『―――では情報は何も得られず。ですか』
「ああ、すまないね。英霊城兵の事もエリザ粒子の事も記憶自体がないようだ。曰く、負けたらギャグ要員になるらしい」
パンプキンヘッドを被りなおした城兵フスカルはそう言って、少し隣りで寝ている元アーチャー・ハドマ=アーサー王を恭しく見た。
すーすー寝ているその様は、温かいホットミルクを飲んだからか穏やかである。
『了解しました。…全て振り出しのままだと立香先輩には伝えます』
「心苦しいことをお願いして申し訳ない。マシュさん」
『いえ、お気になさらず。ミスター・パンプキン』
「しかしそういえば、立香は今度はどこで戦っているんだい?俺はここでアドバイスしかできないが、それでも可能な限り全力を尽くす」
『ありがとうございます。それが、ログレス守兵隊という所でして』
「・・・・ゑ?」
・・・・・。
かぼちゃ頭の中の素顔が、変な気持ちでいっぱいになる。アホな声を出しながら、あーコレ被ってて良かったとフスカルは思った。
『?ミスター? ログレス守兵隊というものを何か知っているのですか?』
「・・・ああ、すまない変な声が出た。生前、人並みには見聞きしていてね。少しばかりだが情報はある。
ちなみにそこには誰かいないかい? たとえばすっごく口の悪いヤクザみたいな連中とか、胡散臭い変なのとか」
『は、はい。…胡散臭い方は今の所分かりませんが、率直ながら四人ほどいらっしゃいます。ブラスティアス、ウルフィウス、エクター、そしてボードウィンと名乗る守兵隊の方々が』
「・・・・、そうか」
『あの、差し支えなければ教えて頂けませんか?今は少しでも情報が必要です』
「ああ。俺が知っている範囲内での事になるが」
『かまいません。教えてください、ログレス守兵隊とは?』
「ブリテンに騎士王が生まれる前の事だ。当時、まだ小国だったログレスという場所を守る為だけに作られた部隊。・・・・まだ存在していたとは」
『彼らの武勇は聞いたことがありません。しかしエクターと名乗る方は、間違いなければアルトリアさんを養育し、円卓の騎士であるサー・ケイの父君である方とお見受けしました』
「それで間違いないだろうな。ログレス守兵隊のエクター殿、となれば他人の空似のわけがない」
『……。その力は如何ほどですか?』
「強い。圧倒的に」
『…なるほど』
「彼らは味方なのか?・・・それとも、敵か?」
『味方です。立香先輩はログレスの側を選択されました。よって現在、敵はピクトの巨人達となっています』
「敵はピクト人か・・・。それは厄介な敵だ」
『何か弱点といったものはありませんか?何でも構いません』
「ピクト人は硬いんだ。何がって身体がね。毎食毎食鋼鉄でも喰ってるのかってぐらい硬くて、こちらの攻撃は効いたためしがなかった。だから可能であれば、正面から挑むのは止した方がいい。――奴らは決して一人では倒れない。敵も道連れにする覚悟を常に持っている。だから倒すのなら不意打ちが有効だろう。
一見化け物みたいに見えるが、血が通った人であることは確かだ。不死身ではない」
『了解しました。どうやら立香先輩達もお話が終わったようですし、情報共有を急ぎます』
「ああ。こちらからも頃合いを見て立香に通信をしよう」
『ありがとうございます。では』
通信が終わる。フスカルが井戸底から上を見る。
そこには綺麗な星が瞬いて、かつて味わった戦いという名の想い出を呼び起こした。
―――左手で相手の左手を握るのか?
―――ああ。粋だろう?
―――右でもいいじゃねえか。
―――分かってないなあ・・・、駄目な理由があるんだよ。
「本当、・・・敵じゃなくてよかった」
星は今も昔も、只々輝き其処にある。
◆
ばくばくむしゃむしゃ。
「ここが宴会場だ。好き勝手に飲み食いするといい」
「はい。ブラスティアスさん」
バクバクむしゃむしゃ。
「――ミード(蜂蜜酒)です。よろしければどうぞ」
「うわ、綺麗な羽!」
バクバクゴクゴク、むしゃむしゃ。
「当機はワルキューレ・サングリーズルと申します。お見知りおきを」
「…つまり貴女も英霊城兵ってこと?」
「ワルキューレとは団体名であり個人名であり、我らの総称であり呼称なのです。――今言えることはそれだけです」
「へ~。色々わけありってわけだ。食えないね、マーちゃん」
「ありがとうございます。そして、ワルキューレはこの世界の運営サイドであります。ゆえにピクトの側にもこちらの側にも我々はいる。公平かつ平等に」
「なるほど?」
ばくばくむしゃむしゃむしゃむしゃばくばく。
「……さて」
「――ん?ついに喰うかい?」
「食べるにきまってるよ!!」
さっきから美味しそうに食べる男のテーブル越し対面に、立香は満を持して座った。
「いただきます!」
「ごゆるりと」
「ここの料理はホントに旨い旨い。あ、この肉とか良いぜ! んぐ、でも妻の手料理には負けるけどな!ガハハハ!!!蜂蜜酒おかわりィ!」
「畏まりました」
運ばれてくる美酒と色とりどりの野菜、穀物、芋と肉、その他諸々。一体どこの誰が調理しているのだろうか?
とても人間技とは思えない、まさに垂涎物のご馳走が次々とワルキューレと共にテーブルに運ばれて来ていた。
「もぐもぐ。…ヤッバイほんとに美味しい! あ、改めまして私は藤丸立香!勝つ為にここにやってきました!」
「ご丁寧にありがとよ!俺はゲイル!只のゲイルだ、今はな!」
「今は?」
「おう!妻との約束でな!家名は妻に許可を取らないと名乗れねえんだ!なんせ妻から貰った大切な物の一つだからよ!」
「へ~、愛妻家なんですねえ」
「照れるじゃねえか。馴れ初めを聞かせてやろうか? あともっと普通に話してくれていいぜ!お互い同陣営、仲間だしな!」
「ありがとう、是非聞きたい!!」
立香が笑顔を浮かべて催促する。しかしその前に、
『失礼します先輩。パンプキンのランサー氏から耳寄りな情報がありました。ピクト人とログレス守兵隊についてです』
「!?」
かぼちゃ頭のパンプキンからの情報。立香はゲイルに向けて両の掌をパチンと合わせた。just a moment.ちょっと待ってのサインだ。
「? お祈りかい?巨石はないが殊勝だなぁ」
『…歓談中に申し訳ありません。 しかし先輩、どうやら敵も味方も一筋縄ではいかないようです』
「それはもう実感してるよマシュ」
『パンプキン氏が言うには、ログレス守兵隊とはアーサー王が生まれる前に在った戦闘部隊であるようです』
『立香、情報の追加よ。こちらでも調べてみたんだけど、どうやら都であるキャメロットが誕生する前、小国ログレスは四方を敵に囲まれていたようなの。その国の地主でウーサーと名乗る者が台頭してきた時代に、彼と共に戦いに明け暮れた者達がいたようね。話を整合すると、恐らくそれがログレス守兵隊よ』
「ウーサーって……」
『はい先輩。アルトリアさんの父君です』
「まさか……」
『古い時代、騎士というものが根付く前のブリテンに在った兵士達。そんな所に所属できたなんて褒めてあげるわ、我らがマスター・藤丸立香』
「どーもです所長」
「その通り。褒めてあげましょう、立香」
「?あ、エクターさん」
「どもっす!エクター隊長!」
「失礼。誰から聞いたのかは知りませんが、中々的を射ている話が聴こえたもので、つい。すいません、宴の最中に」
「いえいえそんなことは」
ログレス守兵隊のエクター。先ほどブラスティアスを労っていた彼はふらりと音もなく立香達の輪に加わった。
見ると、左腰に吊られているショートソードが、今すぐ敵を皆殺したいなと光ることなく自己紹介をしている。馬上からでは届かないその刃渡りの得物は、今の彼が騎士ではない証であった。
「・・・アルトリア。いえ、アーサー様の名を聞くとは懐かしい。あの御方は正に理想の王でした。それは誰の眼にも明らかであり、我々にとっては星のような御方でした」
「綺麗ですよね、分かります」
カルデアで、戦場で。見えた騎士王は正に王の中の王であった。
「だのに」
「だのに?」
「どいつもこいつもあの御方を裏切りやがった。俺の愛息子やベディヴィエールは最期まで仕えたがそれ以外はどうだ?内輪で揉めて勝手に失望して死におった。負けやがった。あの方のログレス、あの御方のキャメロット、ペンドラゴンに泥を塗りやがった」
「………」
丁寧語と益荒語(べらぼうめ)が入り混じる言葉はエクターの怒りを如実に示しており、周囲のエリザ粒子もまた同様なのか震えていた。
「―――だから、勝つのです。今度は。いえそれこそ、だから我々が。完膚なきまでに邪魔者と敵を滅ぼし殺してね。
ということで、皆さんには任務を一つお願いしたいのですが」
「はい…っ」
「ああ、今すぐではありませんよ。それにウルフィウスと一緒の任務ですし、お互いベストを尽くせると思います」
「…ベスト」
「貴女方にやってもらいたい任務。それは裏取りです」
◇
城兵エクターが去って、次に現れたのはまたも城兵だった。
「よお、新米。――いや?もうそんなタマじゃねえか、同胞よ。
エクターの野郎の発破掛けはおっかねえよなあ。アイツ、あんなんでアーサー様を育て上げたんだぜ?笑っちまうよな」
「いえそんな。凄い人だと思いますよ」
「――ログレス守兵隊四勢・東門のエクターってな。俺らの誇りだぜ全く。
ああ、同じく俺は南門のウルフィウスだ。ちなみに『障壁』だなんて呼ばれる事もあるが自分でつけたわけじゃねえからな?
ほんとなんでこんなダセエんだよ俺だって『擁壁』とか『渠壁』とか呼ばれたかったよ我が大将に」
「え?良い二つ名だと思いますけど」
「褒められちまった。良い奴だなぁお前」
ちょっと面倒くさい人なのかも?立香は思った。
「よし!いい気分だからさっそく任務の説明をするぜ!
ここ俺達の居るログレス城砦から東にピクト人共の根城があるのは聞いているな?今からそこに行って奴らをぶちのめすんだ。情けは要らねえ、してる暇もねえ」
「なるほど。ちなみに裏取りって聞きましたけど具体的にはどうするんですか?」
「おう、それよ」
そう言うとウルフィウスはテーブルに地図を広げた。
「この世界の地図だ。俺達は今ここに居る。これからエクターとブラスティアスがピクト人共と戦うだろ?その間に俺達はこっち、大きく迂回しながら移動。ピクトの王、グリュンワルダーの首を獲るって寸法だ。奴を一度でもぶっ倒せば数字が500減る。何か質問は?」
立香は礼儀正しく手を上に挙げた。
「つまり敵の根城はグリュンワルダー城ってことですか?ウルフィウスさん」
「ああそうだ。普通ならあんな地獄みてえな城、攻めたくもねえが今回は城攻めではなく潜入。スニーキングミッションってやつだ。負けは無え」
「そのグリュンワルダーって王が戦場に出るって線はないんですか?裏取りしに行ったら標的が居ないだなんて、万が一そんな事になったら」
「居なくてもいいし、居てもいい。居ても居なくても奴らピクト人共をたっくさんぶちのめすだけだからな。俺達なら可能だ。
おいゲイル、テメエも来い。嫁さんいるかもしれねえぞ」
「了解ィ!!!」
まるで元気百倍パンマンみたいだあ。思いっきりご馳走を頬張りながら元気よく返事をするゲイルに立香は思わず笑った。
「とにかくこれで人数は俺と君ら、そしてゲイルと・・・・もう一人ほしいところだなぁ。おい先着一名だレディース&ジェントルメン!!今から敵陣にぶっこみ(特攻)かけんぞモチ生存率100%!誰か一緒に来ぉい!!!」
「はいはい!!あたし行きたいわ!」
ぴょーんと跳ねる一人の女性。いや、城兵は背中に短槍と弓矢を背負っていた。
流麗な金髪がさらりと重力に従いながら舞う様は周囲を彩り、まるでこがね色の女神様みたいだと立香は思った。
「ゲルトルードか。よし来い!!」
「やっふー!よろしくね!あたし、ゲルトルードよ」
差し出される左手を握る。…そういえばここでの握手は皆左手だった。どうやらそういう文化がログレスにはあるらしい。
「藤丸立香です。よろしくお願いします!」
「お、刑部姫でぇす」
「楽に話してくれていいわよ?歳もあまり変わらないみたいだし。貴女達もいつの間にかここに居た口かしら?」
「自分から来たって感じかなあ。家族と友達を探してるんだ」
「…そうなのね。あたしも似たような感じかな。ずっとずっと幼馴染を待っているの。一緒になろうって約束をした彼を」
「へ~、良いねそれ!」
「あの日も家で寝ていたら、いつの間にかここに居てヴァルキュリア様からどっちか選べって言われて。もうビックリしちゃった!
しかも言われるがまま戦ったら本当にここにはケガとかがないの。戦いというか何というか、まるで夢でも見てるみたいに」
「ビックリもビックリだよね、ほんとここって。ちなみになんだけど戦場でやられるとほんとにここに戻ってくるの?」
「そうよ。痛みもないし、苦しくもない。ただの数字だけが雌雄を決める、戦いという名の遊び。それがここ。青蓮華って、ヴァルキュリア様達はおっしゃってたわ」
「青蓮華…」
『青蓮華は別名をウバラ、ウトパラとも言うわ。そしてこの世界の造物主は英霊城兵ウバラって事は、』
「自分の名前が世界の名前ってわけですか。所長」
一切豪遊。その四文字が立香の脳裏に浮かび、それを裏拳でもって砕く。彼女の意気は軒昂であり、ゆえにこそカルデアのマスターである。
――必ず取り戻す。心に有るのはこの六文字。
「親睦会は終わったようだな。じゃあ往くぞ、戦支度だ」
「はい!!!」