英霊城兵六番勝負   作:ブロx

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第十三話 お前も城兵にならないか? その2

 

  

 

「ようこそヴァルハラへ。歓迎しますよ、盛大に」

 

 畳まれる羽があちらとこちらとを境界のように隔てる。普通、人間に翼などないと思い知っていても、にもかかわらず、だからこそ、それは美しすぎた。

 

それは彼女だけの結界、彼女の鎧、彼女だけの領地だった。

 

『ワルキューレ! 立香、相手は主神オーディンの名の元、勇士の魂を運ぶ役割を担っているとされる一騎当千!北欧神話の戦乙女よ!』

 

「…了解です。心底」

 

「おや?お話が早い。いつかどこかで、我々を見聞きしたことが?」

 

「漫画とかゲームで見た事があってね」

 

肯定と疑問の声に反して、立香の返答は敵愾心に溢れていた。

 

「そんなことより質問が一つあるんだよ英霊城兵。――兄さんは、何処」

 

「兄さん? さあ?私達のログには何もありませんね」

 

「嘘はもういい」

 

 立香が一歩を踏み出す。その足跡には彼我の間合いと退かぬ心が万端整っていて、錯覚でなければ周囲の戦士達すら薄ら笑みを浮かべる程のもの。

 

否、それは事実である。

 

「――良いエリザ粒子です。どこで体得したのかは知りませんが、ひとかどの戦士である事に変わりはありません。では、その頑張りと覇気に免じてヒントを一つ」

 

「それは?」

 

「勝利してください。このヴァルハラにおいて、勝者となる。只それだけです。 陣営は二つ、東か西か。西には兵士、東にはピクトの巨人。貴女方はそのどちらかに所属し、敵を討ち、数字を競い合っていただきます。それがこの世界の『遊び』のルール」

 

「東か西か」

 

「上を御覧ください。チケットの数が表示されている筈です。先に相手方の数字をゼロにした方が勝利となります」

 

「?」

 

 立香が空を眺めると、そこには西と東の文字と数字が描かれていた。805対800。

 

今は若干、西が有利ということらしい。

 

「今決めろってこと?」

 

「まさか。貴女方はこれから東西陣営の戦を一度見学していただき、それで決断していただくことになります。どちらに付くかどちらを負かすかを」

 

「…遊びの期限は?」

 

「六日間です。まあ、その遥か前に決着はつくと思いますが。

この世界はあまりお腹が空かないように造ってはいますが、食糧はその辺りを掘れば採れますのでご安心を。食べるという欲求を満たす事はできます」

 

「なるほど」

 

『先輩。サーチの結果、西には砦のようなものがあり、東には山城があります。ピクト人の方々は東方を拠点としているようですね』

 

「ああ、それともう一つルールがございます。この世界で討たれれば自身の所属する拠点へ自動的にリスポーンされます。痛みはおろか生命活動の終焉、死などもこの世界にはございません。

 ですが敵に追い詰められて、どうぞ袋小路に陥る事などなきようご注意を」

 

「それってつまりシューティングゲームでいうところのチーム・デスマッチみたいだね…。何度もリスキルされたことを思い出すよ…」

 

「おっきー博識だね。リスキルってなに?」

 

「敵にやられる→復活する→敵がすぐそこにいる、以下同文の無限ループ」

 

「……オッケー。そうなったら逃げ場は前にも後ろにも無いってわけだ」

 

『物は言いようよ。つはりはチケット(残機)が無くならない限り、何度でも挑めるってわけでしょう?理屈はわからないけれど、理解はしたわ。立香、助言は勿論するけれど、どちらに付くかは現場に居る貴女が見定めて決めなさい』

 

「了解です所長」

 

「お話が終わりましたら、どうぞ次の会戦の地へ。すぐさま始まるそこでの戦を見て聞いて、そして決めて頂ければ幸いです」

 

「分かった。…けど最後に一つだけいいかな」

 

「なんなりと」

 

「貴女の目的は、いったい何?」

 

「遊ぶこと」

 

 その時。ワルキューレ・ウバラは微笑み、優雅にお辞儀した。まるで嘘のようなこの世界の遊びを是非堪能してほしいと書いてある笑顔は、まさに昔話に出てくる戦乙女だ。

 正解しか口にしない。それが古今より謳われるワルキューレ。

 

 だから半分嘘だなと立香は思った。正解しか口にしないが、真実は口にしない。心の内や想いといった、自身の信念は決して。この英霊城兵は言わないのだ。少なくとも今はまだ。

 

「マーちゃん。早速あっち行ってみる?」

 

「……うん」

 

「御武運を」

 

 たっぷりと丁寧なお辞儀を終え、ワルキューレは陽光に溶ける影のように見えなくなった。

 

 

 

 

 会戦の地。つまりは戦場その場所は血生臭くはない合戦場であった。

その矛盾の所以を抜粋すると、何とも奇妙な事だがそこでは両陣営が並び立ち、開戦の号砲が鳴り、鉄と鉄がぶつかり合い、汗が噴き出て怒号が飛び交い、しかし決して血が出ない戦場だからだった。

 

 ――そんな場所を立香は初めて目にしていた。

誰かの剣が、槍が、鏃が、斧が誰かの肉を裂いた瞬間、裂かれた誰かは瞬時に消えてなくなる。

 果たしてその誰かは死んだのか? 立香がその誰かを注視していると、すぐさまその誰かは戦場に復帰して戦闘に参加する。

 

 復活しているのだ。戦場が故郷であるかのように。まるで本当のヴァルハラのように。

 

「すごいね……」

 

「数字がみるみる内に減っていってる。確かにこの調子じゃあ六日もかからずに遊びは終わる感じだね」

 

「それもそうだけど、ハドマの世界のシューター達よりも皆エリザ粒子を纏えてるんだよ。人によってはすごく高密度に」

 

「ワルキューレが見繕ってきた勇士と戦でヴァルハラはいっぱい。ヴァルハラ良いとこ一度はおいでって話は本当だったわけだね、マーちゃん?」

 

「うーん……」

 

『しかしここまで精密にヴァルハラを再現、名乗るとすれば、この世界には大神オーディンがおわす筈。一体どこに……』

 

「多分だけど、居ないと思う」

 

『居ない、……ですか?先輩』

 

「エリザ粒子の流れからの憶測だけど、神様的な存在は居ないと思うんだよ、マシュ。ここは本当に只の遊び場で、ヴァルハラっていうのはあの英霊城兵ウバラが勝手に名付けてるだけなのかも」

 

『そんな……』

 

『それが正解だとすると、あのワルキューレはとんでもなく厄介な存在ね。そもそもヴァルハラはグラズヘイムにあるとされる、主神オーディンが創った宮殿よ?それを騙るだなんて』

 

『遊びと名付ければ人と人が殺し合っても、主神の宮殿すらもお構いなしと。まあ、正に一切豪遊と言えなくもないね』

 

「――、あ」

 

『?どうしました?先輩』

 

「あの人、なんかやばそう」

 

「?あの人?」

 

 立香が指を向けるその先には一人の槍持ちが戦っていた。その得物の切っ先と眼光は鋭く、戦士然とした男性であるようだ。

 

「うおぉおおお!!!」

 

その証拠の雄叫びが聞こえる。しかしどうやら周りはそうではないようだ。

 

「おいバカ退くぞ!!退け退け!!」

 

「男に後退の二文字はねえ!!!!」

 

「まったくコイツはいつもこうだ!チケット減ってもおかまいなしにッ!!」

 

「負けてえのか!?」

 

「うおおおお!知るか!!!んなことより俺の妻はどこだあああ!!!??!」

 

「――たしかにヤバイね、あの人。色んな意味で」

 

「遊びとはいえ戦場で逸れた奥さんを探してるって所かな…。…なんだか可哀そう」

 

「え?只のリア充でしょ。気にしないでいい感じだよ、マーちゃん」

 

「うおおおぉおおお!!!魂をくべろ!絶望をくべろ!そして心を薪に!何故ならいつだって――ッ!!」

 

 刑部姫の態度に対して熱すぎる(ヒート)な男の啖呵を見て聞いて、立香は決断する事にした。

 

「よし!助けよう!!」

 

「巨人じゃなくて兵士側につくってこと? ちなみにその心は?」

 

「後退の二文字はねえ!って所に何か親近感!」

 

「おっけー…、止めても無駄だね」

 

「よし行こう!!何故ならいつだって―――」

 

「大事なのは間合い、そして退かぬ心だ!!!」

 

「―――え?」

 

 それは彼女が駆けだした瞬間だった。

エリザ粒子を纏う立香と妻を探す男が一言一句同じセリフを口にし、反対勢力である巨人の側へと向かっていく。

 

 別に気合を入れているのだから珍しくもないセリフだろうそれを聞いて、立香が耳を疑い眼を凝らしたのは、その男が槍と剣を左右の手に持った不可思議な出で立ちをしていたからでもあり、そして何より滾る気迫に見覚えがあったからだった。

 

 ―――忘れもしない第六特異点。

そこで出会い闘った1人の城兵。その人に、この人はとてもよく似ている。

 

「もしかしてあなたフスカ、」

 

『先輩!そこから離れて下さい!!』

 

「マーちゃんッ!上!!」

 

「!?」

 

 眼で見ずともエリザ粒子と耳で察知した立香は咄嗟に横っ飛び、迫る死の一撃を回避していた。

 ――立ちはだかる雄々しい巨躯。全身を何かでペイント=ピクトグラムした彼ら巨人が、ついに立香達を敵と認識し襲ってきたのである。

 

「CHOOSE。・・・選んだな?」

 

「我らの敵。彼奴らログレスと」

 

「ブリテンを汚す塵芥どもと」

 

「同じ側を」

 

 根城は東方、立ち向かい滅ぼす先は真逆の西方。ピクトの巨人戦士らが、立香に迫る。得物を携え殺意で以て、さあお立合いの時間が到来した。

 選択肢は躱すか倒すか二つに一つ。それを前にして立香は第三の選択肢=逃げるを選ぼうとしたが、

 

―――しかしその選択は無駄に終わった。

 

「待て。待て待てあれは・・・・・ソリドゥスだ!!!!!!!」

 

「退け退け!!!戦力の無駄だあ!!!!」

 

「ガイテン様、ナイジ様!こちらに来ます!奴が!!!」

 

「来たか」

 

「出たか」

 

「出やがったお出ましだ。―――ログレスのソリドゥス!!!!!」

 

「…そ、ソリドゥス?」

 

 それは黒影。

まるで城壁のようなずんぐりとした図体を立香の目に情報として正しく提示し、巨人とは決して言えぬまでも、益荒男じみた偉丈夫さを如実に認識させる彼こそログレスの守兵その一人。

 

「―――おう。なんだお嬢さん、新入りか」

 

 それは巌(いわお)。

立香がよく知るサーヴァント・ヘラクレスとは無論程遠いが、遜色なく決意という名の背中に守護の意志を込めながら言葉を口にする彼こそが値千金、ソリドゥスの貨幣。

 

「ようこそぉ、遊び場(ヴァルハラ)へ。そして俺達の側を選んでくれてありがとう。ではこれからは本音の時間だ。

 ようこそ、ガキ。西方、ログレス守兵隊へ」

 

 ヴァルハラ。ソリドゥス。ログレス。守兵隊。毎度のことのように、今回もまた、色んな?(ハテナ)が立香を歓迎した。

 

「お前も城兵にならないか?」

 

 彼の名はブラスティアス。 

古強者じみた表情で。こちらを振り向き、笑顔が猛々しい若武者はそう言った。

 

 

 

 

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