がちゃりと。万全な立香は扉を開けた。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおオ!!!!!!」

 

「らおおおおあああああああああああア!!!!」

 

「……え」

 

 轟音はさておき刹那、まず感じたのは木々と土の匂いであった。

砂浜でも海風でもなく、立香は芳醇な洋酒のような匂いに歓迎され、そしてお待ちかね耳に飛び込んできたのは銃声雷声の如き鬨の声。

 

安全第一。立香達は素早く屈んだ。

 

「外人どもをぶっつぶせ!!!」

 

「この世の地図から消しちまえ!!!」

 

「宇宙の外へ放り出せ!!!!!!」

 

「外敵夷狄の塵芥!!!有象無象の有形無形!!!!!!!」

 

「死ね!!」

 

「薄汚い血統に死を。敗北者の血脈に滅びを!」

 

「敗北者ぁ?それはテメェらだろうがよピクトの人足があッ!!!!カレドニアに帰れ!!!!」

 

「SURRENDER ●ONKEY」(※現人類には翻訳不可能)

 

「何処の言語だ話の通じねえ蛮族がアッ!!!!!」

 

「……ヤッバイところに来たねこれ」

 

『木々に身を隠しましょうっ先輩。…どうやら戦場に来てしまったようですね』

 

 そそくさと身を隠し、辺りを窺うとどうやら二つの勢力が死闘を繰り広げているようだった。

 目を向けると、巨人の如き異様な体躯。体には入れ墨か何かの紋様が書いてあり、膂力が段違いに凄まじい。そしてその集団の真反対には、鎧で武装した人間の集団がいる。

 

人間の戦士団がエイリアンと戦っているのかな? 立香は思った。

 

「十中八九英霊城兵の『遊び』。だよね?マシュ」

 

『……こちらからの干渉は一切出来ません。まず間違いないかと』

 

『砂浜だったチェイテエリアと違って、そこは正真正銘の殺し合いの渦中みたいね、ぐだ子。ひとまずは身を隠してなさい』

 

「どうする?マーちゃん」

 

「………」

 

 黙して立香は眼を瞑った。呼吸を整え、この世界を覆うエリザ粒子を見るのではなく耳で以って辿る為に。…物音の根本を探るように、耳を澄ます。

 ここで彼女がその選択を取れたのは、ひとえに過去に出会った一人の兵士がそうしていたからだった。

 

 ――忘れもしない第六特異点。 かの兵士は耳で全てを判断していた。それは立香達に今も消えない恐怖を刻んでいる。

 だから音を聴く、間合いを図る。根元を探る。

果たして、立香はエリザ粒子の流れを辿る事に成功した。

 

「あっちとそっち」

 

「…え?」

 

その数2つ。

 

「エリザ粒子が濃い感じがする。それがあっちとそっち」

 

「何だかよく分かんないけどオッケー…!」

 

 刑部姫がとりあえず頷くと同時。エリザ粒子を纏った立香は戦場の渦中へと走り出した。裁縫針で紐と紐の間隙を刺すような彼女の疾駆は鋭く速く、それでいて大胆不敵でもあった。

 

『――先輩!?理由はともかくそのスピードは…っ』

 

『エリザ粒子の力か。まったくえらい事だね、これじゃあまるで立香がサーヴァントみたいだ』

 

『冗談も休み休み言いなさい、ダ・ヴィンチ。解析はどうなの?』

 

『まだ分からない。今の私が言えるのはそれだけだ』

 

『分からないですって? だったらこの世の誰一人としてエリザ粒子を解明できないって事になるわよ。万能が足踏みしてるだけだなんて、それでいいわけ?』

 

『前進中と言ってほしいね、オルガ。いつだって私だって常に一歩さ。一歩、また一歩。不可解な事が紐解けるまで、それに向かって一歩一歩進んでいく事は可能なんだよ』

 

『その不可解を身に纏えるらしい我らがカルデアの藤丸立香。…慣れないわね、こればかりは』

 

『それでも先輩なら。先輩なら大丈夫です…!』

 

「そう!大丈夫な私は慣れてきましたよ、所長!!」

 

「・・・ヌ?!」

 

「薄汚い新手のピクト人か!!!?」

 

「――失礼しまあす!!」

 

 そう言うや否や、立香は走るスピードを上げた。戦友と共に砂浜と弾丸を駆け抜けた彼女にとってはこの程度朝飯前である。

 

「INVISIBLE。まるで弓矢だな」

 

「これはまさか・・・!」

 

「…英霊城兵…。探してるんですけど知ってますか?」

 

情報収集の言葉を言うやいなやピタリと。何故か両戦士団の動きが止まった。

 

「なんだ新入りか」

 

「なんだ。ならばよい」

 

「どういう事です…?」

 

怪訝な立香は訊ねる。

 

「新入りならば手出しはせん。今はまだ」

 

「どちらに付くか二つに一つ。選択の時だ」

 

 戦いを止めた戦士らがクルリと後ろを向く。正反対の方角その先は、正しくエリザ粒子が濃い場所である。

 

「我らの長に」

 

「我らが隊長に」

 

 ―――そしてこの世界の造物主に、判断を。

両陣営がそう言うと強すぎる風が吹き、無人の野を高速で往ける今の立香すら眼を瞑った。

 圧倒的。ただひたすら圧倒的。即ち、この特異点の根源が現れたのだ。

 

「合格です。カルデアのマスター」

 

「!?」

 

「え!?何これ速!!」

 

刑部姫が右往左往するように眼を回し、立香はその風と対峙する。

 

「エリザ粒子をその身に纏い、彼らの戦闘すらどこ吹く風へと変える。その力こそ勇士。正にマスターの器」

 

「………私は藤丸立香。あなたは?」

 

 慇懃な声の主に、無礼が無いように訊ねる。立香はいつの間にか呼吸を止めていた。雷の暴風その声の主が正に、この世界を造った者だと理解して。

 

「英霊城兵ウバラ。今の貴女でも分かる呼称ですと、サーヴァント・ワルキューレと申します」

 

白鳥のような翼。空飛ぶ礼装を身に纏い、第二の遊びが幕を開けた。

 

 

 

 

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