英霊城兵六番勝負   作:ブロx

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第十八話 信じてるものが心にあれば その1

 

 

 

 ―――最初に気付いたのはゲルトルードだった。

遠距離を得意とする弓兵である彼女は常に周囲を見ており、ゆえに数字にも眼を配っていたからである。

 

 ――すぐさま声を上げる。隊長であるウルフィウスに。

だからこそ、彼は即座に行動した。

 

「隊長!!!減ってない!!!」

 

 遅れて立香が数字を見る。減ったチケットの数は50。そう、たったの50だった。

 

「……え?」

 

 ―――敵の親玉を倒せばチケットが500減る。

それがルールだと聞かされた。しかし減っていないのは何故か。

 

「こいつはグリュンワルダーじゃねえ!!替え玉――ッ」

 

 そんなウルフィウスの叫びと共に。グリュンワルダー城の城壁から光が発し、けたたましい轟音が鳴り響いた。

 あたり一面が光になる。そんな中で立香は誰かの背中に守られていた。

 

 ――大きな背中だった。必ず守るという気概と誇りと、後悔で塗れた背中は哀しみも秘めていた。

 

 ・・・今度こそ。 そんな声が聞こえた瞬間、立香の目の前は真っ白になりグルリと回転した。

 

 

 

 

 立香たちごと拠点ごと、最初から敵は全てを爆砕する腹積もりであった。何故なら裏取りという作戦には弱点があり、それはその場所に誰もいないこと。

 

空城の計。まんまと立香達はそれに嵌ったのだ。

 

 ――激しい白光が収まってくる。

それ以外の何かがやっと見えてきたので目を凝らすと、彼女の目の前にはログレス守兵隊総隊長・ボードウィンの姿があった。

 

「―――、あれ」

 

「おや?敗れたか。お前達」

 

「ぷはあ!全く信じられない事をされたわ!ボードウィン総隊長!」

 

「やはりこちらの行動を読んでいたか、グリュンワルダーは」

 

「負けちまったあ!!しかしあんなことするかフツー!

自分たちの家ごと吹っ飛ばしやがったんだぜあのピクト人!俺の妻もいなかったしよお!!!」

 

「ほんとビックリよね!」

 

「守るべき所を自分たちで吹き飛ばす……ね。………それってちょっとナンセンス過ぎじゃない?ねえマーちゃん?そうだよね??」

 

「おっきー落ち着いて。大丈夫、まだ私達はここにいるよ」

 

なだめる立香が息を吐く。抱く悔しさと共に。

 

「ご苦労。今はしばし休め、お前達。これは想定内の出来事ではある」

 

「?…あら、ウルフィウス隊長はどこかしら?」

 

「――え?」

 

「ああ、奴ならまだ敵地だろう。一人でも多くピクト人どもを討ち果たすことだろうから、お前たちは気にしなくていい」

 

一人足りない裏取り部隊に。総隊長はニコニコ笑って労った。

 

「討ち果たすって…。あの爆発で倒されていないってことですか?!」

 

「もちろんだ。だからアイツはログレス守兵隊の南門なんだよ。

まあ、だが時間の問題ではあるだろうな。立香、一応詳しい状況を教えてくれるか?」

 

「は、はい」

 

 立香がグリュンワルダー城での一部始終を話すと、ボードウィンはやはり笑って頷いた。児戯を見たように。

 

「なるほど。お前達が倒したのは十二人いるピクトの将、『五時のサンサ』だろう。

 筆頭である奴を倒したことでチケットは50減ったが、裏取りは失敗だな」

 

「あの!これからウルフィウスさんを助けには、」

 

「要らないよそんなもの。このログレス守兵隊に雑魚はいない。出来損ない共とは違って」

 

「ですけど!!」

 

「何か勘違いしてないか?立香。今回、裏取り作戦の指揮はウルフィウスが執っていた。奴は失敗したが、役目はまだ続いているんだよ。

 君が気に病む事はないし、必要以上に出張る事も進む事もなく、ただ君だけの役目を果たせ。それが城兵だ」

 

「役目………。でも……」

 

「ログレス守兵隊・四勢が倒れれば一人につきチケットが100減る。総大将である俺なら500。だからその分の働きはしないとってわけだ。分かるな?」

 

「………」

 

 つまり百人は倒さないとイーブンにならない。割に合わない。そういうことだろう。

 

「――分かりません」

 

「うん?」

 

共感は出来ないが。

 

何故ならば。

 

「分かりません。 そして何と言われようと、私は進みます。ウルフィウスさんを助けに。

だって進むのが人間だと、昔フスカルさんに教わりましたから!」

 

「・・・・・・」

 

 ボードウィンの顔からゆっくりと笑顔が消える。

そしてジッと見詰めてくる。昔を想い出すその表情は、まるで大切に取っておいたのに忘れてしまった何かを取り戻すような仕草でもあった。

 

ずっと。ボードウィンは立香を見続けていた。

 

「――おっとっと。すまない、俺としたことが言葉が足りなかったな立香。

 しかしフスカルに似てるとは思っていたが知り合いだったかあ。そこらへん、ちょっと酒でも呑みながら聞きたい所だが、今はまあ聞け。

 これからの話だが、無論俺とてこのまま黙ってはいない。 あの忌々しいグリュンワルダー城が吹っ飛んだんだ。俺が奴なら、吹っ飛ばす予定の城には最小限の兵士しか配置せず、他は全て合戦場に向かわせて戦いを長引かせるだろう。だからそこを狙えば結果、ウルフィウスを助けることに繋がる――」

 

「ぷはあッ!!総隊長!大変です!」

 

「――やばいです!総隊長!!」

 

「五月蝿いくらいに元気が良くて何よりだあ。おかえり皆、首尾は?」

 

「敵さん、後方からグリュンワルダー含め総軍出撃!かかってきやがった!」

 

「総力戦でさあ!!エクター隊長とブラスティアス隊長はまだ大丈夫ですが、流石にあの数じゃもちません!」

 

「うんうん、そうかそうか。ご苦労。じゃあいつも通り、息を整えたら出撃だ。今回から俺も出張るから」

 

「ぅへえ!?!?」

 

「総隊長自らですかい?!」

 

「もちろんだともー。敵はグリュンワルダー含め全軍総出で戦場にいる。

つまりこれはピンチではなく、好機(チャンス)だ。全員殺せばさっさと目的を果たせるからな。敵方のチケットはすぐにでも無くなるだろうぜ」

 

 ――今日で雌雄を決するぞ。

笑顔のボードウィンはそう言うと、スタスタ歩き始めた。散歩に行くような気分で。

 

「立香たちも準備が出来次第出撃だ。それが今の君らの役目だからね」

 

 …そんな彼を見て、立香たちはその後を追った。そして不可思議な感情が芽生えてきた。

 

 今、彼は楽しんでいるし怒ってもいるのだ。

というかそのままブチ切れたくてしかたがない。それは天国と地獄を内包できる人間だけが持てる、悪意にも似た黒炎だった。

 

――全て順調。予定調和。そして侮蔑。

 

 諸々を含んだボードウィンの心中を表す不敵な笑みは、しかし敵も同様であるようで、それらを宿す総大将同士が合わせ鏡のように戦場でついに相見えた。

 

「久しいな。『隔壁』のボードウィン。ウーサーは元気か?」

 

「久しいね。ぼちぼちかなあ」

 

「ああ、失念していた。そういえば皆、死んだのだったか。思えばペンドラゴンという血筋は数奇なものだった。その証拠にあの男も、その子も孫も、勝手気ままに死におったな」

 

「そうだなあ」

 

ボードウィンはニヤニヤ笑って、敵を見た。

 

「しかし真に解せぬ事が一つある。それはブリテンが見知らぬよく分からぬ民族によって支配されたという愚行を貴様らが許した事だ。

 何ゆえにお前達はそれを看過したのだろうか?私には理解に苦しむ。ゆえにこそ内輪揉めで崩壊とは、よく出来たものだがな?」

 

「そうだなあ。皆出来損ない共だからなあ」

 

独り言のように話しかける敵こそ本物のピクト王・グリュンワルダーであった。

 

「これでは何の為に戦ったのやら。

我々は己の正義で以て戦ったが、その根底は一つであった筈だ。―――ブリテン(国)の為。

 それが為に一意専心であったという事実は、お前達と私達が共有した唯一絶対の正義であったな。『隔壁』のボードウィン」

 

「そうだなあ」

 

「私ですら勝てなかったお前達は負けた。ペンドラゴンは負けた。『キャメロットは落ちた』。何故か。老いたからだ、サー・ボードウィン。

 老いとはすなわち要らないゴミを生み出す確率の上昇である。その証拠に見てきた筈だ、ウーサーより任命されたログレス最初の騎士よ。お前が後を託した円卓の騎士共の愚行を、失敗を。

 だからこそお前はここに居て、私と戦っている。あの日を取り戻す為に。違うか?」

 

「・・・・・。落ちただと?」

 

「ウーサーが願い、アーサーが遥か遠き理想へと変えたブリテンの安寧は、かの城と共に崩れ落ちた。

 だがお前達は終わった事になどしたくない。あの日々をな。――それは私も同じだ。だから今度は私がヴォーティガーンを滅してやろう。あの日アーサーがやってのけた偉業を、私が行おう。

 そして今度こそ私が勝つ。それで全て上手くいく。ついでにサクソン人共も根絶やしにしてくれるわ」

 

「・・・・・。落ちてねえよ」

 

「小娘如きがアーサー(ウーサーの息子)などと。奴には所詮無理だったのだよ。あの小さな背に、ブリテン(国)を背負うなどと。

 ウーサーはイグレインにもう一人産ませておけばよかったものを。あの男は心底間抜けだった。だからこそ情が湧いたのだろう?

 娘を愛し、その母親をも愛してしまった。道具と断じた者ら如きをだ。しかしてお前は確信した筈だ、騎士ボードウィン。マーリンとウーサーの企みは、これは上手くなどいかないと」

 

「・・・・・落ちるわけねえだろ」

 

「ヴォーティガーンを殺す為の道具と、それを産み出すための道具を家族だなどと。

 己のした行為を棚に上げ、あの男のことだ、託したのだろう?自分が死んだ後のことを。どうか助けてやってほしいだの何だの。

 抜かしたのだろう?家族を頼むと」

 

「・・・・・アイツが守るあの城が。落ちるわけねえだろ」

 

 パチンと音がする。誰かの拍手のような音。

そして爆ぜる。空気中の酸素だろうかそういったモノが爆発するその様は、正しくエリザ粒子による干渉であり、ボードウィンの堪忍袋の緒が切れた様子を如実に示していた。

 

それが分かる今の立香もまた、他人事ながらムカムカしていた。

 

―――好き勝手言っちゃって。

 

「お前はもう黙れ。グリュンワルダー。何も分からないクズは、もう喋らなくていい」

 

「何も分からないだと? それは独り言か?自己紹介か?

我々は正義だ。我々は悪だ。お前も、誰も、私も。ゆえに戦う。

 だからこそ、さっさと死ぬ為に剣を抜け。私たちが共有したあの日々は、いつもそうだったであろうが」

 

 ボードウィンは突進した。剣すら抜かず、態勢も力まず、只々突進した。

――体当たりである。エリザ粒子のブーストによるそれはこの世の何よりも速いと立香は思ったが、グリュンワルダーは剣で以てそれを防ぐ。

 

やっと肩の荷を下ろせる場所に来れたと。満面の笑みで以て。

 

「この日を待っていた。待ちくたびれたぞ、サクソンに負けた敗軍の猿共」

 

大将と大将の一騎打ち。この世界の天王山が今ここに始まった。

 

 

 

 

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